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第二章 冒険、始めます

第四三話 土竜遊撃隊

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 据えた臭いや腐臭など、様々な悪臭が漂っている。
 しかし、我が優秀な技能によって不快感が消え去った。

 まぁ昔はもっと酷い環境にいたから、俺からしたらビジネスホテルですか? っていうレベルの住居だ。

「あのー、ここにルイーサさんのご友人がいるかと思うのですが?」

「な、何故おまえだけ外に出てるんだっ」

「お静かに願います」

 ──【念動】

 無理矢理口を閉じさせていただき、ルイーサさんの友人を探す。

 ──〈追跡〉

「──こちらにいらっしゃいましたか。ルイーサさんにお世話になっている者ですが、拉致されたという状況でよろしかったですか?」

「…………」

「あのーー、依頼されて来たんです。あなたが黙っていると、他の人を逃がす暇がなくなってしまうのですが……よろしいです?」

 ぶっちゃけルイーサさんに恩があるだけで、目の前の人をどうしても助けないといけないわけではない。
 魔力の残滓が付いている者は他にもいて、そちらの対応もしないといけないのだ。

「じゃあ、ここは一番最後に時間があったら来ますね」

「──待ってっ!」

「え? あなたには話かけていませんよ?」

 話して欲しい人は沈黙し、話さないで欲しい隣の人物は話し出すという勘弁して欲しい状況に、少し面倒くささを感じる。

「この子は心を閉ざしてしまったのっ! 少しは理解してあげてよっ!」

「はははっ。理解……ね。では、あなたも理解してください。他の人の命も同じくらい大切だということを。だから、最後に来るって言ってるでしょう? そのときに時間があればですがね」

 ビジネスホテルに数ヶ月滞在したくらいで悲劇のヒロインにでもなった気でいるとか、全く持って意味不明。
 そもそも隣で話している人間がピンピンしている理由もよく分からない。悲惨な状況になると、自分可愛さに他人を売ることなんて多々あること。
 緊急避難が適応されて無罪になることもあるが、だからといって許せるかどうかは別問題だ。

 しかし、この人たちがあとからあることないことルイーサさんに吹き込んだら、それはそれで面倒くさい。

 ──【神字:地理】
 ──《無属性魔法:探知》

 今度は小規模の魔法を使用し、周囲の地下情報を収集する。
 すると、予想通り近くに下水道があった。

 ──〈多重魔法〉
 ──《土属性魔法:落穴》
 ──《土属性魔法:掘削》
 ──【念動】

 地下に向かって穴を掘り進め、《掘削》で穴を広げながら形を整える。
 排土は【念動】で押し固めて倉庫の隅に積み上げておく。

「あんた理解してって言いましたよね? じゃあその人がいるから、あなた方が生存していることも理解していますよね? では、彼女を連れてこの穴の中を進んで隠れてください。他の人も騒がず大人しくお待ち下さいね」

「は、はい……」

「結構です」

 便利な技能だな。〈威圧〉って。

「じゃあその板の上に立ってください」

「「えっ?」」

「早く」

 俺式念動力昇降機という名の、木の板の上に五人ずつ乗せて穴の中を上下させる。
 声を出されると困るため、【念動】で忘れず口を塞ぐ。
 底に到着したら、これまた【念動】で無理矢理降ろし、再び上昇させていく。

 これを繰り返すこと数回、ようやく一つ目の倉庫から人々を救出し終えた。
 空になった檻には見張りを別々に分けて入れておき、隅に置いていた土塊を入口の前に積み上げ、穴は木の板で塞ぐという偽装工作及び足止め工作をしておいた。

「はぁ……。次に行くか」


 ◆


 一度手順が分かってしまえば、あとは同じことを繰り返すだけだから簡単だ。
 地下道に降り立った後お互いに確認させ、行方不明者がいないと断言させた。後日嘘をついていたことが判明した場合、行方不明者と同じ体験をすることになると言い含めていたから、きっと大丈夫だと思う。
 ここでも〈威圧〉は大活躍していたのだ。

「動けない人が何人かいたと思うのですが、その人たちはこの荷車に乗ってください」

 足回りしか残っていない荷車の残骸がゴミ捨て場にあり、それに同じく捨てられていた木の板を載せただけの台車を傷病者のために用意した。
 早く移動したいからね。

「仮病を使ったら本当に歩けなくするので悪しからず」

「「「…………」」」

 乗ろうとしていた数人が後退り、背負われている人たちなどが数人荷車もどきに載せられた。

「では静かについてきてくださいね」

 少し行けばルイーサさんたちと合流できる手筈になっている。
 というのも、今回もイムレが眷属を潜り込ませていたらしく、救出活動中に指示が書かれた紙が届けられた。
 それも風に乗って。

 商会の倉庫街から孤児院に行くのは遠すぎるため、一度ホームの工業区に寄って今後のことを決めるそうだ。
 でも工業区とスラムは俺の土地。
 救出した者の中には犯罪者予備軍や、悲劇のヒロイン気取りの者など面倒くさそうな人が多い。
 言いたくないけど、あの人たちを俺の土地に入れたくはないな。

 ……どうするかなぁ。

「そろそろかな?」

 と呟いたとき、前方のゴミ穴から青い炎が吹き出した。

「あそこか」

 浄化と合図を同時に行える便利な炎だ。
 後続はビビっているようだが、我が家の癒やしは敵対さえしなければ食いしん坊の大きな猫である。
 ビビる必要などない。

「到着です。さっきの逆ですから慌てず騒がずお願いしますね」

 体調が悪そうな人から順に上げていき、最後に解体した荷車を持って地上に上がった。
 同時にルークから青い炎を浴びせられ、脱臭と殺菌をしてもらった。

「ありがとう」

「グルッ」

 工業区と言っても宿屋周辺ではないため、狼公が用意した馬車が複数待機していて、どういう内容で分けられているかは分からないけど、狼公の部下が書類を見ながら分乗させていた。
 ルイーサさんたちの知り合いは、二台ほど貸し切った馬車に乗せられていたから、そのまま宿屋に直行するのだろう。

「ちょっと、狼公の部下さん」

「な、なんでしょう?」

「これ、見張りの人たちの身分証です。捜査とかの役に立ちませんか?」

「あ、ありがとうございますっ」

「代わりに、所持金はもらうので。と言っても、建設の給金とさせてもらうつもりですが」

「あっ。そのことについてですが、土地は購入済みでエイダン殿が書類を持っています。【シルフォード商会】と取引があると伺ったので、あちらに資材の発注はかけています。後ほど明細をお持ちしますので、足りない物がありましたら追加で発注させていただきます」

「わかりました。お待ちしてます」

 外壁でやりたいことがあるから、その相談も後でしよう。

「では、後ほど」

「はい」

 俺と狼公の部下が話し終わったタイミングで、ルイーサさんが目の前に現れた。

「ディルっ、ありがとうっ!」

 いつぞやの強烈ハグだっ。く、苦しい……。

「どう……いたし……まして……」

 緩んだ隙に首の位置をずらす。
 すると、ルイーサさんの頬を涙が伝っていた。

 ……面倒だったけど、やって良かった。

「帰りましょう?」

「……そうね」

 孤児院は後回しにして、宿屋へと帰宅するのだった。


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