暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

第四二話 我が名は、怪盗デッド

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 俺が提案した再開発プロジェクトに狼公とエイダンさんが驚いているが、俺は結構ありだと思っている。
 初めて【双竜の楽園亭】に来たとき、ルイーサさんがいたから他に行こうとした。その際、他に宿屋がないからダンジョン前で野宿するという話を聞いた。
 それならそこに格安宿屋や民泊できる建物を造れば、ダンジョンという餌があるうちは集客にも困ることはないと思ったのだ。

 資本金自体は俺のお金じゃないから失敗しても問題ないし、不動産の税金はダンジョンで稼げるから問題ない。

「宿屋、酒場、食堂、薬屋、武具の補修など、冒険者関係の仕事は山程あります。スラムに住んでいる人の多くはダンジョンに夢見て来たけど、戦闘に向かなかったり、失敗して借金を抱えたりと色々あったと思いますけど、狼公の元で稼ごうとするくらいには働く意欲はあると思います。だから、それぞれ得意なことを活かせる働く場所を作ればいいと思って」

「ディル……」

「それに商業区に独占させるから、東側に来る冒険者は野宿しないといけないんです。それに不人気だと周期が来た場合、被害が偏りますよ?」

「それは分かっている」

「子爵閣下の代わりに良案を出したと思いません?」

「しかし、スラムの住人は……」

「あれ? 僕、死んだって言いましたっけ?」

「「──えっ?」」

 ルイーサさんもグルンっと俺の方を振り向く。
 いつかのルークを思い出し、これは早く誤解を解いた方がいいと理解する。

「死んでませんよ?」

「じゃあどこにっ!?」

「どこでしょう?」

「──ディル?」

 怖っ。

「いやいや、本当に知りません」

「本当に?」

「はい」

「じゃあ何で死んでないって分かるの?」

 どうしよう……。【神字】のおかげとは言いにくいな。

「ル──「ルークに不可能はないって言うのはなしよ?」」

「違いますよ。ルークを探したときみたいに、僕は探しものが得意なんです」

 本来遭遇不可能な【青獅子】を連れて帰ったわけだから、何よりの証明になるだろう。

「じゃあもう探したの?」

「誰かさんのせいで時間がなくて、生死の確認しかしてません」

 テオ救出のときは狼公たちのせいで時間がなかったからね。

「詳しく探してくれる? ママの友達がいたの」

「もちろんですっ。……えっと、全員ですか?」

「ママの友達は分かんないでしょ?」

「いえ」

「はっ?」

「むしろ、ルイーサさんと関係がある人に絞った方が見つけやすいので、他を探さなくていいならすぐに済みますよ」

「本当に?」

「はい」

「──ちょっと待ったっ! 頼むっ! 全員探してくれっ!」

 どうしよう、面倒くさい。
 けど、決して口にしてはいけない。
 ニアに優しいお兄ちゃんだと思われているだろうから、その好印象を崩したくない。

 それにここで狼公に恩を売っておくのも悪くない。

「……もちろんですとも。早い方が良いなら、土地の買取の方はお願いしたいのですが」

「俺が行ってくる。委任状とギルドカードを貸してくれ」

 エイダンさんが行ってくれるらしく、それにブルーノさんと狼公の部下が同行するそうだ。
 白地小切手を使用する要員にと、テオの手紙を届ける要員の二人。護衛はブルーノさんが担当するらしい。

「どこで合流すればいいですか? 連れてくるのは一人では無理なので、場所が分かった後の合流地点ですけどね」

 最初はルークの背中に乗せるという案も出たが、都市の近くに巨大な【青獅子】が出現したとなると、それはそれで別の問題が発生するから却下された。

「この後、孤児院に向かう予定だったから、そこで待っているわ」

 どうや折檻の延期はしてくれないらしい。

「はい……。いってきます」

「いってらっしゃい。お願いね」

「はい」

 ご褒美に折檻を無効化してくれないかなぁ。
 くれないよなぁ……。

「はぁ……」


 ◆


 外に出て思う。
 ルイーサさんに詰められて、ついルークを探したときと同じと言ってしまったが、アレは嘘である。
 大体の場所に見当がついており、あとは【念動】を使ってゴリ押しで結界を押し広げただけだ。

「まずは都市の中央に行くか」

 後始末は依頼主が全て請け負ってくれるらしいから、多少の無理も通るらしい。

 ──〈心眼〉
 ──〈気配遮断〉
 ──〈隠形〉
 ──〈身体強化〉
 ──《無属性魔法:障壁》

 いつもの空中回廊での移動を繰り返し、中央広場の庁舎屋上に到着した。
 魔導具の吊り鐘があったり、バリスタっぽいのもあったりするから観光をしていきたいのだが、今はそれどころではない。惜しいが我慢しよう。

「ウザいヤツが来そうだけど……俺は悪くないし……」

 これから行うことで発生するだろう面倒事を考えただけで憂鬱になるが、全部狼公と子爵に擦り付ければいいと自分を奮起させる。

「どうするかな」

 最初は【神字】を四枠使った特化型にしようと思ったけど、二文字ずつ使った方が良いように思えてきた。
 体への負担は増えるが、技能や【念動】との相性も良い。

「よし、それで行こう」

 ──【神字:理体】
 ──〈魔力掌握〉
 ──【念動】

 まずは、万能化した体で魔力への干渉度や操作精度を上げる。
 次に、自分の魔力を補うために周囲の魔素を【念動】を使って引き寄せる。
 この状態で次の魔法を発動させる。

 ──《無属性魔法:探知》

 魔素溜まりが発生するギリギリ手前まで集めた魔素に魔力励起し、無理矢理広範囲魔法に改変した《探知》を発動する。
 魔力に対する感知能力が高い人だと不快に感じるかもしれないけど、攻撃したわけじゃないから我慢してもらおう。

 ──〈生命感知〉
 ──【処理】

 まずは《探知》であぶり出した全生物を、〈生命感知〉で人間の位置のみ把握するように絞る。
 それでも地上及び地下の反応に変化はあまり感じられず、次の工程へ。

 ──〈追跡〉

 ルイーサさんの友人ということは、ルイーサさんの強い魔力が残っているということだ。
 実際、スラムの数カ所にルイーサさんやブルーノさん、それにエイダンさんの魔力の残滓があり、スラムの人と関わりがあったことは知っていた。

 その残滓を追跡要件として【神字:処理】でピックアップしていくと、ポツポツと移動経路が脳内地図に反映されていく。

「──うぇ……吐きそう……」

 複数の【神字】や技能を同時に使用すると、脳や知覚への負担が激しいのだ。

「とりあえず停止位置まで行こう。……下も騒がしくなってきたし」

 広域探知のせいで庁舎屋上に兵を派兵しようとしているらしいから、俺はその前にトンズラさせてもらう。

「さらば」

 そして〈追跡〉を維持したまま辿り着いた場所は、一つの商会が所有している倉庫街だった。
 俺たちがしようとしているように、壁で囲われた場所にいくつもの倉庫が建てられている。その複数から追跡反応があったのだ。

「他の人もここにいるといいなぁ」

 手がかりを求めて一番最初に探しやすい人を探してきたわけだが、ここに全員がいることが理想だ。

「見張りがいるけど……まぁいいか」

 一度全ての技能や【神字】を解除して、いつもの戦闘用技能を発動する。
 唯一違う点は、《闇属性魔法:睡眠》を複数待機させているところだ。

 角にある倉庫から順に調査することを決め、見張りを次々に眠らせていく。同時に武装解除と金銭や身分証を剥奪し、口枷と手枷足枷を施す。

 何故バレるようなことをするかと言うと、身分証がない者の主張は通りにくいから、再発行しないと衛兵の詰め所に行けないし、身分証を失くした際の状況を説明するときに調書を取られるんだよ。
 もし監禁に協力していたとしたら、彼らは本当のことを言えるだろうか。

 だから、彼らが善人か分かるまでの一種の人質なんだよ。
 人質を取っているからバレても構わないし、大声を出されるよりも拘束して隠して置くという時間稼ぎの方がマシだ。見張りの交代要員も同じにしていけば、各個撃破もできてなお良い。

「では、失礼しますよ」

 借りた鍵で中に入ると、檻の中にすし詰めされた人々の姿が。

 ──はい、ギルティ。



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