暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

第四一話 再開発プロジェクト

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 土地を見る前に簡単な打ち合わせが行われた。
 まずは狼公は部下に指示を出し、子爵の懐具合を考慮した内容の小切手を何枚も切り、すぐさま現金化させた。
 その間に、希望の施工内容を一人ずつ話していく。
 これが本来の目的だから、ようやくエイダンさんの出番である。

「あっ」

 俺が声を出したせいで一部の人たちがビクつき、ニアの耳が封じられた。

「どうしたの?」

「貴族区を通ってきたときに書店に寄ればよかったですね」

「「「あっ」」」

「遠いからあまり来たくないんですよね」

「また今度【シルフォード商会】を訪ねたときに寄りましょう」

「お姉様っ。それなら運んでもらのはどうでしょう?」

「自分で探すから楽しいのよ。一度体験してみてもいいんじゃない?」

「それもそうですね。そのときは俺も連れて行ってください」

「もちろんよ」

 狼公のポカンとした表情が笑えるけど、俺も同じ気持ちだ。
 こいつはルイーサさんに懐き過ぎではないか?

 ちなみに、ブルーノさんのことは何故か『師匠』と呼んでいる。

「じゃあ話を戻すと、元々はその……【青獅子】の子分たち用の厩舎のためだったけど、色々追加した結果巨大になったと」

「そうだ」

 今は相場や施工に詳しいエイダンさんに丸投げしており、俺たちはお茶菓子を食みながら紅茶を飲んでいる。
 時折ルークの尻尾がビシビシと足を叩いているが、〈痛覚遮断〉を使用して激痛を回避している。もちろん、あとで治療しないといけないだろうけどね。

「それで壁で囲うのは理解できた。壁の種類はともかく、囲うことは重要なことだからな。次は厩舎と風呂か」

「厩舎と風呂は魔導具を使う予定ですので、建物だけ考えてくれればいいですよ。あと風呂釜は貴族みたいな大浴場がいいです」

「あぁ……。次は解体所と素材倉庫か。滑車などの機材も必要という意味でいいのか?」

「ギルド並みにしてください」

「マジか」

 ブルーノさんが俺の方を見るけど、俺とルークにとっても助かる。
 この間の怪鳥みたいに大物を仕留めても置く場所がないと困るから、ギルド並みにしておけば解体と保管に困ることはなくなるというわけだ。

「グルゥゥゥッ」

「……楽しみだ」

 ルークの賛同が後押しになり、ブルーノさんの遠慮がなくなった。

「それと、テオドール様の別荘ですか」

「未来の従魔である熊さんと一緒に暮らせる別荘だぞっ」

「熊の大きさは、どのくらいでしょうか?」

「分からん。ルークどのくらい?」

「グルッ」

「えーと……最初の熊は大きさを変えられるから、そこまで気にしなくてもいいけど、その熊さんと契約できなかったら最大でこのホールくらいらしい」

「「「──デカッ」」」

 狼公とエイダンさん、それと契約するかもしれないテオが異口同音で感想を言う。

「まぁ最初の熊さんと頑張って契約して」

「頑張るっ」

 めちゃくちゃ張り切っているけど、その前に変身魔導具を見つけなければいけないことは覚えているのだろうか。

「他の建物は?」

「じゃあエイダンさんの工房を少し大きくして、搬入口と正門以外は囲ってください。敷地内は道を作って移動しやすくするっていうのはどうですか?」

「えっ? いいのか?」

「えぇ。他の工房と軋轢が生じるというなら、付き合いが長く仲が良い工房も巻き込んでも構いません。仲が悪いと、巻き込んだ後仲違いしたときに、壁の内部から追い出せなくなりますからね」

「ディル、私もいいかしら?」

「もちろんです。ナディアさんたちの別荘を造ってもいいですよ」

「本当かっ!?」

「えぇ」

 それほど土地があるんだ。
 建物以外は家庭菜園を拡大して農園にしようと思っている。

「そうだっ! 温室を造ってください」

「……貴族の?」

「そうです。南部でしか栽培できない薬草を栽培できるかもしれませんし」

「ディル……」

 突然ギュッと抱きしめられた。
 当然、実行者は右隣に座っているルイーサさん。

「く、苦しい……です」

「あら、ごめんなさい。嬉しかったから、ついね」

「あとは家庭菜園を拡大して農園にしようかと」

「農園な……。そんなに広いのか?」

「「うむ」」

 買い漁った二人が真っ先に肯定する。
 ブルーノさんとエイダンさんは、多少治安が悪くても囲って改造すれば良くなるって思考で、片っ端から丸つけていたからな。

「それとできますれば、湖から川って引けます?」

「──無理に決まってるだろっ?!」

「やっぱり無理なんですね。市壁を貫通させられませんか」

「当たり前だ」

「じゃあその予算を使って、土地を買い足します」

「はっ!?」

「居住区の北側から市壁まで。まぁ所謂スラム区画ですね」

「……住んでいる人は?」

「それは子爵閣下が考えることでは……と言いたいところですが、もちろん考えていますよ」

 右からの圧力が増し、即座に答えを変える。
 引っ張るのはなしだ。
 折檻レベルが上がるのはいただけない。

「以前ここに来たときにいた人たちがいますよね?」

「ん?」

「ボス、ギルドの……」

「あぁ」

 そうそう。ナイスだよ、側付きくん。
 俺の【念動】を使ったギロチンで首チョンパされた、商業ギルドの職員たちだね。

「拾った書類によると、スラムの再開発計画というものがとある商家発案の元、商業ギルドの主導で進んでいたらしいのです。その協力者には、盗賊ギルドや錬金術師がいたそうです」

「おい、それっ」

「そうです。エイダンさんたちをはめた人たちです。まぁ主導していた人が行方不明になり、盗賊ギルドは機能停止し、立ち退きさせられた土地もエルフの神秘で返却されました」

「「「…………」」」

 狼公とエイダンさん、それからルイーサさんからの視線が刺さる。

「彼らは立ち退きさせるときにスラムの住人を追い出しています」

「「──えっ?」」

 これには狼公とルイーサさんが驚いていた。

「考えても見てください。とある凶暴な女性が、自警団として重要な役割をになっていると言って狼公を救出に来たのですよ? スラムからは信頼を得ている狼公が知らないうちに、違法奴隷の被害者が出ると思いますか?」

「「──あっ」」

 これには部下も得心したらしい。

「スラムの人たちは自分たちの安全を保障するためにも、労働力として臨時雇用してくれる相手に情報を渡していたはずです。それがあればこそ、不審な新興組織の介入を防いで来れたのだと思いますよ。勘違いもなかったかもしれませんね」

「…………」

「でも今回はなかったのです。つまり、よく分からない犯罪者は紛れ込んでいるかもしれませんが、他の住人はいないのです」

「そんな……」

「そして今は止まっている再開発計画は、新しい主導者を据えていずれ動き出すでしょう。そのときに宿屋周辺で面倒が起きるのは、お互い困りますよね? 宿屋には最大戦力が駐在していますからね」

 チラッとルークを見る。

「ですので、簡単なお掃除は僕が担当するので、一緒に囲っちゃってください。再開発計画は、僕が引き継ぎます」

「ディル。新しい住人の受け皿はどうするの?」

「もちろん、考えてありますよ」

「教えてくれる?」

 一瞬、「どぉーしよっかなぁー」と言ってみたい衝動に駆られたが、ナディアさんの「早く言え」という口パクを見て、理性が衝動を打ち消した。

「はいっ! 工業区の土地とスラムがある居住区の壁は、外側は一体化させます。でも、内側は分けます。というのも、工業区の方は生産及び僕たちの豪邸扱いにします。対して、居住区の方はダンジョンに近いということもあって商業区にしようと思っています」

「「マジかっ」」

 えぇ、マジです。


 
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