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第二章 冒険、始めます
第四十話 熊の一声
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表の依頼は簡単に済ませ、裏の依頼に注力する。
「裏書手形は、最終的に不渡手形にしてしまいたいのです。小切手は使用期限がありますから、現金に変えて北部公の債権を買い漁ってもいいですよ。裏書手形で不動産や鉱山を買って、譲渡に譲渡を重ねて僕の名義にしてください。もちろん、途中に挟んだ商会は消してくださいね。最初の手続きで貴族証が必要なら、この領主印を使ってください。信用が担保されていますから」
「…………」
狼公の表情が徐々に青ざめていくのは何故だろう?
「北部公に手形で融資をしてもいいかもしれませんね。不渡手形だったときの絶望感と言ったら……。まぁタイミングを合せて宮廷魔法士長様に帰還してもらわないといけませんけどね」
「「…………」」
ナディアさんの表情も変化しているが、ナディアさんは王都に帰りたくないのかもしれない。
「多額の借金に領地の喪失を重ねた北部公は、国王直属の諜報部によって調査され、その結果領地を召し上げられるでしょう」
「ねぇ、ディル? それだと北部の土地が王家のものにならないと思うの」
もちろん理解しているし、タダで王家にくれてやる気はない。
王弟の責任を追及する手札にもできず、個人的な目的にもできないという利がない行為をするはずがない。
それに……。
「僕が何もしなかった場合、北部の土地は北部のものでも王家のものでもなくなりますよ」
「「えっ!?」」
ルイーサさんはともかく、狼公はようやくことの重大さに気づいたらしい。
「現在すでに、他国の商人が土地の購入に動いています。それを侯爵閣下とその寄子貴族たちが防いでいるというのが、二ヶ月くらい前の情報です。今はどうなっているか分かりません」
「──何故それを……?」
「情報源はどうでもいいのですよ。そちらの北部駐在員に確認を取れば分かることなので」
「それはそうだが……」
「そんなことよりも僕が介入して嫌がらせをした場合、僕なら狼公たちも王家も北部も全員が幸せになれる、土地の有効的な利用法を提案できます。だから、僕に協力した方が良いと説明させていただきました」
「その提案を、ママに教えてくれるかしら?」
「ママ……?」
話を中断させたくないらしく小声で呟いていたが、俺の耳にはしっかり届いている。
そこだけ切り取って復唱しなくていいというのに……。
「ディル?」
「土地と引き換えに黒幕の責任を追及し、宮廷魔法士長様の離婚を認めさせます」
「「「なっ!」」」
「鬼畜の所業を繰り返す大使よりも、自国の土地の方が大事でしょう。もし逆を取るような国王なら、いっそいない方が良いと僕は思います」
と言いつつ、ルークをモフモフする。
「それはっ」
「──不敬とかいう言葉はいりませんよ? 欲望を優先する鬼畜はゴブリンと同じですからね」
「ゴブリン……」
「例えば、あなたの姉がゴブリンに拉致られたとします。おそらくその旦那さんは聖鉄級以上の冒険者を派遣するのではないですかね?」
「──お前っ! 本当に平民かっ!?」
「話を続けます。集落にはゴブリンの王がいて、冒険者は普通のゴブリンは討伐できるけど、王は不敬だから討伐をやめて諦めました。平民からしたら王を弑するなんて大罪を犯せませんからね。──さて、あなた方は見逃す派で良いですか?」
「そんなはずないだろうっ」
「それが答えですね。二度と不敬がどうのという話を、僕の前でしないでください。不愉快です」
「お前は貴族の力を分かっていない」
知らないはずがない。
権力は、武力や財力と紐づいていなければ意味がないことを理解していないのは、俺よりも狼公の方だと思うけど。
「嫌というほど理解していますよ。貴族は不愉快という気持ちだけで平民を殺すことを是とし、それを不敬罪ということは知っています。しかし権力という見えない力を使って自分を守れると思っているなら、死の間際までその不確かな力を振るえば良い。権力という不確かで不思議な力を踏みにじれる武力を持って、僕が踏み潰して差し上げます」
「…………」
「それで、どうします? 時間が重要の仕事ですから、そちらが担当しないなら、別に持っていかないといけないのです。それにしばらく北部に行かないといけませんので、とある周期にルークの力は使えなくなりますよ?」
「──それは……」
「そうでした、協議中でしたね。契約条件のすり合わせが鈍いのは、本来の契約内容以外でも戦力が望めそうだったからでしょう? でも残念。そちらも期待できないみたいです。どうしましょうか?」
「ディル?」
「何でしょう?」
「何で契約のことを知っているの?」
「……ルークに不可能はないのです」
「グルッ!?」
ごめん、ルーク。
代わりに死んでくれ。
「そういえばギルドで言っていたわね」
「えぇ」
「ふーん」
まだ疑っているルイーサさんをスルーし、話を続ける。
「それと、僕は北部に直行するなんて言ってませんよ。武力行為は諸事情によって禁止されていますが、それ以外は禁止されていませんので」
「何をするつもりだ!?」
「例えば、あなた方の代わりに公爵閣下への事の顛末を報告したり? 他には北部の侯爵家に寄って辺境伯家の次男坊誘拐おめでとうって言ったり?」
「お、お、お前……」
「他にもまだありますよ? ──言ったはずですよ? 最後の一兵になろうとも戦うって? だけど、あの後怒られまして。ルークとイムレも参戦してくれることになったんですよ」
全員の視線がルークたちに向かう。
ルークはすでに臨戦態勢で、魔力の波動によりたてがみが揺れ動き、燐光が舞っている。
「で、最初の話に戻りますが、東部って素晴らしい信念を持っていますよね? 東部の人間なら答えは簡単だと思ったんですが、僕の勘違いだったってことですかね?」
「それは……」
未だ踏ん切りがつかない狼公だが、意外なところから参戦が表明された。
「やるに決まってんだろっ! 難しいことはよく分からんけど、母上とレイラに関係がある北部だし、東部と同盟を結んだ場所だ。狼公だって今は東部の家臣だけど、自分の生まれ育った場所も大切にしろよっ! 親父は家臣に遠慮されるような小さい男じゃねぇぞっ!」
テオは狼公に掴みかかった後、何故か俺の胸ぐらも掴んで持ち上げた。
「お前に一つ言いたいことがあるっ! 何勝手に一人になってるんだよっ! ニアは俺にとっても妹みたいなもんだっ! 俺を置いて行くんじゃねぇっ!」
「……ごめん」
「二度と言うなっ」
「うん」
ごめん、多分言う。
すでに二回目だから、ルークたち従魔組とルイーサさんから強い視線を受けている。
「──とりあえず、土地の大きさを確認させてくれ」
予想通り波乱が巻き起こった話し合いは、話の中身をよく理解していないテオの一声によって決着するのだった。
「裏書手形は、最終的に不渡手形にしてしまいたいのです。小切手は使用期限がありますから、現金に変えて北部公の債権を買い漁ってもいいですよ。裏書手形で不動産や鉱山を買って、譲渡に譲渡を重ねて僕の名義にしてください。もちろん、途中に挟んだ商会は消してくださいね。最初の手続きで貴族証が必要なら、この領主印を使ってください。信用が担保されていますから」
「…………」
狼公の表情が徐々に青ざめていくのは何故だろう?
「北部公に手形で融資をしてもいいかもしれませんね。不渡手形だったときの絶望感と言ったら……。まぁタイミングを合せて宮廷魔法士長様に帰還してもらわないといけませんけどね」
「「…………」」
ナディアさんの表情も変化しているが、ナディアさんは王都に帰りたくないのかもしれない。
「多額の借金に領地の喪失を重ねた北部公は、国王直属の諜報部によって調査され、その結果領地を召し上げられるでしょう」
「ねぇ、ディル? それだと北部の土地が王家のものにならないと思うの」
もちろん理解しているし、タダで王家にくれてやる気はない。
王弟の責任を追及する手札にもできず、個人的な目的にもできないという利がない行為をするはずがない。
それに……。
「僕が何もしなかった場合、北部の土地は北部のものでも王家のものでもなくなりますよ」
「「えっ!?」」
ルイーサさんはともかく、狼公はようやくことの重大さに気づいたらしい。
「現在すでに、他国の商人が土地の購入に動いています。それを侯爵閣下とその寄子貴族たちが防いでいるというのが、二ヶ月くらい前の情報です。今はどうなっているか分かりません」
「──何故それを……?」
「情報源はどうでもいいのですよ。そちらの北部駐在員に確認を取れば分かることなので」
「それはそうだが……」
「そんなことよりも僕が介入して嫌がらせをした場合、僕なら狼公たちも王家も北部も全員が幸せになれる、土地の有効的な利用法を提案できます。だから、僕に協力した方が良いと説明させていただきました」
「その提案を、ママに教えてくれるかしら?」
「ママ……?」
話を中断させたくないらしく小声で呟いていたが、俺の耳にはしっかり届いている。
そこだけ切り取って復唱しなくていいというのに……。
「ディル?」
「土地と引き換えに黒幕の責任を追及し、宮廷魔法士長様の離婚を認めさせます」
「「「なっ!」」」
「鬼畜の所業を繰り返す大使よりも、自国の土地の方が大事でしょう。もし逆を取るような国王なら、いっそいない方が良いと僕は思います」
と言いつつ、ルークをモフモフする。
「それはっ」
「──不敬とかいう言葉はいりませんよ? 欲望を優先する鬼畜はゴブリンと同じですからね」
「ゴブリン……」
「例えば、あなたの姉がゴブリンに拉致られたとします。おそらくその旦那さんは聖鉄級以上の冒険者を派遣するのではないですかね?」
「──お前っ! 本当に平民かっ!?」
「話を続けます。集落にはゴブリンの王がいて、冒険者は普通のゴブリンは討伐できるけど、王は不敬だから討伐をやめて諦めました。平民からしたら王を弑するなんて大罪を犯せませんからね。──さて、あなた方は見逃す派で良いですか?」
「そんなはずないだろうっ」
「それが答えですね。二度と不敬がどうのという話を、僕の前でしないでください。不愉快です」
「お前は貴族の力を分かっていない」
知らないはずがない。
権力は、武力や財力と紐づいていなければ意味がないことを理解していないのは、俺よりも狼公の方だと思うけど。
「嫌というほど理解していますよ。貴族は不愉快という気持ちだけで平民を殺すことを是とし、それを不敬罪ということは知っています。しかし権力という見えない力を使って自分を守れると思っているなら、死の間際までその不確かな力を振るえば良い。権力という不確かで不思議な力を踏みにじれる武力を持って、僕が踏み潰して差し上げます」
「…………」
「それで、どうします? 時間が重要の仕事ですから、そちらが担当しないなら、別に持っていかないといけないのです。それにしばらく北部に行かないといけませんので、とある周期にルークの力は使えなくなりますよ?」
「──それは……」
「そうでした、協議中でしたね。契約条件のすり合わせが鈍いのは、本来の契約内容以外でも戦力が望めそうだったからでしょう? でも残念。そちらも期待できないみたいです。どうしましょうか?」
「ディル?」
「何でしょう?」
「何で契約のことを知っているの?」
「……ルークに不可能はないのです」
「グルッ!?」
ごめん、ルーク。
代わりに死んでくれ。
「そういえばギルドで言っていたわね」
「えぇ」
「ふーん」
まだ疑っているルイーサさんをスルーし、話を続ける。
「それと、僕は北部に直行するなんて言ってませんよ。武力行為は諸事情によって禁止されていますが、それ以外は禁止されていませんので」
「何をするつもりだ!?」
「例えば、あなた方の代わりに公爵閣下への事の顛末を報告したり? 他には北部の侯爵家に寄って辺境伯家の次男坊誘拐おめでとうって言ったり?」
「お、お、お前……」
「他にもまだありますよ? ──言ったはずですよ? 最後の一兵になろうとも戦うって? だけど、あの後怒られまして。ルークとイムレも参戦してくれることになったんですよ」
全員の視線がルークたちに向かう。
ルークはすでに臨戦態勢で、魔力の波動によりたてがみが揺れ動き、燐光が舞っている。
「で、最初の話に戻りますが、東部って素晴らしい信念を持っていますよね? 東部の人間なら答えは簡単だと思ったんですが、僕の勘違いだったってことですかね?」
「それは……」
未だ踏ん切りがつかない狼公だが、意外なところから参戦が表明された。
「やるに決まってんだろっ! 難しいことはよく分からんけど、母上とレイラに関係がある北部だし、東部と同盟を結んだ場所だ。狼公だって今は東部の家臣だけど、自分の生まれ育った場所も大切にしろよっ! 親父は家臣に遠慮されるような小さい男じゃねぇぞっ!」
テオは狼公に掴みかかった後、何故か俺の胸ぐらも掴んで持ち上げた。
「お前に一つ言いたいことがあるっ! 何勝手に一人になってるんだよっ! ニアは俺にとっても妹みたいなもんだっ! 俺を置いて行くんじゃねぇっ!」
「……ごめん」
「二度と言うなっ」
「うん」
ごめん、多分言う。
すでに二回目だから、ルークたち従魔組とルイーサさんから強い視線を受けている。
「──とりあえず、土地の大きさを確認させてくれ」
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