暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

第三九話 嫌がらせ計画

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 シルフォード商会で契約を終えた後は、貴族区を西から東に突っ切り居住区に向かう。
 移動途中でテオは説教という鞭をもらい、その後仕入先を紹介してくれたことへの御礼という飴をもらっていた。

「グルッ、グルッ」

 ルークはおやつの在庫が再入荷されると知り、ご機嫌で歩いている。
 反対に俺は一昨日訪れた場所に向かっていると思うと、足と気分が重くなっていく。

 居住区に入った辺りから【餓炎狼公】の部下が視界に入るようになり、向こうもこちらを視認した瞬間、すぐに四方八方に掛けていく姿が確認できた。

 まぁ彼らの立場に立てば恐怖でしかないだろう。
 二日連続で襲撃しに来た子供が【青獅子】を連れ、さらにルイーサさんたちもいる。
 最大戦力を持って報復に来たと思っても不思議ではない。

「ここだ」

 エイダンさんが指を指した屋敷は、俺もよく知っている場所だった。

「やっぱり」

「ディル?」

「……どうしました?」

「良い子にしてるのよ?」

「もちろんですよ」

「うんうん、ルークとイムレちゃんもよ」

 太い釘を刺しに来たな。
 言われてないからという屁理屈を防ぐために、ルークとイムレにも釘を刺すとは、徹底した殲滅防止策だ。

「グルッ」

『イムレ、良い子』

 ポヨっと弾んで返事をするイムレに和みつつ、屋敷の門内へと歩みを進める。


 ◆


「急ですまんな」

「……いや、ほんとにな」

 以前来た階段裏の応接室ではなく、ダンスホールのような場所に席が用意され、そこに座って話をしている。
 相手が何故ダンスホールを選んだかは、部屋の中を見れば一目瞭然だ。

 最低限の警備以外の部下がいるんじゃないかってくらい、ホール内は武装した獣人で溢れていた。
 そんなに怖いかな?
 ……ルイーサさんは優しいよ?

「ディル、何を考えてるの?」

「──いえ、人が多いなぁって」

「確かに、多いわね。何があったのかしら?」

「…………仕事の打ち合わせの最中だったんだ」

「まぁそうだったのね。それにしても目の下のくまが酷いわ。ちゃんと睡眠は摂れてるの?」

「……い、忙しかったんだっ」

 お前らのせいでって言いたいのかもしれないが、完全に自業自得だから。
 それとも今すぐ眠らせてやろうか? 永遠に。

「ディルーー?」

「……何でしょう?」

「約束は?」

「何もしてませんよ?」

「そう?」

「はい」

「それならいいわ」

 そもそも魔力の動きを素早く感知することができ、加えて魔力を使わない攻撃ができないように右側に陣取って座っているんだから、ルイーサさんが心配するようなことは起きない。

「テオ、まずは手紙を渡して」

「はい」

「テオドール様、ご無事でなによりです」

「まぁ助けてもらったからな。これ親父に速達で頼む」

「畏まりました」

 これで手紙のことが片付き、ついでに預けたままの命の代金を払ってもらおう。

「ついでに僕の願いも聞いてもらえませんか? 二つほど」

「ディル、どうしたの?」

「違いますよ? ここに来た目的を説明しようかと思いまして」

「でも二つって」

「もう一つはついでです」

「……とりあえず聞いてみましょう」

「はい」

 ふぅ。また折檻期間が増えたら大変だ。

「…………何だ?」

「その前に、この子が誘拐されそうになった女の子です」

「…………」

「母親の宮廷魔法士長様はこちらです」

「…………」

「テオが守ってくれたことを僕たちは感謝しています。だから助けただけです。受けた恩には恩で返す。東部の信念ですよね。大変素晴らしいと思います」

「…………」

「さて、話を戻します。表の仕事が一つと、裏の仕事を一つ。それぞれ話しを聞いた後、受注してくれるか決めていただければと思います」

 表は普通の取引だから恩は関係ないけど、裏の仕事を無視した場合、彼らは恩に報いなかったという証明になる。
 その場合、別で依頼をすればいい。

「裏から行きましょう。ニアの誘拐から始まり、不幸な行き違いまで色々ありましたが、全ては中央貴族のせいです。今は行方不明になった目撃者兼主犯は、とある人物の側近でした。その人物に対する報復をする手伝いをお願いしたいのです」

「……中央貴族への報復は、我々だけで判断できることではない」

「ほぅ、なるほど。主家の次男坊が拉致されて暴行されたのに? もしかして嫡男じゃないからと軽視している?」

「そんなわけないだろっ!」

「落ち着いてくださいよ。そちらが武威を示すなら、こちらもそれ相応の行動を取らなければならなくなるではないですか」

「侮辱したからだろっ」

「それは先日話しましたよね? また言わなきゃ分かりませんか? それに預けているものがあるのに、静かに聞いていられませんか?」

「……預けたものだと?」

「えぇ」

「何も預けてなどいない」

「じゃあ、いらないんですね? ──命」

「っ。それは──」

「女性二人に庇われ、話を打ち切りにしただけで助かったと思ってます?」

 途中からニアの耳を塞ぐナディアさんと、ルークが戦闘態勢になったのが視界に入る。
 反対にテオとエイダンさんが、困惑の表情で俺を見ていた。
 エルフ夫婦は静観の構えだ。

「部下の命はあなたの言動にかかっています。初めて会ったときを思い出してください。僕は動かずとも首を刎ねることができます。あなたが話を中断する度に、適当に選んで首を刎ねますので、静かに話を聞いてください。僕も忙しいのです」

「……わかった」

「別に直接報復するなんて言ってませんよ。その人物は、最初東部が欲しかったんです。豊かですからね。でもことごとく阻止され続け、少しだけ種を残して撤退しました。そして次に狙ったのは北部です。ご存知でした?」

「……いや」

「北部は公爵閣下の夫人の実家もありますし、同盟相手ですよね。ただ、北部のトップは東部と違って無能ですよね?」

「…………」

「貴族同士だと本音は言えませんか。まぁいいんですけどね。その無能を補佐するために公爵夫人の実家である侯爵家がありますし、あなたのご実家の伯爵家もありますもんね」

「…………」

「でも問題は、東部に近く獣人が多い侯爵家をよく思わない公爵家が、常に反対の意見を出して邪魔をしてくるということ。優秀な侯爵家とは逆の行動を行うのだから、無能に磨きをかけているんです。そこに目を付けた人は少なくなく、若い公爵は今や詐欺師にカモにされてます」

「何故それを……」

 その詐欺師の中に王弟がいたからに決まっているだろ。

「北部は決して無能に任せることはできない要衝です。北部の王気取りの公爵も無能で、誘拐の黒幕も無能です。黒幕はない知恵を絞って公爵を借金地獄にし、最終的に傀儡にする予定でしょう」

「…………」

「僕は侯爵閣下に北部を治めてもらいたいのですが、それは多分無理でしょう。北部と東部の関係性を考えれば、国の中にもう一つ国ができることになるでしょうから。ですので、天領にしてしまいたいのです」

「──それはっ」

「王家の直轄地になれば、国王が代官を派遣するでしょう。でも領地ごとの法律ではなく王国法にを遵守しなくてはいけなくなるので、差別的な行動で北部の方針を決めている現在よりもマシになると思いますよ。その手伝いをしてほしいんです」

「具体的には?」

「ここに三種の神器があります」

「そ、それは……」

「神からの贈り物です。この三つは、遅くても宮廷魔法士長様が王都に帰還されると使えなくなります。相手は死んでいるか捕まったはずの人物が帰って来たことに驚き、同時に任務の失敗に気づくでしょうからね」

 使用期限が切れた三種の神器は、ゴミと紙切れでしかない。
 早めに使えるだけ使わないと。

「この白地小切手を使って大きな土地を買ったのですが、その場所の壁や建物の建設依頼が表の依頼になります。ただ、資材はこの小切手を使って支払い、すぐに現金に変えてもらってください。工賃もそこからお願いしますね」

「大きな土地?」

「大体工業区の北半分です」

「──はぁ!?」

 驚くような広さなのは理解しているけど、そこはあとで確認してもらうとして、今重要なのは土地の広さではないのでスルーする。





 ◆ ◆ ◆


 少し長くなったので、半分に割ります。




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