暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

第三七話 女傑の本領

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 新たな仕入先確保と土地開発の人材募集のために、今日も朝からお出掛けだ。
 ニアは自分も一緒に出掛けられることが嬉しいらしく、微妙に不機嫌なルークの背中にご機嫌で乗っている。

 ニアは俺が一人で狩りに行ったことが相当寂しかったらしく、肉の減り具合をブルーノさんに聞いたりして、俺の狩り日程を確認していたらしい。
 その話をルークから聞いて、ダンジョンに連れていくことを決めた。ニアをダンジョンに連れて行くことの条件が犯罪者予備軍の助命なら、酌量してあげても良いと思っている。

「ディル」

「どうしました、ナディアさん」

「折檻のことで言い忘れていたことがあった」

「な、なんです?」

「折檻にはレベルがあって、一番最初の折檻を拒否したり逃走したりすると、次のレベルに上がる。決して強制も命令もして来ないのだが、それ故自分の選択によって人生が変わると教えられる」

「ぼ、僕の……折檻はどうなると思いますか?」

「うーん……次は添い寝で、その次は風呂ではないか?」

「──そんなっ」

「適切なタイミングでママと呼べば問題ない」

「帳消しになることってないですかね?」

「ない」

 そんなにはっきり言わなくても……。
 少しは希望を持たせて欲しい。

「じゃあそういうことだ。おそらくこの後に行く場所で言うことになるだろうから、心の準備をしておくんだぞ」

「はい……」

 まもなく襲いかかる地獄に絶望し地面に視線を落としていたが、途中ナディアさんの戸惑う声が遠目に聞こえ視線を上げた。
 そこには満面な笑みを浮かべたご機嫌のルイーサさんがナディアさんを褒め、褒められたナディアさんが困惑するという謎の光景があった。

 いったい何があったんだろうか。

「お姉様、こちらです」

 テオが先頭に立って道案内をしているのだが、いつの間にか貴族区に入っていた。
 貴族区に入るには、歩哨に立つ衛兵に許可証等を提示して許可を再度の許可が必要になる。当然、貴族家の紋章付き馬車は止められることはないけど。

 現在の俺たちは貴族区には不釣り合いの徒歩移動で、さらに服も平民そのままだ。
 制止され、誰何されないはずない。
 それなのに、平気で進もうとするテオは、ある意味勇者だと思う。

「待てっ! ここをどこだと思っているっ! 正式な許可を持つ者でなければ通すことはできんっ!」

「我々が制圧する前に大人しく立ち去れっ」

 ごもっともです。

 入町の際もそうだったけど、仕事を熟しているだけの高圧的な態度は全く気にならない。
 協力して早めに終わらせた方がお互いに得だと考えている。
 ただし、貴族は除く。
 彼奴らは生粋の見下し主義だから。

 まぁ一部例外がいることは、ここ数日で学んだけど。

「はぁ? 俺のことを知らないって新人か? 隊長を呼んでくれ。それか部隊長」

「それはできんっ」

「我々に許可証を提示すればいい」

「お前らのために隊長か部隊長を呼べって言ったんだけど」

 確かに。知らないと言っても辺境伯家の次男坊に槍の穂先を向けているから、後々ややこしいことにならないように説明してあげようと思ったのだろう。
 周囲には多くの目撃者がいるからね。

「まぁいいや。許可証だったな。ほれ」

 テオは胸元からネックレスを取り出し、首から外すと衛兵に投げた。
 おそらく辺境伯家の家紋が入った指輪なのだろうけど、そんなに雑に扱って良いのか?

「──こ、これは……」

「おい、どうした?」

「て、テオドール様……」

「──もしかして辺境伯閣下の!?」

「そうだが?」

 うわぁーー、初めて貴族らしく見えた。
 昨日買ってあげた平民服を身にまとっているのに、オーラと風格は貴族らしい。
 本物の貴族は、何を着てても変わらず貴族ってことだね。

「「すみませんでしたっ!!!」」

「いや、知らんなら構わん。俺も君たちの家族の顔は知らんし。親父の顔は知ってても、子供の顔は知らなくても仕方がないしな。うちは社交に興味がないから、余計に知らないはずだ」

「「御配慮いただき感謝を申し上げますっ!!!」」

「ただ、後ろの人たちは俺が保証するから、次からは通してやってくれ。この後の商談が上手く行けば、これからも商売で訪れることもあるだろうし」

「「畏まりましたっ」」

「顔だけ覚えといてくれれば、俺も許可証出すし面倒はかけない」

「「はいっ」」

「じゃあ通るぞ。あと、上司に報告後に何か問題があったら【双竜の楽園亭】に滞在しているから、そこに人を寄越してくれ」

「「ありがとうございますっ」」

 テオにしては細かい気遣いができている。
 俺たちにしても許可証の真偽を疑われないようにしているし、衛兵に対しても叱責されても守れるようにしている。
 ルイーサさんも笑顔で頷いていたから、あとできっと褒めてもらえるだろう。

 そして貴族区に入ったのだけど、歩いている人が一人もいない。
 広く舗装された道に馬車が行き交い、道の脇に建てられた商会は上品な石造りで、一つ一つが三階建ての大きな建物だ。もちろん、駐車場は完備されている。

 個人的には、ダンジョン都市らしい雑然とした町並みの方が好きだ。
 例えば、工業区や商業区の市場周辺だ。
 ゆえに、【双竜の楽園亭】は大変居心地がいい場所である。

「ここだ」

 ……デカいな。

 冒険者ギルド以外で初めて四階建ての建物を見た。
 しかも、これで支店なんでしょ?
 お金掛けすぎでしょ?

「まぁ……【シルフォード商会】だったなんて……」

「あれ? ここって王家の御用商人だったはずじゃ?」

「お前、詳しいな。でも少し違う」

「──あっ、そういえば第三王女専属だったっけ。だからかぁ」

「……お前、本当に何なの? 何で見せ場を取るんだよ……」

 王族には王弟と、その母親にしか会ったことはないけど、王弟が妹専属の【シルフォード商会】が欲しくてしかたがないって話をよく耳にしていた。
 王国各地に支店がある豪商で、国外に拠点を置いている有名商人が商会長を務めているそうだ。

「テオ、ここからはあなたの力にかかっているの。案内をお願いしてもいいかしら?」

「──はいっ! 喜んでっ!」

 しょぼくれていたテオは、ルイーサさんの言葉で元気を取り戻し、ご機嫌な様子で店舗へ歩みを進める。

「いらっしゃいませ、お客様。本日はどなた様の御紹介でしょうか?」

「んっ」

 先程のネックレスと赤色のカードを出して、門番の眼前に掲げるテオ。
 おそらく会員カードなのだろう。

「大変失礼いたしました」

 誰何してきた細身の門番の他に、いかにも護衛と思われるゴリマッチョの門番が扉を開けて、テオ率いるテオ一味は店内に入った。
 店内に入った瞬間、女性店員がテオの前に進み案内を申し出る。それを承諾したテオの後を付いて行き、三階にある応接室へ。

「相変わらず豪華だな」

「テオは前に来たことあるの?」

「いえ、ここは初めてです」

「いつもは呼ぶ側じゃないの?」

 貴族は家に呼ぶのが普通だからな。

「俺は便乗派だな。母上の買い物で呼ばれるから、俺は母上の侍女にメモを渡して便乗していた」

「お母様と一緒にお買い物をしなかったの?」

「いや……長いので、それはちょっと……」

「もぅ。お母様は一緒に買い物をしたかったと思うわよ?」

「「…………」」

 思わず気配を消す俺とナディアさん。
 なんとなくそうした方がいいと思っただけで、他意はない。

「弟妹がいるので、大丈夫だと思いますっ」

「あなたの代わりはいないのよ?」

「「「…………」」」

 か、勝てぬ。

 テオが言葉を紡げなくなったところに、救世主参上。

「お待たせしました」

「──あっ」

 あの人は、あのときの……。


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