暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

幕間六  買い物デート第一弾

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 ついにやってきました。
 念願のデートの時間。

「ディル、まずはどこに行く?」

「服……ですかね」

「じゃあ商業区に向かって歩いて行きましょ。気になる店があったら、気軽に入っていいのよ」

「はい」

 うんうん。

「あっ、本も商業区で売ってますか?」

「売ってるけど、量は多くないわね。どういう本が欲しいの?」

「えーと、教本っていうんですかね。錬金術とか魔導具の作り方とか、魔法陣が載っている魔導書とか」

「あぁーー、錬金術関連は生産ギルドにあると思うわ」

「待て待て。錬金術関連は後日にした方が良いぞ。今回買った土地の中に元錬金術工房があったから、もしかしたら放置されている道具類もあるかもしれないぞ」

 エイダンの話どおりなら、確かに余分な物を買うことになる。
 さらに錬金術師は魔導具製作も行うから、こちらも保留にするべきだろう。
 ということは、魔導書が必要ってことね。

「魔導書以外は保留にしておきましょう。それで魔導書は、用途が不明な古書なら商業区の書店で販売しているけど、実用的な魔導書となると貴族街での販売か、冒険者ギルドのオークションくらいしか思い当たらないわね」

「そうですか。とりあえず商業区の書店に行きたいです」

「分かったわ」

 その後、早速服屋に入って買い物をしたんだけど……なんか思っていたのと違う。
 男の子だからか、一瞬で買い物が終わった。
 一日一着着ると考えて下着も合せて七日分ずつ買ったのだけど、おしゃれの「お」の字もなく同じ色の服を上下七着ずつ籠に入れた時は、一瞬唖然としたあと全員で突っ込んだわ。

 仕事以外はどうでもいいと豪語するエイダンですら、色を増やすべきだと説得していた。それでも増やしたのは一色で、計二色で一週間を過ごすらしい。
 ちなみに、最初は上下ともに黒。追加した色はオリーブ色のシャツのみで、組み合わせも二つだけ。

「防具を身に着けたら見えないと思うので、気にしなくてもいいと思います」

 というのがディルの考えらしい。
 でも本当に防具を身につける気持ちがあるかは謎だ。

 ニアはニアですぐに大きくなると言い、これまた一週間分の七着だけを購入した。
 しかも冒険者として過ごす予定だからと、スカートの類は全て見送ることに。

「ニアは誰かにそっくりね」

「…………私は母上に似たのです」

「私はスカートを履くわよ?」

「…………私も履きます」

「夜会の時だけでしょう?」

「そ、そんなことは……ないです……」

「はぁ……。もっとおしゃれに気を使って欲しいわ」

 デートらしい着せ替えという夢の時間を送るという幻想は消え去り、今は日用品を取り扱っている商会に来ている。
 私の店と宿でほとんどの物が揃うのに、何故この商会に来たのかしらと思っていた。が、ディルとテオの行動で何をしたいのかすぐに判明した。

 エイダンを加えた三人が一台の荷車に近づき、テオが持ち上げるとディルとエイダンが荷車の下に潜り込んだ。
 二人が小声で話している内容を聞くと、どうやら拾ってきた荷車を直すために故障箇所の確認をしたかったらしい。三人は目的を達成すると何も買わずに戻ってきて、何食わぬ顔して歩き出した。

「……誰が考えたのかしらね」

 全員がディルを指差し、そのディルはテオを指差していた。

「おいっ! 俺じゃねぇっ!」

「幼気な少年が考えると思う?」

「思う」

「……売り物じゃないからいいんだよ。それに何か言われたら買うために点検してましたって言うつもりだったし」

「ほら見ろ。悪いことばかり考えてるじゃねぇか」

「生きるための知恵だよ。僕は空腹だからって言って街道に寝たりせず、知恵を絞って解決するんだよ」

「ぐっ……。もう忘れろっ」

「おじちゃん、みちはねるところじゃないんだよ」

「「「──ふっ」」」

 テオの負けね。

「──あっ、書店だぞっ!」

「「あっ、逃げた」」

 ブルーノとエイダンからも負け判定を得たテオは、一足早く書店に入っていった。
 そのテオを追いかけて書店に入ると、テオが両腕を交差してバツ印を作っていた。どうやら魔導書はないらしい。

「図鑑とかも絵がないやつしかないってよ」

「じゃあ今回はいいかな。武具や防具などの冒険に役立つものを買いに行きましょ」

「いいの?」

「はい。もしかしたら拾えるかもしれませんし」

「じゃあエイダンに案内してもらいましょう」

「任せろ。希望の素材はあるか?」

「僕は革か丈夫な布で作ってもらいたい防具以外は特にないですね。武器はエイダンさんが作ってくれるって言ってくれましたので」

 あら、エイダンがそんな約束を?

「はいっ! 私の剣もお願いしますっ!」

 ナディアもちゃっかり約束していたのね。
 あの子はニアのことも考えているのかしら?

「ニアはどうする?」

「うーん……わかんない……」

「じゃあ色々武器を試してみて、これだっていうのを選びましょう」

「うん」

「そ、そうしようっ」

 ……この子、何も考えてなかったわね?

「あとで話しましょ?」

「ひぃっ」

 あとはテオだけど、確か巨大な両手斧を持っていたと思うから、テオはいいでしょう。

「はいっ!」

「テオ、あなたは斧があるでしょう?」

「で、でも……狭いところでは使いづらいですし、熊に騎乗した場合は難しいと言いますか……」

「熊? どうして熊に乗るの?」

「未来の従魔です」

「……辺境伯家なら馬上槍も訓練してしているでしょう? ということは、家に帰ったら槍があるじゃない」

「俺はエイダン殿に頼むわけではないので……」

「え? じゃあ、誰に頼むの?」

「ディルです」

「「はぁ?」」

 あら、ディルと心が通ったわ。

「僕は武器を作ったことはないけど?」

「それ、それが欲しい」

 全員の視線がディルの短剣に向かう。
 そこでようやく気づく。
 後日話すことになっていたから忘れていたけど、確かにディルは付与武器を作っていた。
 しかも三重付与というダンジョン産レベルの希少武器だ。

「そ、それなら私だって欲しいっ」

「あっ、ナディアさんには餞別として渡すつもりでしたよ」

「ありがとぉぉぉぉっ」

「おぉぉぉいっ! 俺はっ!?」

「ぶっちゃけ欲しがると思ってなかった」

「何でっ!?」

「貴族だから」

「ナディアさんも貴族ぅぅぅっ」

「そうなんだけどね。ナディアさんは武具を集めるのが趣味って聞いてたから、王都でも売ってないお土産にちょうどいいと思って」

「素晴らしいっ! お姉ちゃんのことを理解しているじゃないかっ!」

 意外なことに初対面を除けば、ナディアとディルの関係はすごく良いのよね。
 何故かしら? 不思議。

「ニアも欲しいよな?」

「うん」

 それでもニアは遠慮がちね。
 子供だから遠慮しなくてもいいんだけど、ディルが言い出さなかった理由は理解できるから先に教えておきましょうか。

「ニア、ディルは意地悪でニアの名前を呼ばなかったわけではないのよ? ニアはまだ武器の扱いを訓練してないでしょ? さっきも、どの武器を使っていいか分からないって答えていたしね。ディルが作った武器は間違った扱い方をすると自分も傷ついちゃうから、ニアが訓練して自分にあった武器を見つけたらくれると思うわよ」

「くんれん、がんばるっ」

「良い子ね」

「お、俺は訓練済みだぞ?」

「その前に、ナディアさんはエイダンさんが剣を用意するって言ってたから、予備装備の短剣でいいですよね?」

「もちろんだ」

「いや、金属武器の付与にも挑戦してみたらどうだ? 失敗しても壊れるわけではないし。まぁ追加付与はできないけどな」

「それもそうですね」

「やった。楽しみだっ」

 喜ぶナディアを横目に拗ね始めるテオ。
 本当に成人しているのかどうか疑問なほど子供っぽいわね。
 父親にそっくりだわ。

「それで、そこで拗ねているテオだけど、騎乗時の武器って何を考えてるの?」

「別に拗ねてないし……。俺のも考えて」

「丸投げかよ。無難なのはロングソードだけど、今まで斧を使っていたなら斧術の技能を活かせるハルバードとかでもいいかもね。馬上槍の訓練で槍術の技能もあるはずだし、訓練も活かせるじゃない?」

「じゃあ、それで」

「価格はルークと相談して」

「──え?」

「ルークがお願いがあるんだって」

「グルッ」

「わ、わかった」

 そして買い物デートは終わった。

 えっ? 武具屋は? って思うでしょ?

 武器が特注なら、他も特注で良いとなったのよ。
 しかもギルドに時間を取られたせいで、そろそろ晩御飯の支度をしないといけない。
 昼食は屋台で済ませただけだから、ルークはそろそろ空腹でおやつを欲しがってもおかしくないわね。

 まぁ防具屋と貴族街の書店に行く約束を取り付けたから、今回のデートは良しとしましょう。






 ◆ ◆ ◆






 思ったより長くなった幕間は一旦終了です。
 次回はステータス等を記載する閑話か、二章開幕かのどちらかです。

 引き続きお読み頂ければ幸いです。



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