暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

幕間五  竜の巣予定地

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 土地は工業区の半分から北側までで、買えるだけ買うことにした。元々の宿屋周辺の土地と、ディルが拾ってきた権利書の余った部分を足せば大地主と言っても過言ではなかった。
 もちろん、後々面倒なことにならないように、拾ってきた権利書の名義も変えておくことに。

 工業区の半分から南側は生産ギルドが保有しているため、今回は見送った。

『ルイーサ、かっこ良かったぞ』

「まぁ、嬉しいわ」

 ルークが膝の上に顔を載せ、私の勇姿を褒めてくれる。
 酷いことを言ってくる子たちもいたから、とても嬉しいわ。

『ナディア。ルイーサが出した条件の中には、ニアが冒険者になれるようにということと、少ない雑用依頼でランクが上がりにくい冒険者への待遇改善が記されていたんだぞ』

「──え?」

『熊、お前の父ちゃんは偉いヤツなんだろ? 本当なら父ちゃんがする仕事をルイーサとブルーノがしてくれたんだぞ? ルイーサがいなかったら、今頃ここは血の海だぞ。……誰の血かは知らんけど』

「だ、だれの?」

『誰だと思う? オレが相手なら、敵は燃え尽きるから証拠も残らないはずだ』

「……ルークは、火力の調節が苦手じゃん」

『……オレに不可能はない』

 このやんちゃな二人には困ったものだけど、ルークはともかくディルの実力は正直よくわからないのよね。
 あの場にはシスターがいたのに、どちらかと言えばシスターの方が困っている様子だったし。

「ねぇ、ルーク。どうして条件が分かったの?」

『オレに不可能はない』

 これは言う気がないってことね。

「あるわ」

『な、何が?』

「おやつの入手法よ」

『そ、それはーーっ』

「教えてくれる?」

『……特別だぞ?』

「えぇ、特別」

『子分に聞いたんだ』

「子分?」

『そうだ。今回だけじゃないぞ。冒険者のことは前から考えてたことだろ? だからだな』

 何か一部隠している気がするけど、何か分からないわね。
 人間の嘘ならある程度分かるけど、ルークやイムレちゃんは全く分からないのよね。

「そうなのね」

『うんっ』

 これ以上は無理そうね。

「じゃあ精算を済ませて帰りましょうか」

「はーい……」

 ニアはすでに疲れ始めているわね。
 本格的に寝てしまう前に、先程の受付の女の子に会いに行きましょう。


 ◆


「こ、この全部を……本当に……?」

 分かるわよ、その気持はね。
 都市の中に集落でも作ろうとしていると思われても仕方がない規模よ。

「個人の所有ができるかは、そのぉ……不明かと」

 そうなのよね。
 私も言ったわ。
 でも、何でかは知らないけど詳しいのよ。ディルが。

「商用利用を目的としていれば大丈夫なはずよ」

「──あっ、そういえばそうですよね。商業ギルドのカードをお願いします」

「冒険者カードがあれば多少勉強させていただきますよ?」

 さすがに額が額だけに、上役まで出てきての対応だ。

「もうちょっと待ってね。──あっ、帰ってきた」

 ディルは身分保証にテオを伴い、急いで商業ギルドの登録しに行った。
 まずナディアを保証に使わなかった理由は、ナディアに恨みがあったり、ニアのことで搦め手を使われたりしたときに真っ先に狙われそうだから。
 しかしテオが保証になった場合、東部の辺境伯関連施設が標的になり、その結果東部全域が敵に回ることを意味する。

 相当馬鹿じゃない限り、わざわざ狙って来ないだろう。
 それにテオ本人が、従魔と住める自分の別荘が欲しいとねだったことも理由の一つだ。

 最後に名義のことだけど、小切手を使って買うことで私たちに迷惑がかからないように、自分だけに目が向くように名義を集中させているみたいね。
 本来なら持ち主が現れない落とし物や、賊を討伐して得たものは討伐者に与えられるから全く問題がない行為だけど、相手は腐っても貴族。
 もしかしたら迷惑がかかるかもしれないと思って、本音を隠しながら動いているみたいだけど、ママには全てお見通しよ。

 もう十二歳と言う人もいるかもしれないけど、あの子の境遇を考える限りまだ十二歳。
 もっと大人に頼るべきよ。

「こ、小切手?」

「はい」

「カードはどちらもランクが低いですね……」

 信用度が低いと割引は難しそうね。

「勉強しなくて結構ですよ。信用が足りないのですよね? 理解してます」

 まぁこの子の懐が痛むわけじゃないから割引は考えていなかったかもしれないけど、上役は私とブルーノに恩を売っておきたかったと思うのよ。
 それに上役が気づいているかどうかは不明だけど、ディルは「お互いに信用度は低いぞ」と言ってるのよね。自分がすぐに信用度に気づいたってことは、自分が信用できないなと思っていたからよね。

 あの二人がダンジョンに挑戦すれば、あっという間に土地代くらい稼げるでしょう。
 だから別に急いで買う必要はない。
 それでも買うってことは別の目的があるのよ、嫌がらせっていうね。

 目の前にルークがいるのに、そこに気づかないかしら?

 普通の低ランク冒険者は宿代や武具代、食費や治療代を用意したりと、支出が多くてなかなかお金が貯まらない。
 でもディルはほとんど支出がなく、ランクに見合わない実力も兼ね備えている。ダンジョン探索で活躍している姿が目に浮かぶわ。

「ご理解いただけて感謝します」

「はい、僕もです」

 あぁーあ、彼は左遷ね。

 これは一種の踏み絵だったのに。
 信用が不確かな状況でも先行投資して割引しますよってなっていたら、ディルたちもダンジョンに挑戦するときに融通してくれたと思うの。
 なのに、信用してないと宣言したまま終わってしまったから、ダンジョン挑戦時に依頼をされても、「お前らを信用してないから無理」って言われたら交渉もできないでしょ?
 信用を証明するっていうのは、本当に難しいことなのよ。

 ディルは、今回大きなチャンスを与えていたの。
 商業ギルドの保証人欄にはテオの名前があるはず。
 それなのに信用していないって言うのは、辺境伯の次男も信用に値せずと発言したことと同義なのにね。

「「不憫な……」」

 ブルーノとエイダンも気づいたらしく、口を揃えてつぶやく。

「ど、どうしましょう……?」

 女の子は気づいているみたいね。
 巻き込まれ事故は可哀想だから、助けてあげましょう。

「まだ契約書にサインをしてないから、あなたはギルドの売店を案内して時間を潰しておいて」

「は、はいっ」

「エイダンは同じものが作れるか偵察ね。ブルーノはニアとナディアの護衛をお願い」

 ルークも行きたそうにしているけど、あまり目を離したくないから待っててもらう。

「任せろ」

「ここに売ってるものは大体知ってるし作れるぞ」

「ほら、工房が返ってきたばかりの人で仕事を回してあげたい人もいるでしょ?」

「なるほどな。わかった」

 以前の取引先がまた契約してくれるとは限らないもの。
 しばらくはうちの子たちの仕事を受けてくれてもいいし、テオという伝手もできたしね。

「あれ? 受付は?」

「売店で案内をしてくれてるわ」

「あぁ……。では、こちらでよろしければサインと支払いをお願いします」

 冒険者ギルドだから詐欺行為はしないだろうけど、一応隅まで呼んでおこうかしら。

「グルッ」

「ん? どうしたの?」

「ルークが見てくれるそうですよ」

「え?」

 契約書をルークの前に掲げると、大きな肉球を契約書に当てる。
 直後、青い炎が契約書を包み込む。

「──な、何をしてるんですっ!?」

「えーと、ルークなりの鑑定です」

「はぁ!?」

 私もディルが何を言っているか分からないけど、炎は無事に収まり契約書も無事だった。

「問題ありません」

「ディル、問題があった場合はどうなってたの?」

「問題の箇所が青白く光るそうで、契約締結後に違法契約だと判明した場合、契約書及び契約書に紐づく人が燃えるそうです」

「「…………」」

「でもこの契約書は問題がなかったと証明されたので、何も起こりませんよ。ルークはまだ子供の僕が契約することを心配してくれたみたいです」

「そ、そうね」

 これはあとで詳しく聞いておかないとね。

「で、では……契約書は一部ずつの保管となっていますので、お持ち帰りください……」

「ありがとうございました」

「グルッ」

 なんだかんだったけど、ようやくデートに行けるわ。
 まずはどこに行こうかしらね。




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