暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

文字の大きさ
上 下
39 / 97
第一章 居候、始めます

幕間三  天使との出会いに歓喜

しおりを挟む
 私、ルイーサは最高に幸せです。

「ブルーノ、聞いたっ?」

「ああ、聞いた」

「ルークも良い仕事をするわっ!」

 あの子が、なかなか心を開いてくれなかったディルが、私がお母さんで嬉しいって言ったのよっ。
 こんなに幸せなことってないわ。

「あら。ブルーノ、ヤキモチ妬いてるの?」

「別に」

「もうっ。ブルーノが良い距離を保ってくれているって、ディルも理解しているわよ」

「……早く準備をしろ」

「そうね。可愛い服がいいわよね」

 ここは私の一張羅を出すべきかしら?

「あまり気合を入れすぎると、ディルが浮くぞ」

「それもそうね。あの子は二着しかないものね」

「一着はナディアとの件でボロボロだ」

「じゃあ、今日は服も買いましょう」

「おそらく、自分でお金を出そうとするだろう。俺たちがお金を払おうとすれば遠慮すると思う」

「テオやナディアなら、どうかしら?」

「貴族のお金は嫌がりそうだが、小切手を使う気なんだろ? それならナディアにお願いしたらどうだ? ニアがお世話になったお礼と言えば、遠慮がちに受け取ってくれるはずだ」

「そうね。それにしても、貴族はあの子に何をしたのかしら?」

「自分から話すまで待つ約束だぞ」

「むぅ……分かってるわっ」

 結局、ディルやニアの服装に合せた中でも良いもので我慢しておいた。

『おーい、まだかー?』

 我が家の癒やしがポテポテと歩いて来る。
 背中には珍しくディルが乗っており、さらに癒やされる光景だった。

「準備万端よ」

『よしっ! 早く買い物に行くぞっ』

 可愛い。

 初めて家に来た時は驚いてしまい、無様な醜態を晒すことになったけど、慣れって怖いわね。
 今では少しの間姿が見えないと寂しく感じるほど可愛い存在で、ついついおやつをあげてしまう。
 おかげで、在庫がそこを尽きそうなのよね。

「あれ? イムレちゃんは?」

『背中の上だ』

『イムレ、ここだよ』

 ぽよっと弾んでルークの背中から頭へ移動する姿が、本当に可愛い。

「見つけたわぁ」

 イムレちゃんの体を撫でていると、戸締まりをし終わったブルーノがナディアたちを引き連れて合流した。

「あぁっ! おにいちゃんがのってるぅぅぅっ!」

「ちゃんと代わるよ」

「やったぁぁっ! ありがとぉーー!」

 実際には叔父と姪の関係になるはずだが、年齢が近いせいもあって兄妹のように仲良しだ。
 ナディアとの初対面が最悪だったから、てっきりニアも受けれ入れづらいかと心配していたけど、ディルの方から積極的に協力してくれているのは助かっている。

 まぁ「殺せばいい」という、殺伐とした考えが真っ先に出てしまうところは、個人的には少し改善してほしいけど。

 ルークもディルの殲滅主義に賛同しがちだから、その点のみおやつ懐柔作戦は失敗している。でも、失敗というマイナス感情を上回るくらい、本当に可愛い子たちなのよね。

 もうどうでも良くなっちゃう。
 可愛いは正義よ。

「じゃあ出発よーーっ」

「「「おぉーー!」」」


 ◆


 たまたま暇していたというか、昨夜のことを心配していたエイダンも合流して買い物に出掛けた。
 まずはルークの希望を叶えるために、土地の使用権を買いに向かう。
 中央広場に各ギルドが集まっているし、最悪は庁舎で直接買っても良い。他にも十字の中央通りが通っているから、買い物にも適している。

 最初の目的地が中央広場というのは、なかなか理に適っていると思うわ。

「グルッ、グルッ」

「ご機嫌ね」

「グルッ」

 騎士団の宿舎が欲しいっていう子分に優しいお願いができるなんて、故郷で聞いていた【青獅子】のイメージ像とは全く違って驚いたわ。
 もっと暴れん坊って聞いていたのにね。
 本当は優しくて食いしん坊で、少しわんぱくな子供みたいな可愛い魔獣なだけ。

 ニアにも優しくしてくれるし、私にも『毛はいらないのか?』と、毎日聞いてくれる。
 残念なことに、まだ特殊処理の準備が整っていないから、ルークのたてがみをもらえずにいる。

「どれくらいたくさんの土地を買うのかしらね?」

「グルッ」

「たくさん?」

「グルッ、グルッ」

 可愛い。

 イムレちゃんはブルーノの仕事を手伝っているからか、ブルーノに懐いており、今現在もブルーノの腕の中だ。
 ディルはエイダンに何か相談してて、テオはナディアに小切手の使い方を自慢しているけど、ナディアも残念な子を見る目でテオを見ている。

 ……楽しい。

 最近従業員が辞めたり取引先が減ったりと色々あったけど、全て吹き飛ぶくらい楽しい。
 それもこれも全てディルに会ったおかげね。

「着いたぞ」

 ブルーノの声で、いつの間にか冒険者ギルドに到着していたと気づく。

「ここなら私たちの顔も少しはきくものね」

 私たちはそこそこ知名度がある冒険者でもあるし、知り合いも多く働いているから多少は融通がきくはず。

「──ルイーサ様にブルーノ様っ! 本日はどのようなご要件でしょうか!?」

 受付主任に見つかった瞬間、このような対応だ。
 これは期待できそうね。

「土地の使用権を購入したいのだけど、リストは見せてもらえるかしら?」

「もちろんですっ」

 問題はアイツがいるかどうかよね……。

「ルイーサ様、サブマスはいませんよ」

 私のお茶友達の娘さんが受付を担当しているのだけど、母親に色々聞いているらしく、私たちとサブマスの確執が原因で問題が起きないように不在を教えてくれた。

「あら、ありがとう」

「いえっ! 久しぶりにお会いできて嬉しいですっ!」

「私もよ。近いうち特上の料理を出す予定だから、お母さんと一緒にいらっしゃい」

「はいっ! 是非っ!」

 ふふふ。可愛いわ。

 この子はうちの診療所の患者さんだったんだけど、見た感じ元気そうでよかった。

「でもギルマスはいるので、もしかしたら面倒な話があるかもしれませんよ?」

「貸しを一つ使って無視しちゃいましょうか」

「さすがですっ」

「──さすがじゃない」

 上から落ちてきた声に思わず肩が揺れる。
 受付の女の子はもっと驚いたようで、壊れた魔導具のように上を見上げていた。

「あっ、ぎ……ギルマス……」

「すぐに通せと言っておいただろ?」

「す、すみませぇーーんっ」

「もぅ、若い子をいじめるなんて年寄りみたいなことはやめなさい」

「誰が年寄りだって!? あたしより年上のおば──「ん?」」

 一瞬、ギルド内の魔力濃度が跳ね上がった。

「──お姉さんが……言うことじゃないだろ」

「そうね。でもせっかく尊敬されているんだもの、無駄に怖がらせる必要はないわ」

 良い子良い子と、受付の女の子を撫でる。

「と、とにかく上でリストを見ればいいだろ」

「じゃあ、そうさせてもらおうかしら。案内をお願いしても良い?」

「はいっ!」

 どうやら面倒なことから逃げ切れそうにないみたいね。
 いつになったらデートに行けるのかしら。



しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

処理中です...