暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第二五話 主役はモフモフ

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 北門近くの【双竜の楽園亭】から中央広場にある冒険者ギルドまで行くには、領都内を十字に走る主要道路を通ることが一番安全で、一番わかり易い。
 俺も入町初日に通った道だ。

 でも今日は条件が追加でもう一つ。

 一番目立つ道路を通る。
 これは特にルークの存在を周知させるために必須だし、ルークの背中に乗っているニアの存在を周知させるためにも必須だ。

 ニアに手を出した場合、誰と敵対することになるのか。
 ニアに手を出した場合、逃げ切ることができるのか。

 好色変態野郎が好きそうなエルフだけでも価値があるのに、【青獅子】そっくりな魔獣もおまけで獲得できるのではないかと、思考力が足りなそうな阿呆も目撃した者の中にきっといるだろう。
 頭がパーになっている者に何しても無駄だが、それ以外の者に対しての対策は立てている。
 今日のルークはいつもより大きく、大きめのポニー程度のサイズになり、威風堂堂たる姿で闊歩している。

 まぁ本獣は屋台を物色しているらしく、匂いだけで仮評価を下して唸り声を上げてブルーノさんに伝えている。

 というのも、基本的に店外では全員を対象とした念話を使用しないことになった。
 言葉を理解していても話せなければ脅威にならないと思う阿呆を釣るためで、ルークも屋台の食べ歩きを報酬に納得している。

「グルッ」

「あそこは微妙だ」

 早速気になるところを見つけたようだが、ブルーノさんに却下されていた。それでも食べたい場合は、イムレに合図を出してもらうことにしている。
 イムレの様子から、ここは却下に賛同するようだ。

 ちなみに、背中に乗っているニアは、ルークの背中から落ちそうなほどテンションが上っている。

「こら、大人しくしなさい」

 ナディアさんが叱りながら、その体を支えていた。
 でも、ニアの気持ちは分かる。
 領都ポットという辺境ながらも大都市に初めて来て、さらに五歳児には珍しい遠めの外出。
 珍しいものが溢れている町中をルークの背中に乗って観光しているという、大人でも羨ましくなる状況だろう。

 実際に道路沿いの子どもたちが「ぼくものりたい」と、親にねだっている声が聞こえてくる。
 同時に衛兵の声も聞こえてくるが、それは完全に無視だ。

「そろそろ着くわよ」

「もうおわりー?」

「帰りもあるぞ。なぁ少年」

「はい。僕はそのまま森に行くからいませんが、ルークたちは置いていきますので」

「えーー。ずるーーい」

「グルッ、グルッ」

『イムレ、森に行く』

「今日はちょっとだけだから。すぐに帰ってくるからさ」

「えぇーー」

 あとの説得はナディアさんに任せよう。

「そう言えば、名前を聞いてなかったな」

 ナイスッ。ずっと言おうと思っていたんだけど、なかなか言い出す機会がなくてルーク以外は知らないと思うんだよね。

「ディランって言います」

「そうなのねっ。じゃあ愛称は『ディル』で、どうかしら?」

 ちゃっかり聞いていたルイーサさんが、名前を飛び越えて愛称で呼ぶ宣言をする。
 悪口でない限り自由に呼んでくれればと思うから、特に拒否する気はない。

「僕は構いません」

「じゃあ決まりね。私のことは……ねっ? 分かるでしょ?」

 無理っ。

「…………母上」

「仕方ないわね。デートの時を楽しみにしてるわ」

「ぼ、僕もです」

「うふふふっ」

 今はルイーサさんがご機嫌になったことだけを喜ぼう。


 ◆


 冒険者ギルドに入った瞬間、ダンジョン都市らしい活気がある様子が窺えた。
 依頼が張り出される早朝という時間を外して来たというのに、そこかしこでダンジョンについて情報交換をする人や、パーティーメンバーを集う声が聞こえている。
 中には盗賊ギルドの火災について話す声も聞こえてきたから、そこそこ見せしめになったのではないかと安心した。
 朝食を抜き、折檻を受けることになったかいがある。

 そしていよいよルークがギルド内に。

 すると、騒々しかったギルド内が徐々に静かになっていき、俺と一緒に受付まで向かったときには、誰もが会話と動きを止めてルークを凝視していた。

 なお、背中にはニアの姿はなく、イムレだけが鎮座している。

「すみません、従魔の登録をお願いしたいんですけど」

「──じ、従魔……?」

「はい。お願いします」

 しかし、なかなか動き出さない受付嬢。

「あのー?」

 それでも動かない受付嬢に、どう対応しようかと思っていると。

「どけ、俺が代わる」

 突如、奥からゴツいおっさんが走ってきて、固まっていた受付嬢を無理矢理横に退ける。

「一体だけか?」

「いえ、二体です」

 俺はルークの背中に乗っていたイムレを持ち上げ、おっさんに見せる。

「じゃあカードを出してくれ」

「はい」

 俺がカードをおっさんい手渡したとき、ドワーフさんを迎えに行ったブルーノさんたちが受付に来た。

「なんだ、まだ終わってなかったのか」

「はい。お姉さんが動かなくなって」

「そうか」

 そうなんだよ。
 予定があるから早くしてほしいけど、焦って怒鳴ってもいいこはない。
 でも全員同じことを思っているはずだ。

 早くしろと。

 ルークも暇になってきたのか、大きな欠伸をして眠そうにしている。

「ブルーノの兄貴っ」

 え? 弟?

「……ガリウスか? 痩せたな」

「この人が代わってくれました」

「そうだったのか。急いでいたから助かる」

「そうだったんすか? もうすぐですからね」

 従魔を登録する人は少ないらしく、木箱から大切そうに取り出した水晶玉付きの魔導具に、俺のギルドカードを差し込んだ。
 これで準備が整ったらしい。

「順番に水晶に魔力を少しだけ流してくれ」

「僕もですか?」

「そうだ」

 俺から始め、ルーク、イムレと順に魔力を流し終えた後、ギルドカードを返却された。
 確認してみると、確かに従魔登録がされていた。

「ありがとうございます」

「気にするな。これが仕事だからな」

「ガリウスは解体部門長だろ?」

「知ってたんですねっ」

 めっちゃくちゃ嬉しいそうだ。
 ゴツいおっさんが、激しく尻尾を振る犬に見える。

「当然だ。また食いに来い」

「……はい」

 ん? なんか不自然だったような気がするけど、感激しているだけかもしれないし、まぁいいか。

「じゃあまたな」

「はいっ」

「ありがとうございました」

 俺とブルーノさんは併設された酒場に向かい、立ち退き被害者に会いに行く。
 本来なら俺が行く必要はないのだが、何故か俺から直接返しなさいと言われたため、森に行きたい気持ちを抑えて酒場に向かっている。

 途中、【餓炎狼公】たちの姿を見かけたから、微笑みながら会釈をしておいた。

「あそこだ」

「お酒飲んでるんですかね?」

「さすがに仕事中には飲まないと思うが……」

「そうですよね。じゃああれは水ですかね?」

「……多分な」

 奥まったところに座っていたルイーサさんに近づくと、ナディアさんの膝に座っていたニアが真っ先にルークに抱きついた。
 ナディアさんが一瞬悲しそうな顔をしていたけど、ルークとイムレを連れて再び膝の上に戻っていったことで笑顔が戻った。
 それを見ていたルイーサさんが期待したあ様子で視線を向けてきたのだが、全力で気づかないふりをして椅子の上に着席する。

「もうっ! ママに優しくしてくれてもいいのにーーっ」

「お前さん、隠し子でもいたのか?」

 え? ブルーノさんがいるのに、それを言う?

「最近できたの。ねっ?」

「うむ」

「にしては、デカすぎないか?」

「エルフの神秘よ」

 微妙に失礼な冗談を言っても流しているってことは、それほど深い付き合いなのか。

「それで、その神秘のおかげで土地の権利書が戻ってきたと?」

「そうよ」

 チラリと俺に視線を向けるドワーフさん。

「……いくらで譲ってもらえるんだ?」

「お金欲しい?」

「いいえ。お金もエルフの神秘で拾えたので」

「ですって」

「感謝する」

「いいのよ。その代わり、もう失くさないでね」

「あぁ、分かってる。あと、明日取りに行くまで預かっててくれないか。この後ギルマスと話して来るから、また失くしたくない」

「わかったわ。でも、確認だけはしてね」

 俺はブルーノさんから手渡された書類を、ドワーフさんに見えるように目の前に広げた。

「──確かに」

 確認が取れた後はブルーノさんに渡し、ブルーノさんの空間収納の中に仕舞われた。

 そして詳しい話はまた後日ということで、簡単にあいさつを済ませた後、俺は一人森に向かうのだった。



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