暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第二三話 トカゲの尻尾

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 頑張って挑発したかいがあった。
 居住区の中層で暴れたから、もしかしなくても衛兵がやってくるだろう。
 その前に逃げればいいけど、話し合いが終わっていなかったら暴れ損である。

 まぁ今にも飛びかかってきそうな様子から、少しだけ煽りすぎたかなと思わなくもないけど。

 そして目の前のボスが予想通りの人物なら、このまま戦闘に突入するのはよろしくない展開だ。多勢に無勢は長期戦になることが予想され、奥の手を使った短期戦もルイーサさん基準では無理したことになるだろう。
 つまり、折檻の日数が増える未来しか見えない。

 それは嫌だ。

 だから、暗殺者時代に使っていた戦闘方法を【念動】で再現しようと思う。
 身バレが怖いから使用を控えていたが、今は一人じゃないから使うことを決めた。

「動かない方がいいと思うよ。まぁ首が落ちてもいいなら僕は構わないけど」

 食い逃げ三人組が持っていた銅貨を一枚摘み、【念動】で創った魔力の糸に向かって弾く。
 糸に当たった銅貨は真っ二つに切れて床に落ちた。

「それで、どうする? 二回も食い逃げしたんだが?」

「──俺は関与していない」

「三人組が勝手にやったと?」

「そうだ。最近入った従業員だ」

「なるほど……」

 三人組の魂胆はわかった。

「残念だったな。【餓炎狼公】なら僕を始末してくれると思ったか?」

「「「…………」」」

「聞こえないのか? じゃあこれは飾りだな?」

 俺がナイフを抜いたことで何をするか分かったらしく、身を捩って逃げようとする。

「大人しくしろよ」

 顔面スライディングの賊の頭を踏みつけ、耳にナイフを突き刺した。

「アァァァァッ」

「何の仕事をしているか知らないけど、金を踏み倒されても笑顔で許すのか? それなら僕が噂を立ててあげるよ。すぐさま案件が殺到するだろうけど、どうかな?」

「やめろっ!」

「それにどの店に手を出したか知ってるか? 僕がボスなら部下を百回殺しても足りないくらいだけど?」

「……どこだ?」

「【双竜の楽園亭】だよ」

「そんなっ! ありえんっ!」

「残念。本当なんだよね。本当に正気を疑うよ」

「拙い、拙いっ。──あっ! お前かっ!?」

 賊のボスは顔中から汗が噴き出し始めるほど焦り出したが、突然目の前のおっさんを問い詰めだした。
 今まで空気だったおっさんは急に問い詰められたせいで驚いていたが、すぐに否定する。

「な、何のことですっ!?」

「前に言っていたのよな!? 人員を派遣してくれればいいって」

「し、知りませんっ」

 俺は当然、【神字:審理】と〈副音声〉を使っている。
 つまり──。

「おじさん。次に嘘ついたら、その不愉快なことしか話さない舌を切るから」

 普段は心を殺して仕事をしているが、こういうときに役立つ技能がある。

 ──〈威圧〉

「「「──あっ……あっ……」

 ついでにおっさんの付き人たちも威圧してしまったけど、大人しくしてくれたから良しとしよう。

「ほら、早く答えろよ。お前のせいなのか? キリキリ話せっ」

「は、はい……」

 食い逃げ三人組のような破落戸ごろつきではないおっさんは、拷問されても堪え続けた三人組とは違ってすぐに自白を始めた。

 ポツポツと話す内容をまとめると、おっさんは商業ギルドの職員らしい。
 ここに来た目的は、【餓炎狼公】が表で行っている事業に対する依頼の交渉らしい。依頼内容は工場予定地の整地及び工場建設のための人材派遣で、邪魔をする者を排除することも含まれていた。

 食い逃げ三人組と繋がっていることを考えれば、工場建設予定地というのは宿屋のある場所だと推測できる。
 しかも問題なのが、嘘は言っていないけど本当のことを言っているわけではない。裏取りをせずに契約した場合、【餓炎狼公】たちも巻き添えになり、彼らの主も完全に巻き込まれることになる。

 ゆえに、【餓炎狼公】はキレている。

 俺の糸がなかったら、おっさんはすでにこの世にはいなかっただろう。
 感謝して欲しい。本当に。

「貴様ァァァっ! それがどういう事態を招くか、本当にわからんのかぁぁあっ!?」

 多少傷が増えることも構わず、おっさんの方に体を向けて怒鳴る【餓炎狼公】。

「まぁ安心して。工場は建てられないから」

「はぁ!?」

 おっさんはすでに話せないほど怯えてしまっていた。
 でも気になるのか、俺に視線を向けてくる。

「彼らは盗賊ギルドを使って土地の権利書を盗み出し、強制的に立ち退きをさせていたらしい。でも、その権利書は僕が持っているからね」

「はぁ!?」

「──なっ、何故っ!?」

「拾った」

「そ、それを……どうする……」

「持ち主に返すに決まってるじゃん。同じ窃盗の被害者なんだよ。見て見ぬふりをするなんて、僕の良心が許さないよ」

「私たちは、どうなる……?」

「損害を被るってことかな? というか私たちって言ってるけど、あなたの単独行動ではないんでしょ? 後ろにいる人を言う気はないかな?」

「…………」

「そうか。じゃあ僕も急いでいるし、さっさと終わらせよう」

 まずは彼らに俺の信条を言って聞かせる。
 すると、何故か全員が安堵した表情で脱力し出した。

「どうしたんです? 上手く立ち回った場合でも、生存者は三人だけですよ?」

「「「なんでっ!?」」」

「まず、食い逃げ三人組は単独で仕事を受けたんだよね?」

 すでに答えは出ているが、確認のために再度【餓炎狼公】に質問する。

「そうだ」

「彼らだけを従業員に? それとも組織ごと?」

「……組織だ」

「じゃあそいつ等も対象だね。でも、監督責任があるからなぁ」

「俺たちがケジメをつけるッ」

「そう? では一度目ということにしておくよ」

「恩に着る」

「じゃあもう座ってもいいよ」

 糸を解除してあげ、代わりに三人の商業ギルド職員と、食い逃げ三人組に糸を設置する。

「おじさんたちは二度の無銭飲食に加担し、さらに機会を与えたのに黒幕のことも言わない。それに僕と【餓炎狼公】をぶつけようとした。残念だけど、慈悲はない」

「我々に手を出したら──」

 六人の首を同時に切断し、強制的に黙らせた。

「そういうのいいから。絨毯を汚しちゃったね」

「……いや、大丈夫だ」

「ありがとう。代わりと言ってはなんだけど、情報を一つ差し上げよう。【双竜の楽園亭】で店主夫妻が孫を預かることになったんだ。彼女は諸事情から誘拐されそうになっている。だからそろそろ新参が多くやってくるだろうし、行儀知らずの越境者も湧いて来る可能性もある」

「…………」

「でも安心して。最強の護衛をつけているからね。もし気になるなら、この後冒険者ギルドに来るといい。一目でその存在に釘付けになると思うよ」

「…………」

「じゃあそろそろ失礼するよ。面倒な奴等が来たからね」

 会話している間に《無属性魔法:探知》で周辺状況を把握しており、衛兵の存在もゴミ穴の場所も確認してある。
 六人分の身分証を含む貴重品を回収し、死体は逃走途中にゴミ穴に放り込んだ。

 居住区だけありゴミの量が半端なく、それを処理するスライムの数も多い。
 きっとすぐに処分してくれることだろう。
 一応身元が分からないように頭部は体と別で処分したし、多少損壊させた状態で遺棄した。

「あっ! 血があった。まぁいいか」

 それよりも、宿に戻る前にスイッチを切っておかないと。

「笑顔、笑顔」

 うん、多分良し。十二歳に見える……はず。



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