暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第二二話 優秀な番獅子

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 せっかく作ってくれた朝ご飯を食べられなかったことをブルーノさんに謝りたかったため、俺は本館に向かうことにした。

 本館に入ると、意外にも客が入っていた。
 だからか、ルークたち三人組は別館への渡り廊下で食休みをしていた。

『遅かったな。飯、美味かったぞ』

「ちょっと用事があってね」

『ふーん』

「ルークたちはここで何してるの?」

『あいつらの気配が気持ち悪いし臭いから、ニアを隠しているんだ。それに厨房に近いから、ここにいればおやつがもらえるんだぞ』

『イムレ、お仕事してる』

 イムレは生ゴミを処理しているらしく、体の一部伸ばしてゴミ箱に突っ込んでいる。

「偉いねぇ」

『おいっ、オレも仕事してるんだぞ?』

「もちろん、二獣ふたりに言ったんだよ?」

『そうか。それで従魔登録にはいつ行くんだ?』

「うーん……ルイーサさんの手が空いたらかな。挨拶してから行かないと、きっと良くないことが起こると思うんだ」

『折檻なら決まったぞ』

「──えっ!?」

『でーとぷらんとやらを考えると言っていたからな』

「そ、そんなぁ……」

 いや、まだだ。
 それはお土産を渡す前に決まったこと。
 まだ希望はある。

『おい、おいってっ』

「……何?」

『逃げたぞ?』

「誰が?」

『客。お金を払ってないぞ』

「はぁ?」

 実力者のブルーノさんがいるのに食い逃げするかぁ!?

「ブルーノさんっ! いいんですかっ!?」

「よくない」

「じゃあ何でっ!」

「以前同じことがあった後に暴力店長という噂が流れた」

「もしかして、従業員がやめたのはその後ですか?」

「そうだ」

 ハニートラップじゃなくて、食い逃げトラップかよ。
 犯罪者のくせに被害者ぶりやがって。

「──少し出掛けて来ます」

「放っておけ」

「大丈夫ですよ。ゴミを捨てに行くだけですから」

「おい」

 何を言われても止まるつもりはない。
 俺の異世界満喫生活を邪魔したのだから。


 ◆


 外に出た俺はすぐさま探索系の技能スキルを使用し、三人組の食い逃げ犯を探した。

 まずは《無属性魔法:探知》で広範囲を走査スキャンする。
 次に【神字:処理】を意識しつつ、〈生命感知〉を使う。

「──いた」

 ──〈心眼〉
 ──〈気配遮断〉
 ──〈隠形〉
 ──〈痛覚遮断〉
 ──〈身体強化〉

 東にあるスラム街に逃げたらしい賊共を追いかける。
 一歩目以降は《障壁》と〈立体機動〉を組み合わせた、いつもの空中移動を繰り返す。

 ──〈高速移動〉

 視界に賊を確認した瞬間加速し、そのままの速度を維持したまま真ん中の人物に飛び蹴りを浴びせる。

「──がッッ」

 左右の二人が混乱して呆けているうちに蹴りの反動を利用して反転し、二人の顎を打ち砕く。

「「──アガァァァッ」」

「ここは誰の縄張りだっけ? ……まぁいいか」

 三人の内、飛び蹴りを喰らった者は顔面が血だらけになっていた。
 顔面スライディングだろうけど、少しも可哀想だとは思わない。むしろ、少し物足りないと思っている。

「ほ、ほうして……」

 三人を一ヶ所に集めて金を抜き取る。
 その後は全裸に剥く。
 服を裂いてロープにし、それで三人組を拘束した。

「おい、ボスは?」

「「「…………」」」

「話したくなったら話せばいい」

 そう言い聞かせてから、ランダムに選んだ指を一本ずつ折っていく。

「ガァッッ」

「うるさいぞ。ボスの名前を話す以外は口を閉じてろ」

 途中から面倒になってきたから、あみだくじで誰の指を折るかを決めていた。
 しかしそれが恐怖を煽ったらしく、真ん中の賊がボスの名前を言うと主張した。

「注意点がある。全員解答権は一度だけ。嘘だとわかった瞬間、舌を切った上で拷問して火炙りにする。俺は嘘が分かる。心して答えろ」

 俺は滅多に使わない【神字:審理】を使った。
 同時に嘘が聞こえる〈副音声〉も使用する。

「が、【餓炎狼公】」

「どこにいる?」

「い、今は自宅に……」

「案内しろ」

「は、はい……」

 歩かないと引きずると言い、拘束したまま無理矢理歩かせて都市の東側にある居住区に向かう。
 ここは基本的に平民が住んでいる住宅街だが、貴族区の南側に近づくにつれて豪邸も増えていく。もちろん商業施設もあるため、この区画で生活が完結する者も少なくないらしい。

 そして賊のボスは居住区の中間地点に住んでおり、そこそこ稼いでいるらしい。

「──おいっ! 止まれっ!」

 稼いでいる上に子分も多いため、当然警備が厳重である。

「下るように言え。お前らが止められなかったら、アイツら死ぬかもしれない」

「む、無理だ……。向こうのほうが立場が上だ……」

「じゃあお別れを言え」

「そ、そんな……」

 腕を横に振り、【念動】でまとめて横薙ぎにする。
 死んだかどうかは不明だが、静かになったから良しとする。

「行くぞ」

「「「…………」」」

 なかなか歩き出さない三人組に蹴りを入れて無理矢理歩かせる。

「たのもー」

 邸宅に進む度に湧いてくる獣人たちをことごとく横薙ぎにしていったせいで、俺の挨拶に返事を返してくれる者は誰もいなかった。
 特に期待していたわけではないが、個人的に様式美だと思ったのだ。

「さてと」

 ──〈索敵〉

「いた」

 玄関ホールにある巨大な階段の裏に、隠れたように配置された扉。
 敵のボスはそこに隠れているらしい。

「こんにちはー」

「──何だ、お前?」

 VIP用の応接間らしく、派手さはないけど豪華に飾られた部屋に品の良いソファーが設置されている。
 そこに狼獣人が一人と、人族のおっさんが座っていた。
 おまけで護衛らしき部下が数人。

「被害者」

「はっ?」

「お宅の子分が食い逃げしたあげく、被害者面して悪い噂を立てたんだわ。風評被害と未払金の請求、追加で賠償金を払ってもらおうかと思ったんだ」

「知らんな。そいつ等の財布から抜けばいいだろ」

「うーん……どこかで聞いた覚えがあると思ったけど、やっと思い出した。【餓炎狼公】って名前」

「俺も有名になったもんだ」

「表では肉体労働系の人材派遣で、裏では武力の貸し出しをしているんだっけ?」

「誰に聞いたんだか知らんが、裏って何のことだかな」

「本当にな。武力じゃなくて諜報だもんな」

「……何言ってんだ?」

 ダンジョン都市の裏四天王って言われるくらいの古参組織のボスらしいけど、前身があったわけではないから、古参の中では一番若い組織だ。
 ただ、武力を供給しているせいで勢力が大きいゆえ、古参組織の一角として名が挙げられる。

「食い逃げなんてせこいことさせてお山の大将を気取るなんて……躾がなってない犬だな」

「──おいっ。口には気をつけろよ」

「お前こそ気をつけろよ? 御主人様の顔に泥を塗ることになるぞ?」

「俺の主人は俺だっ」

「違うだろ? ──雷煌「貴様っ」」

 ようやく重い腰を上げてくれる気になったらしい。


 
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