暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第二一話 バタフライエフェクト

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 折檻に怯えた俺は、折檻されないための言い訳作りを考えながら家探しをしている。

 まずは死体から金品やナイフなどを回収していき、服だけ着ている状態にした。
 悲しいことに空間系の魔法は使えないため、金品や資料などは木箱に詰め、食料品や酒類などは樽ごと運ぶことに。

「調味料も持っていくか」

 討伐対象を討伐したら、討伐した者に全ての権利が移るらしいから、建物以外は全てもらっていこう。
 この建物は一階が酒場になっており、二階は連れ込み宿になっているらしい。
 酒場ではクリーンな賭け事を行い、地下で行われているダーティーな賭け事の隠れ蓑にしているらしい。

「わーぉっ! お金がいっぱいあるっ!」

 お金も嬉しいけど、あくどいことをする者たちには必須の逃走経路が地下にあり、これを使えば安全に物資を持ち帰れるということの方が嬉しかった。

「じゃあ死体は置いていこう」

 最初は神隠し第一号になってもらおうと思い、運ぶ気満々で準備していた。
 でも俺が地下を移動する間の陽動になってもらいたいし、見せしめにもなるという一石二鳥の使い途が見つかった。

 ということで、新案を採用することに。

 作戦を実行する上で重要なことは、店内への突入を遅らせること。
 そのためには戸締まりを厳重にし、無理矢理突入するしかない状態にする必要がある。もちろん、移動している間は痕跡を残さないように【念動】で《障壁》を作りつつ、その上を歩いて移動した。

 戸締まりの際にも隠し金庫が見つかり、臨時収入が増える一方である。

「何買おうかなぁ」

 一瞬だけ人生初の買い物を妄想して浮かれたが、折檻を受けるかもしれないことを思い出した瞬間、現実に引き戻された。

 百歩譲ってデートはいいんだ。
 しかし、ママ呼びは絶対に嫌。
 前世でも呼んだことないのに、あと三年で成人を迎える思春期男児が呼べるはずがない。

「急げ、急げ」

 隠し金庫などからも全て回収した後、地下に物資を運び出す。
 その後、テーブルに全員を座らせて死体に油をかけ、仕上げに火を点ける。

 当然服は燃え出し、周囲のテーブルや椅子にも燃え移った。
 そこまで確認してから地下に戻り、物資を【念動】で牽引して宿屋へ向かう。

 ちなみに、地下からの出口はゴミ山だった。
 出たときには少年たちは居らず、安全に地下から抜け出せた。
 でも少し火災が気になり、少しだけ様子を見ることに。

 ──〈気配遮断〉
 ──〈隠形〉
 ──〈魔力感知〉
 ──〈魔力操作〉
 ──〈身体強化〉

 前準備が終了したら、《無属性魔法:障壁》を展開する。

 ──〈立体機動〉
 ──〈悪路走破〉

 屋根より高い位置まで駆け上がった後、火災現場に目を向けて技能スキル〈遠視〉を発動。

「うん、延焼はしてない」

 というか、全然燃えていなかった。
 さすがダンジョン都市だけあり、衛兵の行動は凄まじく早い。
 令状がどうとか関係なく踏み込み、魔法であっという間に消火してしまった。

「でも、これで衛兵の動きが読めたのは儲けものだな」

 盗賊ギルドの拠点は、商業区といっても市壁寄りの位置だった。
 それでいて適当ではなく、迅速な事件解決。
 俺が神隠しをやるときは速度重視の方がいいということが分かり、さらにニアの誘拐事件が起きたときに鈍間な対応をしていた場合、買収されていることを疑うべきということもわかった。
 敵味方の判別は事件発生時において一番重要と言っても過言ではないから、ある意味踏み絵を行える材料を入手できたと言える。

「これをお土産にして折檻を回避しよう」

 再び物資を牽引して宿屋に戻り、宿の中を通らずに中庭に降り立つ。
 各種物資は部屋に入り切らないから、自室の近くに置いておく。

「遅かったわね?」

「はっはい」

「何していたの? ご飯終わっちゃったわよ?」

「一食くらい食べなくても大丈夫です」

「──んっ?」

 いつものことだから平気と答えただけなのに、何故か聞き返されてしまった。
 これはダメなやつかもしれない。
 ナディアさんがルイーサさんの後ろでバツ印を作っているから、きっとダメなやつなんだと思う。

「食べたかったですが、遅れた僕が悪いので我慢できます」

「……何故遅れたの?」

「ちょっと挨拶しに行ったら事態が複雑化しまして……。でも、あそこにお土産がありますっ」

「お土産?」

「はいっ」

 急いで書類を取り出し、ルイーサさんに献上する。

「内容は大きく分けて二つです。誘拐に関する指示書と依頼書が発行されていることと、この宿に関することですっ」

「早いわね。ナディア、あなたつけられていたみたいね」

「そ、そんなっ」

「誰に依頼を発行したかは不明ですが、盗賊ギルドはしばらく機能を停止するので、もしかしたら依頼自体がなくなるかもしれません。払う報酬がないので」

「停止?」

「なりゆきですよ?! 僕は情報を教えてほしいと言っただけですからね」

「じゃあさっきの火災がそうだったのね?」

「たぶん」

「…………」

「そ、それよりも宿の方を見てくださいっ!」

 聞き返されそうだったから必死に話を逸らす。

「そうね。確かに嫌がらせの指示が出ているわね。拒否したみたいだけど」

「そりゃあ母上たちと敵対はするのは嫌でしょう」

「でもニアのことはどうなの? 引き受けているみたいよ?」

「それは……」

「王都の貴族が絡んでいるんですよ。王都の貴族はエルフの女性が大好きですからね。斡旋してもらったりしたのでしょう。盗賊ギルドも組織ですからね。本部からの最上級指令が届けば拒否はできないでしょう。宿屋の方は、指示ではなく依頼みたいですし」

「「気持ち悪い……」」

「えっと、紹介した方も、ですか?」

「もちろんよ」

 毒父、詰んだな。
 大人しく地獄に行ってくれ。

「でも簡単には離縁できませんよ?」

「面倒だけど、事態が悪化するまで我慢しましょう。向こうが悪あがきした時に証拠を確保すればいいわ。あとは私たちがなんとかするわ」

「ありがとうございます」

「あら、私はあなたの親で、ニアのお婆ちゃんなのよ。当然のことをしているだけよ」

 涙を流すナディアさんをルイーサさんが抱きしめて慰めているうちに、俺は気配を消してその場を離脱する。
 親子水入らずの方がいいと思ったからだ。


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