暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第十九話 井戸端会議

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 翌朝、大きめの肉球に押しつぶされる形で目が覚めた。
 ルークの寝相が悪いのか、はたまた俺の寝相が悪いのか、ルークに寄りかかって寝ていたはずが逆の態勢で起きるとは。

「久しぶりに朝までぐっすり眠れた」

 安全安心な場所なんて幽閉されていた幼少期以降全くなく、今日ほど熟睡できたことは七年間一度もなかったと思う。

「ルーク、ルーク」

『……んあっ?』

「重いよ」

『うーむ……』

 起きる気配がないから、【念動】を使って無理矢理横に退ける。
 今日はやることがたくさんあるから、早めに起きて準備しないとね。

「おはよう」

 いつ入ってくるか待っていたけど、ついに待ちきれなくなったのだろう。

「おはよう。ルークたちが目的かな?」

「えへへへっ」

 ルークとイムレに骨抜きにされたニアは、早めに起きて触れ合い時間を作ろうとしたようだ。

「で、でもまだねてる……」

「ご飯の匂いがしたらすぐに起きるよ。僕は手伝ってくるから、ニアは目覚まし係をしてくれる?」

「うんっ」

 しょんぼりしていた表情に笑顔が戻り、早速ルークとイムレの間に入り込んでいた。
 あの場所は極楽スポットだから入りたい気持ちはよく分かる。が、きっとニアも寝てしまうだろう。

「あとで起こしに来ないとな」

 さて、厨房に立つブルーノさんのところに御用聞きに行こう。


 ◆


 と思ったのだが、ルイーサさんに阻止された。

「おはよう」

「おはようございます」

「うん、うん」

 何か用事でもあるのだろうか。

「今日の予定は?」

「まずは冒険者ギルドで従魔登録ですかね。その後はできれば依頼を受けようかと」

 他にもあるけど、とりあえずはこんな感じかな。

「ふむ、ふむ。装備はどうするの?」

「服と靴はこれでいいですよ」

「違うでしょ? 防具と武器はどうするの? って聞いてるの」

「武器は考えがあるので大丈夫です。防具も成長期なので必要ないかなと」

「んっ? なんて?」

「必要ないかなって思ってます」

「ん?」

 え? 耳が悪くなったのか?

「ですから、必要な──「母上っ! 彼はきっと遠慮していると思うのですっ!」

「え?」

「しっ!」

 井戸で顔を洗っていたナディアさんが猛ダッシュで近づいてきたかと思えば、何故か猛烈に焦りながら俺をかばい出した。

「なるほどね。すぐに甘えるのは無理よね」

 うん、うんと頷くルイーサさんに、何故かホッとするナディアさん。

「それに彼の戦闘スタイルは速度を活かしつつ、多彩な動きで接近戦を行うことだと思うのです。安全を確保するなら、今までの戦闘スタイルを維持し、その上で新たな戦術を組み込むべきかと。ですので、武器や防具を購入することを先送りにしたいのではないでしょうか。決して、命を捨てるようなことをしているわけではないと思いますよ?!」

「そうなのね?」

「はい」

 概ね合っているから良いけど、わざわざ言う事だったかな?

「少年、昨日約束しただろう? 報連相を忘れないと。言葉足らずというのは良くない。母上が二度以上同じ質問を繰り返したら、それは普通の質問ではないということだ」

 そういえば入町の際の門前無双でも、二度目の質問をした後に仲裁が入ったな。
 お互い知り合いだったみたいだから、相手も質問の意味が分かっていたということか。

「あ、ありがとうございます」

「いいんだ。でも同じことを繰り返すと折檻が待っているから、本当に気をつけた方がいい」

「折檻って何をするんですか?」

「少年は戦闘に自信があるから暴力的なことはしないだろうから、『ママ呼び』しながらのデートとかかな?」

「──えっ!? 本当にっ!?」

「それも期間や回数は母上が決める」

「そんなっ!」

「そして逃げることは許されない」

 それは無理だっ!

「ナ、ナディアさんは何をしたんですか?」

「私は普通に戦闘訓練だ。あのときの地獄があったから、私は今の地位に就けていると思っている」

「そっちがいい……」

「何が?」

「──えっ!?」

 ナディアさんと入れ替わりに顔を洗いに行ったルイーサさんが戻ってきたようだが、その顔は満面の笑みだった。
 絶対に聞こえていたはずだが、あえて聞いてくるとは……。

「何がいいのかしら?」

 折檻の内容です。なんて言えるはずもなく、朝の準備の話だったことにした。
 自営業ゆえのお手伝いがあり、元々それを聞きに行くために中庭を歩いていたのだ。

「朝の支度についてです」

「そうなの?」

 ナディアさんに確認を取るルイーサに、ナディアさんは無言で頷いた。

「それで何がいいの?」

「そ、掃除と……見回りです」

「見回り?」

 普段何をしているかとか、別館の事業内容とか、全く分からないところから想像力を働かせて仕事内容を絞り出している。

「ニアのことで不審者がいるかもしれないでしょ? 僕なら痕跡を見つけることができるかなって。掃除のついでなら怪しまれないでしょうしね」

「ふーむ……それもそうね。でも、無理しちゃ駄目よ?」

「はいっ」

「よろしい」

 納屋にある掃除道具を持って、すぐに危険地帯から離脱した。


 ◆ ◆ ◆


 一方、ディランが立ち去った中庭では……。

「よくやったわっ!」

「……何がでしょう?」

「私は折檻の内容を考えていなかったの。身体的な苦痛や精神的な苦痛を与えることは、私にはどうしてもできそうになかったわ」

「──えっ?」

「でもナディアが私の悩みを解決してくれたのっ! 誰も損しない最高の折檻でしょう? あの子との親密度も上がると思うし、知り合いにも自慢できるわぁっ!」

 ナディアは思う。
 もしかして、余計なことをしてしまったのでは? と。

「さすが、宮廷魔法士長ね。普段から部下のことを考えているから、ちょうどいい塩梅の罰を考えられるのね」

 ナディアは思う。
 精神的な苦痛を与えられないと言っていなかったか? と。

「なぁに?」

「いえっ! 何もっ!」

「そうよね。デートプランはどうしましょうっ!」

「いや、悪いことをしなければデートはできませんよ?」

「あの子はするわっ!」

「え?」

「私とデートしたくて悪いことをするに決まっているわっ!」

 それはないだろうと思ったが、絶対に口に出すことはできない。
 表情に出すことさえできないと、意志を強く持って表情筋に全神経を集中した。

「出不精なのにデートできるんですか?」

「失礼ねっ! 外出は好きだし、仕事でよく外出するわっ!」

「では、今流行りのデートスポットはどこですか? 私もギリギリまで領都にいて、ニアとデートして来ますので」

「ん?」

「ですから、流行りのデートスポットはどこですか?」

「これから調べるのよ。若い子の好きなものはわからないもの」

「なるほど──」

 拙いっ! 間違った答えをっ!

「え? なるほど? 私がおばさんだって言いたいの? だから、若い子の考えがわからないとでも?」

 ほらぁぁぁぁっ。
 あからさまな罠に気づかないなんてっ。

「いえっ! とんでもないっ! 親子なんですから、いくら母上が若いと言っても年下のことはわからないものですっ!」

「親子……。そうよね。うふふっ」

 よかった……。
 死ぬかと思った。


 ◆ ◆ ◆


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