暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第十四話 モフモフは偉大

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 ルークを宿屋の軒先の下で解放し、一緒に扉を潜った。
 直後、大人組がお茶を噴き出したが、構わず帰宅の挨拶をする。

「ただいま戻りました」

「「「…………」」」

「おかえりなさい」

 大人たちが無言のまま固まっている中、一人だけ挨拶を返してくれた人物がいた。
 幼女の外見から察するに、おそらく目の前の幼女が護衛対象なのだろう。

 たしかに天使レベルに可愛い。
 美白で、青みががった銀髪に、くりっとした金色の瞳。

 こう言ってはなんだが、王都の変態が好きそう。
 王弟とか、王弟とか、王弟とか……。

 でも幼女が何故か泣きそうな顔をしている。
 俺の顔が怖いのかな? と思ったけど、幼女の母親の顔色もよろしくないことから察するに、何か怖いことでもあったのかもしれない。

「可愛いモフモフを連れてきたよ」

「もふもふ?」

「ルークって言うんだよ」

「ルーク?」

『オレだ』

「かわいいっ。……さわってもいい?」

「ルーク、どう?」

『少しな』

「うんっ」

 トテトテと走り寄り、恐る恐るたてがみに手を近づけていく。
 たてがみが気になる気持ちは、俺もよく分かる。
 ルークは名前の通り全体的に青い体をしているけど、たてがみは毛先に行くほど白に近づく、グラデーション状になっている。
 動くと、魔力のせいか不明だけど、青い炎が揺らめいているように見えるのだ。

『おい、鳥』

「あぁ」

 一仕事終えた気になって、上空に上げたままの怪鳥の存在を忘れていた。
 通りで疲労が蓄積していくと感じていたが、怪鳥が原因だったのかと謎が解けた。現在進行系で魔法と【念動】を維持していれば、疲労が取れるはずもなかろう。

 まぁその前に、解体と調理をしてくれる人を正気に戻さねば。

「あの、この子です」

「や、やっぱりそうなの?」

「たまたま森で遭遇しまして」

「え? 遭遇? ……できる……の?」

「はい」

『肉が食べたい。鳥を獲ってきたから、晩御飯が楽しみだ』

 微妙に話がズレているような気がしないでもないけど、本獣的には作ってくれと言っているらしい。

「弁当を?」

「一緒に食べました」

「そうか」

「美味しかったです。ごちそうさまでした」

『うむ。美味かったぞ』

「ならよかった。それで、鳥とは?」

「えっと……上にいまして」

「上?」

「雲の上です」

 本日二度目の呆然をいただきました。
 さっきはルークだったけど、今回は俺が原因だ。

「とっても大きいので、どこに下ろせばいいかわからなくて……」

「雨は……止んだか。店の前に下ろしてくれていいぞ」

「わかりました」

 雨は降ってないからバレるかもしれないけど、どうせ解体するときにバレるのだ。
 構うもんか。

「落下」

 今回も着地直前で急停止させたが、横にすると道路の幅を超えるため、立てて浮かせている。
 ちょうど翼を広げた鳥が、片翼で直立しているような形だ。

「で、デカいな。ワイバーンほどか?」

「大きい……」

「すごい」

「わぁーーすごいっ!」

 初見の留守番組は驚いているが、女性陣はもれなくルークを触りながら驚いている。
 ルークは聖属性を持っているから、触っているだけで不安が取れる体質なんだとか。幼女がルークの可愛さをアピールしたことで、今の状況になっている。

 もちろん、許可は取っていた。

「少年とナディアは解体を手伝ってくれ」

「はい」

「はい、父上」

 ルークはモフられつつ幼女の護衛をしており、同時に取引を持ちかける美人エルフと交渉をしていた。
 技能スキル〈聞き耳〉でわかったことは、ルークの抜け毛をもらう交渉をしているらしいこと。
 ルークは許可を出していたけど、快適な衣食住の確保やたまの外出を取り付けていた。

 ちなみに、美人エルフは特殊な処理ができるらしい。
 体毛を触媒にした薬が作れると喜んだ美人エルフは、ルークに抱きつき頬ずりをした。
 それを見た幼女もたてがみに顔面を埋め、美人エルフに対抗する。

「そういえば皆さん、ルークのことを知っているんですね」

「有名だからな」

「遭遇したことがないのにですか?」

「父上と母上は元々隣国出身なんだ。父上が先にここに来て宿屋をやっているところに、母上が追いかけてきたらしい」

「じゃあ町に来た時に泊まったことがあるっていうのは本当だったんですね」

 私の家って言っていたから、屁理屈だと思っていたんだよね。

「それは屁理屈じゃないらしい。私も疑ったことがある。それで、向こうには【青獅子】の絵画が王城に飾られているらしく、観光用に一般公開されているらしい」

「なるほど。それは有名になるわけですね」

「だから、その……拙くないか?」

「僕は知りませんでしたし、ルークから言わせれば閉じ込められていたそうなので、ルークを救出したという建前で屁理屈を捏ねます」

「そ、そうか」

「はい」

「それならギルドに登録に行かないとな」

「明日行ってきます」

 できるだけ早く周知しておいた方がいいだろうしね。

「そういえば、ここに泊まってるって言って良いんですか?」

「どういう意味だ?」

「ルークがいることを周知するためには、僕の定宿をギルドでそれとなく拡散させる必要があると思うんです。でも、ギルドの受付嬢に宿は閉店しているって聞いていたし、誰か泊まりに来られたら迷惑なら、どう言えばいいか考えなきゃと思いまして」

「そもそも閉店はしていない。ある日突然、同時に従業員がやめたんだ。人手をギルドで募集しても何故か集まらない。今までは募集がないか聞かれていたのにだ。だから今は人数制限をしている」

「一度商業ギルドでレシピの特許を確認して見てください。言いたくはありませんが、誰かが盗んで登録している可能性もあります。その場合、僕が拡散してお客さんが来ると拙いと思います」

「それはっ! ……そうだな。一度確認してみよう」

「仕入れはどうなっていますか? 誰かがここを狙っているなら、仕入れさせない方が効率的です」

「…………」

「明日からランク上げがてら、食材採取に行ってきます」

「気にするな。自分のやりたいことを優先しろ」

「安心してください。やりたいことですよ」

 とりあえず冒険者ランクを上げたい。
 それが短期的な目標だろう。

「ダンジョンに入りたいのでランクは上げたいと思ってます」

「ダンジョン?」

「あの子は外見からすぐに、普通のエルフとは違うと分かってしまうでしょ? これから〈魔力操作〉の熟練度を上げ、精霊契約したり従魔契約したり、【神字】を十全に使えるようになっても確実に安心できないでしょう」

「「…………」」

「そこでダンジョンの宝です。見た目を完全に偽装する魔導具があります。僕も使っていましたから。それがあれば外見のせいで捕まることは減りそうじゃないですか?」

「どうして……そこまで……」

「僕は親に売られたのです」

「──っ!」

「…………」

「まぁ実の親ではないみたいですけどね。その後はあまり良い生活はできませんでした。でも、あの子は途中で止められる可能性があるんです。僕のようなことにならないように、できることは全てやるべきだと思ったんです」

「──ありがとうッ!」

 俯いて涙を零す女性に対し、俺はマッチョエルフの言葉を贈った。

「気にしないでください」

 彼女の親に言われる言葉を贈るのが、彼女たちにとって一番良いと思ったのだ。

「よし、飯だ」

 枝肉に切り分けた怪鳥を、空中にできた穴に収納していくマッチョエルフに驚くも、謎はあっという間に解決した。
 ルークが答えを教えてくれたのだ。

『ほう、珍しいな。空間を司る精霊か』

「そうだ。大変助かっている」

『肉がたくさん食べれそうだ』

 その空間に肉を詰め込もうとするルークに、マッチョエルフは一言。

「野菜も食べろ」

 と。

 その言葉に少しだけ悲しそうな顔をするルークだった。



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