暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第十三話 獅子バス高速便

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 行きは余裕がなく、せっかくの雲上世界を堪能できなかったけど、今はルークの背中の上という安全安心な場所であるため、雲上世界を堪能していた。
 外界とは違って晴れているし、昼間だからこそ分かる雲海の絶景が大変目を楽しませている。

 ルークの背中もたてがみもモフモフしていて座り心地もいいし、空を魔法で駆けているから振動でお尻が痛くなることもない。
 自分自身の魔法は全力で防風壁に回すことができ、寒さや息苦しさを感じることも軽減されている。

 最高のモフモフ旅である。

 ただ残念なことに、魔獣が一体も寄ってこない。
 本来の目的としては素晴らしい能力を発揮してくれていると喜ぶところだが、ルーク本獣も必死に獲物を探すほど残念がっている。
 まぁそれが逃げられる原因を作っているんだろうけど。

「一応猛猪ワイルドボアの肉があるよ」

『足りんっ』

「じゃあ、釣ろうか」

『どうやって?』

「ルークは姿と気配を消して待機。その間俺が一人になれば、因縁の怪鳥が出てくると思うよ。まだ縄張り内だし」

『分かった』

 ルークの背中から飛び降り、少しだけ縄張り側に戻りつつ縄張りを出たり入ったり挑発を繰り返した。
 するとすぐに反応があり、超速で向かってきていることを技能スキル〈生命感知〉で知覚する。

「──ギュアァァァァッッッ!」

「お怒りだ」

 と思った次の瞬間、雲の中からルーク登場。

「早いよ」

 怪鳥も相当な大きさだが、ルークはさらに大きく、ドラゴンと同等の大きさではないかと思う。
 と言っても、ドラゴンは遠目にしか見たことがないけど。

『ほら、トドメをさせ』

 ルークはただ出てきただけではなく、死なない程度に頭蓋に亀裂を作り、そのまま拘束していたらしい。

 パワーレベリングはどうかなと思い躊躇うも、そもそも俺が釣ってきたから今回は違うんじゃないかと自分を納得させる。
 そして、障壁の形を変更してルークの開けた穴に突き刺した。

「命に感謝を」

『よし。血抜きをしつつ走るぞ』

「血の雨が降りそう……」

 雲の上だけど、できるだけ下に誰もいないところを走ってもらい、【念動】で引っ張りながら怪鳥を牽引していく。

『楽しみだ』

「俺も」

 俺たちは一路、領都ポットへ急ぐのだった。
 全ては美味しい晩御飯のために。


 ◆


 ルークの頑張りのおかげで、数十分で領都が見えるところまで来た。
 俺が数時間駆けて走った距離を、ルークなら一時間弱の時間で移動できてしまうというハイスペックさ。
 契約できたことに感謝だ。

「じゃあここからは俺が主体になるね」

『どうやって移動するんだ?』

「ルークは出発前のサイズに戻ってもらって、障壁で作った箱の中に入ってもらう。怪鳥はそのままの大きさで障壁の箱に入れておく。俺も途中までは障壁の箱の中に入っているけどね」

『それでも見たら分かるだろ』

「怪鳥は空の上に上げたままだけど、俺たちは雲の上から超加速で落ちる」

『いや、微妙じゃないか?』

「大丈夫。局地的な集中豪雨で見えないよ」

『降ってたか?』

「これからにわか雨が降るらしい」

『ん?』

 ルークは俺が無属性魔法しか使えないのを知っているから、こいつは何を言っているんだ? という顔をしている。

 ──《水属性魔法:驟雨スコール

『んなっ!?』

 ちょっと厳つい顔寄りのモフモフが大きな口を開けて驚く姿は、予想を大きく超えてすごく可愛かった。
 寝起きのときの顔と比較すると、全く別の魔獣に見えるほどだ。

『お前、どうして属性魔法をっ!?』

「複製したんだよ。普段使っているのは【神法】でもあるんだ。内緒だよ」

『道理で……。あの結界を無効化できたわけだ。【奇跡】には【奇跡】ってことか』

「ルークは【奇跡】って言ってるんだね。俺も【神法】って呼び方が好きじゃないから、これからは【奇跡】って言おうかな」

『あの国のものは全員そう呼ぶんだ』

「さすが精霊信仰が主体の国だ」

 国教が創世教だと、【神法】呼びが主体だ。
 宗教国家が名付けた名称を使わせようとしているからね。
 でも、国教になっていないところは独自の呼び方をしている。
 隣国の国王は人族じゃないから、なおさら人族と同じ名称は使わないだろう。

 それはさておき、そろそろ雨の効果が出てきたようだ。
 領民が建物内に入り、宿屋周辺も〈生命感知〉に引っかからない。
 感知できていないのに、そこに存在する人はどうやっても欺けないから無視だ。

「じゃあ行くからね」

『おう』

 お互いを障壁の壁で覆い、気持ち雨を集中させる。

「落下っ」

 雨製昇降機の中を雨と同じ速度で落下していく。
 そして着地手前で急停止させつつ、徐々に雨を止めていく。
 俺は着地後に、傘代わりにする予定の上部の壁以外を消して、ルークが入った箱を牽引しながら宿に向かった。


 ◆ ◆ ◆


 ディランとルークが領都上空に到着した頃──。

「本当に帰ってきてくれるかしら?」

「帰ってくる」

「傷だらけで帰ってきたら嫌よ」

「……」

「ねぇ、大丈夫って言ってくれないの?」

「断言できない」

「もうっ」

 そろそろ晩御飯の支度をしようとしているマッチョエルフことブルーノところに、仕事終わりの美人エルフことルイーサが愚痴を言いに来た。
 昨夜から絶え間なく聞かされている愚痴だが、気持ちは分かるため言質を取られない程度に聞き役に徹していた。

「母上、雨です」

「おばあちゃん、すごいふってる」

「お姉ちゃん──「母上」」

 ルイーサはエルフの長命さのおかげで、全くお婆ちゃんには見えない外見をしている。
 もちろん、ブルーノもだ。
 しかし、どの世界も年齢や呼称を気にするのは女性である。
 お婆ちゃん呼びをなかなか受け入れられないルイーサは、悪足掻きだと思っても止められずにいた。

「雨が降ると少し心配ね」

「少年が、ですか?」

「それもあるけど、音が消せるから襲撃には向いているわね」

「──っ!」

 ナディアは思わず、娘のニアを抱きしめた。
 表情は硬く、顔色が悪くなっていく。
 そのナディアの不安を感じ取ったニアが、今にも泣きそうな表情になっていた。

「まぁお茶でも飲んで落ち着きなさい」

「はい……」

 心を落ち着ける効果がある薬湯を四人で飲んでいるところに、突然大きな気配が接近してきた。
 襲撃者なら多少なりとも気配を消しているため、すぐに違うと判断できた。

 次の可能性を考えると、本日帰宅予定のディランしかないのでは? と推測した。

 そしてそれはすぐに正解だと判明する。
 本人が扉を開けて入ってきたからだ。

「「「──ブファッ!!!」」」

 ただし、予想を遥かに超える大物を連れて。


 ◆ ◆ ◆



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