暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第十一話 屁理屈と理屈は紙一重

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 鑑定事件の後、治療を受けて眠ってしまった。
 何故か反論する言葉が見つからず、拒絶する気持ちも湧かなかった。
 流されることの危険。信用することの危険。枷を作ることの危険。
 まだまだ不安を拭えないけど、少しだけ頼ってもいいのかなと思えた。

 美人エルフに言われた通り、俺は半分死んでいたのだろう。
 毎日生き残ることだけを考えていたのに、心は死を受け入れていた。
 思えば、技能スキル〈痛覚遮断〉を習得していたのは俺だけだ。
 だからこそ精鋭として生き残っていたのだろうが、本来なら薬漬けにして習得すると聞いたことがある。

 人に指摘されるまで自分の異常性に気づかず、あのままだったら今後も気づくことはなかっただろう。
 ゆえに、美人エルフの言葉や気持ちに感謝している。

 人間にしてくれて、ありがとう。

 だから、これから行うことは恩返しだ。
 美人エルフの家族を救うためなら何でもしよう。
 目立ったせいで追手が来たとしても、全て殲滅しよう。
 敵対者が現れても、誘拐犯が現れても、変わらず殲滅しよう。

 それが、暗殺者であった自分にできる唯一の恩返しだ。

「弁当だ」

「ありがとうございます」

 少し大きめの肩掛け鞄に大量の弁当が入っており、ずしっとした重みを感じた。
 時間がなく、ほとんどサンドイッチらしいけど。
 それでもまともな食事は今世で初めてだから楽しみだ。

「装備は?」

「そのままで大丈夫です」

 余計な物を持っていても移動速度が遅くなるだけだし、夜なら【念動】を全開で使えるから、戦闘も問題ない。

「そうか。気をつけて行け」

「はい」

「どうか頼む」

「はい」

 頭を下げるマッチョエルフに、俺も一礼してから出発した。


 ◆


 問題はどこから出るか、だ。
 門が閉まっているのは知っているけど、夜番担当の門番はいるわけで、門に近づけばすぐに気づかれるだろう。
 となると、スラム街に近いことを利用するべきだ。

 技能発動。

 ──〈心眼〉
 ──〈気配遮断〉
 ──〈隠形〉
 ──〈夜目〉

 知覚と隠密系はこれでいいかな。
 技能〈気配遮断〉だけだと、美人エルフみたいな実力者に知覚される可能性があるから、同時に偽るタイプの〈隠形〉も使用する。

 次は、【念動】を十全に使えるように魔力系技能を発動させる。同時に【神字:処理】を使用し、体への負担を減らす。

 ──〈魔力感知〉
 ──〈魔力操作〉

 動き出した後の技能構成は、身体系と移動系で構成する。
 短期決戦型なら他の手段があるけど、帰りはともかく行きは可能な限り体力の消耗を抑えたい。
 それゆえの構成だ。

 ──〈身体強化〉
 ──〈立体機動〉
 ──〈悪路走破〉
 ──〈高速移動〉

 移動中の攻撃は、全て魔法で対応する。
 本来なら疲れるから避けたいけど、魔力が豊富な場所を通るから劣化版魔法でも有効打を与えられるはず。
 もちろん、それを可能にする技能もある。
 複数を同時に考えたり動かしたりでき、思考速度も速くなるという常時技能〈並速思考〉には大変お世話になっている。
 これも【神字】のおかげで習得できたのだ。

 神様、ありがとうございます。

 さて、行きますか。

「障壁」

 魔力を操作して小さいけど厚みがある障壁を作り出し、地面と平行になるように複数展開していく。
 それを足場にして外壁を飛び越える。
 外に出た後は、エルフ夫婦と出会った北の森を目指して全力疾走する。
 森まで行けば完全に人目がなくなるから、一気に速度を上げられる。

 まずは森に入り、空を目指して木を蹴り進む。
 次に、さらに上空を目指して障壁を蹴り進み、雲の上に出る。
 そこからは、北東部の国境を目指して、ひたすら上空を疾走するだけ。

 上空に出た理由は、太陽や月に近ければ近いほど魔力の濃度が高いから。
 これも【神字:理】によって判明したことだが、地域がらなんとなく理解している人も多い。

 前世でも地球でもそうだったように、太陽や月などの天体を神々に例える人や地域があるからだ。
 祭事を行っている場所もあるらしいから、一度行ってみるのもいいかもしれない。

 それはさておき、魔力の濃度が多いということは魔素も多い。
 ただの障壁を張るだけなら、早く大きく構築できる。
 さらに魔力が豊富だから、ある程度の厚みを持たせることができる上、割れたところで再構築も簡単だ。

「さ、寒い……」

 常時技能〈環境適応〉のおかげで心が折れたり凍傷になったりはないけど、上空はやっぱり寒い。

 移動手段を教えたら止められた可能性があるから言わずに来たけど、防寒着は欲しかったな。

「相変わらず広い森だな……。しかも、やっぱり来たか……」

 移動手段として優秀なのに、森の中を通って逃亡していたのには理由がある。
 上空は、格上の魔獣の領域なのだ。
 それに今は、魔獣の活動が活発になる深夜。

「大人しく寝てろよ、鳥目野郎っ」

「ギュアァァァァ」

「障壁っ! 十連っ!」

 俺の唯一の適性である無属性魔法と【念動】は相性が良く、基礎魔法と馬鹿にされがちの障壁でも、【念動】を使えば高位魔獣と互角以上に戦える。

 でも今は移動を優先したいし、狩っても持ち帰れないから、まともに相手をせずに逃げに徹する。

「次会ったら、唐揚げにしてやるっ!」

「ギュアァァァァッ」

 しつこく戦いを仕掛けてくるが、障壁を動かしてビンタやチョップを喰らわしたり、勢いを止めて背中に衝撃を与えたりと、嫌がらせをして逃げ続けた。

「んっ? そろそろだ。あばよ、鳥目野郎っ」

「ギュアァァァァッッ」

 国境付近に近づいてきたため、上空から森に降りる。
 森に降り立つギリギリまで攻撃してきた怪鳥を無視して、森の奥に歩みを進める。
 森の奥である以上、上空並みの魔獣もいるのだが、まもなく日が昇るため上空よりはマシだろう。

 一応油断せずに進み、目的の場所を目指す。

 そこは微妙に隣国だと思われる場所だが、開拓が進んでいない森の中だから、どちらの国の領土とも言い切れない場所だ。
 ただ、隣国にとっては大切な場所らしく、開拓しても荒らさないことを条件に同盟を結んでいるんだとか。

 え? 俺? 荒らしてないけど?

 魔獣を一体従魔にして連れて帰るだけだから、むしろ安全を確保してあげていると思う。

「たしかここら辺だった気がするけど……」

 目的の魔獣の周囲には認識を阻害する結界が張ってあり、普通に森の中を移動していたら一生遭遇しないようになっている。
 これは隣国の人間の措置らしいけど、俺は普通に遭遇した魔獣の一体として連れて帰る予定だから、多分問題ないだろう。

「相変わらずデカいなぁ」

『……お前か』

「おはよう」

『起こしたくせに、よく言う』

 寝起きだからか、可愛さが皆無だ。
 技能〈従魔契約〉は持っているけど、ネズミとかとは違うから正直自信がない。
 できれば戦いたくないけど、実力を見せたほうが確率が上がるなら戦おう。

『それで、何しに来た?』

「従魔になってもらいに」

『──んっ? オレがお前の従魔に?』

「そう」

『グッ──』

 ヤバいッ。雰囲気が変わった。

『グハハハハハッ! 愉快だっ!』

「……本気なんだけど?」

『分かっているっ! ──お前、何があった?』

「ん? 仕事変えた」

『それだけか? 明らかに目が変わったぞ?』

「…………」

『思い当たる節があるとみえる。時間はある。話してみろ』

「いや、時間は……。話すよ」

『それをつまみながらというのは、どうだ?』

 弁当も欲しいのか……。

「俺も食べるよ?」

『早くしろ』

 この後、目の前の魔獣に自分の黒歴史を話すという恥辱のプレゼンをするのだった。

 

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