暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第十話  隣人の名前はゴブリン

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 説教は終わり、娘のナディアも席に着いて帰郷の説明が行われることに。

「そもそも何で勝手に鑑定なんかしたのよ」

「えっと……二人しかいないはずなのに、もう一人気配があったからです」

「はい? 宿屋なのよ。二人なわけないじゃない」

「え? でも、町では閉店したって聞きましたし、フリードも店を閉めたって言ってましたよ」

「……あの子が?」

「えぇ。町の噂だけならともかく、この町に住んでいる弟が言ったことですからね。一緒にいるのが誰か気になりますよ」

「お客さんから家族になったわ。あの子達にも伝えておいて」

「えっ……分かりました」

 うんうんと、満足そうに頷く母親を見て答えが間違っていなくて安心する。

「それで、何かあったの?」

「……はい。私の子供を預かってほしいのです」

「どういうことかしら? 捨てるってこと?」

 話の流れ的に最悪な状況だけども、そのために帰郷したし、娘の安全のために鑑定も行った。無駄だったけど。

「違いますっ! ただ、あの人から……キースから離さないとっ!」

「エルフの国の大使だったかしら? 暴力夫なの?」

「違うと思います……。でも、娘の儀式の後から豹変したのですっ!」

「うーん、よくわからないわね。落ち着いて詳しく話しなさい」

「娘は……ニアは……ハイエルフなんです……」

「「──えっ?」」

「隔世遺伝というものらしく、適性属性も共通の無属性も含めれば八属性と多く、上位属性も持っています。【神字】は一文字なので、人族の中ではハズレと考える者がいるようですが、私たちにとっては不幸中の幸いです」

「それは……」

「このままではいつ売られてしまうか……」

「そこまでする?」

「すでに長期遠征を狙って誘拐されそうになったのですっ! 王都詰めの部下が気づいてくれて事なきを得ましたが……。私一人では守りきれないのですっ!」

 素性が分からず、それでいてかなりの実力者の少年が同居するという状況は不安を煽るが、それでも王都にいるよりは両親の下にいる方が安全だと判断した。
 娘の成長を見ることもできず、離れ離れになってしまうけど、娘には安全な場所で幸せになって欲しかった。

 あわよくば少年を護衛にでもと思わなくもない。
 口には絶対に出せないが、孤児よりも実の娘のほうが大切なのだ。

「あの子を巻き込むことは理解している?」

「はい……。いるとは知らず……」

「そういうことじゃないのよ。巻き込むなら本人の了承が必要でしょ?」

「はい。でも寝ているって……」

「さぁ入っていらっしゃい」

「えっ!?」

 全く気配がなかった。
 いくら防音の結界が張ってあるとはいえ、極秘の話をしている最中に油断するなんてことはありえない。
 気配も魔力も全く知覚できないなんてことは過去一度もなく、ナディアは驚きを隠せないでいた。

「母上は何でっ!?」

「愛よっ!」

「でも、入ってきませんよ。本当にいるんですか?」

「恥ずかしがっているだけよ。ねっ?」

 そういって母が扉を開けると、確かにそこに少年はいた。
 初めは気づかなかったが、とても暗い瞳をしており、暗い部屋の中で見ると背中に氷を滑らせたように体が硬直する。

 直後、自分を猛烈に恥じた。

 どれほど辛いことがあったのか。
 どれほど怖いことがあったのか。
 どれほど愛を求めていたか。

 部下が助けてくれていなかったら、自分の娘も近い未来に同じ瞳をしていたのだろうか。
 そう思うと胸が締め付けられた。
 少年に不義理を働き、さらなる地獄に叩き落とそうとしていたということに自分を許せなくなった。

「先ほどはすみませんでした。この後の展開次第では君を危険に巻き込んでしまうだろう。どうしたらいいか一緒に考えてくれないだろうか」

「あら、素直ね。ようやく王都の毒が抜けたかしら? 昔は優しい子だったものね」

「余裕がなかっただけだろ」

「なるほどね。同じ親だから、私も気持ちはよくわかるわ。だから、私は許してあげる。あなたはどう?」

「……離してくれませんか?」

 クッションのように抱かれているのが恥ずかしいのか、脱出しようと体を捻る少年。
 そして脱出させないどころか頬ずりする母。

「ねぇ、どうなの?」

「ステータスを見られたわけではないので、今回は許します」

「だって。よかったわね」

「ありがとう」

 安心したら少しお腹が空いてきたが、娘の問題が片付いていないため我慢する。

「あの、娘さんの問題を解決するのは簡単です」

「「「えっ?」」」

 最悪国外逃亡も考えていた問題を簡単に解決できると言われ、両親ともども間の抜けた返事をしてしまった。
 あの無表情の父親が驚いたのだ。
 十分な珍事件である。

「それはなぁに?」

「殺せばいいんですよ」

「あ、アウトォォォッ!」

 何を言うんだ、この少年はっ!?

「誘拐犯をですよ?」

 あぁ、そっち。
 それならいいか。いや、良くないか。

「それでも駄目よっ」

「どうしてです?」

 ナディアが混乱している間にも、母と少年の会話は続く。

「簡単に殺生するのはよくないわ」

「ゴブリンと同じですよ。欲望のままに誘拐して、欲望を満たしているんですから。ゴブリン討伐は常設依頼でしたよ?」

「それを言われると……、ねぇ?」

「じゃあ次策です。護衛を付けます」

「それだと同じじゃない?」

「いえ、僕が言ってるのは従魔です。わかりやすい強さの魔獣をつければ、昼間から襲ってこないと思いますよ」

「それは良いわね。どうかしら?」

 従魔や精霊のことは考えていたが、いくらハイエルフでも五歳の幼児に高位の魔獣や精霊との契約は無理だった。

「娘にはまだ無理だ……」

「それは大丈夫です。僕が契約しますから」

「「「えっ?」」」

 人族の子供が高位の魔獣と契約?
 できるのか?

「えっ? できるの?」

「はい。思い当たる魔獣もいるので、これから行ってきます。明日の夜までには戻れると思います」

「門は閉まってるし、まだ深夜よ?」

「門は問題ありませんし、僕は夜の方が早く動けるので」

「わかった。用意する間に弁当を作ろう」

「ありがとうございます」

「気にするな」

「ちょっとっ!」

 厨房に向かう父を追いかけるように母も厨房に向かった。
 結果、少年と二人になったわけだが、正直気まずい。

「美人エルフさんと娘さんを迎えに行った方が良いと思いますよ」

「──あっ! 感謝するっ!」

 美人エルフとは誰だと思ったが、娘を宿屋に預けたままだと思い出し疑問は吹っ飛んだ。

「母上、一緒に来てくださいっ!」

「もうっ! 早く言いなさいよっ!」

 母親と二人宿屋に向かって走っている最中、大切なことを忘れたことを思い出してしまった。

「あっ! お願いしますって言ってない……」

「あっ! 私もいってらっしゃいって言ってない……」

 こういううっかりしているところは似ているのだなと、親子であることを改めて実感するのだった。


 ◆ ◆ ◆


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