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第一章 居候、始めます
第三話 ひと狩り行こうぜ
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服欲しさに小屋で待つことにしたが、ただ待つだけというのも暇だ。
それに、服の代金がないことも懸念している。
「……狩りでもするか」
現状を打破することが可能な手段は狩りしかない。
エルフが肉を食べることは知っている。
だから断られることはないだろうし、もし断られても俺が食べれば良いだけ。
暇を潰せて、服の代価にもなる。
最善の方針だ。間違いない。
「ではさっそく、〈索敵〉──」
何体か獲物がいるけど、石器ナイフだけで対応できる獲物は少ないな。
兎と鳥が無難だが、少し物足りない気がする。
「……まぁ誰も見てないし、猪を狙うか」
手札を増やして猛猪を狙おうと思う。
属性魔法は発動速度が微妙だから、もし使ったとしてもトドメだろう。
となると、やっぱり【念動】主体で手札を構成するしかない。
まずは尖った石を複数個用意する。
その後、〈気配遮断〉を使って猪の前の茂みに隠れるだけ。
仕上げに【念動】式誘導石弾を発射し、俺がいる茂みにおびき寄せるのみ。
コツは、前に直進させるために半包囲で攻撃することだ。
「──プギィィィィッ」
いいよ。そのままおいで。
「──はい、釣れたっ。《岩石針》」
「プゴッ──」
発動速度さえ無視できれば絶大な効果をもたらしてくれる魔法は、本当に偉大な能力だと思う。
何より異世界にいるということを嫌でも認識させてくれる。
たとえ目の前に、鼻や口から血を噴き出した猪がいたとしても、俺は幸せを感じている。
だって、望んでいた異世界を満喫しているのだから。
「命に感謝を」
右手を胸に当て一礼をする。
暗殺者時代から行っているのだが、この行動のおかげで自分では心を殺さずに済んでいると思っている。
廃人にも快楽殺人者にもなっていない点が、行動の有効性を証明していると思う。
さて、新鮮な内に血抜きをして置かなければ。
もしかしたら自分の食料になるかもしれないわけだから、美味しく食べられるお肉にしておくべきだ。
それが最大の供養にもなると思う。
「猛猪は平民に人気だと聞いたことがあるから、服代くらいにはなるはず」
普通の猪とあまり変わらない魔猪よりも大きく、大猪ほど危険が少ない猛猪。
食べ応えもあり、味も普通の猪よりも良いらしい。
肉以外の素材も革製品になったり、新人冒険者の装備になったりと、様々な分野で需要があるそうだ。
「よし、小屋まで運ぶか」
と言っても、人力では無理だから【念動】を使って運ぶ。
一応目撃されても大丈夫なように背負っているけど、端から見ればかなりの重労働に見えているはず。
まぁ言い訳は用意している。
十二歳なら既に〈身体強化〉を使えてもおかしくないし、当然俺も使える。
だから、何か言われたら〈身体強化〉を使っていると言えば良い。ステータス関連の質問は禁句だから、きっと誰も聞いてこないはず。
「──ん? 誰かいる?」
洋服屋さんではないことは間違いない。
気配がはっきりしているからね。
「方角も微妙に違う……かな」
うーん……良い人キャンペーンは大事か。
「えーと、【神字】を使った方がいいかも」
まずは〈生命感知〉を発動。
技能〈索敵〉よりも鮮明に、敵味方関係なく認識できる〈生命感知〉は便利だが、情報量が多く、その場から動けなくなる。
熟練度に応じて能力が変化するらしく、俺は感知対象が各生物の形状で認識でき、体の向きもある程度認識できる。ゆえに、情報量が多いわけだが。
微妙に使い勝手が悪い〈生命感知〉の短所を補うのが、次に発動する【神字:処理】だ。
薬で体が縮んだ名探偵の中に登場する犯人のようにシルエットでの認識になるけど、色分け加工ができるおかげで情報の整理が楽になる。
もちろん、色分けをしているのは俺。
間違えていたら本当に申し訳ない。
でも、他の技能も併用して行動分析をしているから、多分大丈夫だ。多分ね。
「うん。ヒロインが登場する流れではないらしい」
普通に賊に襲われているおっさんだな。
それも助けなくても大丈夫そうな人だ。
というのも、技能〈生命感知〉は魔力で感知しているから、基本的に魔力量が分かる。
絶対とは言えないけど、魔力量の大小はそのまま戦闘力を表している。つまり、おっさんは大魔力を持つ羊の皮を被った狼だということだ。
「シルエットは小太りのおっさんなんだけどなぁ」
男女の判断は〈遠視〉で確認した。
正確な方角が判明した後なら、一点集中した〈遠視〉で確認できると思ったのだ。
「問題は感知に気づかれたことか」
認識しているのに何もしないというのは、被害者側からしたら心証はよろしくないだろう。
良い人キャンペーンが、ネガティブキャンペーンになってしまう。
「行動に移さないってことは助っ人が欲しいということか……猪さん、ちょっと待っててね」
猪が心配だから技能てんこ盛りで行動しよう。
まずは〈身体強化〉を発動。
疲労が溜まった体に更なる負担を感じつつ、次の技能を発動する。
技能〈気配遮断〉だ。
この瞬間に〈生命感知〉と〈遠視〉を解除する。
逃亡ではないことは、〈身体強化〉を発動したときに漏れ出た微量の魔力で気づいてくれるだろう。
事前準備が整ったところで、先ほどの《岩石針》の破片を拾い駆け出した。
もちろん追加の技能を発動して。
内訳は、〈悪路走破〉と〈高速移動〉だ。
高速で動く毛皮は見る人が見れば、本物の魔物に見えるかもしれない。
まぁ討伐されそうになったら、俺も正当防衛を主張しつつ反撃させてもらう。
せっかく暗殺者から足を洗ったのだから、大義名分を用意してから反撃しようと思う。
「そろそろか。……何で動かないんだ?」
いくら自分が一人だったとしても、相手は三人だけ。
伏兵がいないことも確認している。
おっさんなら大魔力を使った魔法でゴリ押しできそうなものなのに、本当に謎。
「もしかして……罠だったりする? ──ないな」
何か戦えない理由があったとしても、おっさんに姿を見せるのは嫌。
毛皮姿の不審者のままで会いたくない。
結論、本気の暗殺モードで瞬殺する。
大義名分はー……人助けかな?
うん、良いと思う。
とりあえず、〈心眼〉起動。
各種察知系技能の統合技能は、戦闘時において必須である。
死角からの攻撃にも対応できないと、一瞬で詰む。
情報が少ない上、多勢に無勢の状態だ。万全を期す必要があるだろう。
「よし、一手目」
技能〈狙撃〉からの〈投擲〉。
右手に持つ《岩石針》の破片を一人に投げつけ、賊の頭部を砕く。
着弾を横目に確認しつつ、おっさんの目の前に立つ賊の首をへし折る。ただ、さすがに戦闘中の賊も〈身体強化〉をしているため、簡単にへし折ることはできない。
しかし、最初から予想していたことだから、【念動】で補助して少しの抵抗も許さずへし折った。
三人中二人を終えたところまで、飛び出したときの速度を落とすことなく行動している。
理由は姿を見られたくないことが最大の理由だが、数に物を言わせた包囲戦や人質戦をしたくなかったからだ。
でも今は一対一。
多勢という懸念は消えたが、猪さんを待たせているし、洋服屋さんも待っているかもしれない。
急ぐ理由には十分なのだが、抵抗をする三人目の行動を見たおっさんが俺を止める。
「これがどうなってもいいのかっ!?」
「待てっ! 待ってくれっ!」
「…………」
もしかして……あの壷が人質だったりする?
おじさんは壷の精なのかな?
それに、服の代金がないことも懸念している。
「……狩りでもするか」
現状を打破することが可能な手段は狩りしかない。
エルフが肉を食べることは知っている。
だから断られることはないだろうし、もし断られても俺が食べれば良いだけ。
暇を潰せて、服の代価にもなる。
最善の方針だ。間違いない。
「ではさっそく、〈索敵〉──」
何体か獲物がいるけど、石器ナイフだけで対応できる獲物は少ないな。
兎と鳥が無難だが、少し物足りない気がする。
「……まぁ誰も見てないし、猪を狙うか」
手札を増やして猛猪を狙おうと思う。
属性魔法は発動速度が微妙だから、もし使ったとしてもトドメだろう。
となると、やっぱり【念動】主体で手札を構成するしかない。
まずは尖った石を複数個用意する。
その後、〈気配遮断〉を使って猪の前の茂みに隠れるだけ。
仕上げに【念動】式誘導石弾を発射し、俺がいる茂みにおびき寄せるのみ。
コツは、前に直進させるために半包囲で攻撃することだ。
「──プギィィィィッ」
いいよ。そのままおいで。
「──はい、釣れたっ。《岩石針》」
「プゴッ──」
発動速度さえ無視できれば絶大な効果をもたらしてくれる魔法は、本当に偉大な能力だと思う。
何より異世界にいるということを嫌でも認識させてくれる。
たとえ目の前に、鼻や口から血を噴き出した猪がいたとしても、俺は幸せを感じている。
だって、望んでいた異世界を満喫しているのだから。
「命に感謝を」
右手を胸に当て一礼をする。
暗殺者時代から行っているのだが、この行動のおかげで自分では心を殺さずに済んでいると思っている。
廃人にも快楽殺人者にもなっていない点が、行動の有効性を証明していると思う。
さて、新鮮な内に血抜きをして置かなければ。
もしかしたら自分の食料になるかもしれないわけだから、美味しく食べられるお肉にしておくべきだ。
それが最大の供養にもなると思う。
「猛猪は平民に人気だと聞いたことがあるから、服代くらいにはなるはず」
普通の猪とあまり変わらない魔猪よりも大きく、大猪ほど危険が少ない猛猪。
食べ応えもあり、味も普通の猪よりも良いらしい。
肉以外の素材も革製品になったり、新人冒険者の装備になったりと、様々な分野で需要があるそうだ。
「よし、小屋まで運ぶか」
と言っても、人力では無理だから【念動】を使って運ぶ。
一応目撃されても大丈夫なように背負っているけど、端から見ればかなりの重労働に見えているはず。
まぁ言い訳は用意している。
十二歳なら既に〈身体強化〉を使えてもおかしくないし、当然俺も使える。
だから、何か言われたら〈身体強化〉を使っていると言えば良い。ステータス関連の質問は禁句だから、きっと誰も聞いてこないはず。
「──ん? 誰かいる?」
洋服屋さんではないことは間違いない。
気配がはっきりしているからね。
「方角も微妙に違う……かな」
うーん……良い人キャンペーンは大事か。
「えーと、【神字】を使った方がいいかも」
まずは〈生命感知〉を発動。
技能〈索敵〉よりも鮮明に、敵味方関係なく認識できる〈生命感知〉は便利だが、情報量が多く、その場から動けなくなる。
熟練度に応じて能力が変化するらしく、俺は感知対象が各生物の形状で認識でき、体の向きもある程度認識できる。ゆえに、情報量が多いわけだが。
微妙に使い勝手が悪い〈生命感知〉の短所を補うのが、次に発動する【神字:処理】だ。
薬で体が縮んだ名探偵の中に登場する犯人のようにシルエットでの認識になるけど、色分け加工ができるおかげで情報の整理が楽になる。
もちろん、色分けをしているのは俺。
間違えていたら本当に申し訳ない。
でも、他の技能も併用して行動分析をしているから、多分大丈夫だ。多分ね。
「うん。ヒロインが登場する流れではないらしい」
普通に賊に襲われているおっさんだな。
それも助けなくても大丈夫そうな人だ。
というのも、技能〈生命感知〉は魔力で感知しているから、基本的に魔力量が分かる。
絶対とは言えないけど、魔力量の大小はそのまま戦闘力を表している。つまり、おっさんは大魔力を持つ羊の皮を被った狼だということだ。
「シルエットは小太りのおっさんなんだけどなぁ」
男女の判断は〈遠視〉で確認した。
正確な方角が判明した後なら、一点集中した〈遠視〉で確認できると思ったのだ。
「問題は感知に気づかれたことか」
認識しているのに何もしないというのは、被害者側からしたら心証はよろしくないだろう。
良い人キャンペーンが、ネガティブキャンペーンになってしまう。
「行動に移さないってことは助っ人が欲しいということか……猪さん、ちょっと待っててね」
猪が心配だから技能てんこ盛りで行動しよう。
まずは〈身体強化〉を発動。
疲労が溜まった体に更なる負担を感じつつ、次の技能を発動する。
技能〈気配遮断〉だ。
この瞬間に〈生命感知〉と〈遠視〉を解除する。
逃亡ではないことは、〈身体強化〉を発動したときに漏れ出た微量の魔力で気づいてくれるだろう。
事前準備が整ったところで、先ほどの《岩石針》の破片を拾い駆け出した。
もちろん追加の技能を発動して。
内訳は、〈悪路走破〉と〈高速移動〉だ。
高速で動く毛皮は見る人が見れば、本物の魔物に見えるかもしれない。
まぁ討伐されそうになったら、俺も正当防衛を主張しつつ反撃させてもらう。
せっかく暗殺者から足を洗ったのだから、大義名分を用意してから反撃しようと思う。
「そろそろか。……何で動かないんだ?」
いくら自分が一人だったとしても、相手は三人だけ。
伏兵がいないことも確認している。
おっさんなら大魔力を使った魔法でゴリ押しできそうなものなのに、本当に謎。
「もしかして……罠だったりする? ──ないな」
何か戦えない理由があったとしても、おっさんに姿を見せるのは嫌。
毛皮姿の不審者のままで会いたくない。
結論、本気の暗殺モードで瞬殺する。
大義名分はー……人助けかな?
うん、良いと思う。
とりあえず、〈心眼〉起動。
各種察知系技能の統合技能は、戦闘時において必須である。
死角からの攻撃にも対応できないと、一瞬で詰む。
情報が少ない上、多勢に無勢の状態だ。万全を期す必要があるだろう。
「よし、一手目」
技能〈狙撃〉からの〈投擲〉。
右手に持つ《岩石針》の破片を一人に投げつけ、賊の頭部を砕く。
着弾を横目に確認しつつ、おっさんの目の前に立つ賊の首をへし折る。ただ、さすがに戦闘中の賊も〈身体強化〉をしているため、簡単にへし折ることはできない。
しかし、最初から予想していたことだから、【念動】で補助して少しの抵抗も許さずへし折った。
三人中二人を終えたところまで、飛び出したときの速度を落とすことなく行動している。
理由は姿を見られたくないことが最大の理由だが、数に物を言わせた包囲戦や人質戦をしたくなかったからだ。
でも今は一対一。
多勢という懸念は消えたが、猪さんを待たせているし、洋服屋さんも待っているかもしれない。
急ぐ理由には十分なのだが、抵抗をする三人目の行動を見たおっさんが俺を止める。
「これがどうなってもいいのかっ!?」
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