暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第二話  三度目の人生は辺境から

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 暗殺者は夜に現れるという定番の時間で暗殺されたため、現在の時間は丑三つ刻くらいだろうか。日本時間で言うところの午前二時という深夜だ。
 訓練のおかげで暗闇は問題にならない。
 追手も今のところ問題になっていない。
 魔物に関しても、【念動】を使えば楽に屠れるだろう。

「まぁ屠りたくないんだけどね」

 暗殺者だったから殺生ができないわけではない。
 ただ、お亡くなりになった魔物が撒き餌になって魔物のおかわりがひたすら続いている。

 まるで、魔物の椀子肉だ。

「椀子レベルの大きさならいいんだけどなぁ」

 周囲に放置されている肉を勝手に食べてくれればいいのに、何故わざわざ俺に向かってくるのか。全く持って謎である。

 結局、最後の最後まで放って置いてもらえず、朝日が昇るまで椀子肉は続いた。

 朝日が昇ると状況が変わる。
 頑張れば崖の上からでも、この惨状を確認することができるだろう。
 そして確認の次は、間違いなく追撃部隊を送るはずだ。
 突撃しかできない無能指揮官だからこそ、予想は間違いなく当たる。

「さて、動くか」

 回復に努めること一晩。
 ようやく体を回復させられた。
 今回は毒の効果もあって本当にギリギリだったけど、持てる力を全て使ったおかげで九死に一生を得られた。

「──あっ。伯爵の遺品が壊れてる」

 伯爵とは俺を連れ去って売却した犯罪者のことだ。
 彼は俺を売った後に取り違えがバレ、俺の実親に拉致されたらしい。
 貴族の社交界では、消えた伯爵の噂に尾ひれや背びれがついて拡散された。俺たちも日陰者とは言え、王弟の下にいたおかげで何度も噂を聞いた。

 聞いた噂では、伯爵の生死で賭け事が行われていたのだが、ほとんどの人は死亡している方に賭けていた。
 だが、多くの人の期待を裏切り、伯爵は無事に生還したらしい。拷問されたらしき傷は負っていたが、そこに触れる者はいなかったらしい。

 王弟に泣きついてきた伯爵の話を盗み聞きしたところ、俺という証拠を隠滅していたおかげで、協力した生家の使用人と治癒院に罪をなすりつけることができたそうだ。
 何ともしぶとい男である。

 俺の予想では、今回の暗殺未遂は伯爵との繋がりを示す俺という証拠を隠滅するためだと思う。
 その場合、伯爵が今もなお生存しているかは不明だ。

 暗殺してまで処分したい理由は俺の外見にあるそうで、伯爵も特別な魔導具を用意して常に着けているように厳命していた。
 ただでさえ貧乏なのに、外見を変える魔導具を購入しては領民に死者が出てもおかしくない。

 王弟もその外見を聞いたのだろう。
 泣きつかれてすぐに行動に移すとは……。
 相当生家が怖いと見える。

「久しぶりに見るけど、ダークエルフみたいだ」

 褐色肌にくすんだ銀髪、紫色の瞳。
 つり目のせいで少し目つきが悪く見えるが、そこそこイケメンだと思う。
 魔導具使用時は、無難に茶髪茶目の美白少年だったから別人なくらいのイメチェンだ。

「魔導具も壊れたし、逆にこのままの方がバレないかも。最悪、ダークエルフとのハーフと言い張ればいいか」

 方針も決まり、川岸から森に移動した。
 少しは工作する時間が取れるだろうから、死体を偽装して行こう。
 ちょうどいいところにゴブリンの死体がある。
 彼に俺の装備を着せて火を放てば、隊長が相討ちに持ち込んだと思うだろう。

「もったいないなぁ」

 死体から魔核を取り出すゴブリン以外は、痕跡を残さないように手を付けられない。
 ゆえに、放置された素材は王弟の物になるはずだ。

 本当はパンツ一丁の状態から半裸に毛皮状態まで格上げしたかったが、異世界満喫生活を手に入れるために我慢した。
 目の前の素材は必要経費として諦めよう。
 そうだ、手切れ金だ。

 無課金チュートリアルから課金チュートリアルになったけど、今後恩義を感じる必要がないと思えば、課金して良かったと思える。

「おっと。そろそろか」

 ゴブリンくんも良い具合に焼け、トレードマークの変身ネックレスも置いてきた。
 これで伯爵家の私生児は、表裏両方で死んだ。

「さよなら、アレンくん」


 ◆


 人目をはばかり森を進むこと一ヶ月。
 ようやく目的地である東部辺境領が見えてきた。
 逃亡しているとき、栄えているけど隠れやすい辺境伯領に行きがちだが、俺は真っ先に選択肢から外した。
 理由は、領地視察や国境視察を行う王族が滞在する可能性が一番高いのが、辺境伯領の領都だからだ。

 外見が違うから大丈夫だと思うが、外見が違うからこそ疑惑の目を向けるだろう。
 王弟の目には、ダークエルフ全てが俺に見えているかもしれない。

 そこまで心配しなくても、俺も自分から「王弟の下で暗殺者してました」なんて言わないのに。

「……とりあえず、あの小屋で休もう」

 目的地である子爵領は、もう目と鼻の先だ。
 しかし、裸に毛皮姿のままで町に向かう勇気は俺にはない。
 元々雀の涙程度しかなかった小遣いも、ゴブリンに持たせてきたせいで財布すらない。

 入町税を払えなければ入町を許可してもらえない。
 どうするか考えたいけど、お腹が空きすぎて頭が回らない。
 申し訳ないと思うが、小屋を漁らせてもらおう。

「鍵がかかってなかったのはいいけど……それってつまり、盗むものがないってことじゃ……」

 やっぱりーー!!!

 何もなかった。
 竈と食卓だけ。

「……寝る」

 寝起きは食欲が減少傾向だから、そのときに狩りでもしよう。
 全ては寝てから。
 それがいい。

 人の気配を感じたらすぐに起きれるように訓練されていたのだが、今日はかなり長い時間寝ていたようだ。
 起こされるまで熟睡していたのは一体いつぶりだろうか。

 …………起こされた?

「──おいっ! 起きろっ!」

 一気に覚醒した俺は、石器のナイフを構えて一気に距離を取った。
 自分が油断したせいで気配に気づかなかったのかと思ったが、どうやら違ったらしい。
 向かい合った今でも、意識しなければ見失ってしまうほどの気配しか感じられない。
 つまり、かなりの実力者ということだ。

 入口を塞がれている以上、窓から逃げるしかない。
 しかし、それを許してくれる相手ではないだろう。
 ならば方法は一つだけ。

「待て。争うつもりはない。何をしていたかも聞かない」

「…………」

「ただ一つだけ。困っているか、困っていないかだけ教えてくれ」

「………………困っている」

「そうか。服を持ってくる」

 それだけ言って男は去っていった。
 見た感じエルフだったのだが、エルフにしてはかなりゴツい。
 佇まいや気配の消し方から察するに、接近戦も一流だろう。

「逃げた方が良いかなぁ。でも、エルフは追跡の達人だしなぁ」

 逃げ切れる気がしないなら、反抗する気がないと示していた方が心証がいいはず。

「それに……服が欲しい」

 うん、俺待つ。




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