召喚勇者、人間やめて魂になりました

暇人太一

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第三章 始まりと報復

第四十七話 盗賊は訴える

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 違法奴隷は女の子だから安心させるためにリアを先頭にして進む。ただ荷車がガラガラとなるせいで怯えさせてしまっているようだと、リアから言われてしまった。確かに移送するために使うから怖がられても仕方がないかもしれない。

「だ……誰っ!」

「私はリア。守護者だよ。盗賊の討伐に来たんだよ。盗賊はもう全員捕まえたから一緒にドルペスに行こう?」

「で、でも……ドルペスに行ったら……また……」

「ドルペスには獣人の世話役とかいない?」

「探したらいるかもだけど……伝手がないし……」

「私たちも探すの手伝うから一緒に帰ろ? ここにいても教国に掴まっちゃうし、装備がないと他の地にも行けないでしょ?」

 違法奴隷として売られる予定だった女の子たち十名は、大きい子や小さい子のいずれもボロボロの服装で、仮に自分たちだけで移動したとしても早晩奴隷狩りに遭ってしまうだろう。

 だが今なら馬車も荷車もある。野営も寝る必要がない俺がずっと見張っているため熟睡できるし、土魔法が得意なヴァルが簡単な小屋をつくり野営用の毛布を重ねれば、毒蛇や毒虫を気にする必要もない。さらに今回手に入れた盗品の中には、虫除けもあったので万全を期すことができる。

 俺ならすぐに話しに乗るが、一度捕まった女の子たちは警戒しているのかなかなか頷かない。気持ちは分かるが外には眠らせた試験官もいるし、教会に捕まっている状況を脱したことで、俺の中では既に助けたという認識だった。ここからの選択は彼女たち次第で、ぶっちゃけた話し、どちらでもいいというのが俺の考えだった。

 リアも同じだったようで、仮にここで嫌がる彼女たちを無理矢理ドルペスに連れて行ったとしても、それは教会と同じ事をやっているにすぎず、再び彼女たちにとって恐怖の状況となるのだ。

「私たちは向こうの部屋で盗賊たちを馬車に詰め込んでいるから、出発までの間に決めておいて。どうするかは自分で決めて。例え一人でも希望するのなら、私たちは希望に応えるから」

 被害者たちはリアが牢の鍵を開けて全員の首輪を外して俺に渡すまで、決して警戒を緩めることなく身を強張らせていた。そして俺たちが部屋からいなくなると安心からか、すすり泣く声が聞こえてきた。

 盗賊たちが全裸で縛られている場所に行き、一台だけ残されている汚馬車を盗賊の近くに移動させてくる。まずは外の試験官の確認と見張りの死体の移動だ。試験官は爆睡中で死体も損傷はない。もちろん、魂は既に吸収し終わっている。

 汚馬車に戻ると、汚馬車の床に全裸に剥いた死体を並べていく。全裸に剥く理由は隠し武器とお金の回収が目的だが、嫌がらせの意味もある。

「さて、この汚馬車ごと売却することになるのだが、他に馬車は存在しない以上君たちには全員でこの汚馬車に乗ってもらいたい。少し狭いかと思うけど座った状態で十数人乗れるなら、立った状態なら全員乗れると思うんだ。一番下に死体を並べたからその上に立ってもらおうと思ってる。では質問がある者は挙手してから聞いて欲しい。……ないようだな。じゃあ早速乗り込んでもらうかな」

「んーーーーー!」

 ただでさえ痺れていて話せないのに、手足も縛られた状態では挙手もできない彼らは唸ることで抗議をしていたが、質問ではないので無視だ。それから当然だがリアには離れてもらっていて、暴れる者がいたら弓で射てもらうことになっている。

 盗賊を一人一人引きずり汚馬車の中に入れていくのだが、俺は直接踏まないように板の上を歩く。そして汚馬車の中に並べていくのには順序があり、順序通りに並べていくのが結構大変だった。順序は端から順番にではなく、馬車内に沿って周りを囲んで行くのだ。理由は馬車と体を固定することで逃亡防止のバリケードであり、同時に落下防止柵にもなるからだ。

 では何故大変だったかと言うと、汚い盗賊に触れないようにしなければならなかったということと、依頼完了後に楽できるスキルを使用していたからである。まぁあとは順番に満員電車を外から押す駅員のように、盗賊を外から押して幌を閉めるだけである。きっと今頃は、仲間と肌をすり合わせて温め合っている頃だろう。

 ちなみに輸送用の大型馬車は基本的に二頭から四頭引きだ。つまり、ここには現在三十頭くらいの馬がいて馬車は一台だけ。馬を何回か変えていけばあっという間に着きそうである。探さなくても言い訳だし。

 この馬の数で馬車の量がバレそうだが、盗賊が移動用に使っていたと言い訳するつもりだ。実際に移動用に使っていたらしく、全くの嘘ではないため嘘発見器問題も解決だ。それとこの馬は警備兵にあげない。警備しない連中が馬を持っていても宝の持ち腐れだからだ。馬車屋や牧場に売るつもりだ。

 荷車は汚馬車の後方に固定したから女の子たちが乗るなら乗ればいいし、乗らないなら俺が乗る。試験官はいない者と思えと言われたから走って帰ってきて欲しい。

 とりあえずヴァルに入口の壁を壊してもらい、汚馬車と馬の大群をアジトから出す。最後に女の子たちの意志確認なのだが、既に決めていたようで牢の入口付近で待っていた。

「ドルペスまでお願いします!」

 最年長らしき女性が声を出しながら頭を下げると、他の全員が頭を下げてお願いしてきた。お願いされた以上断るつもりはなく了承すると、まずは馬に乗れるかを聞いた。せっかく馬の大群がいるのだから、乗れるなら乗った方が効率がいいと思ったからだ。

 幸いにも幼女の二名を除いた全員が乗れるということで、二人は上級者と一緒に乗ることとなった。俺は馬に嫌われているから荷車に乗って最後尾の警戒と、全裸の盗賊に水分補給という名の水掛けを行う予定だ。これがあったから馬に乗ってもらえるのは有り難がった。

 リアとヴァルのために御者台だけは綺麗にしており、二人は意気揚々と乗り込んでいた。ヴァルも最初は俺と同様馬に警戒されていたが、ヴァルはリアと一緒の席に乗れることでご機嫌だったおかげで、馬も次第に慣れていったようだ。

 そして残りの馬は乗馬組が引いていったり汚馬車に多めに牽引したりと、ある程度の準備が整ったのだった。

 俺は試験官に伝えてあげようと思い、寝ているところを近づいて出発することを伝えたが、いきなり狼狽え始めた。

「わ……私はどうする?」

「走って帰るんじゃないんですか? いない者として扱ってくれと言われましたし。そもそも盗賊団を討伐しに来ているんですから、馬か馬車で帰ることくらい分かっていましたよね? まさか……どうせ失敗するとでも思っていたんですか? 途中で寝てたし」

「そ……そのようなことは……ない」

「じゃあ試験する側のプロ中のプロが準備していないわけないですよね? じゃあ先に行ってますので。また会いましょう」

「なっ! ちょっ!」

 後ろで何か言っているが、プロにしてあげられることは何もない。釈迦に説法とはまさにこのことだ。アイツがどう報告するかは知らんが、元々単独討伐での試験をしたのはギルドだし、人を殺せるかの試験はクリアしている。これで不合格なら余所のギルドで吹聴しまくってやる。

「それじゃあ出発! 進行ーー!」

 俺のかけ声とともに出発する馬車や馬の大群は、本当に壮観だった。一度やってみたかったことが叶い、思わず感動してしまった。

「んーーーーー! んーーーーー!」

 人が感動しているところに汚馬車から汚い唸り声が聞こえてくる。もしかして水かな? と思い、リアに借りた魔法具を用意する。荷車にはアジトから持ってきた木製のバケツと柄杓があり、そのバケツの中に水を注いでいく。

「何ですか? 水ですか?」

 幌を開けてすぐ体当たりしてくる者がいたが、あらかじめ出しておいた金属盾で押し返した。そもそも金属盾を使って駅員のように押し詰めていたのだから、幌を開けたら倒れて来るかもしれないことは簡単に予想できる。

 それに加え、《気配感知》でも把握していた。そして感知できていた俺は、脱走を企てた男に殴るように金属盾を叩きつけた。結果、手足を縛られた状態で吹っ飛び気絶した。

「さて、他に気絶したい者は? 次は連座制にするから、失敗したら周囲の者も同罪で逃げられないように、上下逆向きで向かいあわせで抱き合ってもらうから。嫌ならお互いで監視してくれ。水はこれからぶっ掛けるからしっかり味わってくれ。それじゃあ失礼するよ」

「ト……ト……イ……」

「……じゃ」

「んーーーーー!」

 なんで呼ばれたか分かったが、止まって降ろしてまた上げてが面倒だったため無視した。どうせ片付けるのは警備兵だし。警備兵は奴隷には優しいはずだから丁寧に洗ってくれるだろう。

 その後しばらく走り、暗くなってきたところで野営となった。晩御飯では絶食状態が長かった女の子たちには重いものはやめようと思ったのだが、初めてリアと会ったときのように肉をきぼうして狩りに出ようとしていたので、ホーンブルのせいで格下のラッシュブルを食べていなかったことを思い出し、ステーキにして食べることになった。女の子たちは号泣しながら食べ、中には恥ずかしそうにおかわりをしている子もいた。

 おかわりをした子はリアと仲良くなり、肉について話し合っていた。でもリアと仲良くなってもヴァルに触ることは不可能なのだ。女の子たちは残念がるも疲れからすぐに眠りに就くのだった。


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