召喚勇者、人間やめて魂になりました

暇人太一

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第三章 始まりと報復

第四十五話 守護者は浮気性

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 守護者ギルドに到着すると、何故かギルドマスターの部屋に案内された。しかも複数受験者での合同試験と聞いていたのに、俺たち三人とギルドマスターだけだ。しかも美魔女のギルドマスターだ。この人があの副ギルドマスターの上司かと思っていると、早速昇格試験の説明を始めた。

「城塞都市ドルペスの守護者ギルドのギルドマスターを任されているアンジーよ。早速だけど、あなたたちには北の方で暴れている盗賊団を討伐してきてもらうわ。これが依頼書よ。理解したらサインしなさい」

 何言ってんだ? コイツ?

「場所が判明したんですか?」

「場所を探すことも試験内容の一部よ」

「複数人での合同試験だと聞いていたんですが? それに護衛依頼をこなせるように盗賊討伐も可能だと証明すると聞いています。護衛依頼中に盗賊を捜し回るんですか? 護衛依頼になっていない気がしますが?」

「誰に聞いたか知らないけど、今回はこの方針になったの。それでやるの? やらないの?」

 俺は依頼書を見て笑ってしまった。

「この依頼書は面白いので記念にもらっておきますね。まさか『拾得物はギルドに提出』って書いて本当に通ると思いましたか? 別のギルドに持っていきます。それかこの国の法律から逸脱していますので、真面な役人がいるところに持って行きますね」

「……。素晴らしい! 試験だったのよ。間違った依頼書を見抜けるかっていうね。こちらが本当の依頼書よ」

 と言って渡してきたけど、《害意感知》も《看破》も使っているから全て嘘だって分かってるよ。当然《読取リーディング》も使っている。

「あれ? これが本当に本物でいいのですか?」

「そうよ。問題ないでしょ?」

「いや、ありすぎでしょ。『買い戻しに応じること
』って書いてありますが、買い戻しは善意で行うか決めるんですよ。強制したら提出と変わりませんよね? ただでさえ探索専門の人たちに探させてないのに、これはあり得ませんよ? これもいただいておきますね?」

「は? 買い戻しに応じるのは普通でしょ?」

「普通のことなら書かなくていいでしょ? あなた自身が自分だったら応じないし、普通じゃないと思っているから逃げられないように強制しているんでしょ?」

 美魔女はせっかくの美人顔を自ら不細工にしてまで悔しがっていた。

「この依頼自体は受けても構いませんが、正規の依頼書を持って来ていただけないなら、この依頼書を持って別の街に行って試験を受けます。それじゃあ代官様との約束が守れなくて嫌われちゃいますよ?」

「ーー! 何故!?」

「さて、何故でしょう? 確か代官様の奥さんのご実家って同じ派閥の侯爵家でしたよね。侯爵家の女性が子爵家の男性に嫁ぐって、余程の愛がなければ無理ですよね? 真実を知ったら侯爵家はどうするだろうなー? どう思います?」

 このギルマスと代官は不倫をしている仲なのだ。さっき知った事実だが、最高の手札が手に入ったときには叫び出しそうなほど嬉しかった。そもそも今回の無茶振りは例の隠し資産を使って買い物をしたい代官だったが、市民が盗賊で苦しんでいるときに買い物なんかしたら外聞が悪いと思い守護者ギルドに討伐依頼を出したが、誰も受けてもらえなかったのだ。

 でも盗賊討伐のために動いている姿勢だけでも見せたい代官が、浮気相手のギルマスに頼みフォレストバイパーを売らなかった意趣返しも兼ねて俺たちにやらせているのだ。できないことは目に見えているし、失敗したら違約金を支払わせ、ポイントギリギリで試験を受けている俺たちは降格することになるという嫌がらせだ。

「このあと代官邸にアポでもとってこようかなー」

「やめなさい! 私を脅すとタダじゃおかないわよ!?」

「何言ってんの? 俺たちを脅すとどうなるか分かってないみたいですね? ケツに火がついているのはそっちですよ?」

「証拠は? 証拠はあるの?」

「んーと、この世で最高の証言能力を持つスキルはなーんだ?」

 それを言った瞬間、ようやく心が折れたギルマスは討伐対象は変わらないけど、制約など一切ない通常の依頼書を手渡した。そして正規の説明をし始めた。説明は一人最低一人は殺すこと。死体は証明で持ち帰る。無理でも頭部だけは持ち帰ること。他は奴隷として売ってもいいが、安全を期した方法であることだった。

 ちなみに、【記録】スキルの有用性はドワーフの老人から読み取っていて知っていた。瞬間的に記憶でき好きに記憶を引き出せるスキル故、嘘発見器を使用しての尋問では鬼に金棒状態らしい。

 ギルマスは職業柄尋問する機会もあるだろうから、そのことを知っていても何らおかしくなく、すぐに気づいてくれたのだ。

「この依頼書は保険でもらっておきまーす。試験の妨害をされたり、不適切な審査をされないようにね。試験が終わったらお返ししますよ。それでは失礼しましたー!」

「……本当よ……」

 最後に何かつぶやいていたが無視して部屋を出た。スキルの話が出たからリアには詳細を省いて簡単に説明しておいた。ヴァルは初めての依頼が楽しみなようでご機嫌で歩いていた。

 帰りに魔道オーブンを買った道具屋で木箱やロープなどを大量に買っておいた。拾得物があったとしても木箱に詰めて【異空間倉庫】に入れておけば、手ぶらで帰れるからうっとうしいことは避けられるのだ。

 今日は出発しても微妙な時間になるから出発せず、明日出発することをギルドに伝えて宿に戻った。部屋を取っておいてもらうことと、ロックへの報告だ。

 昼間の間はロックと過ごし、夜には違法奴隷を助けに行こうかななんて考えて教会をスキルで監視していたら、数人が馬車並みの速度で門に向かっていることに気づいた。すぐに宿を出て門に向かうと、教会の馬車四台が普通に門を抜けていった。

 警備兵は何しているんだ?

 俺はそう思わずにはいられなかった。そしてさすがに俺も馬車には追いつけないことで諦めるしかないかと思うと同時に、昨日助けておけばと後悔もした。

 警備兵共……覚えておけよ!

 俺は警備兵を新たな敵として認定しながら宿に戻った。そこで何があったか説明すると、リアも自身のことを思い出したのか悲しそうにしていた。リアが自由になった後も辛そうにしていたから、今回の被害者たちも早く助けてあげたかったのだ。もう警備兵は信用しないと改めて心に誓った。

 ちなみにリアは、ロックとヴァルに挟まれてモフモフされ続けたおかげで、元気を取り戻したのだった。


 ◇


 翌朝、出発前にヴェイグさんが宿にやってきた。

「頼まれていた武器持ってきたぞ。試作だから実戦で試してみてくれ。お前らのことだから盗賊討伐くらいあんまり心配してないが、油断は禁物だからな。本来の依頼とは違う感じだからな」

「ありがとうございます」

 とりあえず五本の改造型棒手裏剣をもらい、スローイングナイフの近くに差しておいた。

「じゃあ行ってきまーす!」

「いってきまーす!」

「ガルゥゥゥーー!」

「「「いってらっしゃーい」」」

 ルドルフさん一家も見送りに来てくれて、俺たちは意気揚々と盗賊討伐試験に向かうのだった。その途中門衛の記憶を読み取っていったのは言うまでもないだろう。


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