召喚勇者、人間やめて魂になりました

暇人太一

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第三章 始まりと報復

第三十七話 巨大蛇は友好の架け橋

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 俺たちが『岩窟熊の安らぎ亭』に入ると、案の定人で大混雑していた。猫の手も借りたいほど忙しいとはこのことだろう。実際見たこともない人がいるから、友人にでも声をかけたのだろう。そして見たことがある人が列に並んでいるのを見つけてしまった。

「ブルーノさんこんばんは」

「あ! アルマ様。そういえばこちらに泊まっていらっしゃるんでしたね」

「ブルーノさんもフォレストバイパー目当てですか?」

「そうなのですよ。妻が聞いてきたと言うものですから、家族と従業員を連れて食べに来たのです」

 あの蛇、本当に人気者なんだな。リアにも確認取ったし、鍛冶職人のおじさんも知り合いがいた方が話しやすいだろう。

「ブルーノさん、お耳を拝借。ロックが平気なら外のかまどでフォレストバイパーが無料で食べ放題です。さらにルドルフさんの料理も食べられます。こちらは有料ですが。どうします?」

「まさかとは思っていたのですが、やはりアルマ様たちが!? それと家族と従業員もよろしいのですか?」

「ロックが平気なら大丈夫ですよ。ロックは危害を加えなければ肉に夢中ですから。ほら、今はリアが抱きついてますよ」

 ポカーンとした顔でリアを見ていたブルーノさんは気を取り直すと、周囲の客に聞かれないように相談し始めた。すると、話を聞いた途端全員の視線が俺に集中する。あまり見られると恥ずかしいし、他の客にバレそうだからやめて欲しい。

「是非お願いします!」

「「「お願いします!」」」

 小声で伝えられ、軽く頷いた後ルドルフさんに人数分の料理を頼み、以前のバーベキューで使ったソースと特製のハーブを使ったソースなどを借りて外に向かった。

「グルルッルウッ!」

「お腹が空いたのか?」

「グルッ!」

 俺に抱きつき鎧をバシバシ叩くロックは腹ぺこで大変らしい。もちろん我がパーティーの肉好き姉弟もだ。それにしてもロックが懐いてくれたのは本当に嬉しい。これでモフモフ感を味わえたら言うことなしだ。

 肉好きトリオを餓死させないように早速焼くのだが、外で食べることに慣れていないブルーノ一家と従業員たち用に木箱や野営道具を出して、テーブルとイスとした。そして今までかまどの火をつけて温めてくれていた鍛冶職人のおじさんが、ようやくブルーノさんに気づいた。

「なんだブルーノか。お前も誘われたのか?」

「ええ。それよりも相変わらず無愛想ですね」

「ほっとけ。それよりもおかしな客を紹介して来んなよ」

「おかしいなんてとんでもない。彼らは歴代最高金額で商品を購入してくださった素晴らしいお客様です!」

「貴族だからだろ」

「違うそうですよ。でも実力は折り紙付きです。情報は大事ですよ」

 など、かなり親しそうに話している。ぶっきらぼうな口調と違って心なしか楽しそうだ。そして俺は何しているかというと、テント設営だ。といっても目隠し程度の簡単なものだ。野営をしたことがある従業員に手伝ってもらい、そこにあらかじめルドルフさんの宿の倉庫における分量に分けておいた蛇肉を出した。それでも大量の肉がいきなり現れて驚いていたブルーノさんの家族と従業員に向け、指を一本立ててヘルムの口の部分に近づけると全員頷いてくれた。子どもも商人の子どもらしく賢い子である。

 そこからは切っては金串に刺してかまどに並べたり、鉄板や網の上に並べたりして焼いた。俺はほとんど肉好きトリオ専属のシェフとして活躍していた。ブルーノさんたちは奥さんや女性従業員、ついでに鍛冶職人のおじさんが活躍していた。

 当然俺が食べないことも話題に上がったが、スキル関係だと説明すると納得してくれた。特に鍛冶職人のおじさんが一番納得していたが、直接《念動魔法》による投擲を見たからだろう。当たるはずのない投擲で百発百中というには、何か秘密があるはずだと思っていたそうだ。

 あと目敏い者たちが、俺たちの食べまくっているものがフォレストバイパーだと気づいた。しかもお金を払っている様子もなく、テントに行っては焼いて食べるを繰り返していれば気づかない方がおかしい。結果どうなったかというと、盗みに来た者たち全てを捕縛し警備兵に連行されていった。大人しく並んでいれば食べれたのに、今日は牢屋で過ごすことになるだろう。

 ちなみに、宿に来た警備兵に対応したのは俺なのだが、警備兵たちの「またお前か!」という顔は正直面白かった。

 そして今はというと、食休みを兼ねて交流会をしている。交流会をしたことで鍛冶職人のおじさんのこともだいたい分かった。

「俺はスヴァルトのヴェイグって言うんだ」

「スヴァルトってなんです?」

「知らんのか? スヴァルトはドワーフとドヴェルグとホビットの総称だ。ブルーノから事情があるって聞いているかもしれんが、その種族のことが関係している」

 何が違うのかということと、想像していたドワーフ像と違いすぎて首を傾げていたら、それをくみ取ってくれたようで続きを話し始めた。

「ホビットは商人や農民、文官など器用に熟すヤツらだ。細工師としても優秀だな。ドワーフは有名な鍛冶職人や魔具職人が多い。物作りに関しては右に出る者はいないとさえ言われている。だがこの二種族は小柄で戦闘能力は高くない。そこで戦闘を熟す種族がいる。それが俺たちドヴェルグだ。体が大きく力も強い。戦闘職としては恵まれた体だ」

「へぇー! じゃあ強いんですね」

「……そういう時期もあった。だが俺は戦士よりも物作りがしたかったんだ。スキルも加工系のスキルをもらえたしな。だから戦士職をやめて遅い弟子入りをさせてもらえるところを探した。だが全くなくてな……」

「え? 何でです? スキルを持っているなら、訓練次第ではすぐに即戦力じゃないですか。しかも戦士職だった経験を活かした実用的なものも作れる。言うことなしですけど」

「お前は少し変わっているんだな。普通は自分の領分に他の職種から乗り換えてきたヤツがいたら、『舐めてんのか?』となるもんだ。特に物作りに関して人一倍強いプライドを持っているドワーフたちは特にな」

 ここでもそういうのがあるんだな。人には向き不向きがあるんだから、どこかで駄目だったから即他も駄目にはならないし、その人が本気で考えた上での転職を断る理由がまさかのプライド。ちょっとモヤッとした俺は目指すは打倒ドワーフと決意していた。というのも、大量の資金を使っていろいろ作ろうと思っているからだ。

 ヴァルの母親に会いに行く旅はきっと長くなるだろうから、少しでも快適な生活を送れるようにといろいろ計画していた。今回の鍛冶職人捜しはそのための第一歩である。そして腕の良い職人は腕の良い職人を知るというし、信頼関係を築いたら紹介してもらおうと思っている。

「もしかしてドワーフともめているんですか?」

「いや、幸いなことに国内では無理だったがこの国の親善大使であり、職人ギルドの理事の一人でもあるドワーフの一人が俺を拾ってくれた。師匠はこの国のゴーレムの作り方を知るために出国するから、『護衛も兼ねて一緒に来い』と言ってくれた」

 本当に嬉しかったのだろう。頬が綻んで笑顔を作っていた。それにしてもドワーフでもゴーレムが作れないのか? それなら俺が……。

「それでどうしてここに?」

「技術を教え込まれた後、辺境での素材の目利きや鉱石の状態など現場でしか分からないこともあるから、危険な南ではない北の辺境で学べと言われてここに来た。ちょうど王都でいろいろあった頃でな。師匠が気遣って距離を置いてくれたのだと思う」

「いい方なんですね。でもそれなら問題なさそうな気がしますが?」

「……俺を弟子にしたことを気に食わない理事がこの街のギルド職員と職人、鋼材商会に圧力をかけて、俺と取引をしないようにしているんだよ。俺の店の前にあった荷車を見ただろう? あれも嫌がらせの一つだよ。付与魔法がかかっているから付与を外さないと鋳つぶせないし、潰せないなら技術がないと言ってネチネチと嫌みを言う。師匠の力が及ばなくなった街に来てからの攻撃にウンザリしているんだ。俺もまさかここまでだと思わなくて改めて師匠に感謝したな」

「あれ? でもブルーノさんとは知り合いなんですね?」

 取引できないならブルーノさんとも無理なのでは? という疑問が湧く。

「あいつは商業ギルドの所属だから関係ないといって仕事を持ってきてくれるんだよ。素材を持ち込んでな。自分ところにも革職人がいるから職人ギルドと無関係ではないはずなんだがな」

 なるほどな。それならばと、俺はいいことを思いついたから提案してみることにした。



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