召喚勇者、人間やめて魂になりました

暇人太一

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第二章 新天地と始まり

閑話 憂鬱な国と出来事

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 太陽教国ソリオンの首都イーリスは未曾有の大事件が起こっていた。きっかけは、大空教会から問い合わせがあった聖剣の確認に宝物庫を訪れたことである。宝物庫には聖剣や勇者召喚に使用する【オーパーツ】など、現在では入手不可能な魔法具や魔道具の全てを保管していた。

 宝物庫とはいうものの、武器庫や倉庫も兼ねた施設という扱いに近かった。勇者召喚などの珍事がなければ基本的に開かずの間となる。そこに目をつけ自身の財産保管庫にしたのが、今回の盗難事件で全財産を失ったチモンズ・ミラーゲイズ枢機卿である。

 彼と現在床に臥せっている教皇だけが、唯一宝物庫を出入りできる人物だったからという理由もあるだろう。

 ただ今回のこの事件が発端となり太陽教国ソリオンを未曾有の危機が襲うのだが、今現在誰も気づいてはいなかった。

 ーーいや、もしかしたら教皇の弟であるランジ・アブールだけは気づいているのかもしれない。


 ◇


 この世界は長子継承が主流だ。どこかには実力でトップに立てる国もあるだろうが、残念ながらこの国ーー太陽教国ソリオンは違う。私はこの国のために多くの功績を打ち立ててきた。しかしその全てを兄である教皇猊下に持って行かれてしまう。

 兄がいる限り私は枢機卿止まりである。

 だがようやく……ようやく私にもチャンスが訪れた。どこぞの者かは分からんが、「よくやった!」と褒めてやりたい気分に満ち溢れた。これだけの功績を持ってきた部下は私にはいない。さらにこれだけ褒めてやりたいと思ったことも、過去と現在のどちらを見ても初めてのことだった。

 教皇猊下の目が覚めないことは私だけではなく、太陽教国全体の利益になると多くの者が思っていることだろう。それを口には出さないだけだ。

 何故なら、最近の猊下は何がいいのか分からんが、オークとスライムを足したような男といい仲になり、ほとんどいいなり状態だからだ。無能もここまで行くと万死に値するぞ。心の中でこのカップルを何度殺したか分からんほどの度しがたさである。

 そして今回の事件が発生したわけだが、つい先日添い寝していたのに猊下を救えなかったという無能さによって立場を危うくしていたデブが、とうとうやらかした。聖剣含む全財産が宝物庫から全て消えてしまったのだ。

 ここで私自身思うことがいくつかある。

 何故猊下だけ襲われたのか。何故隣のデブは襲われなかったのか。ついでにヤッてくれていれば手間を省けたと思う一方、宝物庫の責任を取ってくれる人物を残しておいてくれてありがとうとも思う。デブが責任を取らなければ、我々他の枢機卿の誰かが責任を取らされていたことだろう。

 でも一つだけ言わせて欲しい。

 全部持っていくことないだろう! と。デブのものは全部持っていってくれてありがとうと言いたい。実弾もなければ根回しなどろくにできないだろうからな。だからこそ心の底からお礼を言いたい。

 だが聖剣含む他のものは駄目だ。聖剣は太陽教国の手札の一つであるし、他の資産は国家予算と言っても過言ではない。

 というのも、太陽教国が始めて他の三教国も始めた上、勇者の国も同様の政策をしているせいで、この五大教国の全ての国民が当たり前のように行っていることがある。私は頭がおかしいわけではないから疑問に思うが、できることはないためやることもない。

 では、頭の病気を疑われてしまう政策とはどのようなものかを簡単に説明しよう。聞けば気分が悪くなること間違いなしだ。

 まず五大教国は人族至上主義国家でスキル至上主義国家でもある。スキルホルダーの中でもランクの高いものが上に行ける。さらに当たり前だが宗教国家であるため、王侯貴族はいない。と言っている。実際は完全世襲制の神職で枢機卿などの指名職を除けば、生まれた瞬間に神職という王宮勤務が確定する。まだまだ詳しい話はあるが、それはまた今度話すとしよう。

 重要なのは人族至上主義国家でありスキル至上主義国家でもあることと、神職=貴族であることとの二つである。では他は? と思うだろう。スキルを持っている人族は店を持ったり物を作ったり、スキルなしの人族の副業は農民や教会での育児だ。そして主な仕事こそが正気を疑う悪魔の所業である。

 それはスキル持ちの子どもを作って教会に売ること。教会はランクや種類によって金額を決めて支払う。この政策を取ったことによって人口は増え、教会で働く者は全員スキルホルダーであるのだ。大事なところは、自分で売った子どもを自分で育てられるということだ。最初は不信感を持っていた者たちも今では教会の施しなんだと思っている。慣れとは怖いものだ。

 ちなみに人族以外はスキルを持っていようがいまいが関係なく、全て奴隷である。もちろん違法奴隷もいるし、子どもを購入する資金は世界各地の教会からの上納金やお布施など、教会に集まるあらゆるお金を元に支払っている。宝物庫に入っていた【オーパーツ】や聖剣などの珍品も、ダンジョンに潜った信者から献上されたものだ。

 もう分かるだろうが、五大教国は自己生産能力が低く献上によって支えられた国だ。献上品を売却して資金にする。子どもの代わりに金銭または献上された食料で払う。無能人族が作る食料は有能人族や神職に取られてしまうから、子作りに励み農業は疎かになるという悪循環である。

 国土はそこそこ広く人口もいるが、無能者の教育は行き届いておらず、何もできないくせに選民思想を持って優越感に浸る。まさに無能の極みである。

 幸いなことに同じ考えを持っている者が数多くいる。できることなら無能筆頭である猊下がいないうちに少しでも改善しておきたいと考えている。反対派は勇者召喚で侵略すればいいと考えたみたいだが、どうやら失敗しかけているようだしな。

 しかし、しかしだ! 何かをやろうとするときには先立つものが必要だろう! 具体例はお金だ! それを……それを全て持っていくことないだろう!

 勇者召喚をした瞬間、こうもやることが増えるとは思わなかった。とりあえずなくなったものは各地に連絡して集めることにしよう。まさか献上政策をなくそうとしている私が献上を指示するとはな。皮肉なものだ。

 次に聖剣問題だ。幸いなことに鞘だけはラボにおいてあり無事だったため、中身をそれらしく作った偽物を渡すことにしよう。半分は本物なのだ。言わなければバレないだろう。

 続いてデブだが、降格処分に僻地左遷に減俸処分でいいかな。視界に入らない場所に行ってもらおうか。男好きのようだから、鉱山奴隷および違法奴隷監視官にしよう。

 あとは太陽教国の勇者問題か。これはラボの結果待ちだな。今のところ賢者枠が残っているから、魔法スキルを持っているものとして扱おう。それと代弁者というか監視者の選定を行わなければならないな。

 最後にもうしばらくしたら、各国の勇者がここに集まるんだったな。別に来なくてもいいのに。というか、勇者がいない今、来ないでくれと言いたい。

「はぁ~……」

 思わず出た溜息に秘書官が気づき様子を窺っている。

「いや、なんでもない。やることが多いなと思ってな。……とりあえず、聖剣と勇者の問題を最優先で処理をしなければならない。ラボに行くとしよう」

「お供いたします!」


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