召喚勇者、人間やめて魂になりました

暇人太一

文字の大きさ
上 下
15 / 56
第一章 新生活と新天地

第十五話 秘密はバレるもの

しおりを挟む
 女性二人を乗せた馬車はのろのろとした速度で、街道を順調に進んでいく。ちなみに、狼の肉は捨てていない。何故なら、彼らの晩御飯にしようと思っているからだ。

 この世界は普段からモンスターを食べているらしいが、モンスター図鑑によると、食べられるものとそうでないものがあるそうだ。オーガは無理だが、プゴ太郎は絶品。そしてウルフは食べられるが、癖が強いそうだ。さらに、階級が高いほど美味くなるらしいから、ボスじゃない方のウルフを食べさせよう。まぁ俺には全く関係ないけどな。

 それにしても移動速度が遅すぎる。歩いている俺と同じ速度しか出ていないのだ。まだ昼を少しすぎた頃だが、おそらく今日中に街にはつけないだろう。

「もう少しスピードを出せないもんかね? あとどれくらいかは分からないが、明日には街に入りたいんだけど」

「無理よ。重すぎるわ!」

 女の敵奴隷が抗議の声を上げる。そしてその言葉に敏感に反応したのは、御者台に座っている女性二人だろう。遠回しに重いと言われているようなものだ。怒らないはずはない。

「ま、まぁ奴隷の逃亡防止のために檻が載っているからな。仕方ないと言えば仕方ないだろう。君らのお家なんだから」

 俺の言葉に満足げに頷く女性二人は、これからのことを話しているようだった。でも申し訳ないが、村娘風の女性の面倒は見れない。黄緑の娘はスキルをもらってしまった手前断れないだけだ。この三つのスキルが俺の生命線であることは間違いない。ムカつく神だが、それだけは感謝しているのだ。

 ◇

 数時間後。日が大分傾いて来た頃、ようやく街らしきものが見えてきた。しかし今日中に入ることは無理そうで、仕方なく水場から少し離れた場所で野営することに。

 移動の最中はモンスターが出ず暇だったこともあり、野営用の道具を作っていた。まずは穴が空いた杭を六本。これは逃亡防止用の道具だ。あとは抗菌効果のある葉っぱを人数分採取する。最後にプゴ太郎の肉を小分けに切って、偽装用の収納袋の中に入れておく。まだこの世界の収納スキル事情が分からないのだ。故に、武器をポールアックスに偽装したまましまえないでいる。

 野営の準備は杭を打ち込むことから始まった。等間隔に六本の杭を打ち込み、食事のときはそこに縛り付ける。酷いと思われるだろうが、そもそも奴隷に食事を与えているところを評価して欲しいくらいだ。まぁ明日の車牽きのためという下心から食事を与えているのだが。

 次に火を起こすのだが、魔法具のおかげであっという間に終わる。続いて料理なのだが、女性二人はプゴ太郎の串焼きで、奴隷たちはウルフのステーキだ。味付けは塩だけというシンプルな料理である。

「さぁ召し上がってください」

「あの……アルマさんは食べないのですか?」

 待ってましたーー!

 村娘風の女性が遠慮がちに当然の質問をしてきた。いつ聞かれるかと思っていたが、予想よりも大分早かった。

「俺のスキルは制限をかけることで威力を発揮する特殊なスキルなので、食事は必要としないのですよ。同じ理由で顔を見せることもできません」

 必死に考えた言い訳だ。

 この世界は個人のスキルに対する詮索などは暗黙の了解で禁止されている。それにスキルの全てを解明しているわけではないことから、スキルを盾に取った言い訳は効果抜群なのだ。

「まぁ! すごいんですね!」

「ありがとうございます」

 と言っておく。スキルはすごいが本当ではないからだ。しかし嘘発見スキルがあると窮地に立たされるんだよな。

 それにしても黄緑の娘は超絶可愛いな。黄緑色の背中くらいの髪に桃色の瞳。頭には黒く短い二本の東洋龍のような角があり、黄緑色の虎の尻尾が生えている。さらにおっぱいが大きい。おそらくファンタスティックサイズはあるはずだ。身長は百六十センチくらいだろう。

 不思議な種族だが、串焼きをもきゅもきゅと頬いっぱいに口を動かしている姿は可愛すぎる。

「ちょっと! どうして私たちはウルフステーキなのよ! それはボア肉でしょ? 同じものを要求するわ!」

 まだまだ奴隷だと思えない女工作員奴隷は、チェンジを希望してくる始末だ。

「食べたくなかったら別にいいんだけど。最後の晩餐に肉を食べさせてあげる優しさを感じて欲しかっただけだから」

「ねぇ! 私は違法奴隷なのよ。名簿にも書いてあったでしょ!?」

「もちろん教国の工作員だったと書かれていたけど、工作員が何故母国に帰れるのか聞いても? 普通に考えれば脱走したってことだと思うのだが? あれれ? 生粋の犯罪者を違法奴隷と呼ぶのか?」

「私に何かあったら教国が許さないわよ!」

 悔しそうに顔を歪めながら怒鳴り散らしているが、工作員であることをペラペラしゃべる時点で切り捨てられているはずだ。だが、優しさに溢れている俺は彼女の意志を尊重してあげることにした。

「分かった分かった。じゃあ大事なブローチを林に向かって投げるから、反省しながら探してくれ。方角は分かるんだから簡単だろ? それを罰だと思ってくれ!」

「ちょっと! やめなさいよ!」

「お前に楽をする権利はない。大人しく街に行くか、林の中でブローチを拾うかの二択だ。どうする?」

 まぁ投げるふりだけして【異空間倉庫】にしまう予定だ。ないものをずっと探してモンスターに食べられてくれ。

「……このまま街に行くわ」

「そうか。じゃあさっさと食ってくれ」

 予想に反して街行きを選んだようだ。少し残念である。まぁガサガサと動く林を見てビビらない方が異常だが。

 食事を終えた後は一人ずつトイレに行かせ檻にぶち込む。女性二人には悪いが収納スキルを見せられない今、毛布で我慢してもらいたい。

 深夜、一人で見張りをしていると、黄緑の娘が話し掛けてきた。

「空洞なの?」

 なっ……何で? 何で分かるんだ?

「何のことかな?」

 動揺を表に出さないように返事をするだけで精一杯だった。

「鎧を着て動く音が反響している。私には分かるの。そういうスキルを持っているから」

「……ちょっと場所を変えようか」

 ヤバいヤバいヤバい。正体がバレたら、離れられなくなる。

「空洞疑惑を誰かに話した?」

「ううん。だって隠しているんでしょ? 私にも隠し事くらいあるから、そんなことはしない。それこそ恩を仇で返すことになる」

「……分かった、信じるよ。ついでに収納スキルのことについて何か知ってる?」

 イケメン創造神の娘(仮)だ。その辺の有象無象よりも信用度が高いのは当然だろう。

「私はこの国の人間じゃないから詳しくは知らないけど、あのハゲが言っていたのは馬車くらいの収納スキルがあれば国のお抱えになれるって。ハゲも奴隷にしてでも欲しいって言ってたよ」

「ハゲって奴隷商人?」

「そう。デブでハゲてるキモい男」

 イメージ通りの奴隷商人なのかもしれない。今のところいいイメージが全くないから、俺が想像している最悪イメージは間違っていないだろう。

「じゃあそろそろ戻ろうか。俺のことは詳しく知らない方が君のためだよ」

「君じゃないよ。私の名前は、リアトリス・レーヴェン。十五歳よ。よろしくね」

「……よ、よろしく」

 月明かりの下で微笑む彼女は、つい見とれてしまうほど可愛く、そして綺麗だった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり偽王女とその侍女──ところで本物はどこ行った?──

蓮實長治
ファンタジー
病弱な王女の身代わりに隣国の王子との見合いに出る事になった下級貴族の娘。 ところが、その王子はとんだ屑野郎で……その代りに、何故か、彼女の苦境を助けてくれる「女が惚れる女の中の女」達が次々と現われる。 あなたが年頃の女の子なら……一体、誰を選ぶ? 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「ノベルアップ+」「note」「GALLERIA」に同じモノを投稿しています。(「GALLERIA」「note」は掲載が後になります)

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

今日は許される日です《完結》

アーエル
ファンタジー
今日は特別な日 許される日なのです 3話完結

スキル『日常動作』は最強です ゴミスキルとバカにされましたが、実は超万能でした

メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
この度、書籍化が決定しました! 1巻 2020年9月20日〜 2巻 2021年10月20日〜 3巻 2022年6月22日〜 これもご愛読くださっている皆様のお蔭です! ありがとうございます! 発売日に関しましては9月下旬頃になります。 題名も多少変わりましたのでここに旧題を書いておきます。 旧題:スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~ なお、書籍の方ではweb版の設定を変更したところもありますので詳しくは設定資料の章をご覧ください(※こちらについては、まだあげていませんので、のちほどあげます)。 ────────────────────────────  主人公レクスは、12歳の誕生日を迎えた。12歳の誕生日を迎えた子供は適正検査を受けることになっていた。ステータスとは、自分の一生を左右するほど大切であり、それによって将来がほとんど決められてしまうのだ。  とうとうレクスの順番が来て、適正検査を受けたが、ステータスは子供の中で一番最弱、職業は無職、スキルは『日常動作』たった一つのみ。挙げ句、レクスははした金を持たされ、村から追放されてしまう。  これは、貧弱と蔑まれた少年が最強へと成り上がる物語。 ※カクヨム、なろうでも投稿しています。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

処理中です...