召喚勇者、人間やめて魂になりました

暇人太一

文字の大きさ
上 下
8 / 56
第一章 新生活と新天地

第八話 鴨葱は落胆する

しおりを挟む
 これから異世界を旅するという実感がわき、感動で魂が震える。実際に震えているのだから、よくできた言葉である。

 門を問題なく通り抜け、近くの林の中へ入る。誰もいないことを確認して【異空間倉庫】内を整理する。今回の整理で確認できたことは、くっついていれば一種類として認識してくれるようだ。

 つまり、フルプレートアーマーに投擲武器と魔法具を装備し外套を羽織り、解体用ナイフや図鑑が入った収納袋を背負った姿のまま収納しても一種類と判断されるのだ。変身が楽である。

 収納袋の分が空き、そこに野営道具を入れたため、あっという間に整理は終わった。

 基本的には人目がなければ、《透過魔法》を使用しての移動になるだろう。睡眠も食事も不要だから、魔力が続く限り移動できる。人より多く行動できるところは大きなアドバンテージだ。俺はこの時間を鍛練の時間に充てようと思っている。

 というのも、魔力が増えるなら霊力も増えるはずで、教会のレストランで食事をした後、力が増したように感じられた。つまり、魔力は使用と狩りで増加し、霊力は使用と食事で増加するということだ。行為は違うが、どちらも命を狩るというところも同じである。

 そこで考えた鍛練方法はモンスターを狩る。命を狩ることで魔力が増加して、死んだ直後の屈伏状態の魂を喰うことで霊力も増加するという一石二――いや、素材も手に入れられるなら三鳥の得が、一つの鍛練方法で手に入れられるのだ。

 しかしまだどこのギルドにも登録していない。素材がどうのとか言われるだろうが、狩るのは自由なはずだから大丈夫だと思いたい。

 途中墓地や戦場があれば迷わず寄ろう。アンデッドの巣窟は、俺にとって街道の駅と同じである。レストランの在庫を空にするまで喰いつくそう。

 ◇

 俺は今、変身セットを装備中である。
 それ故、今になって気づいたことがある。
 高級品を身に纏う人物が、他人にはどう見られるかという問題だ。目立たないような機能がついた装備を選ぶも、それは高級品の外套である。意味があるのかないのか分からなくなる。

 さらに言うと、俺は十五歳だ。
 本屋で立ち読みした本には、十五歳で成人するという制度が一般的だと書かれていた。俺は成人したての男の子という扱いが普通であるということだ。

 これらを踏まえて客観的に自分を見ると、成人したての男の子が高級品を身に纏い、独りで歩いて旅をしている。そんな阿呆がどこにいるというのだ。いくら顔が隠れていたとしても端から見れば、王族か貴族のお馬鹿さんが旅をしているように見えるだろう。結論、鴨が葱を背負った状態に見えるわけだ。

 実際、俺も現在進行形で襲われていた。二十人くらいの盗賊に囲まれている。怖くはないが、盗賊に対する罰則や報償などを知りたい。でも、俺は声を出せない。

「おいおい。こんなところにお馬鹿さんがいるぞー! そんな高級品で固めてたら、襲って下さいって言ってるようなもんだろー? じゃあ希望通りにしてやるのが親切ってもんだろ?」

 おそらく盗賊の頭なのだろう男が目の前で叫ぶ。他の盗賊よりも身なりがよく、腰には魔法具のような物をぶら下げている。俺が持っている物と違い、拳くらいの大きさの球形である。

「おい! 聞いてんのかー? 何か言ったらどうだ? あぁん?」

 俺が返事をしないことで無視されていると思ったのか、手に持った短剣を近づけながら凄んできた。別に俺も無視したくて無視しているわけではない。話せないのだ。分かってくれ。

 でもどうせ近づいて来てくれているのだ。情報を頂こう。

 ――《読取リーディング》。

「んっ……」

 昨日一日で大分上達したようで、体が一瞬ビクッと跳ねるだけで済み、誰にも疑問に思われずに情報を頂けた。

 ありがとう。そして、さようなら。

「ぐっ……あっ……」

 スローイングナイフを抜き取り首に向けて投擲する。《念動魔法》で動かしているため、吸い込まれるように首に刺さる。

 盗賊の頭の膝が地面につき、そのまま前に倒れ込んだことで他の盗賊も動き出す。

「この野郎ー! やりやがったなー! 頭の仇だ! やっちまぇぇぇーー!」

 俺は一斉に向かってくる盗賊の首に向かって、ポールアックスを横一閃に振り抜く。元々重量がある武器を遠心力を使って振り抜いたため、五、六人まとめて首が飛んだ。それにビビって動かなくなった盗賊に向けてスローイングナイフを投擲しながら、ポールアックスでの斬撃を与えていく。結果、十分もかからず盗賊の討伐を完了した。

 この戦法は移動中に練習していたものだ。イメージトレーニングから始まり、鎧を動かして武器を使う練習。投擲武器を投げたように見せかける練習。その成果が発揮されて嬉しく思う。

 それと、やっぱり盗賊を殺しても大丈夫であること。盗賊の所有物は討伐者に所有権が移ること。賞金首の場合は証拠があれば支払われること。生きていれば奴隷として売却できること。死体は焼却処分すること。基本的にはこの五つを知っていればいいらしい。

 ということで、片付けの時間だ。まずは食事をする。

 ――《魂喰ソウルイーター》。

 やっぱり戦闘直後ということで、あっという間に二十人分の魂を喰い終わった。

 次にスローイングナイフを抜いて回り、ポールアックスと一緒に血や脂を拭って手入れしたあと収納する。続いて、盗賊たちの身包みを剥ぐ。何が証拠になるか分からないから、身分証と武器を革袋に入れ、野営道具セットの木箱に入れる。

 最後に盗賊が武器にしていたくわで穴を掘り死体を入れる。ついでに生まれて初めての魔法を試すことにした。

 水色の魔法具を取り出し、魔力を流すようにイメージしながら魔法具を持つ。すると、魔法具の先端につけられた透明の石が赤色に変わる。商品ケース内の取扱説明書に書かれていた通りの変化ということは、起動準備完了の状態ということだ。

 俺は赤色に光る石を死体に向け、魔法を放ってみる。

 ――《火球》。

 取扱説明書に書かれていた通り、イメージした魔法が赤色に光る石から約十センチ離れた位置に出現した。俺は直径十五センチ程度の火球を発射するように意識する。直後、死体に向かって飛んでいき衝突する。威力はそこそこあるようで、衝撃で死体が数体転がり激しく燃えていた。

 俺は初めての魔法に大興奮し、大いに浮かれていた。そんな俺をあざ笑うかのごとく新たな問題が浮上する。

 なっ……。水が出ない。

 そう、水色の魔法具は火属性専用の魔法具だったのだ。火属性専用で金貨六枚もしたという事実に、金持ちの俺でもさすがに落胆した。

 まだ……桃色の魔法具がある。

 希望を胸に桃色の魔法具を使用してみると、先端につけられた透明の石は白色に輝いていた。この時点ですでに水属性ではない気がするが、物は試しと思い発動してみた。

 ――《水球》。

 当たり前のように何も出ない。始めから分かっていただけにそれほどショックではない。だって白色の属性が該当しそうなものは一つしかないからだ。

 ――《光弾》。

 俺の予想は的中したようで、直径二センチほどの光の弾が三発現れ、発射のイメージの直後、燃えている死体に穴を穿った。

 光魔法の威力に感動するも、大きなミスに気づき頭を抱えるのだった。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

スキル『日常動作』は最強です ゴミスキルとバカにされましたが、実は超万能でした

メイ(旧名:Mei)
ファンタジー
この度、書籍化が決定しました! 1巻 2020年9月20日〜 2巻 2021年10月20日〜 3巻 2022年6月22日〜 これもご愛読くださっている皆様のお蔭です! ありがとうございます! 発売日に関しましては9月下旬頃になります。 題名も多少変わりましたのでここに旧題を書いておきます。 旧題:スキル『日常動作』は最強です~ゴミスキルだと思ったら、実は超万能スキルでした~ なお、書籍の方ではweb版の設定を変更したところもありますので詳しくは設定資料の章をご覧ください(※こちらについては、まだあげていませんので、のちほどあげます)。 ────────────────────────────  主人公レクスは、12歳の誕生日を迎えた。12歳の誕生日を迎えた子供は適正検査を受けることになっていた。ステータスとは、自分の一生を左右するほど大切であり、それによって将来がほとんど決められてしまうのだ。  とうとうレクスの順番が来て、適正検査を受けたが、ステータスは子供の中で一番最弱、職業は無職、スキルは『日常動作』たった一つのみ。挙げ句、レクスははした金を持たされ、村から追放されてしまう。  これは、貧弱と蔑まれた少年が最強へと成り上がる物語。 ※カクヨム、なろうでも投稿しています。

処理中です...