召喚勇者、人間やめて魂になりました

暇人太一

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第二話 幻想は現実に

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 死んだ勇者の顔は、十五年間毎日見ていたフツメンだった。ということは、死んだ勇者は俺だということになる。でも、俺はここにいる。声は出せないが視覚も聴覚もある。

 待てよ……。さっきから無視されてるってことは、俺って……幽霊なのか?

 いくらフツメンジミーズの俺でも、誰にも気づかれないほどの気配遮断スキルは持ってない。しかし、幽霊ならば誰にも気づかれなかったとしても納得できる。そして同時に、死亡説が確定してしまった。

 ふざけんなぁぁぁぁーー!

 納得してしまった直後、声も出せないのに叫んでしまった。いきなり誘拐されて訳も分からず死んでしまったとか、「そっか」って納得できるか。青春は? 女体の神秘は? 夢と希望を木っ端微塵に打ち砕き、三十歳になってもいないのに妖精飛び越えて魂にするとか悪魔か。

 この瞬間、俺は復讐を決意した。さらに復讐と同時に、新たな夢を見つけた。おかげで少しは冷静になれた。その夢とは、健全な男子ならば一回は願ったことがあるだろう幻想。だが、神の存在の証明と並ぶほどの幻想。

 そう、透明人間である。

 死んだから人間ではないが、見つからないという素敵スキルがあるなら使わない手はない。夢は叶えるためにあるのだから。願わくば、この世界に美人がいて除霊されないこと。この二つだけである。

 俺が復讐を決意し新たな夢に心躍らせていると、勇者の死亡を聞き動揺していた爺さんが、力なく起き上がり話し始めた。

「と、とりあえず……スキルの確認だけでもしよう。まだ手はある。それに他国の勇者もいる。送還術式のことがある限り、我々には逆らえんはずだ!」

 まず他国にも勇者が召喚されていたことにも驚いたが、爺さんの馬鹿さ加減にも驚いてしまった。送還術式をエサに他国よりも優位に立とうと思っているのだろうが、エサに食いつく者は地球に帰りたいという前提があるはずだ。つまり、他国の勇者が帰りたくないと思ったり他国が帰還を許さなかったりしたら、爺さんの作戦は使えないということになる。

 他国にいる勇者が『俺Tueee』したいと思っているヤツなら、この爺さん終わりだな。

「しかしスキルの確認ができるのは本人だけですが? それに死んでもスキルは残るのですか?」

 爺さんの指示に、回復魔法をかけていたおっさんが質問する。

「そこは鑑定士にスキルを見てもらう。スキルがあるのなら見えるはずだ。死体にスキルがあるか分からんが……一応の確認だ」

 よくよく考えてみれば、死体にスキルがない可能性の方が高い。そのことに気づいた爺さんは俯きながら指示を出した。余裕がない今は藁にもすがる思いで鑑定するようだ。当然、死活問題だと全員が認識しているため反対意見は出ない。

「……どうだ?」

 爺さんが祈るように鑑定士に聞くも……。

「……残念ですが、ありませんでした」

 鑑定士の言葉は爺さんたちの期待を裏切り、絶望するのに十分な言葉だった。

「ただ名前と年齢は分かりました。アサヒ・ツキモト、十五歳です」

「……分かった。ラボに運べ。このことは極秘とする。よいな!」

「「「「はっ!」」」」

 しかし続けられた鑑定士の言葉にわずかな希望を見つけた爺さんは、おっさんたちに命令を出し、俺の死体をどこかに運び始めた。

 一瞬、埋葬してくれるのかと感心したのだが、ラボという怪しさ抜群の言葉を聞き、埋葬という期待と感心という感情を捨てた。

 ラボっていうと、研究所や実験室か。そんな場所に俺の肉体が運ばれるなんて、なんとなく嫌な予感しかしないな。

 そうこうするうちに肉体が運び出され、召喚に使われた部屋の重そうな扉が閉められた。魂だけの状態だから当然と言えば当然なのだが、誰にも気づかれず声をかけられることもなく取り残された。

 おーい。俺は……?

 一度は肉体に触れ、憑依というのか分からないが幽体離脱の逆を試したかったのだが、肉体を持って行かれたため何もできなくなってしまった。

 まぁなくなってしまったものは仕方がない。それよりも、爺さんが言っていたスキルが気になる。決別した肉体にはなかったようだが、もしかしたら魂に刻まれているのかもしれないと、ほのかに期待していたのだ。

 ここは異世界だ。ステータスという不思議があるはず。ということで、ステータスオープン。

 ――何も起こらないんだが……。

 目の前に透明な板が表示されるんじゃないのか? それが異世界のテンプレだったはず。スキルの有無の確認すらできないのは、本当に困る。

 人間として召喚されたらされたで教会に利用されて使い潰されそうだけど、魂の状態は無防備すぎて怖い。地球のゲームで出て来るレイスとかに該当するのなら、魔法攻撃や聖属性に弱かったはず。今のところ分かっているのは、太陽の光に当たっても大丈夫だということだけである。

「おや? どうしたのかな? 何か困りごと?」

 本気で困り始めていたところに、いきなり話し掛けてくる声が聞こえた。今の今まで誰もいなかったはずなのに声が聞こえた方を向くと、ニヤニヤと笑っている長髪のイケメンがいた。

 偉い人が座るであろう椅子に腰掛け、肘掛けに頬杖をついて俺を見ている。魂である俺を見ていることにも驚くが、おそらくイケメンって予想できるくらいしか姿が見えない。もやがかかっているのか透けているのか分からないが、はっきり見えないのだ。

 えっと……お仲間ですか?

 声を出せないが、一応言ってみる。
 そして発言通り俺が出した結論は、アンデッド仲間であるということ。透けて見え、魂の俺と会話ができるのならアンデッドしかない。そう考えるのが自然だ。

「はははっ。違うよー。僕はね、この世界の創造神だよ。どう? 驚いた? でも、僕も驚いたんだよ? 術式のミスに気づいて、召喚直後に肉体と魂が分離するなんてことが起こるんだもん。それに痛かったでしょ? 普通は痛みに我慢できなくて、生を手放すんだけどね。君はそうならなかったから、僕から色々プレゼントを贈っといたよ。詳しくは手紙に書いたからね。それじゃあ、またね!」

 今まで薄らと姿が見えていた長髪のイケメンが、光の粒となって太陽の光に溶け込んだ後、完全に見えなくなっていた。

 マジか……。異世界に来てすぐに二つ目の幻想を叶えてしまった。神の存在の証明を。

 とりあえず、プレゼントを見るとしよう。プレゼントは何歳になっても嬉しいし、ワクワクするな。何が出るかなー? プレゼントオープン。

 力の限り念じるも変化はない。そもそもスキルを見れず困っていたのに、プレゼントの確認など到底不可能だったのだ。

 どうしろと? ――んっ?

 先ほどまでイケメン創造神が座っていた場所に、メッセージカードが置かれていた。そう言えば手紙がどうのと言っていた気がする。メッセージカードに目をやると、そこにはイケメン創造神からのメッセージが書かれていた。

『どう? 焦った? プレゼントの前にステータスを見れる方法を教えるよ。この世界の三歳児ができるほど簡単だからね。安心していいよ。方法は魔力を使ってステータスと念じるだけ。本人しか見えないよ。君の場合は魔力の塊だからちょっと特殊だけどね。ステータスが見られれば、プレゼントも見れるからね。ガンバー!』

 読み終わった直後、メッセージカードは消えた。さっきとメッセージカードを通して思ったことが一つある。

 あいつ、すげームカつく。

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