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第五章 生命の試練と創造神解放

第百話 詐欺師

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「……きなさい……ねぇ……起きなさい……起きろ!」

「うわっ!」

「やっと起きた!」

「えっ? どこここ?」

 ボムのモフモフに身を委ねて、モフモフ天使のソモルンと深い眠りについた記憶が、一番新しい記憶だったはず。至福の時を邪魔され起きたら、既視感を覚える真っ白な空間が目の前に広がっていた。

「えっ? 死んだ?」

「そんなわけないでしょ」

 至福の時を邪魔した声と同じ声が、俺の疑問を否定する。その声が聞こえた方を向くと、どこか幼さが残る美少女がいた。艶のある白い髪に白い肌、金色の瞳に、可愛らしさとあどけなさが混じり合うほのかに赤い可愛らしい唇。

 色気は足りないが、十分美少女と断言できる容姿をしていたのは間違いなかった。色気については、どこをどう足りないかは言わないでおこう。思いもしない。色気の件を想像しただけで、目の前の美少女の目が、機嫌が悪い時の大魔王様の目と同じになったからだ。だが、おかげで目の前の美少女が誰か分かった。

「これはこれは、もしかして【創造神・クレア】様でしょうか? 御尊顔を拝謁することが出来たことは、身に余る光栄でございます!」

「ふっふっふっ。畏まらなくてもいいのよ。全て見ていたのだから。あなたが私の解放を後回しにしたのは、オークの国のことがあったからかしら?」

「いえ。時間がなかったからです」

 本当に時間がなかったからなのだが、少しだけ怒られるかな? と、思っていたことも事実だ。

「それでは、予定がズレるわね……。でも、ついでだものね♪」

 何やら、ブツブツと独り言を言う創造神様。嫌な予感しかしないのは、この世界の神様が自分の欲求に素直だということを知っているからだろう。

「ねぇ、お姉さんはあなたにお願いがあるのだけれど、もちろん聞いてくれるわよね?」

 確か、火神様達の母親的な存在だったはず。俺の両親が火神様達なら、創造神様は……。この先は想像しない方がいいのだろう。ヘリオス事変以上の怒気が、目の前の美少女から発せられていた。とりあえずの確認と、一度この話題から離れよう。

「創造神様が力を行使できるのなら、解放しなくてもいいんですよね?」

「……違うわ。解放はしてちょうだい。監禁場所に近いことと、現在私が使える全力の内の九割を、あなたにお願いを聞いてもらうために使っているだけよ」

「残りの力は?」

「熊さんの観察よ」

「えっ? どの熊?」

「あなたと一緒にいる可愛い子よ」

 まさか使える力を全て娯楽に使っているとは、さすが火神様達の母親である。それにしても、ボムの観察をしているとはな。

「お願いは聞いてくれるのかしら?」

「聞くだけならば……」

「それは――と――を用意して欲しいの。そのあと、――も飛行船につけて。一生のお願い!」

 意味の分からない注文に、俺の頭の中で疑問符が踊っていた。必要なのか? と、思ってしまったのも仕方がないだろう。

「……本当に一生のお願いなんですね?」

「……」

 俺の質問に目をそらす創造神様。絶対に最後じゃねぇだろ。

「リオリクスにもあげていたでしょ?」

「それはうちに、リオリクス様に頭が上がらない熊がいますので」

「では、あなたが頭が上がらないプルームを呼べばいいのね?」

 なんて恐ろしいことを……。大魔王様の命令は絶対なのだ。王様の言うことは? とかいうレベルではない。ぶっちゃけ、王様の言うことは無視できる。だが、大魔王様の言うことは誰にも無視できないのだ。

「それは……ちょっと……。それに材料が……」

「あなたも何やら企んでいたでしょ? その役にも立つ情報を与えるわ!」

「何でしょう!?」

「お願いを聞いてくれるのね?」

 さすが創造神様なだけある。勢いで教えてくれなかった。火神様がドジっ娘と言っていたから、もしかしたらと思ったのだが……。

「……いいでしょう。交渉成立ということで」

「やったわー! 楽しみー♪」

「それで情報とは?」

「生命のダンジョンは、大地のダンジョンに次いで魔法金属や、神聖属性が付与された鉱石が採掘出来るわ。深部に行くほど、高純度の物が採れるから材料の問題は解決ね。あと、基本的に十大ダンジョンの魔物はコアから生み出された魔物だから、可愛いモフモフではないわよ。聖獣並みの子や神獣並みの子もいるけど、従魔には出来ないわよ。油断しちゃダメよ! あと、ソモルン達のことありがとう。これからもお願いね! それじゃあ、また会いましょう」

 一方的に話したと思ったら、有無を言わさず送り返された。新たなお使いを追加されて。





 そして、次に目が醒めたときは、目の前に大きな熊の顔があった。

「おい、ラース。起きろ。腹が減ったぞ!」

「ああ、現実か。あまり寝た気がしないな」

「んっ? ぐっすり眠っていたぞ?」

 巨デブの熊さん達の朝ご飯を用意しながら、夢の中で起こった話をボム達に聞かせた。当然、お願いの件は省いて。ただ、採掘の話はしなければならず、飛行船の材料ということにした。飛行船の材料が足りていないことは事実であるから、ここで解決出来るなら攻略と同時に飛行船も完成するだろう。

「そもそも、何故そんなに材料が必要なんだ? ほぼ完成していたと思ったが」

 機関部以外が完成している飛行船を見たことがあるボムとソモルンが、材料が多すぎると抗議してきた。もちろん、理由はある。むしろ、この探検コンビのせいだと言いたい。

「二人が探検ガイドブックを見て、海底遺跡も行きたいね。砂漠の地下にも遺跡があるらしいから行きたいね。と言って、同時に行けるようにしとけよって言っていたから、改造ではなく造り替えているのだが、忘れてしまったのかな?」

「「……」」

「風呂付きに大広間、大食堂。全員が入れる寝室に、いつか全神獣が来ても大丈夫なような部屋づくり。水中と水上、砂中と砂上、空中と何でも来いというようにするには、高純度の魔法金属が山ほど必要なのだが、分かってくれたかな?」

「「ごめんなさい」」

「よろしい!」

 最初はボム達の希望に添った形になっていたが、どうせ造るならば完璧を求めてしまっていたのも事実。彼らが納得してくれたならば、それで話はおしまいである。

 その後、朝食を済ませた俺達は蛇の森へと出発しようとしていた。だが、その前にやることがある。

「ラドン。しばらくお別れだ。ラドンはまだ十大ダンジョンに入れない。死んでしまうからな。待っているか?」

 俺の問いに、首を横に振るラドン。どこか行きたいところでもあるのだろうか?

「ラドンのことは、私の友達が面倒を見てくれることになったの。ラドンも一緒に行きたいそうよ!」

 またもセルが自信満々に答えた。その答えに頷くラドン。昨日から友達と言っているが、いつの間にそんな友達が出来たのだろうか。

「昨日の?」

「その友達とは別よ」

「友達がいっぱいいるんだな」

「まぁね♪」

 一抹の不安があるが、信じることにしよう。各々ラドンと別れを済ませ、覚悟を決めて蛇の森へと向かうのだった。

「では、行ってきます!」

「うむ。迎えを待っているぞ」

 俺達は歯を食いしばり、一歩ずつ歩を進めていくのだった。



「すっげー! ザ・ジャングルって感じだな」

 魔境である密林と平原の境界まで来たのだが、鬱蒼と乱立している樹木の迫力は想像以上だった。少し先の密林の中は、すでに陰になっていて見えにくくなっていた。明るい平原に立っている俺達には、余計暗く見えづらくなっている。

「じゃあ、入る前にジャンケンな。先頭一人真ん中二人殿一人、ソモルンは負けたら先頭の者の肩か背中。勝ったら真ん中の者の肩か背中。これでどうだ?」

 俺の提案に静かな闘気がほとばしる。絶対に真ん中がいい、と。

「「「「「最初はグー!」」」」」

「「「「「ジャンケン……ポン!」」」」」

「「よっしゃー!」」

 結果は、先頭はフェンリルとソモルン。殿はセル。真ん中は俺とボム。決まった瞬間、勝利の雄叫びをあげてしまった。

 喜ぶ俺とボムを横目に、絶望の表情を浮かべている狼コンビとソモルン。

「まあ、頑張ってくれたまえ!」

「……神獣が先頭でいいのか? 修業にならないぞ?」

「ここ以外だったら先頭で戦うかもしれないが、上方も警戒しなければいけないから前方は任せた! 後方は背中を叩くものが、手ではなくアゴだったら困るよね?」

「イヤー! おかしなこと言わないで!」

 一番嫌なのは後方だというのは、全員の共通の認識だったのだろう。目の前で震えるセル。そのセルの主君はというと、余計なことを言って変えられないようにと目を閉じていた。そんなボムにも魔の手が伸びる。

「ボムちゃん……。真ん中でもいいと思わない? 僕はボムちゃんのマントの中がいいな!」

 このミニ怪獣は、一番安全な場所に避難したいようだ。なかなかに強かなミニ怪獣だった。

「……肩ならいいと思うぞ。前方から上方に変わっただけだと思えばな。出会い頭の目の前に、お顔があるよりはいいと思うがな」

「うわあぁー! やめろー!」

 狼コンビは揃ってダメージを受けていた。全身の毛を震わせて。

「じゃあ、ソモルンをボムの肩に乗せて出発!」

 密林に一歩ずつゆっくりと進んでいくフェンリルの後に、俺達もゆっくりついて行く。魔力把握を全開で。魔境だからか魔力の回復も早く、全方位に魔力把握を行っても魔力を消費している気がほとんどしなかった。

 しばらく歩き、結構奥まで来たと思うがダンジョンらしいものが全く見えない。そもそも、どんな形をしているのか分からない。

「フェンリルは、ここのダンジョンのこと知っているのか?」

「もちろん知っているぞ。見た目は教会らしいぞ。魔法金属が多く採れるらしいぞ!」

「あれ? 俺が朝言ったことだよな?」

「んっ? 言ってたっけ? まぁ有名な話だ。生粋の聖獣のお気に入りのダンジョンだからな。魔宝石や魔法金属が山ほど採れるんだ。まぁ魔宝石は、各属性なら他でも採れるけどな。大地のダンジョンは、砂漠だから汚れるって言って、聖獣は全く近付かないしな」

 ……騙された。あの美少女に騙された。有名な話を私だけが知ってる風に言うところは、神ではなく詐欺師だろうが。確かに、私だけが知ってるとは言っていなかった。だが、普通そう思うだろ。ドジっ娘と聞いていたが、やり手の詐欺師だった。

 しかし、創造神様との契約。破ったら怖そうだから、今回は勉強料だと思うことにした。



 そろそろ休憩するかというところで、魔物と遭遇するハメに……。

「ボム! 怖いよ!」

 と、ボムの腹に抱きつく俺。少しずつ上目遣いをしながら、顔をあげボムの顔を見る。きっと、心配してくれているだろう。

「……」

 顔をしかめ俺を見つめるボムは、アゴを動かし前方の魔物へと促した。

「チッ! また俺かよ!」

「仕方ないだろ。阿呆と蛇は、お前の担当なんだからな。さっさと退かしてこい!」

「先頭にフェンリル置いた意味ないじゃないか!」

 阿呆と蛇の担当だと初めて教えられた俺は、仕事を熟すことにしたのだが、退かすことはやめた。同じ思いを共感してもらうために。

「かかってこいやー! クソ蛇!」

 今まで様子見だった大蛇が鎌首をもたげ、槍のごとく一直線に俺に向かってきた。

 ――大地魔術《岩槍》――

 ――魔闘術《雷》――

 足元に大地魔術で槍を作り、大蛇の突進を踵落としで迎え撃ち、頭を返し付きの槍に突き刺した。当然目の前には大蛇の頭と、今もビクビクとのたうち回る蛇の胴体。振り返った先には、両手を地面につき餌付く四人組。

「「「「おぇー!」」」」

「どうしたのかな?」

 共感してくれたようで大満足の俺は、彼らにご機嫌で質問した。

「退かせと言っただろ! 目の前に固定しろとは言っていないぞ!」

「ごめーん。てっきり、討伐しろってことだと思ったんだ。許してー!」

 ジト目を向けられるが、今更嘘でしたとは言えない。その瞬間、モフモフ権が失効してしまうからだ。

「それよりも、この蛇どうする?」

「残していっても誰も食べないぞ」

 フェンリルが質問に答えてくれたが、不味いからではなさそうだ。

「この蛇は結構強いんだが、それを倒した者の獲物を横取りしようとは普通は考えない。しかも、放置するとアンデッドになるぞ。蛇のアンデッドって、あの化け物達みたいで気持ち悪いぞ! たぶん!」

「確かに気持ち悪いな。それにこのままだと、邪魔で通れないから解体屋に送って、どこか欲しい人に売るかオークにあげよう。一応、旨いらしいぞ。それか【蛇の巣】に送って、共食いさせても面白そうだな♪」

「「「悪魔か!」」」

「……何か?」

「「「いえ。何でも!」」」

 ボムはさすがである。今回はツッコまなかった。相当蛇を使ったお仕置きが嫌なのだろう。だが、ボムは勘違いをしている。ボムにはお仕置きをするつもりはないのだ。モフモフ権の関係で。

 蛇を【無限収納庫】にしまいつつ奥に進むと、密林の中だということが信じられないような空間に出た。丸く切り取られたような空間には、少しくたびれた感じの教会があり、その教会を中心に光が降り注いでいた。

「あれか……。趣がある教会だな」

 大聖堂のような華やかさや迫力はないものの、神の言葉を届け伝える場所としては、この教会以上の場所はないだろうと思う。大聖堂にも創造神様の加護はなかったが、こちらは生命のダンジョンにもかかわらず、創造神様の加護が付与されていた。この教会こそが、総本山の名に相応しいだろうと思う。

「何か書いてあるな。【生命の試練】を乗り越えた者に栄光と祝福を、か。ダンジョンのことか?」

 教会の脇にある石碑に書かれた文章だが、ダンジョンのことなのかどうかは、詳しく書かれていなかった。

「フェンリルは何か知っているか?」

「少しならな。表の試練は、その系統の魔法や魔術の正しい使い方かな。裏は神獣には知らされていない。創造神様が決めて、各担当神様だけが知っているらしいぞ。暴嵐のダンジョンだったら、詳しく教えてあげられたのにな」

 あの美少女……裏の試練とやらを教えろよ。それにしても、どうしたものか。聖獣並みの魔物以外のことも気を配らなければならなくなっては、難易度が一気に高くなってしまう。一人悩んでいると……。

「では、俺が教えよう」

 その言葉とともに、見知った者が目の前に現れたのだった。


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