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第四章 神聖リュミリット教国
第九十九話 完結
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絶叫の中に愉悦の声が混じっていたようだが、暗闇の世界へと滑走していく姿は、あっという間に俺達の視界から消えていった。
「楽しそう♪」
「……ねぇ、ラース。本当に楽しそうだと思ってるの?」
可哀想な子を見る目で俺を見つめるソモルン。そんな風に見て欲しくない俺は、すぐに誤解を解くべく行動に移した。
「そんなわけないだろ。嫌がらせのために言ったんだよ。他にもいるしね。一番最後はラドンをいじめた女が乗っているソリだよ」
「そうだよね。あんな寂しいところに、自分から行きたいなんて思わないよね。独りぼっちは寂しいもんね」
経験者の言葉は重みがあり、ソモルンの寂しさを色濃く表しているように感じられた。ボムも同じように感じたのだろう。ソモルンを抱き上げ、一緒に大穴を覗いていた。
「そういえば、落ちたら死ぬのか?」
凄まじい速さで滑走していく姿を目にしたボムは、あの速度ならば衝突すれば死ぬだろうと思ったようだ。確かに、普通であれば死ぬだろう。だが、衝撃吸収の魔法陣が設置されているため、その心配は無用であった。
「死なないぞ。底に行くまでの移動手段だからな」
「移動手段だけで、あれに乗せられるのか。俺にはやるなよ!」
「えっ?」
嫌そうなボムだが、アレをやる予定があったため返事に困ってしまった。
「やるつもりだったのか? 何も悪いことしていないのにか?」
「あれは暗いから怖いけど、遊ぶと楽しんだぞ!」
「……じゃあ、そのときは見本を見せてからにしろ。そしたら、考えてやってもいい!」
遊びという名のつくものに弱い巨デブの熊さんは、俺を実験台に指名してきた。
「わかった。いいぞ♪」
ボムとソモルンは、嬉しそうに頷く俺を見て訝しんでいた。その視線に困っていると、ソリが転送されてきた。衝撃吸収の結界魔術のおかげで、死にはしないが音も聞こえないという難点があった。底に着いたのに、気づかないというのは時間の無駄である。そこで、到着したらソリだけが転移してくるようにした。
「次の便、出発進行ー!」
「「「「うわぁー!」」」」
その後も順調に落としていき、全員無事に終着駅へと辿り着いたようだ。
「おーい! 聞こえているか? 今からゲームをするぞ。お前達は全部で五十名くらいか。今から四十個の丸薬を落とす。その丸薬は、これからかける薬の解毒剤だ。残りの解毒剤は、ここに置いておく。属性纏を使えるお前達ならば、すぐに上がって来られるだろう。それから、明日になれば上がれるようにしてやろう。今日はオークの元巣穴でゲームを楽しんでくれたまえ!」
不妊治療薬と痒み体験薬、除毛薬を混ぜ込んだ特製ローションをたっぷり散布した。隠れるところがない大穴の底にいる者達は、頭からその劇薬ローションをかぶり、足首ほどの高さまでローションに浸かっていた。
【神魔眼】で確認した俺は、四十よりも少し少な目の丸薬を撒いた。少ない解毒剤を醜く奪い合うがいい。
「鬼はー底!」
「変なかけ声だな」
豆まきの掛け声を引用してみたのだが、元々を知らないボム達には変な掛け声に聞こえるだろう。今回のお仕置きは、ある意味娯楽だろう。高貴なお嬢様も一緒に放り込まれ、リアルハーレムパラダイスになっている。
薬の効果も相まって、楽しい一夜になること間違いなしだ。頑張りすぎて、翌朝の脱出に支障をきたすことがないことを祈る。
「じゃあ仕上げを終えたら、馬車に帰るぞ!」
――創造魔術《貯水槽》――
――創造魔術《水槽》――
――召喚魔術《魔蛇》――
――結界魔術《防壁》――
「うんうん。最高の出来栄えだ!」
「よく見えんが、何をしたんだ?」
夜の闇のせいで、よく見えない新装置が気になるボムだが、無闇に近付くこともしない賢い巨デブであった。
「片方は、大穴を満たせるくらいの水が貯められている穴だな。もう片方は、毒なしの蛇の魔物を入れた水槽だ。そこまで強くないぞ。あとは三つの穴を、上から防壁で塞いでいるだけだ。翌朝太陽に照らされながら、大量の水と蛇が上から降り注ぐようになっている。陽光に照らされた滝のような水流は、きっと幻想的な光景を作り出しているんだろうな。ちなみに、水が防壁に触れない限り、防壁は絶対に解除されない。属性纏で連撃されれば、もしかしたら解除されるかもしれないけど、足場がない場所で力の乗っていない連撃など、はっきり言って無意味だろ? それを知らない彼らは、頑張って挑戦するはず。そして無理だと悟ったとき、目の前の甘い蜜に手を出すはず。高貴なお嬢様は純潔を守れるのか? 頑張って欲しい!」
序盤の蛇の件からすでに震えているボムは、俺を悪魔を見るかのように見つめてきた。鋭い視線のボムは、いったい何を考えているのだろうか。モフモフ権のことか? それは駄目だ。
「どうした?」
「俺にやるなよ。俺に蛇を使った嫌がらせをしたら、一生モフモフ禁止だからな。チビッ子以外の全員が対象だから、あの狂気のモフリスト共に囲まれても知らないからな!」
「僕もー!」
悪魔に対する攻撃手段としてはいかがなものか? と、思ってしまうような攻撃方法だが、俺にとっては致命的であった。この際、モフリスト共はどうでもいい。だが、ボムのモフモフ禁止令は絶望的だ。それに加え、天使と思えるほどの可愛さを持つミニ怪獣からも、同様の警告を受けてしてしまった。今までこんなことなかったのに……。
「ボム達にそんなことするわけないだろ? 安心してくれ!」
「……本当だな? 信じていいんだな?」
「もちろん!」
「その言葉、忘れるなよ」
「約束だ!」
やっと納得してくれたボムは、顔をいつも通りの可愛い熊さんに戻していた。そのことを確認した俺は、兵士達の武器を大穴の周りに墓標のように突き刺していった。魔道具やマジックアイテムなどは回収して、服は焼却処理した。裸で恥をさらして欲しい。残っている物は鎧などの防具。返すのは嫌だが、欲しくもないからこそ悩む。
「どうするんだ? それ」
「うーん。そうだな……。最初は獣王国に送ろうかと思ったが、座標が分からないから無理だ。残る転送先はドライディオス王国だけだが、それをやると俺だとバレるだろ?」
「私に任せて!」
一人悩む俺の前に、神が一頭舞い降りた。その神の名は……
『セル』。
普通に引っ張ることもない者だったが、珍しい行動を取っていたため、セルだと気づくまで時間が掛かった。
「……どうした? 熱でもあるのか?」
「失礼ね! 私でもやるときはやるのよ!」
「じゃあ、頼もうかな」
「任せてちょうだい!」
それから防具を一つに纏めると、少し離れた場所に置いて離れるセル。どうなるのか見ていると、周囲の影が防具を包み、そのまま影に引きずり込んだ。その現象が収まったあと、その場には何も残されていなかった。
「はっ? 何が起こったんだ?」
「私の友達に連絡して、ドライディオス王国の王都にいるコイツらの関係者に送ってもらったの。これで獣王国にも知らせられるでしょ?」
こいつは本当に、あのお馬鹿さんのセルなのか? 本物なのか? それに友達って……いったい誰のことだ? 魔力の波動を感知させないほどの、影魔術を使える友達がセルにいるとは……。
「どう? すごいでしょ!」
「すごいぞ! よくやった!」
ボムに誉められて御満悦のセルだったが、気になることが多すぎる。だが、答える気はないようだ。俺の視線に気づくと、カルラの陰に隠れるという行動に出たからだ。
「まぁ、結果的に助かったからいいか。とりあえず帰るぞ!」
転移した俺達は、ある者達はラドンを大いに愛で、ある者……正確には俺だけはオークの下に行き、ダンジョンの固定と再利用方法を説明した。あとは、この国を自由に作って欲しいことと、城塞についての説明など諸々を終わらせた。
各国への建国宣言は、さっきガルーダに頼み眷属を派遣してもらい、各国に宣言書をばらまいてもらっている。帝国が証明になっているという証拠に、帝国の土地を割譲したときの契約書の写しもともにばらまいた。これで簡単には異を唱えることはできまい。オーク達の軍備が整うまでの時間くらいは稼げるはずだ。
それで攻めて来るようなら、また土地が広がるということ。将来、モフモフ天国を造ってもいいかもな。
◇◇◇
「ふっふっふっ。面白いこと思いつく子ね。よく言えばボルガニスに似ているとも言えるけど、悪く言えばヘルスクロに似ているとも言えるわね」
ラースの行動を覗き見て、一人感想を呟く【創造神・クレア】。だが、この感想は当然ながら主観であり、他の神々ならば口を揃えて言うだろう。
『お前にソックリだ!』
――と。自身の計画の裏で、その計画の余波が原因で当人の知らない計画が、勝手に動き始めているところがソックリだった。今回のことで言えば、ラースが教国達への嫌がらせに魔物達を解放したことで、ラースの望むモフモフ天国が勝手に造られていた。当然、ラースはそのことを知らない。
このようなことが、創造神にも何度かあった。だからこそ、天界から酒の肴に観賞している火神達は、末の弟の活躍を見ているかのような気分になっていた。そのラースの母親は、何やら考えを巡らせていた。
「それにしても、私の解放を後回しにしたということは、オーク達の建国について咎められるかもしれないと思っているのよね。全然怒らないけど、これを利用してお願い事を聞いてもらいましょう♪ 彼の計画のおまけみたいなものだから、きっと大丈夫でしょう。最悪、プルームから頼んでもらうのもありかもね♪」
的確にラースの弱点を突いてくるあたり、確かにソックリだと言ってしまうのは頷ける。創造神のお願い事とは、いったい何なのか気になるが、聞いたところでラースの運命は変わることはないだろう。
「それにしても、聖戦が早く終わりすぎてヘルスクロ達が介入する間もなかったわね。きっと気づくのは、まだまだ先なんでしょうね。このまま解放されるまで、何も起こらないといいんだけどなぁ」
ふぅ。と、一息つくと椅子の背に身を預ける創造神であった。
◇◇◇
「やっと、ラドンを愛でることが出来る!」
モフモフと毛並みを楽しむ俺だが、周囲のモフモフ率はかなり高かった。ラドン自体がそこそこ巨大ということで、チビッ子達が群れに群れて遊んでいた。いつもならすでに寝てしまっているのに、賢く優しいラドンに甘えているのだった。
「ゴロロロ~♪」
俺にモフられているから、喉を鳴らしているわけではない。カルラが可愛いから、喉をならしているのだ。そして、それに気をよくしたカルラの両親が誉めることで、さらにご機嫌になり喉を鳴らしていた。
ラドンがカルラを可愛がる理由の一つに、この一行では最弱であるというのがあると思われる。化け物揃いの中に、可憐な一輪の花が咲いていたら、それは宝石以上の輝きを放っていることだろう。ちなみに、俺はその化け物共に含まれているとは思っていない。異論も受け付けない。正真正銘の人間は俺だけのはずだからだ。
ラドンの顔に抱きつくカルラを、ラドンは嬉しそうに微笑み顔を押しつけていた。
『ふわふわだー♪』
はしゃぐカルラも可愛く、両親はだらしない顔をして見守っていた。ちなみに、背中はチビッ子達が占領している。今日はこのまま一緒に寝るそうだ。それに驚いたのは、当然ラドンだった。いつも厩舎で独りで寝ていたそうで、一緒に寝ることが失礼ではないのかと、心配そうにしていた。
野生でも独りだったから、独りで寝るのには慣れているから気を遣わなくてもいいと言っていたそうだが、気を遣ってなどいない。はっきり言って、俺達のわがままに付き合わせているだけである。
チビッ子達が寝始めると、フェンリルがチビッ子達が起きない程度の、魔力の使い方を教えていた。俺やボムも一緒に習っていた。勉強会は意外にも楽しいものだった。
ちなみに、カルラはプルーム様に回収されていたから、ラドンと一緒には寝ていない。カルラはプルーム様の抱き枕要員として、必要不可欠な存在であった。たまに、ボムの腹で寝るカルラを見送るときの、ボムを見る瞳は大魔王に相応しいほどの鋭さを持っている。だが、それでもドヤ顔をして自慢するボムは、真の勇者なのかもしれない。
その後、勉強会はお開きとなり次々と就寝していったが、教国への復讐とも言えないようなお仕置きを終え、俺は感慨にふけっていた。その俺の耳に響く声。とっくに寝たはずの巨デブの熊さんの声だった。
「……終わったのか?」
「ああ」
「そうか。……まだ旅するよな?」
「いや、これからが本当の旅だ」
「そうだな。楽しみだな!」
「ワクワクするな!」
教国に対する復讐という目的を終えた俺を心配してくれたボム。ここが旅の終着点なのかと思わせてしまったようだ。だが、これからが本当の旅だと、ボムと新たな冒険への期待を胸に話し合ったのだ。当然、そこには……。
「僕も入れてー♪」
可愛いソモルンも一緒にである。
その日は三人でモフモフしながら、笑顔で眠ったのだった。
――一つの冒険の旅が終わった。【熊野友翔】の旅である。教国への復讐の完遂をもって、【熊野友翔】は安らかに眠ることだろう。【熊野友翔】の志や想いをラースが受け継ぎ、新たな冒険への旅が始まる。復讐にすがらなければ、生きていけないような環境ではなくなった。周囲には信頼出来る者達がたくさんいる。家族も出来た。だからこそ、これからは本当の笑顔で、新たな冒険へと歩み出して行く。ワクワクという想いを胸に抱いて――
「楽しそう♪」
「……ねぇ、ラース。本当に楽しそうだと思ってるの?」
可哀想な子を見る目で俺を見つめるソモルン。そんな風に見て欲しくない俺は、すぐに誤解を解くべく行動に移した。
「そんなわけないだろ。嫌がらせのために言ったんだよ。他にもいるしね。一番最後はラドンをいじめた女が乗っているソリだよ」
「そうだよね。あんな寂しいところに、自分から行きたいなんて思わないよね。独りぼっちは寂しいもんね」
経験者の言葉は重みがあり、ソモルンの寂しさを色濃く表しているように感じられた。ボムも同じように感じたのだろう。ソモルンを抱き上げ、一緒に大穴を覗いていた。
「そういえば、落ちたら死ぬのか?」
凄まじい速さで滑走していく姿を目にしたボムは、あの速度ならば衝突すれば死ぬだろうと思ったようだ。確かに、普通であれば死ぬだろう。だが、衝撃吸収の魔法陣が設置されているため、その心配は無用であった。
「死なないぞ。底に行くまでの移動手段だからな」
「移動手段だけで、あれに乗せられるのか。俺にはやるなよ!」
「えっ?」
嫌そうなボムだが、アレをやる予定があったため返事に困ってしまった。
「やるつもりだったのか? 何も悪いことしていないのにか?」
「あれは暗いから怖いけど、遊ぶと楽しんだぞ!」
「……じゃあ、そのときは見本を見せてからにしろ。そしたら、考えてやってもいい!」
遊びという名のつくものに弱い巨デブの熊さんは、俺を実験台に指名してきた。
「わかった。いいぞ♪」
ボムとソモルンは、嬉しそうに頷く俺を見て訝しんでいた。その視線に困っていると、ソリが転送されてきた。衝撃吸収の結界魔術のおかげで、死にはしないが音も聞こえないという難点があった。底に着いたのに、気づかないというのは時間の無駄である。そこで、到着したらソリだけが転移してくるようにした。
「次の便、出発進行ー!」
「「「「うわぁー!」」」」
その後も順調に落としていき、全員無事に終着駅へと辿り着いたようだ。
「おーい! 聞こえているか? 今からゲームをするぞ。お前達は全部で五十名くらいか。今から四十個の丸薬を落とす。その丸薬は、これからかける薬の解毒剤だ。残りの解毒剤は、ここに置いておく。属性纏を使えるお前達ならば、すぐに上がって来られるだろう。それから、明日になれば上がれるようにしてやろう。今日はオークの元巣穴でゲームを楽しんでくれたまえ!」
不妊治療薬と痒み体験薬、除毛薬を混ぜ込んだ特製ローションをたっぷり散布した。隠れるところがない大穴の底にいる者達は、頭からその劇薬ローションをかぶり、足首ほどの高さまでローションに浸かっていた。
【神魔眼】で確認した俺は、四十よりも少し少な目の丸薬を撒いた。少ない解毒剤を醜く奪い合うがいい。
「鬼はー底!」
「変なかけ声だな」
豆まきの掛け声を引用してみたのだが、元々を知らないボム達には変な掛け声に聞こえるだろう。今回のお仕置きは、ある意味娯楽だろう。高貴なお嬢様も一緒に放り込まれ、リアルハーレムパラダイスになっている。
薬の効果も相まって、楽しい一夜になること間違いなしだ。頑張りすぎて、翌朝の脱出に支障をきたすことがないことを祈る。
「じゃあ仕上げを終えたら、馬車に帰るぞ!」
――創造魔術《貯水槽》――
――創造魔術《水槽》――
――召喚魔術《魔蛇》――
――結界魔術《防壁》――
「うんうん。最高の出来栄えだ!」
「よく見えんが、何をしたんだ?」
夜の闇のせいで、よく見えない新装置が気になるボムだが、無闇に近付くこともしない賢い巨デブであった。
「片方は、大穴を満たせるくらいの水が貯められている穴だな。もう片方は、毒なしの蛇の魔物を入れた水槽だ。そこまで強くないぞ。あとは三つの穴を、上から防壁で塞いでいるだけだ。翌朝太陽に照らされながら、大量の水と蛇が上から降り注ぐようになっている。陽光に照らされた滝のような水流は、きっと幻想的な光景を作り出しているんだろうな。ちなみに、水が防壁に触れない限り、防壁は絶対に解除されない。属性纏で連撃されれば、もしかしたら解除されるかもしれないけど、足場がない場所で力の乗っていない連撃など、はっきり言って無意味だろ? それを知らない彼らは、頑張って挑戦するはず。そして無理だと悟ったとき、目の前の甘い蜜に手を出すはず。高貴なお嬢様は純潔を守れるのか? 頑張って欲しい!」
序盤の蛇の件からすでに震えているボムは、俺を悪魔を見るかのように見つめてきた。鋭い視線のボムは、いったい何を考えているのだろうか。モフモフ権のことか? それは駄目だ。
「どうした?」
「俺にやるなよ。俺に蛇を使った嫌がらせをしたら、一生モフモフ禁止だからな。チビッ子以外の全員が対象だから、あの狂気のモフリスト共に囲まれても知らないからな!」
「僕もー!」
悪魔に対する攻撃手段としてはいかがなものか? と、思ってしまうような攻撃方法だが、俺にとっては致命的であった。この際、モフリスト共はどうでもいい。だが、ボムのモフモフ禁止令は絶望的だ。それに加え、天使と思えるほどの可愛さを持つミニ怪獣からも、同様の警告を受けてしてしまった。今までこんなことなかったのに……。
「ボム達にそんなことするわけないだろ? 安心してくれ!」
「……本当だな? 信じていいんだな?」
「もちろん!」
「その言葉、忘れるなよ」
「約束だ!」
やっと納得してくれたボムは、顔をいつも通りの可愛い熊さんに戻していた。そのことを確認した俺は、兵士達の武器を大穴の周りに墓標のように突き刺していった。魔道具やマジックアイテムなどは回収して、服は焼却処理した。裸で恥をさらして欲しい。残っている物は鎧などの防具。返すのは嫌だが、欲しくもないからこそ悩む。
「どうするんだ? それ」
「うーん。そうだな……。最初は獣王国に送ろうかと思ったが、座標が分からないから無理だ。残る転送先はドライディオス王国だけだが、それをやると俺だとバレるだろ?」
「私に任せて!」
一人悩む俺の前に、神が一頭舞い降りた。その神の名は……
『セル』。
普通に引っ張ることもない者だったが、珍しい行動を取っていたため、セルだと気づくまで時間が掛かった。
「……どうした? 熱でもあるのか?」
「失礼ね! 私でもやるときはやるのよ!」
「じゃあ、頼もうかな」
「任せてちょうだい!」
それから防具を一つに纏めると、少し離れた場所に置いて離れるセル。どうなるのか見ていると、周囲の影が防具を包み、そのまま影に引きずり込んだ。その現象が収まったあと、その場には何も残されていなかった。
「はっ? 何が起こったんだ?」
「私の友達に連絡して、ドライディオス王国の王都にいるコイツらの関係者に送ってもらったの。これで獣王国にも知らせられるでしょ?」
こいつは本当に、あのお馬鹿さんのセルなのか? 本物なのか? それに友達って……いったい誰のことだ? 魔力の波動を感知させないほどの、影魔術を使える友達がセルにいるとは……。
「どう? すごいでしょ!」
「すごいぞ! よくやった!」
ボムに誉められて御満悦のセルだったが、気になることが多すぎる。だが、答える気はないようだ。俺の視線に気づくと、カルラの陰に隠れるという行動に出たからだ。
「まぁ、結果的に助かったからいいか。とりあえず帰るぞ!」
転移した俺達は、ある者達はラドンを大いに愛で、ある者……正確には俺だけはオークの下に行き、ダンジョンの固定と再利用方法を説明した。あとは、この国を自由に作って欲しいことと、城塞についての説明など諸々を終わらせた。
各国への建国宣言は、さっきガルーダに頼み眷属を派遣してもらい、各国に宣言書をばらまいてもらっている。帝国が証明になっているという証拠に、帝国の土地を割譲したときの契約書の写しもともにばらまいた。これで簡単には異を唱えることはできまい。オーク達の軍備が整うまでの時間くらいは稼げるはずだ。
それで攻めて来るようなら、また土地が広がるということ。将来、モフモフ天国を造ってもいいかもな。
◇◇◇
「ふっふっふっ。面白いこと思いつく子ね。よく言えばボルガニスに似ているとも言えるけど、悪く言えばヘルスクロに似ているとも言えるわね」
ラースの行動を覗き見て、一人感想を呟く【創造神・クレア】。だが、この感想は当然ながら主観であり、他の神々ならば口を揃えて言うだろう。
『お前にソックリだ!』
――と。自身の計画の裏で、その計画の余波が原因で当人の知らない計画が、勝手に動き始めているところがソックリだった。今回のことで言えば、ラースが教国達への嫌がらせに魔物達を解放したことで、ラースの望むモフモフ天国が勝手に造られていた。当然、ラースはそのことを知らない。
このようなことが、創造神にも何度かあった。だからこそ、天界から酒の肴に観賞している火神達は、末の弟の活躍を見ているかのような気分になっていた。そのラースの母親は、何やら考えを巡らせていた。
「それにしても、私の解放を後回しにしたということは、オーク達の建国について咎められるかもしれないと思っているのよね。全然怒らないけど、これを利用してお願い事を聞いてもらいましょう♪ 彼の計画のおまけみたいなものだから、きっと大丈夫でしょう。最悪、プルームから頼んでもらうのもありかもね♪」
的確にラースの弱点を突いてくるあたり、確かにソックリだと言ってしまうのは頷ける。創造神のお願い事とは、いったい何なのか気になるが、聞いたところでラースの運命は変わることはないだろう。
「それにしても、聖戦が早く終わりすぎてヘルスクロ達が介入する間もなかったわね。きっと気づくのは、まだまだ先なんでしょうね。このまま解放されるまで、何も起こらないといいんだけどなぁ」
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◇◇◇
「やっと、ラドンを愛でることが出来る!」
モフモフと毛並みを楽しむ俺だが、周囲のモフモフ率はかなり高かった。ラドン自体がそこそこ巨大ということで、チビッ子達が群れに群れて遊んでいた。いつもならすでに寝てしまっているのに、賢く優しいラドンに甘えているのだった。
「ゴロロロ~♪」
俺にモフられているから、喉を鳴らしているわけではない。カルラが可愛いから、喉をならしているのだ。そして、それに気をよくしたカルラの両親が誉めることで、さらにご機嫌になり喉を鳴らしていた。
ラドンがカルラを可愛がる理由の一つに、この一行では最弱であるというのがあると思われる。化け物揃いの中に、可憐な一輪の花が咲いていたら、それは宝石以上の輝きを放っていることだろう。ちなみに、俺はその化け物共に含まれているとは思っていない。異論も受け付けない。正真正銘の人間は俺だけのはずだからだ。
ラドンの顔に抱きつくカルラを、ラドンは嬉しそうに微笑み顔を押しつけていた。
『ふわふわだー♪』
はしゃぐカルラも可愛く、両親はだらしない顔をして見守っていた。ちなみに、背中はチビッ子達が占領している。今日はこのまま一緒に寝るそうだ。それに驚いたのは、当然ラドンだった。いつも厩舎で独りで寝ていたそうで、一緒に寝ることが失礼ではないのかと、心配そうにしていた。
野生でも独りだったから、独りで寝るのには慣れているから気を遣わなくてもいいと言っていたそうだが、気を遣ってなどいない。はっきり言って、俺達のわがままに付き合わせているだけである。
チビッ子達が寝始めると、フェンリルがチビッ子達が起きない程度の、魔力の使い方を教えていた。俺やボムも一緒に習っていた。勉強会は意外にも楽しいものだった。
ちなみに、カルラはプルーム様に回収されていたから、ラドンと一緒には寝ていない。カルラはプルーム様の抱き枕要員として、必要不可欠な存在であった。たまに、ボムの腹で寝るカルラを見送るときの、ボムを見る瞳は大魔王に相応しいほどの鋭さを持っている。だが、それでもドヤ顔をして自慢するボムは、真の勇者なのかもしれない。
その後、勉強会はお開きとなり次々と就寝していったが、教国への復讐とも言えないようなお仕置きを終え、俺は感慨にふけっていた。その俺の耳に響く声。とっくに寝たはずの巨デブの熊さんの声だった。
「……終わったのか?」
「ああ」
「そうか。……まだ旅するよな?」
「いや、これからが本当の旅だ」
「そうだな。楽しみだな!」
「ワクワクするな!」
教国に対する復讐という目的を終えた俺を心配してくれたボム。ここが旅の終着点なのかと思わせてしまったようだ。だが、これからが本当の旅だと、ボムと新たな冒険への期待を胸に話し合ったのだ。当然、そこには……。
「僕も入れてー♪」
可愛いソモルンも一緒にである。
その日は三人でモフモフしながら、笑顔で眠ったのだった。
――一つの冒険の旅が終わった。【熊野友翔】の旅である。教国への復讐の完遂をもって、【熊野友翔】は安らかに眠ることだろう。【熊野友翔】の志や想いをラースが受け継ぎ、新たな冒険への旅が始まる。復讐にすがらなければ、生きていけないような環境ではなくなった。周囲には信頼出来る者達がたくさんいる。家族も出来た。だからこそ、これからは本当の笑顔で、新たな冒険へと歩み出して行く。ワクワクという想いを胸に抱いて――
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ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
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