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第三章 欲望顕現
第百六話 遺産からの悪魔受肉
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「さぁ、三台目の荷車を外に送りなさい!」
お金を全て回収し終わった頃、見計らったかのように現れて指示を出すタマさん。今まで音信不通になっていたのに。
「分かりました」
ゴーレムに指示を出して三台目を外に送る。
ゴーレム十六体の内、最初からいる十体には三台の荷車の護衛を指示した。
「次に行くわよーー!」
「どこにですか?」
「まぁまぁついてきなさい!」
怪しい……。
光る板に誘導されてついた場所はキルゾーンの最奥だった。
「壁をぶち破りなさい!」
「――はっ!?」
「いいから! 中を壊さない程度に、壁だけをぶち破りなさい!」
カーさんがやるのかと思って周囲を見回すと、全員の視線が俺に集まっていた。
「……俺か」
――《身体硬化》
――《身体練成》
――《属性纏鎧・地》
――《武霊術》
――《金剛》
――《打突》
鬼畜天使流格闘術――金剛鬼拳。
ワニさんの能力である《身体硬化》で拳を強化し、魔力でガントレットを形成して、《身体練成》で腕力を強化した拳をスキルを使用して繰り出す。
破壊の規模が大きくなりがちな【玄冥】の代わりに創った技だ。
それと声に出していない時点で分かっているだろうが、【鬼畜天使流格闘術】は俺が勝手に呼んでいる流派で、本人は知らないはず……多分。
技名も教えてもらったものをアレンジしたり、新しく作ったりしている。
たとえば『水龍掌打』は、元々『龍掌打』という技だったが、《属性纏衣:水》を使用したから『水龍』にアレンジした。
今回の『金剛鬼拳』は、動き以外がオリジナルということと、【玄冥】を模して創った技に鬼畜の無茶ぶりを掛けて技名を決めた。
ちなみに、【鬼畜天使流格闘術】を公的に言うとしたら、【鬼天流】という名前をつけようと思っている。きっと怒られずに済むはず。
それはさておき、報告をしなければ……。
「壊れました」
「ご苦労!」
壁の向こう側には扉があり、五つの小さな窪みがあった。
「カーさん、コインをっ!」
「はいよー」
窪みに絵柄が描いてあるらしく、絵柄に合わせるようにはめていた。鍵と言われているだけあって、はめ終わると同時に扉が開いていく。
入るかどうかの確認をする前に勝手に中に入る光る板。自由すぎるだろう。
「見なさい! アレが【迷宮核】よっ! 言っとくけど、絶対壊すんじゃないわよ!」
「「「へーい」」」「ガーゥ」
「――なんて?」
「「「はい!」」」「ガウッ!」
光る板越しなのに圧がすごい。
そして寝たふりをしているネーさんもある意味すごい。まぁ鬼畜天使も女の子には優しいけども。
「こっちの扉に宝物があるからもらっていくわよー!」
「――えっ!? 単一報酬型の迷宮で宝物!?」
タマさんの言葉を聞いて一番驚いていたのはラビくんだった。迷宮に関して詳しいラビくんだ。タマさんの言葉に違和感を持ったのかもしれない。
「まぁまぁ!」
言われるままに扉を開けるも暗くてよく見えない。戦闘もしていないからいいかと思い、照明代わりの魔術を発動する。
「光よ、《照明》」
「――これはっ!?」
「マジかっ!」
ラビくんとカーさんが驚いているけど、俺としては他人の家の物置や倉庫を見た感覚に近いかな。
「二人ともどうかしたの?」
「……古代遺跡っていうのは知ってたけど……古代文明の遺産がなんでここに……」
「ねっ! 宝物でしょ!」
何で知ってるんだ?
また根回し作戦なのか?
「さぁ運び出すのよ! と言っても、三種類の物品と補修部品と工具しかないからすぐ終わるわよー!」
終わればご飯だ!
朝早くから作業をしているおかげで、まだ昼を少し過ぎたくらいだ。
細かい疑問はこの際どうでもいい。
早く終わらせたい。
「森よ、《樹木兵》」
二十体のゴーレムを出して、バケツリレーのように外に運び出す。キルゾーンの外に出せば、蛇から出て余った荷車が置いてあるはず。
それに載せれば何往復もしないで済む。
ゴーレムを使用しての人海戦術により、あっという間に片づき、制限時間内に外に向かうことができた。
さぁご飯だーー!
と、ラビくんと競うようにして外に出た。
しかし待っていたのは面倒な展開だった。
「またかよ……」
島に渡ってきた冒険者が、荷車に積んであるお金を奪おうとしていたのだ。
「それは俺のだから、欲しかったら中で拾って来なよ」
腹が減りすぎて敬語を使う余裕すらない。
五人組の冒険者は、いわゆるハーレムパーティーというものらしく、男が一人しかいない。
「オレ様が見つけたんだから、オレ様の物に決まってるだろう!」
「ゴーレムに見晴らせているのが分からないのか? まぁカボチャパンツを履いている時点で頭が悪そうだけど。なっ! カボチャップリン!」
「「グッ……」」
固い絆で結ばれたお金回収組が、金髪おかっぱの貴族風冒険者を見て笑いを堪えている。
彼はカボチャパンツを履いているわけではない。ただ、ブーツとグリーブのせいで太腿部分が膨らんでいるだけだ。
「我が家門を侮辱する気かっ!」
「出たぁーー! 都合が悪くなると家門を出す! あなた個人に言っているのに、話をすげ替えるのはやめてくれないかな? パパの身分しか武器を持っていないなら、今すぐ冒険者をやめた方がいい。それと、家門の名を汚しているのはあなた自身だけど?」
「な、なんだと!? オレ様がそのようなことをするはずないだろうがっ!」
「迷宮内はゴブリンしかいないんだけど? 実力主義を掲げる【九天王国】の貴族はゴブリンすら倒せないのなっ! あなたの容姿は特徴的だから、【九天王国】ですぐに噂になるんじゃないかな!?」
ゴブリン以外もいるけど、ゴブリンと大して違いはないから大丈夫でしょ。
「いいだろうっ! 貴様よりも多く討伐してきてやろうっ! ここで待っていろっ!」
カボチャップリンは四人の女性を連れて迷宮の中に入っていった。
「……待つの?」
「待つわけないじゃん! 昨日の場所まで行ってご飯だよ!」
四台の荷車を運ぶためゴーレムはそのままにし、昨夜の野営地に向かう。
「あっ!」
「ラビくん、どうしたの?」
「カボチャップリンが、【迷宮核】を壊したみたい。崩壊の音が聞こえる!」
俺たちが攻略してから時間が経ってないから、あっという間に奥まで行けちゃったのか……。
「ガラガラって?」
「違うよ。【突発型迷宮】の崩壊は、【迷宮核】が設置された空間が心臓部なんだけどね、アークが塔型牢獄の封印を壊したみたいな無音の破裂が起こるんだ。空間は【迷宮核】に飲み込まれて元の遺跡に戻るの!」
「なるほどー! 《閃駆》並みの移動術がないと逃げられないね!」
「そうだよ! 基本的に迷宮内では転移魔術は使えないからね!」
迷宮という亜空間に座標というものがなく、あったとしても迷宮内の座標は外の世界の座標は別であるため、転移魔術で必要な要素の座標選択が使えないのだ。
ではどうするかというと、スキルの移動術や身体強化で速度を増すしかない。
最たるものが《閃駆》である。
つまり、カボチャップリンの運命は決した。
「さよなら、カボチャップリン!」
別れのあいさつをした後、何事もなく野営地に到着できた。
「お風呂を沸かしてちょうだい! あと、宝物庫から持ってきた黒い長方形の箱があったでしょ!? アレを運んで来て!」
俺は一人しかいないのだが……?
まだ戻していないゴーレムに荷物を運ばせ、風呂の準備をする。
専用のドームに風呂釜、洗体用の湯釜を設置して、脱衣所に着替えを置く棚も設置した。
俺たちも入りたいから丁寧に造ったのだが、自分のために丁寧な仕事をしてくれたのだと誤解したタマさんが大喜びしている。
「それで、コレには何が入っているんですか?」
めちゃくちゃ嫌な予感がする。封印したい。
「開けてみなさい!」
嫌すぎる……。
カーさんとアイコンタクト交わし、両端を持って丁寧に蓋を開けた。
「…………ついにか」
「どうよ! 神族っぽいでしょ!? あんたの親戚で通りそうよね!」
ついに来てしまったのだ。
鬼畜天使が受肉する時が……。
メイド服を頼まれたときに予想はしていたが、いくら何でも早すぎだろう。
桃色髪の色白美少女が黒い箱の中に横たわっていた。何故か開いているまぶたのおかげで、俺と同じ天色の瞳だということも分かる。
さらに全裸のおかげで胸の大きさが小振りだということも……。
でも俺たちは知っている。
タマさんもレニーと同じく、『貧乳』という単語をタブーとしていることを。
ゆえに、俺たちはその事実を事実としてのみ受け取り、誰かと結びつけることは絶対にしない。地獄に行きたい者は誰一人としていないのだから。
「……これって……死体?」
「これは【魔導人形】よ! しかも古代の最新技術の結晶よー!」
「どういう意味です?」
「だから、古代文明の中では最新技術で、その技術で造られた最先端で最高の【魔導人形】なの! このレベルになると、超級職の【魔導技師】しか造れないのよー!」
「じゃあ何で『古代の』がつくんですか?」
「文明が滅んだからに決まってるでしょ? そもそもラビくんが驚いたのも関係していて、古代文明の都市はあんたが捜している【天空大陸】にあるのよ! この【魔導人形】みたいな古代遺物は、本当なら古代文明の都市にしかないのよー!」
何故それをラビくんが知っているのかも気になるが、地上には古代都市はないのか?
「地上にはないんですか?」
「昔はあったけど、今はさっきの遺跡みたいなところしかないわねー! 一つだけ変わらないところがあるけど、そこは都市じゃないからねー!」
「どこです?」
「【大老】が担当している大陸よ! 理不尽の塊だけど、すごいパンダであることは間違いないわ!」
チラリと横目で見ると、カーさんとネーさんにラビくんまでも嬉しそうにしていた。
「さぁ【魔導人形】のすごさが分かったでしょ! そしたらこの紙を人形の胸の上に置きなさい!」
お供えをするための光る板の窓口から一枚の紙が出てきた。
本当は断りたいが、許されるはずもないため素直に言われるがまま置く。
「――タマさぁぁぁぁん!? も、もしかして……《巫現術》を使うの!? で、できるの……?」
紙を見たラビくんが絶叫した。
それだけで、ことの重大さが分かるというものだ。
「あたしに不可能はないっ! ただ、最新技術の人形でも素材が微妙だから、五パーセントくらいの力しか出せないわねー! 戦力としてはあんまり役には立たないだろうけど、一応冒険者登録はするわよー!」
「できるの!?」
「天使に不可能はない!」
紙に書かれた術式が淡い光を放ち、人形の中に吸い込まれていった。
「ほ、本当に……?」
ラビくんは何かを知っているようだけど、ラビくんが人形をガン見しているせいで聞くに聞けない。
「ふぅ……少し動かしづらいのねー!」
人形が起き上がったことで悪魔の受肉が完了したことが分かる。
「タ、タマさん。天界にいなくていいんですか?」
「これは転生術じゃなくて降霊術みたいなものだからねー! あっ! あんたの世界で似たようなものがあったわ! アレよ! 『VR』っていうの? アレと同じようなもので、アレに五感が加わるって感じよ! だから全く問題ない!」
「じゃあ他の誰かが使うことも?」
「それは無理。あたしの術式を刻み込んだから、あんたたちの誰かが協力しない限りは無理!」
釘を刺してきた……。
裏切ったら地獄行きのやつだ……。
「じゃああたしは体に慣れるための運動を兼ねてお風呂に入ってくるから、ご飯の準備よろしくねー!」
「悪魔が受肉するとパワーアップするっていうのは本当だったんだな……」
「オレたち何やらされるんだろうな……」
俺の呟きに真っ先に反応したのは刑務仲間のカーさんだ。タマさんは親玉の法務大臣だから不安になるもの仕方がない。
今までは遠いところで指示だけ出していたから多少は反抗できていたが、法務大臣自ら現場に来てしまったのだ。
もう中間管理職に陳情をすることもできまい。
「アーク! 着替えーー!」
「はーい! ただいまーー!」
この日のために作らされていたメイド服と下着を持って、脱衣所に置いてある籠の中に入れた。
「ここに置いておきますから」
「ありがとー!」
珍しくお礼を言うなと思って出ようとしたところ……。
「明日から毎朝、【鬼畜天使流格闘術】の訓練だからねー!」
と、爆弾を落とされたのだった。
お金を全て回収し終わった頃、見計らったかのように現れて指示を出すタマさん。今まで音信不通になっていたのに。
「分かりました」
ゴーレムに指示を出して三台目を外に送る。
ゴーレム十六体の内、最初からいる十体には三台の荷車の護衛を指示した。
「次に行くわよーー!」
「どこにですか?」
「まぁまぁついてきなさい!」
怪しい……。
光る板に誘導されてついた場所はキルゾーンの最奥だった。
「壁をぶち破りなさい!」
「――はっ!?」
「いいから! 中を壊さない程度に、壁だけをぶち破りなさい!」
カーさんがやるのかと思って周囲を見回すと、全員の視線が俺に集まっていた。
「……俺か」
――《身体硬化》
――《身体練成》
――《属性纏鎧・地》
――《武霊術》
――《金剛》
――《打突》
鬼畜天使流格闘術――金剛鬼拳。
ワニさんの能力である《身体硬化》で拳を強化し、魔力でガントレットを形成して、《身体練成》で腕力を強化した拳をスキルを使用して繰り出す。
破壊の規模が大きくなりがちな【玄冥】の代わりに創った技だ。
それと声に出していない時点で分かっているだろうが、【鬼畜天使流格闘術】は俺が勝手に呼んでいる流派で、本人は知らないはず……多分。
技名も教えてもらったものをアレンジしたり、新しく作ったりしている。
たとえば『水龍掌打』は、元々『龍掌打』という技だったが、《属性纏衣:水》を使用したから『水龍』にアレンジした。
今回の『金剛鬼拳』は、動き以外がオリジナルということと、【玄冥】を模して創った技に鬼畜の無茶ぶりを掛けて技名を決めた。
ちなみに、【鬼畜天使流格闘術】を公的に言うとしたら、【鬼天流】という名前をつけようと思っている。きっと怒られずに済むはず。
それはさておき、報告をしなければ……。
「壊れました」
「ご苦労!」
壁の向こう側には扉があり、五つの小さな窪みがあった。
「カーさん、コインをっ!」
「はいよー」
窪みに絵柄が描いてあるらしく、絵柄に合わせるようにはめていた。鍵と言われているだけあって、はめ終わると同時に扉が開いていく。
入るかどうかの確認をする前に勝手に中に入る光る板。自由すぎるだろう。
「見なさい! アレが【迷宮核】よっ! 言っとくけど、絶対壊すんじゃないわよ!」
「「「へーい」」」「ガーゥ」
「――なんて?」
「「「はい!」」」「ガウッ!」
光る板越しなのに圧がすごい。
そして寝たふりをしているネーさんもある意味すごい。まぁ鬼畜天使も女の子には優しいけども。
「こっちの扉に宝物があるからもらっていくわよー!」
「――えっ!? 単一報酬型の迷宮で宝物!?」
タマさんの言葉を聞いて一番驚いていたのはラビくんだった。迷宮に関して詳しいラビくんだ。タマさんの言葉に違和感を持ったのかもしれない。
「まぁまぁ!」
言われるままに扉を開けるも暗くてよく見えない。戦闘もしていないからいいかと思い、照明代わりの魔術を発動する。
「光よ、《照明》」
「――これはっ!?」
「マジかっ!」
ラビくんとカーさんが驚いているけど、俺としては他人の家の物置や倉庫を見た感覚に近いかな。
「二人ともどうかしたの?」
「……古代遺跡っていうのは知ってたけど……古代文明の遺産がなんでここに……」
「ねっ! 宝物でしょ!」
何で知ってるんだ?
また根回し作戦なのか?
「さぁ運び出すのよ! と言っても、三種類の物品と補修部品と工具しかないからすぐ終わるわよー!」
終わればご飯だ!
朝早くから作業をしているおかげで、まだ昼を少し過ぎたくらいだ。
細かい疑問はこの際どうでもいい。
早く終わらせたい。
「森よ、《樹木兵》」
二十体のゴーレムを出して、バケツリレーのように外に運び出す。キルゾーンの外に出せば、蛇から出て余った荷車が置いてあるはず。
それに載せれば何往復もしないで済む。
ゴーレムを使用しての人海戦術により、あっという間に片づき、制限時間内に外に向かうことができた。
さぁご飯だーー!
と、ラビくんと競うようにして外に出た。
しかし待っていたのは面倒な展開だった。
「またかよ……」
島に渡ってきた冒険者が、荷車に積んであるお金を奪おうとしていたのだ。
「それは俺のだから、欲しかったら中で拾って来なよ」
腹が減りすぎて敬語を使う余裕すらない。
五人組の冒険者は、いわゆるハーレムパーティーというものらしく、男が一人しかいない。
「オレ様が見つけたんだから、オレ様の物に決まってるだろう!」
「ゴーレムに見晴らせているのが分からないのか? まぁカボチャパンツを履いている時点で頭が悪そうだけど。なっ! カボチャップリン!」
「「グッ……」」
固い絆で結ばれたお金回収組が、金髪おかっぱの貴族風冒険者を見て笑いを堪えている。
彼はカボチャパンツを履いているわけではない。ただ、ブーツとグリーブのせいで太腿部分が膨らんでいるだけだ。
「我が家門を侮辱する気かっ!」
「出たぁーー! 都合が悪くなると家門を出す! あなた個人に言っているのに、話をすげ替えるのはやめてくれないかな? パパの身分しか武器を持っていないなら、今すぐ冒険者をやめた方がいい。それと、家門の名を汚しているのはあなた自身だけど?」
「な、なんだと!? オレ様がそのようなことをするはずないだろうがっ!」
「迷宮内はゴブリンしかいないんだけど? 実力主義を掲げる【九天王国】の貴族はゴブリンすら倒せないのなっ! あなたの容姿は特徴的だから、【九天王国】ですぐに噂になるんじゃないかな!?」
ゴブリン以外もいるけど、ゴブリンと大して違いはないから大丈夫でしょ。
「いいだろうっ! 貴様よりも多く討伐してきてやろうっ! ここで待っていろっ!」
カボチャップリンは四人の女性を連れて迷宮の中に入っていった。
「……待つの?」
「待つわけないじゃん! 昨日の場所まで行ってご飯だよ!」
四台の荷車を運ぶためゴーレムはそのままにし、昨夜の野営地に向かう。
「あっ!」
「ラビくん、どうしたの?」
「カボチャップリンが、【迷宮核】を壊したみたい。崩壊の音が聞こえる!」
俺たちが攻略してから時間が経ってないから、あっという間に奥まで行けちゃったのか……。
「ガラガラって?」
「違うよ。【突発型迷宮】の崩壊は、【迷宮核】が設置された空間が心臓部なんだけどね、アークが塔型牢獄の封印を壊したみたいな無音の破裂が起こるんだ。空間は【迷宮核】に飲み込まれて元の遺跡に戻るの!」
「なるほどー! 《閃駆》並みの移動術がないと逃げられないね!」
「そうだよ! 基本的に迷宮内では転移魔術は使えないからね!」
迷宮という亜空間に座標というものがなく、あったとしても迷宮内の座標は外の世界の座標は別であるため、転移魔術で必要な要素の座標選択が使えないのだ。
ではどうするかというと、スキルの移動術や身体強化で速度を増すしかない。
最たるものが《閃駆》である。
つまり、カボチャップリンの運命は決した。
「さよなら、カボチャップリン!」
別れのあいさつをした後、何事もなく野営地に到着できた。
「お風呂を沸かしてちょうだい! あと、宝物庫から持ってきた黒い長方形の箱があったでしょ!? アレを運んで来て!」
俺は一人しかいないのだが……?
まだ戻していないゴーレムに荷物を運ばせ、風呂の準備をする。
専用のドームに風呂釜、洗体用の湯釜を設置して、脱衣所に着替えを置く棚も設置した。
俺たちも入りたいから丁寧に造ったのだが、自分のために丁寧な仕事をしてくれたのだと誤解したタマさんが大喜びしている。
「それで、コレには何が入っているんですか?」
めちゃくちゃ嫌な予感がする。封印したい。
「開けてみなさい!」
嫌すぎる……。
カーさんとアイコンタクト交わし、両端を持って丁寧に蓋を開けた。
「…………ついにか」
「どうよ! 神族っぽいでしょ!? あんたの親戚で通りそうよね!」
ついに来てしまったのだ。
鬼畜天使が受肉する時が……。
メイド服を頼まれたときに予想はしていたが、いくら何でも早すぎだろう。
桃色髪の色白美少女が黒い箱の中に横たわっていた。何故か開いているまぶたのおかげで、俺と同じ天色の瞳だということも分かる。
さらに全裸のおかげで胸の大きさが小振りだということも……。
でも俺たちは知っている。
タマさんもレニーと同じく、『貧乳』という単語をタブーとしていることを。
ゆえに、俺たちはその事実を事実としてのみ受け取り、誰かと結びつけることは絶対にしない。地獄に行きたい者は誰一人としていないのだから。
「……これって……死体?」
「これは【魔導人形】よ! しかも古代の最新技術の結晶よー!」
「どういう意味です?」
「だから、古代文明の中では最新技術で、その技術で造られた最先端で最高の【魔導人形】なの! このレベルになると、超級職の【魔導技師】しか造れないのよー!」
「じゃあ何で『古代の』がつくんですか?」
「文明が滅んだからに決まってるでしょ? そもそもラビくんが驚いたのも関係していて、古代文明の都市はあんたが捜している【天空大陸】にあるのよ! この【魔導人形】みたいな古代遺物は、本当なら古代文明の都市にしかないのよー!」
何故それをラビくんが知っているのかも気になるが、地上には古代都市はないのか?
「地上にはないんですか?」
「昔はあったけど、今はさっきの遺跡みたいなところしかないわねー! 一つだけ変わらないところがあるけど、そこは都市じゃないからねー!」
「どこです?」
「【大老】が担当している大陸よ! 理不尽の塊だけど、すごいパンダであることは間違いないわ!」
チラリと横目で見ると、カーさんとネーさんにラビくんまでも嬉しそうにしていた。
「さぁ【魔導人形】のすごさが分かったでしょ! そしたらこの紙を人形の胸の上に置きなさい!」
お供えをするための光る板の窓口から一枚の紙が出てきた。
本当は断りたいが、許されるはずもないため素直に言われるがまま置く。
「――タマさぁぁぁぁん!? も、もしかして……《巫現術》を使うの!? で、できるの……?」
紙を見たラビくんが絶叫した。
それだけで、ことの重大さが分かるというものだ。
「あたしに不可能はないっ! ただ、最新技術の人形でも素材が微妙だから、五パーセントくらいの力しか出せないわねー! 戦力としてはあんまり役には立たないだろうけど、一応冒険者登録はするわよー!」
「できるの!?」
「天使に不可能はない!」
紙に書かれた術式が淡い光を放ち、人形の中に吸い込まれていった。
「ほ、本当に……?」
ラビくんは何かを知っているようだけど、ラビくんが人形をガン見しているせいで聞くに聞けない。
「ふぅ……少し動かしづらいのねー!」
人形が起き上がったことで悪魔の受肉が完了したことが分かる。
「タ、タマさん。天界にいなくていいんですか?」
「これは転生術じゃなくて降霊術みたいなものだからねー! あっ! あんたの世界で似たようなものがあったわ! アレよ! 『VR』っていうの? アレと同じようなもので、アレに五感が加わるって感じよ! だから全く問題ない!」
「じゃあ他の誰かが使うことも?」
「それは無理。あたしの術式を刻み込んだから、あんたたちの誰かが協力しない限りは無理!」
釘を刺してきた……。
裏切ったら地獄行きのやつだ……。
「じゃああたしは体に慣れるための運動を兼ねてお風呂に入ってくるから、ご飯の準備よろしくねー!」
「悪魔が受肉するとパワーアップするっていうのは本当だったんだな……」
「オレたち何やらされるんだろうな……」
俺の呟きに真っ先に反応したのは刑務仲間のカーさんだ。タマさんは親玉の法務大臣だから不安になるもの仕方がない。
今までは遠いところで指示だけ出していたから多少は反抗できていたが、法務大臣自ら現場に来てしまったのだ。
もう中間管理職に陳情をすることもできまい。
「アーク! 着替えーー!」
「はーい! ただいまーー!」
この日のために作らされていたメイド服と下着を持って、脱衣所に置いてある籠の中に入れた。
「ここに置いておきますから」
「ありがとー!」
珍しくお礼を言うなと思って出ようとしたところ……。
「明日から毎朝、【鬼畜天使流格闘術】の訓練だからねー!」
と、爆弾を落とされたのだった。
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ファンタジー
2024年8月、更新再開しました!
佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。
彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった...
(...伶奈、ごめん...)
異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。
初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。
誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。
1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。
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いつも感想ありがとうございます!
今まで口頭だけでの指南だったのが、これからは毎日組手での指南になりますからね(T_T)
間違いなく地獄でしょう!!!
いつも感想ありがとうございます!
モフモフのためならカーさんのみ売ります!(笑)ネーさんはモフモフ枠ですね(^_^)b
アークもお酒や肉のために売られていますかね!
レアモフのパンダ大精霊のためなら、喜んで地獄の刑務作業にカーさんを巻き込むことでしょう!(^_^)b
いつも感想ありがとうございます!
『狼兎』……良い呼称です(^_^)b
ボムさんに似てきましたね!(笑)
似てきたのですが……本物が登場するかも?(笑)
乞う御期待m(_ _)m