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第三章 欲望顕現

第百四話 質問からの魔獣闘技

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 独自に開発した技術ゆえにドヤ顔で説明してしまったが許してほしい。
 ステータスに表示されなかった時点でオリジナルだと分かっていたのだが、自慢する相手がいなくてドヤれなかったのだ。少しくらいはドヤりたい。

 不可視攻撃を仮に【魔力闘技】と呼ぶとする。
 それに各種戦技スキルや《剣霊術》に《武霊術》などを合わせて、魔物のような攻撃を再現した攻撃方法を【魔獣闘技】と呼ぶことにしている。

 赤ちゃんの頃からずっと気絶訓練をやったり圧縮訓練をしたりと、魔術寄りの訓練をしていたのは【魔力闘技】を習得するためだったのだ。
 おかげで、親分の言う潜在能力の具現化や具現魔術も比較的簡単に習得できた。

 さらに言えば、《創作技術》や《遺宝術》といった芸術系のスキルを使えば《魔力変化》の精度が増し、思い通りの造形や攻撃が可能になる。

 全てを説明終えたとき、俺は勝利を確信した。

「うーん……なるほどね。一応調べておくけど、質問に答えてあげるわー!」

「では、親分の悪口を言った者たちを教えてください!」

「あー……あたしがいなかったときに起こった問題ねー! まぁいいか! 【海竜】の眷属の上位竜たちが主だった者たちねー! 他は、ちょっと前に起きた事件でオークちゃんにコロコロされたから、この世にはいないんじゃないかしらー? まぁ詳しくはまた今度ねー! さっさと殲滅しちゃいなさーい!」

「……へーい」

「……あんた、最近調子に乗ってるわね?」

「そ、そんなことありませんよ?!」

「返事は!?」

「――はいっ!」

「よろしいっ!」

 返事一つで激怒されるとは……。

「ふーん……【海竜】の眷属ね……」

 いつもならジャーキー、ジャーキー言うラビくんも、今回はブツブツと呟いているだけ。
 どうしたのか気になるけども、鬼畜天使が怖いから殲滅を優先しよう。

「じゃあ回収組は準備をお願いしますねー!」

「はいよー」

「任せてー!」

 そいじゃ行きますか!

 ――《存在察知》

 ――《並列思考》

 ――《魔力変化》

 ――《遺宝術》

 ――《魔力支配》

 ――《領域》

 ――《刺突》

 ――《切断》

「――樹根千槍」

 レニーとの組手で地獄を味わった攻撃で、縦横無尽に動く木の根が槍のように的確に突いてきたかと思えば、鞭のように強打を加えたり切り裂いたりと。
 しかも本人はほとんど動いていないという屈辱……。

 この技はレニーによってもたらされた地獄を再現した思い出深い技なのだ。
 ただし、レニーのように木の根を使うことも、斬撃も行えるほどの魔力を込めることもできないため、先端が槍になっている鞭をイメージして変化させている。

 自分が経験した地獄を再現させているんだなと思っていると、ニコニコ顔で木の根を操るレニーの姿を思い出してしまった。

 ……レニーは元気にしているだろうか。

 レニーとの生活を思い出しながらも《並列思考》のおかげで、迷宮に棲むゴブリンや大きなネズミなどを、《領域》に踏み入れた先から一撃死させている。

「本当に見えないのね……。槍なのよね? ……多分。随分遠くの方でお金の音がするけど……」

「木の根みたいな槍をイメージしているのですが、同時に鞭のようなイメージもしています。避けられても曲がって貫いたり、横に振ることで切り裂いたりするようにですね。もちろん、《韜晦》スキルで魔力を隠しているということも要因の一つですけど」

「……【隠者】に教えたらどうなるかしら?」

「――えーー! つきまとわれるかもよ! 暇してるだろうし!」

「うぇっ! オレが【大老】様に怒られるだろ!」

 タマさんの言葉にラビくんとカーさんが驚いていてるが、何で怒られるのかが気になる。……というか、誰!?

「……何で?」

「【大老】様も一緒に行動したいけど我慢しているんだ! それなのに抜け駆けみたいなことをしたら、『何で断らなかった!?』って言われるだろ!?」

「【大老】様はそんな理不尽なことを言わないよ?」

「……あんたの中の【大老】はいったいどうなってるのよ……。理不尽の王様よ!? 『理不尽・オブ・理不尽』よ!?」

 その言い回しはどこで仕入れて来たんだ?
 また漫画でも読んだのか?

「理不尽については置いといて、【隠者】って方のことを教えてくださいよ。カーさんが断れないってことは神様ですか?」

「そうよー! 【聖獣王国】がある大陸を担当している大精霊の片方よ。雷の大精霊であり【戦神】でもあるのよー!」

「そうなんですねー! まぁ言うかどうかは任せますよ!」

「……そう。じゃあ適当にそのうち伝えておくわ!」

 話の間は少しペースが落ちていたが、話が終われば集中できるからペースも上がっていく。
 俺は入口から奥まで真っ直ぐ続く主要通路を歩いているだけだが、回収組は三車線ほどの通路を行ったり来たりしていて大変そうだ。

「ちょっ……ちょっと! ペース速いよっ!」

 ラビくんから苦情が入るも、制限時間があるから緩めることはできない。

「仕方がない。応援を手配しよう!」

「早くねっ!」

「森よ、生命を宿し、我が命を実行せよ《樹木兵》」

 雑魚魔物が多いし、お金の回収作業という軽作業に耐久性は必要ない。
 むしろ、鈍重な《岩石兵》よりもスリムで軽量な《樹木兵》の方が良いだろう。と言うことで、まずは十体用意した。

「お金を全て木箱に詰めていって。ラビくんの指示に従ってくれ」

 コクリと頷いた《樹木兵》たちは、ラビくんの真似をしてお金を回収していく。

「――ここは……キルゾーンだ。荷車が出るかな! 回収組も準備しておいてね!」

「はいよー」

「はーい」

 二人とも声に覇気がないよ?

 通路の突き当たりにあった大部屋はキルゾーンになっており、魔物部屋という罠の上位互換らしい。
 詰め込まれた魔物を倒せば終わりの魔物部屋とは違い、上限まで倒さないと部屋から出られない転移罠の次に危険な罠らしい。

 しかもキルゾーンの魔物は少しだけ強くなり、オークやホブゴブリンも含まれる。

「ちょっと魔力の形を変えるので、俺よりも前に出ないでね!」

 ――《魔力変化》

 ――《遺宝術》

 ――《魔力支配》

 ――《領域》

 ――《居合》

 ――《切断》

 ――《斬鉄》

 断てぬ物なしと言えるほどの切れ味を持つイムの生体武器をイメージした、斬撃特化型の【魔獣闘技】だ。
 イムは組手で絶対に鎌を使わなかった。
 魔術耐性訓練は真っ先に手伝ってくれたのに。
 それほど危険で傷つけたくないと思ったのだろう。優しい子だ。……早くモチモチスライムボディーに抱きつきたい。

 居合をするときのように構え、魔物が反応する距離まで詰める。
 魔物が反応した距離に入った頃、俺の第一の《領域》には三分の二ほどの魔物が収まっていた。第二の《領域》は、《居合》を発動する直前に刀身を伸ばすことで届く距離だ。

 大柄の魔物が一斉に俺を睨みつけ、襲いかかる態勢を取り重心が動いた瞬間を狙い澄まして――。

「――死神断刀」

 左腰から刀を抜く動作をし、抜き打ちの瞬間に刀身を伸ばして魔物を一閃する。

 ジャラジャラと硬貨が床に落ちる音が部屋中に鳴り響く。
 そして、拾い集める間もなく湧いてくる魔物の首や胴体を絶え間なく切り飛ばしていく。一度も近寄らせることなく続く作業だが、個人的にはもっと早く湧いてきて欲しい。

 待ち時間が微妙すぎて回収もできないし、サクサク進むこともできない。絶妙にイラつかせるインターバルだ。

「普通はこの時間が大事な休息時間なのよ?」

「……サクサクやった方が疲れないと思いますが?」

「それはあんただけね!」

「……ラビくんたちはどう思う?」

「暇ー!」

「ほらねー!」

 こうやって話す時間を作るくらいなら、さっさと襲いかかって欲しい。まだ一部屋目なんだからさ。

「おっ! 終わりみたいだね! 荷車と木箱が出てきたし!」

 荷車というか、馬と幌がない幌馬車だな。
 お金を載せて人力で引くの?
 悪魔か……。
 絶対に一人じゃ動かないだろうよ。

 追加で《樹木兵》を六体出して、回収と牽引に護衛もさせることにした。

「そういえば、紙幣もあるはずなのに硬貨ばっかりですね!」

「紙幣は一枚で一千万フリムよ? 滅多に使わないし、国や組織が保管しているからねー! しかも払い戻しも兼ねているから、紙幣での購入をしない限りは硬貨しか出ないわよ!」

「紙幣なら硬貨よりは軽いのに」

 キルゾーンのお金回収に参加しているのだが、地味にキツく楽をする方法を考えてしまった。
 ラビくんとカーさんの「キツいだろ!?」って視線が、俺の良心を串刺しにしている。少しペースを落とすべきか……。

「この調子でサクサク進むわよー!」

 俺の行動を先読みした鬼畜天使が、俺の良心に結界を張って視線をはね除けさせた。
 本当に良心を置いてきたようだな。

「荷車がいっぱいになったら外に送るからね!」

「「うぇーい」」

 精気が抜けたような返事が聞こえるも、俺にできることは何もない。早く終わらせて観光を楽しむことだけだ。

 魔力の形を元に戻し、再び徒歩殲滅を始める。

「広いよ! 広すぎだよ!」

 ラビくんが文句を言い始めているが、俺も同じ事を思っているから無言で頷いておく。

 突き当たりの大部屋の先に部屋はなく、一旦出て左回りに壁沿いを回っている。途中で入口に近づくから外に出て《ストアハウス》を使おうかな。

「一旦外に出ようと思ってるかしらー?」

「……はい」

「リセットされるからダメよー!」

「樹木兵は?」

「魔術だからいいの!」

 ズルはダメなのか……。荷車を捜さなくていいじゃんって思ったんだけどな。

「じゃあ荷車付きの樹木兵六体は、荷車と一緒に外に出て待機ね。外敵が来た場合は殲滅し、二体減っても倒せない敵が出た場合は迷宮に入って合流すること!」

 コクリと頷いたあと、迷宮の外に出ていった。
 俺たちは直進して殲滅と回収を続ける。

 この遺跡は漢字の『中』みたいな形をしており、縦線の飛び出ている上の部分がキルゾーンだ。
 そして今は左側の通路をキルゾーンに向かって進んでいる。その後、主要通路沿いに設置されている各部屋を回る予定だ。

「そういえば朝ご飯はドロンの干し果実だけでしたけど、昼ご飯はどうするんですか?」

「仕事が終わったあとのご飯は美味しいわよねー!」

「「「はぁ!?」」」「ガウッ!?」

 ネーさん以外の全員が抗議を含んだ驚きの声を上げる。

「まさかとは思うけど……終わるまでご飯抜き!?」

「このペースなら余裕で終わるわよ! ねっ!」

「……ラビくん。必殺技を使われた気分はどう?」

「……必殺技じゃないけど……ムカつくッ!」

 天使の共通技なのか、有無を言わさぬ魔力が込められているようだ。

「仕方ない。ペースを上げよう!」

「「えぇーー!!!」」

 回収組が咆えるが、殲滅速度を上げるだけだ。回収速度は変えずについてきてくれればいい。

「じゃあ先行して殲滅してきます」

「――アーク隊員、健闘を祈るっ!」

「はっ!」

 ラビくんたちとしばしの別れを済ませて、一人殲滅に向かうのだった。

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