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第三章 欲望顕現
第百二話 偽装からの神様降臨
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『主ぃぃぃぃーーー! 無事かぁぁぁ!?』
連絡要員の護衛をお願いできないかなって思って《遠話》を使ったところ、真っ先に受信したのがアイラだった。
こう言ってはなんだが、彼女は唯一の暇従魔なのだ。蛇を配置しないで欲しい願いを叶えてくれているため、唯一やることがない従魔である。
さらに、進化した彼女は空を飛ぶための翼があるから、追いかけてこようと思えば来れなくはないのだ。
それでも抜け駆けしないように我慢しているのだが、先日の鯨戦で【玄冥】を出したことで心配させてしまったらしい。
『無事だよ! 無茶ぶり食いしん坊たちの願いを叶えただけだよ!』
『良かったのだ! すごく心配したのだぞ!?』
『ごめんねー! それでね、お願いがあるんだけどいいかな? 一応四人全員で担当してくれると助かるんだけど』
『うーむ……早く会いたいが……主の願いだ。良いぞ!』
新規の奴隷が行くことや祭壇のこと、裏切るかもしれないことに伯爵のことを伝えて《遠話》を終了した。
きっと彼女はレニーたちに怒られることだろう。
ズルいと……。
次の機会にでも聞いてみようかな。
「次は沈没か……」
「その前に魔具と旗を作りなさい。魔具は王子キマイラの魔具の術式を消して、【九天王国】の術式を効率化して貼り付けなさい。船は刻印を魔力の裏書きごと消して、【迷宮都市】の刻印をつければいいのよ」
『俺がつけてもいいんですか?』
「〈神匠〉の称号持ちがつけないで誰がつけるのよ? 刻印を見た船大工は船に向かって土下座するわよ?」
『……いいんですか?』
「拾ったんだからいいのよ!」
適当すぎるだろ……。
いろいろ不安だけど、キング・ラブの旗を作ろう。
途中でラビくんを見て出来栄えを確認してしまったが、気づいてないから大丈夫だろう。
カーさんは、タマさんの指示を聞いて奴隷たちに指示を出していた。
『あっ! ラブたんだー!』
『……もしかして、最終的に「たん」くんって呼ぼうとしている?』
『――ん? 何のこと!?』
自然に名前を変えようとしているとは……。
『この子はラブくんだよ?』
『……分かってるよ! それより、ぶーちゃんに勝てる熊モフを聞かなくていいの?』
『そういえば! タマさーん! 親分に勝てる熊モフは誰ですか!?』
「あー……親分のお嫁さんよー!」
『……ゴマすり?』
「違うわよ! あのアルテア様も認めた可愛さなのよ!? 熊界最強の可愛さよー! むしろ、親分を可愛いとか言う方が意味不明だから!」
『ラビくん……どう思う?』
『うーん……白ちゃんは可愛いと思うよ! 白ちゃんは怒らなければ、とっても優しくて可愛いんだ! ぶーちゃんも可愛いところがあるけど、慣れないと見た目も雰囲気も怖いと思うよ。本当は優しいんだけどね!』
え? ラビくんも知ってるの……?
『ラビくんって……知らないモフモフいないの?』
『――ふぇっ!? い、いるに決まってるじゃんっ! 有名な自由熊だから知ってるの! アークもそのうち会えるよ!』
『……そう? じゃあ楽しみに待ってようかな』
怪しいな……。
『それがいいと思う! じゃあ船のところに行こうかっ! ねっ!』
話を逸らす天才だな。
船員が全員降ろされたことを確認した上で言ってくるから、断る理由が全くないとこもいやらしい。
「じゃあ沈没させまーす!」
疲れたし適当でいいか……。
「《海流操作》……《暗幕》」
――《収納》
海に穴を作り、船を傾ける。
穴に押し寄せる海水が大きな波を作るが、魔術でまとめて船を一時的に隠す。
一応念のために《暗幕》で覆い隠し、《ストアハウス》に入れる。
波を鎮め、警備兵に盗難を申告する。
見つかることはないけどね。
島にある廃ドッグで刻印変更や魔具の術式変更に、旗やマストの変更を行った。
ただし、『ラビナイト商会』はまだ存在しないから、船の所有権を個人所有にしての試験航海としている。船籍偽装は、魔導船の性能を確かめる試験航海ではよくあることらしい。
ついでに足がつきそうな物品は全て回収し、積載量を増やした。狼さんは元軍人で、所属は海軍だったそうだ。船に関することは任せて欲しいと自信満々に言っていた。
ラビくんを虐めた点以外は、確かに優秀な人材である。あの狐よりもよっぽど。
偽装を終えた船を別の場所に停泊させ、死体と王子キマイラを載せていき、準備ができ次第出港するようだ。
そして俺たちはというと、何故か島の奥にある森に来ていた。
「ここで何するの? いい加減疲れたから休みたいんだけど……」
「休ませてあげるから、もう少し頑張りなさい! それに化け物並みの体力があるんだから、まだまだ余裕でしょ? レニーたちと夜通し――」
「はーいっ! そこまでっ! デリカシーはないんですかっ!? それに精神的に疲れているんですっ!」
「デリカシーなんて不要よ! だって、いつでもどこでも見ようと思えば見れるんだもの!」
「――じゃあ神子のも……?」
「……まぁね。アイツって本当に病気だったの?」
「いや、俺が聞きたいし! 普通に元気だったし! というか、何でアレが神子なの!? もっとまともなやつにして下さいよー!」
神子に対する不満が敬語を忘れさせる。
少ししか接していないけど、それでも我慢ができないほどなのだ。伯爵には同情するよ……。
うーん……アルテア様にあるまじきミスだね。
「あー……それはねー、選抜方法の関係なのよー! 完璧な平等選抜方式を使うと、たまにハズレを引くのよねー!」
「平等な選抜方式……?」
「優秀な者を選ぶと、その人物の家系ばかり選ばれるでしょ? だから完全なランダム方式にしたのよー!」
「どうやって?」
「パジ○ロチャレンジみたいな回転する的に種族を貼り付けて、種族決定ダーツで狙うのよ。種族が決まったら、種族内の新生児予備軍が入った福引のガラガラみたいなものを回すの! それで出てきたのがアレ!」
まさかの適当くじ引き方式……。
「今までは上手くいっていたんだけど、今回は大ハズレねー!」
だろうね……。
「さぁ着いたわ!」
「……祭壇?」
「ほら、《神託》スキルを使って祈りなさい!」
何でいきなり拝めというのかは分からないが、やらなければ先に進めないのだ。
目を閉じて祈り始めると同時にスキルを発動する。
――《神託》
いつもお世話になっています、アークです。
「うむ。儂のことは【大老】と呼ぶがいいぞ!」
「――えっ!?」
「――ゲェッ!」
「ふぇっ!?」
驚く俺に続き、カーさんもラビくんも驚いてる。
それもそのはず。
祭壇の上に現れたのは森の大精霊様であり、【商神】でもある雲の上の存在なのだ。
しかも、【大老】という親しい者にのみ許された呼称の許可まで……。
俺、何かしたのかな?
加護をもらったり協力してもらったり、いろいろお世話になっているけど……。
「樹の小僧……なかなか面白いことを言っておったな。少し向こうで話さないかのぅ?」
普通に話しているはずなのに、圧がすごい……。
『ラビくんっ! 何でもするから……助けてくれっ! お願いしますぅぅぅ!』
『その言葉、忘れないようにっ!』
『もちろんですっ!』
カーさん……必死だな。
個人的にはフラグを回収して怒られて欲しかったけど、ラビペディア大先生の手腕に頼るようだ。
「【大老】、久しぶり! 元気だったーー?」
相変わらず敬称なしのラビくん。
「――っ! あ……当たり前じゃ! 儂を誰だと……思っておる! どこぞの狼みたいに、皆に心配をかけたりしておらんわっ!」
「うーん……誰のことだろ? ぼくは兎みたいでしょ? ほらほらー! ねっ!」
普段なら怒る禁句を言ってまでかばうとは……。
カーさんは大きな負債を負ったな。
いったい何をさせるのやら……。
「――どれ、よく見せてみろ!」
怒ってるわけではないけど、何かを我慢している様子の【大老】様。
呼び捨てにしているほど親しい関係らしいから、再会に感動しているのかな?
ラビくんを抱き上げてなで繰り回している。
着物と羽織を着た焦げ茶色と薄い緑色のパンダが、銀色のポッチャリ兎と戯れている。
素晴らしい光景だ。
親分とラビくんが初めて戯れたときと同じくらいだが、今回のラビくんは起きている。おかげで、可愛い反応も見れていた。
可愛い。
本物の天使だ。
大天使ラビエルの名を贈ろう。
と妄想していたら、ラビくんに睨まれてしまった。一心同体だから以心伝心してしまったようだ。
「そうだっ! 【大老】様、プレゼントを用意しましたっ! カーさんとネーさんに協力してもらって作製した等身大のぬいぐるみです!」
「……【大老】、いる?」
ラビくん! 酷いよっ!?
「うーむ……これは使えそうじゃ! ありがたく受け取ろう! 二人も大義であった!」
「はっ」「ハイ」
何やら思案していたかと思うと、突然可愛い顔でニヤリと笑い、大事そうに受け取ってくれた。
「ねぇ……何に使うの?」
「内緒じゃぞ?」
「うん!」
「執務机に座らせておくのじゃ!」
結構大事にしてくれるんだなと思ったんだけど、それは俺だけだったらしい。……まぁ正確に言うならリムくんもだけど。
カーさんたちは全員ジト目を向けていて、正しくないぬいぐるみの用途らしい。
「なんじゃ!? 文句でもあるのか!?」
「……可哀想な精霊がたくさん出ると思うと……不憫で不憫で……」
「ミンナ、タイヘン」
精霊組が文句を言い始めた。が、そこは大精霊様。抜かりはない。
「そうか、そうか。皆のためを思うその心意気、この【大老】! 誇らしく思うぞ!」
と、少々芝居がかった言い回し。
「まもなく恒例の戦争も始まり、小さいことや遠いところまで手が回らんこともあるだろう。そのときは領域にいる精霊に代わって、率先して問題を解決してくれるのじゃろう。仲間想いの部下を持って儂は嬉しいっ!」
はめられたことに気づいたカーさんは苦し紛れの言い訳を言い放つ。
「あ……アークと契約していますので……率先してというのは難しく……できる範囲になってしまいます」
「アークよ……駄目かのぉ……?」
何故かラビくんまでもカーさんと同じ視線を向けてきた。
「是非お手伝いさせてください!」
「「「アークっ!」」」
ラビくんとカーさん、そしてタマさんからも咎めるような口調で名前を呼ばれる。
「そうか、そうか。お礼に触らせてやろう。モフモフとやらをして良いぞ!」
「――ほ、本当によろしいのですか!?」
「うむ」
やったっ! タマさんの言うとおりだ。疲れが吹っ飛ぶ!
ラビくんに睨まれながら二足歩行で立つパンダ様に抱きつき、まずは全身の感触を確かめる。
パンダ様は身長が高く、抱きついたときにパンダ様の胸に顔を埋めることになった。フワフワモフモフした毛が顔を包み、優しい花の香りが鼻腔をくすぐる。
少し背伸びをして首周りのモフモフを楽しませてもらったあと、肉球擁するフワフワのお手手を心行くまで堪能させてもらった。
「……気は済んだかの?」
「はい。……とりあえずは……。ありがとうございました!」
「う、うむ!」
あれ? 引いてる?
ラビくんたちにするコースよりも少ないんだけど……。
ラビくんも「あれ? もう終わり?」って呟いてたし。
ちなみに、モフモフだけしていたわけではない。
わざわざ顕現してまで足を運んでくれた理由も聞いてある。
顕現した理由は【精霊門】の使用。
大精霊級にのみ開くことを許された【精霊界】へと通ずる門を潜り、【精霊界】を通って別の地へと移動できるのだとか。
前回は幻獣の移動のためにカーさんたちに頼まれ、今回は【九天王国】へ行くためにタマさんに頼まれたんだとか。……お疲れ様です。そしてありがとうございます。
「ではの、気をつけるのじゃぞ」
カーさんの頭を強めに撫で回す以外は、全員優しく撫でてもらった。
「お世話になりました!」
「行ってくるねー!」
深々とお辞儀をして目的地へと旅立つのだった。
連絡要員の護衛をお願いできないかなって思って《遠話》を使ったところ、真っ先に受信したのがアイラだった。
こう言ってはなんだが、彼女は唯一の暇従魔なのだ。蛇を配置しないで欲しい願いを叶えてくれているため、唯一やることがない従魔である。
さらに、進化した彼女は空を飛ぶための翼があるから、追いかけてこようと思えば来れなくはないのだ。
それでも抜け駆けしないように我慢しているのだが、先日の鯨戦で【玄冥】を出したことで心配させてしまったらしい。
『無事だよ! 無茶ぶり食いしん坊たちの願いを叶えただけだよ!』
『良かったのだ! すごく心配したのだぞ!?』
『ごめんねー! それでね、お願いがあるんだけどいいかな? 一応四人全員で担当してくれると助かるんだけど』
『うーむ……早く会いたいが……主の願いだ。良いぞ!』
新規の奴隷が行くことや祭壇のこと、裏切るかもしれないことに伯爵のことを伝えて《遠話》を終了した。
きっと彼女はレニーたちに怒られることだろう。
ズルいと……。
次の機会にでも聞いてみようかな。
「次は沈没か……」
「その前に魔具と旗を作りなさい。魔具は王子キマイラの魔具の術式を消して、【九天王国】の術式を効率化して貼り付けなさい。船は刻印を魔力の裏書きごと消して、【迷宮都市】の刻印をつければいいのよ」
『俺がつけてもいいんですか?』
「〈神匠〉の称号持ちがつけないで誰がつけるのよ? 刻印を見た船大工は船に向かって土下座するわよ?」
『……いいんですか?』
「拾ったんだからいいのよ!」
適当すぎるだろ……。
いろいろ不安だけど、キング・ラブの旗を作ろう。
途中でラビくんを見て出来栄えを確認してしまったが、気づいてないから大丈夫だろう。
カーさんは、タマさんの指示を聞いて奴隷たちに指示を出していた。
『あっ! ラブたんだー!』
『……もしかして、最終的に「たん」くんって呼ぼうとしている?』
『――ん? 何のこと!?』
自然に名前を変えようとしているとは……。
『この子はラブくんだよ?』
『……分かってるよ! それより、ぶーちゃんに勝てる熊モフを聞かなくていいの?』
『そういえば! タマさーん! 親分に勝てる熊モフは誰ですか!?』
「あー……親分のお嫁さんよー!」
『……ゴマすり?』
「違うわよ! あのアルテア様も認めた可愛さなのよ!? 熊界最強の可愛さよー! むしろ、親分を可愛いとか言う方が意味不明だから!」
『ラビくん……どう思う?』
『うーん……白ちゃんは可愛いと思うよ! 白ちゃんは怒らなければ、とっても優しくて可愛いんだ! ぶーちゃんも可愛いところがあるけど、慣れないと見た目も雰囲気も怖いと思うよ。本当は優しいんだけどね!』
え? ラビくんも知ってるの……?
『ラビくんって……知らないモフモフいないの?』
『――ふぇっ!? い、いるに決まってるじゃんっ! 有名な自由熊だから知ってるの! アークもそのうち会えるよ!』
『……そう? じゃあ楽しみに待ってようかな』
怪しいな……。
『それがいいと思う! じゃあ船のところに行こうかっ! ねっ!』
話を逸らす天才だな。
船員が全員降ろされたことを確認した上で言ってくるから、断る理由が全くないとこもいやらしい。
「じゃあ沈没させまーす!」
疲れたし適当でいいか……。
「《海流操作》……《暗幕》」
――《収納》
海に穴を作り、船を傾ける。
穴に押し寄せる海水が大きな波を作るが、魔術でまとめて船を一時的に隠す。
一応念のために《暗幕》で覆い隠し、《ストアハウス》に入れる。
波を鎮め、警備兵に盗難を申告する。
見つかることはないけどね。
島にある廃ドッグで刻印変更や魔具の術式変更に、旗やマストの変更を行った。
ただし、『ラビナイト商会』はまだ存在しないから、船の所有権を個人所有にしての試験航海としている。船籍偽装は、魔導船の性能を確かめる試験航海ではよくあることらしい。
ついでに足がつきそうな物品は全て回収し、積載量を増やした。狼さんは元軍人で、所属は海軍だったそうだ。船に関することは任せて欲しいと自信満々に言っていた。
ラビくんを虐めた点以外は、確かに優秀な人材である。あの狐よりもよっぽど。
偽装を終えた船を別の場所に停泊させ、死体と王子キマイラを載せていき、準備ができ次第出港するようだ。
そして俺たちはというと、何故か島の奥にある森に来ていた。
「ここで何するの? いい加減疲れたから休みたいんだけど……」
「休ませてあげるから、もう少し頑張りなさい! それに化け物並みの体力があるんだから、まだまだ余裕でしょ? レニーたちと夜通し――」
「はーいっ! そこまでっ! デリカシーはないんですかっ!? それに精神的に疲れているんですっ!」
「デリカシーなんて不要よ! だって、いつでもどこでも見ようと思えば見れるんだもの!」
「――じゃあ神子のも……?」
「……まぁね。アイツって本当に病気だったの?」
「いや、俺が聞きたいし! 普通に元気だったし! というか、何でアレが神子なの!? もっとまともなやつにして下さいよー!」
神子に対する不満が敬語を忘れさせる。
少ししか接していないけど、それでも我慢ができないほどなのだ。伯爵には同情するよ……。
うーん……アルテア様にあるまじきミスだね。
「あー……それはねー、選抜方法の関係なのよー! 完璧な平等選抜方式を使うと、たまにハズレを引くのよねー!」
「平等な選抜方式……?」
「優秀な者を選ぶと、その人物の家系ばかり選ばれるでしょ? だから完全なランダム方式にしたのよー!」
「どうやって?」
「パジ○ロチャレンジみたいな回転する的に種族を貼り付けて、種族決定ダーツで狙うのよ。種族が決まったら、種族内の新生児予備軍が入った福引のガラガラみたいなものを回すの! それで出てきたのがアレ!」
まさかの適当くじ引き方式……。
「今までは上手くいっていたんだけど、今回は大ハズレねー!」
だろうね……。
「さぁ着いたわ!」
「……祭壇?」
「ほら、《神託》スキルを使って祈りなさい!」
何でいきなり拝めというのかは分からないが、やらなければ先に進めないのだ。
目を閉じて祈り始めると同時にスキルを発動する。
――《神託》
いつもお世話になっています、アークです。
「うむ。儂のことは【大老】と呼ぶがいいぞ!」
「――えっ!?」
「――ゲェッ!」
「ふぇっ!?」
驚く俺に続き、カーさんもラビくんも驚いてる。
それもそのはず。
祭壇の上に現れたのは森の大精霊様であり、【商神】でもある雲の上の存在なのだ。
しかも、【大老】という親しい者にのみ許された呼称の許可まで……。
俺、何かしたのかな?
加護をもらったり協力してもらったり、いろいろお世話になっているけど……。
「樹の小僧……なかなか面白いことを言っておったな。少し向こうで話さないかのぅ?」
普通に話しているはずなのに、圧がすごい……。
『ラビくんっ! 何でもするから……助けてくれっ! お願いしますぅぅぅ!』
『その言葉、忘れないようにっ!』
『もちろんですっ!』
カーさん……必死だな。
個人的にはフラグを回収して怒られて欲しかったけど、ラビペディア大先生の手腕に頼るようだ。
「【大老】、久しぶり! 元気だったーー?」
相変わらず敬称なしのラビくん。
「――っ! あ……当たり前じゃ! 儂を誰だと……思っておる! どこぞの狼みたいに、皆に心配をかけたりしておらんわっ!」
「うーん……誰のことだろ? ぼくは兎みたいでしょ? ほらほらー! ねっ!」
普段なら怒る禁句を言ってまでかばうとは……。
カーさんは大きな負債を負ったな。
いったい何をさせるのやら……。
「――どれ、よく見せてみろ!」
怒ってるわけではないけど、何かを我慢している様子の【大老】様。
呼び捨てにしているほど親しい関係らしいから、再会に感動しているのかな?
ラビくんを抱き上げてなで繰り回している。
着物と羽織を着た焦げ茶色と薄い緑色のパンダが、銀色のポッチャリ兎と戯れている。
素晴らしい光景だ。
親分とラビくんが初めて戯れたときと同じくらいだが、今回のラビくんは起きている。おかげで、可愛い反応も見れていた。
可愛い。
本物の天使だ。
大天使ラビエルの名を贈ろう。
と妄想していたら、ラビくんに睨まれてしまった。一心同体だから以心伝心してしまったようだ。
「そうだっ! 【大老】様、プレゼントを用意しましたっ! カーさんとネーさんに協力してもらって作製した等身大のぬいぐるみです!」
「……【大老】、いる?」
ラビくん! 酷いよっ!?
「うーむ……これは使えそうじゃ! ありがたく受け取ろう! 二人も大義であった!」
「はっ」「ハイ」
何やら思案していたかと思うと、突然可愛い顔でニヤリと笑い、大事そうに受け取ってくれた。
「ねぇ……何に使うの?」
「内緒じゃぞ?」
「うん!」
「執務机に座らせておくのじゃ!」
結構大事にしてくれるんだなと思ったんだけど、それは俺だけだったらしい。……まぁ正確に言うならリムくんもだけど。
カーさんたちは全員ジト目を向けていて、正しくないぬいぐるみの用途らしい。
「なんじゃ!? 文句でもあるのか!?」
「……可哀想な精霊がたくさん出ると思うと……不憫で不憫で……」
「ミンナ、タイヘン」
精霊組が文句を言い始めた。が、そこは大精霊様。抜かりはない。
「そうか、そうか。皆のためを思うその心意気、この【大老】! 誇らしく思うぞ!」
と、少々芝居がかった言い回し。
「まもなく恒例の戦争も始まり、小さいことや遠いところまで手が回らんこともあるだろう。そのときは領域にいる精霊に代わって、率先して問題を解決してくれるのじゃろう。仲間想いの部下を持って儂は嬉しいっ!」
はめられたことに気づいたカーさんは苦し紛れの言い訳を言い放つ。
「あ……アークと契約していますので……率先してというのは難しく……できる範囲になってしまいます」
「アークよ……駄目かのぉ……?」
何故かラビくんまでもカーさんと同じ視線を向けてきた。
「是非お手伝いさせてください!」
「「「アークっ!」」」
ラビくんとカーさん、そしてタマさんからも咎めるような口調で名前を呼ばれる。
「そうか、そうか。お礼に触らせてやろう。モフモフとやらをして良いぞ!」
「――ほ、本当によろしいのですか!?」
「うむ」
やったっ! タマさんの言うとおりだ。疲れが吹っ飛ぶ!
ラビくんに睨まれながら二足歩行で立つパンダ様に抱きつき、まずは全身の感触を確かめる。
パンダ様は身長が高く、抱きついたときにパンダ様の胸に顔を埋めることになった。フワフワモフモフした毛が顔を包み、優しい花の香りが鼻腔をくすぐる。
少し背伸びをして首周りのモフモフを楽しませてもらったあと、肉球擁するフワフワのお手手を心行くまで堪能させてもらった。
「……気は済んだかの?」
「はい。……とりあえずは……。ありがとうございました!」
「う、うむ!」
あれ? 引いてる?
ラビくんたちにするコースよりも少ないんだけど……。
ラビくんも「あれ? もう終わり?」って呟いてたし。
ちなみに、モフモフだけしていたわけではない。
わざわざ顕現してまで足を運んでくれた理由も聞いてある。
顕現した理由は【精霊門】の使用。
大精霊級にのみ開くことを許された【精霊界】へと通ずる門を潜り、【精霊界】を通って別の地へと移動できるのだとか。
前回は幻獣の移動のためにカーさんたちに頼まれ、今回は【九天王国】へ行くためにタマさんに頼まれたんだとか。……お疲れ様です。そしてありがとうございます。
「ではの、気をつけるのじゃぞ」
カーさんの頭を強めに撫で回す以外は、全員優しく撫でてもらった。
「お世話になりました!」
「行ってくるねー!」
深々とお辞儀をして目的地へと旅立つのだった。
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