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第三章 欲望顕現
第九十話 提案からの作業終了
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残党の討伐はカーさんの提案のおかげで、敬遠したくてたまらなかった蛇問題がほとんど解決した。
その提案というのは、ローワンさんに格安で売るというものだ。
魔境や迷宮品を扱っている商会でも海の魔物であるシーサーペントを丸ごと扱えることは滅多になく、それもほとんど無傷の最高品質な大いに喜んでくれるだろうと。
それなら適正価格で売却するべきだと考えるかもしれないが、適正価格での取引だと引き取ってくれる数が少なくなりそうだと考えた。
ただでさえ、食べきれない量の肉塊が山積みになっている。
それにローワンさんに提供する場合は丸ごとだから、そのまま収納できるのだ。
つまり、近づいて仕留める必要も、カーさんが引き上げる必要もない。とても楽チンである。
まぁそれでも大量にいるから、四分の二は魔境行きにして、残りを半分ずつにして分けるという配分になるだろう。
蛇が片づけば、あとは巨大だが数が少ないクラーケンや子鯨などに、数は多いが比較的小さい魚類だけだ。
魚類はネーさんが作った網で掬って締めた後、解体して収納するという流れ作業をしているだけ。
デカ物は二人で持ち上げてトドメを刺し、解体して収納するという作業だ。このデカ物の解体作業には、俺たちの取り分のシーサーペントも含まれている。
俺が解体して走り回っている間、カーさんは素材一覧を作って記入している。
あとで地獄の刑務官に見せて、譲渡してもいいものを確認するためだ。
「そういえば、さっきのはラビくんだったのか?」
討伐が終盤に近づいてきたとき、カーさんから先ほど起きた異常事態について質問があった。
あのときはクラーケンの引き上げ作業だったけど、異常な気配を察知して放り出してしまったのだ。申し訳なかったと思う。
「親分の悪口を言った者がいて、そのことを聞いて興奮しちゃったんだって。体中が輝いていたから、てっきり魔力暴走か病気かと思ったよ」
「――それは……」
「ん? 何か知ってそうだけど?」
「……いや、悪口を言っていた方なら聞いたことあるな」
「誰!?」
「んー……言ってもいいのか? 親分殿が言わなかったということは、言っちゃダメなことのような気がするんだよな。オレは二度はないと言われているから、できれば判断を仰ぎたい」
「わかった。別の人に聞くよ」
「……誰!?」
「まぁいいからいいから」
言いたくない者に聞くという無理強いはしない。親分には親分の考えがあるのかもしれないが、俺にとっては父親以上に大切な存在だ。
不敬かもしれないが、親分やオークちゃんが両親でアルテア様は姉のように感じている。
そして俺の信念はモフモフを助けることだ。
親分を助けるなんて言うつもりはない。ただ、ラビくんから一瞬でも笑顔を奪ったことが許せないのだ。……もちろん、親分の悪口を言った者がいると聞いてムカついたというのもあるが。
そう考えていると、いつの間にか今度は俺が魔力を放出していたらしい。
顔面にモフモフのお腹が貼り付いて窒息しかけたおかげで、周囲の異変に気づけた。
「ラビくん、手伝いに来てくれたの?」
「ううん。お手紙書きたいから、紙とペンを借りに来たの!」
「……なんだぁ。手紙か……何の?」
「お肉を分ける手紙!」
「じゃあリストから選んで! 蛇は四分の二くらいあげてもいいよ!」
というか、是非持っていって欲しい。
「いや、いらない!」
ラビくんよりも早く拒否したのは、親分専属アッシーくんであるロッくんだった。
そういえば、あいさつ忘れてたな。それどころじゃなかったのもあるけど。
「ロッくん、久しぶりーー!」
「会ったばっかりだよ!」
「……そうだね。それで、蛇はどうしていらないのかな?」
「たまに陸に上がってきて食材になるからだね。子鯨一頭丸ごとの方が嬉しいって。あと、クラーケンとカリュブディスの足を何本か。他は魚がいくつかあればいいって。えーと……蛇は引き取るとしても四分の一だってさ」
「……え? 話してるの?」
「ふうちゃんが《遠話》使えるから、連絡してくれてるんだよ。……そういえば、魔力量は大丈夫?」
「は……はい」
ロッくんの方が立場が上だからか、本当のことを言いにくいようだ。顔色がかなり悪く見えるのに。
「アーク! ドロンジュースを!」
ロッくんの質問に対する答えが嘘だと見抜いたラビくんが、魔力回復効果があるドロンジュースを催促し、ふうちゃんに飲ませていた。
遠慮するふうちゃんに「ぐいっと! さぁ!」と言いながら、半ば無理矢理に飲ませる狼兄弟。
「――おいしい!」
「そうでしょ! あまりの美味しさのせいで悪魔に魂を売った天使もいるくらいだからな!」
「ラビくん、ラビくん!」
「何かな? アーク隊員!」
「どちらの天使でしょうか!?」
「……我が家には、ドロンのために悪魔に魂を売った天使は一人しかいないよ。鬼畜天使という者だけだよ!」
「では、もう片方の天使は?」
「ずっと天使だよ! ねっ! ……違うかな?」
瞳をウルウルさせてウサ耳を垂らすラビくん。とても違うとは言えない。
「ずっと天使だよね!」
「うん!」
撫でたい衝動に駆られるも、とりあえず解体作業を優先させるために我慢する。
ラビくんは誰にも見せないように、リムくんの体の陰で手紙を書いていた。終わったら、宛名を書いて封蝋をしてロッくんに渡すようにお願いしていた。
でも何故か受け取らないロッくん。
しかも顔色がよろしくないように見える。手紙とラビくんの顔を交互に見て、意を決したように首元のバックに入れていた。
「あれ? 今度は鳥がたくさん来たよ!」
ラビくんが地獄の刑務官になりかけた瞬間――
「ウチの応援だよ! 討伐とかはやめてね!」
「……失礼しちゃうな! そんなことしないよ!」
「……」
胡乱げな視線をかわしたラビくんは、俺に木製の籠を作ってあげるように伝えに来た。
森魔術で創ろうと思っていたが、カーさんが代わりにやってくれるそうで、俺はラビくんの許可が出たものを分配していく。
「ロッくん、オークちゃんのところと奴隷村にも届けてくれる? 手紙付きで」
「いいけど……一度では無理だから、ここで待っていてほしいんだけど」
「大丈夫! 風呂に入って洗濯したいから! 晩ご飯も用意しておくから、ついでに食べていって!」
「楽しみにしてる! あと、ふうちゃんは置いていくね。休ませてあげたいし!」
「え……でも……!」
「お兄ちゃんも連れて来るからさ! 配達だけなら《遠話》はいらないでしょ!」
「あ……ありがとうございます!」
お兄ちゃんがいるのか。似てるなら可愛いだろうな! よし、晩ご飯作り頑張ろう!
ちなみに、ママ鯨の体内は博物館だった。
収集癖でもあるのかというような量の物資が残留していて、小島や遺跡みたいな建物に宝石の原石などや亜竜の死体などもあった。
最近加わった魔導船はかなり破損していて、作り直した方が早そうだ。
ただ、船倉の造りがよかったのか、荷のほとんどが無事だったのは不幸中の幸いだろう。
拾ったものだから、俺たちが転売しても法律上なんの問題もない。ついでに魔具部分を回収して、分解して技術をパクろうと思う。
ローワンさん曰く、人や国によって構造や性能が違うんだとか。この船が当たりであることを祈る。
人間の方は消化されずに済んだが、時間が経ちすぎていたことと、個体の強さが足りないのか一人もスキルや魔力を得られなかった。
死体をどうするか悩みに悩み、結局持って帰ることに。
一番無事だった船倉付近の壁を壊れた風に偽装して、その廃材となったもので穴を塞いで応急処置をする。
死体は船内に並べておき、身分証などのわずかな遺品だけを置いて、他の貴金属や金銭などは全て回収してしまう。
死体の運搬料と思って欲しい。
そもそもなすりつけをしようとした犯罪者どもである。地獄にお金を持っていっても使い途はないのだよ。
しかも遺族が行方不明者捜索にかける費用も減らしてあげるという配慮もあり、大いに喜んでくれることだろう。
あと衣服や身につけていた武器には怨念がこもっていそうで手をつけていないけど、船室にあるものは残らずかっ攫っている。
これにはロッくんたち配達部隊以外のみんなで、「探検、探検!」と言って競争して楽しんだ。
そのあと浮けばいい程度に穴を塞いで収納した。
今は流氷を補強して風呂を造ったり、地魔術で竃を造ったりしている。
こういうときのために魔具を買うか造るかしたいなと思う。せっかく最大値の《魔具作製》スキルがあるのだから、便利家電っぽい魔具をたくさん造ろう。
とりあえずコンロと洗濯機が欲しい。
と、洗濯をしながら考えている。
もう一着あるのだから着替えればいいのだが、自他ともに珍しい服だと認識している上に、服を理由に話し掛けようとしていた者が船にも多くいた。
ローワンさんが全てブロックしてくれていたから遠巻きに見られるだけで済んでいたが、風呂もない船内で着替えていたら「何故?」という話題のきっかけができてしまうだろう。
だから緑のままで過ごす必要があるのだ。
幸いなことに服はネーさんの糸でできているから、尋常じゃないほど丈夫で汚れない付与をしている。
気持ち的な問題で洗濯をしているから、洗濯をするのに苦労はなく、数回振ればほとんど乾くから手間いらずである。
仕上げに風魔術を使えば新品同様になった。
反対に体の方は、風呂に入っても潮風のせいで多少べたつくからスッキリしないが、ふうちゃんをモフモフできるようになったから良しとしよう。
「モフモフーーー! 可愛いねーー!」
「お、お風呂……気持ちよかったの!」
「そうでしょ!」
ラビくんが得意げに頷く。狼兄弟も一緒に入ってピカピカのモフモフになっている。
リムくんは増援部隊の相手をしたから、かなり汚れていた。臭いのせいで鼻がきかなくて、かなり苦しんだそうだ。
今はドロンの干し果実を嗅いで、嗅覚復活チェック兼おやつタイムを楽しんでいた。
おやつタイムは警備担当のカーさんと料理担当の俺以外で楽しんでいる。もちろん、ネーさんも一緒にである。
遠慮がちに食べているふうちゃんとは違い、我が家の食いしん坊兄弟は一心不乱に食べていた。
晩ご飯は別腹とのことで、すごく楽しみにしているらしい。
個人的には前世で食べた鯨の刺身が忘れられない。しかしここは異世界で、相手は魔物である。
さすがに生で食べるのは躊躇ってしまう。
次点で竜田揚げかなと思うが、片栗粉がないから唐揚げになるのだろうか。
唐揚げは小麦粉で、竜田揚げは片栗粉と聞いたけど合っているかは不明だ。
まぁ唐揚げが好きな彼らにはちょうどいいだろう。それから、魚が大量にあったから塩竃焼きなんてどうだろうか。
魔物だから普通より大きいけど、貝やエビなどの魔物もあったからセウの実で作ったなんちゃって醤油を使った網焼きとかもいいかな。
うんうん、モフモフに囲まれて美味しいものを食べる。実に幸せだ。
最初は地獄の刑務作業かと思ったけど、終わりよければ全て良し。頑張った甲斐があるというものだ。
今回は網焼きと揚げ物にしよう。
その提案というのは、ローワンさんに格安で売るというものだ。
魔境や迷宮品を扱っている商会でも海の魔物であるシーサーペントを丸ごと扱えることは滅多になく、それもほとんど無傷の最高品質な大いに喜んでくれるだろうと。
それなら適正価格で売却するべきだと考えるかもしれないが、適正価格での取引だと引き取ってくれる数が少なくなりそうだと考えた。
ただでさえ、食べきれない量の肉塊が山積みになっている。
それにローワンさんに提供する場合は丸ごとだから、そのまま収納できるのだ。
つまり、近づいて仕留める必要も、カーさんが引き上げる必要もない。とても楽チンである。
まぁそれでも大量にいるから、四分の二は魔境行きにして、残りを半分ずつにして分けるという配分になるだろう。
蛇が片づけば、あとは巨大だが数が少ないクラーケンや子鯨などに、数は多いが比較的小さい魚類だけだ。
魚類はネーさんが作った網で掬って締めた後、解体して収納するという流れ作業をしているだけ。
デカ物は二人で持ち上げてトドメを刺し、解体して収納するという作業だ。このデカ物の解体作業には、俺たちの取り分のシーサーペントも含まれている。
俺が解体して走り回っている間、カーさんは素材一覧を作って記入している。
あとで地獄の刑務官に見せて、譲渡してもいいものを確認するためだ。
「そういえば、さっきのはラビくんだったのか?」
討伐が終盤に近づいてきたとき、カーさんから先ほど起きた異常事態について質問があった。
あのときはクラーケンの引き上げ作業だったけど、異常な気配を察知して放り出してしまったのだ。申し訳なかったと思う。
「親分の悪口を言った者がいて、そのことを聞いて興奮しちゃったんだって。体中が輝いていたから、てっきり魔力暴走か病気かと思ったよ」
「――それは……」
「ん? 何か知ってそうだけど?」
「……いや、悪口を言っていた方なら聞いたことあるな」
「誰!?」
「んー……言ってもいいのか? 親分殿が言わなかったということは、言っちゃダメなことのような気がするんだよな。オレは二度はないと言われているから、できれば判断を仰ぎたい」
「わかった。別の人に聞くよ」
「……誰!?」
「まぁいいからいいから」
言いたくない者に聞くという無理強いはしない。親分には親分の考えがあるのかもしれないが、俺にとっては父親以上に大切な存在だ。
不敬かもしれないが、親分やオークちゃんが両親でアルテア様は姉のように感じている。
そして俺の信念はモフモフを助けることだ。
親分を助けるなんて言うつもりはない。ただ、ラビくんから一瞬でも笑顔を奪ったことが許せないのだ。……もちろん、親分の悪口を言った者がいると聞いてムカついたというのもあるが。
そう考えていると、いつの間にか今度は俺が魔力を放出していたらしい。
顔面にモフモフのお腹が貼り付いて窒息しかけたおかげで、周囲の異変に気づけた。
「ラビくん、手伝いに来てくれたの?」
「ううん。お手紙書きたいから、紙とペンを借りに来たの!」
「……なんだぁ。手紙か……何の?」
「お肉を分ける手紙!」
「じゃあリストから選んで! 蛇は四分の二くらいあげてもいいよ!」
というか、是非持っていって欲しい。
「いや、いらない!」
ラビくんよりも早く拒否したのは、親分専属アッシーくんであるロッくんだった。
そういえば、あいさつ忘れてたな。それどころじゃなかったのもあるけど。
「ロッくん、久しぶりーー!」
「会ったばっかりだよ!」
「……そうだね。それで、蛇はどうしていらないのかな?」
「たまに陸に上がってきて食材になるからだね。子鯨一頭丸ごとの方が嬉しいって。あと、クラーケンとカリュブディスの足を何本か。他は魚がいくつかあればいいって。えーと……蛇は引き取るとしても四分の一だってさ」
「……え? 話してるの?」
「ふうちゃんが《遠話》使えるから、連絡してくれてるんだよ。……そういえば、魔力量は大丈夫?」
「は……はい」
ロッくんの方が立場が上だからか、本当のことを言いにくいようだ。顔色がかなり悪く見えるのに。
「アーク! ドロンジュースを!」
ロッくんの質問に対する答えが嘘だと見抜いたラビくんが、魔力回復効果があるドロンジュースを催促し、ふうちゃんに飲ませていた。
遠慮するふうちゃんに「ぐいっと! さぁ!」と言いながら、半ば無理矢理に飲ませる狼兄弟。
「――おいしい!」
「そうでしょ! あまりの美味しさのせいで悪魔に魂を売った天使もいるくらいだからな!」
「ラビくん、ラビくん!」
「何かな? アーク隊員!」
「どちらの天使でしょうか!?」
「……我が家には、ドロンのために悪魔に魂を売った天使は一人しかいないよ。鬼畜天使という者だけだよ!」
「では、もう片方の天使は?」
「ずっと天使だよ! ねっ! ……違うかな?」
瞳をウルウルさせてウサ耳を垂らすラビくん。とても違うとは言えない。
「ずっと天使だよね!」
「うん!」
撫でたい衝動に駆られるも、とりあえず解体作業を優先させるために我慢する。
ラビくんは誰にも見せないように、リムくんの体の陰で手紙を書いていた。終わったら、宛名を書いて封蝋をしてロッくんに渡すようにお願いしていた。
でも何故か受け取らないロッくん。
しかも顔色がよろしくないように見える。手紙とラビくんの顔を交互に見て、意を決したように首元のバックに入れていた。
「あれ? 今度は鳥がたくさん来たよ!」
ラビくんが地獄の刑務官になりかけた瞬間――
「ウチの応援だよ! 討伐とかはやめてね!」
「……失礼しちゃうな! そんなことしないよ!」
「……」
胡乱げな視線をかわしたラビくんは、俺に木製の籠を作ってあげるように伝えに来た。
森魔術で創ろうと思っていたが、カーさんが代わりにやってくれるそうで、俺はラビくんの許可が出たものを分配していく。
「ロッくん、オークちゃんのところと奴隷村にも届けてくれる? 手紙付きで」
「いいけど……一度では無理だから、ここで待っていてほしいんだけど」
「大丈夫! 風呂に入って洗濯したいから! 晩ご飯も用意しておくから、ついでに食べていって!」
「楽しみにしてる! あと、ふうちゃんは置いていくね。休ませてあげたいし!」
「え……でも……!」
「お兄ちゃんも連れて来るからさ! 配達だけなら《遠話》はいらないでしょ!」
「あ……ありがとうございます!」
お兄ちゃんがいるのか。似てるなら可愛いだろうな! よし、晩ご飯作り頑張ろう!
ちなみに、ママ鯨の体内は博物館だった。
収集癖でもあるのかというような量の物資が残留していて、小島や遺跡みたいな建物に宝石の原石などや亜竜の死体などもあった。
最近加わった魔導船はかなり破損していて、作り直した方が早そうだ。
ただ、船倉の造りがよかったのか、荷のほとんどが無事だったのは不幸中の幸いだろう。
拾ったものだから、俺たちが転売しても法律上なんの問題もない。ついでに魔具部分を回収して、分解して技術をパクろうと思う。
ローワンさん曰く、人や国によって構造や性能が違うんだとか。この船が当たりであることを祈る。
人間の方は消化されずに済んだが、時間が経ちすぎていたことと、個体の強さが足りないのか一人もスキルや魔力を得られなかった。
死体をどうするか悩みに悩み、結局持って帰ることに。
一番無事だった船倉付近の壁を壊れた風に偽装して、その廃材となったもので穴を塞いで応急処置をする。
死体は船内に並べておき、身分証などのわずかな遺品だけを置いて、他の貴金属や金銭などは全て回収してしまう。
死体の運搬料と思って欲しい。
そもそもなすりつけをしようとした犯罪者どもである。地獄にお金を持っていっても使い途はないのだよ。
しかも遺族が行方不明者捜索にかける費用も減らしてあげるという配慮もあり、大いに喜んでくれることだろう。
あと衣服や身につけていた武器には怨念がこもっていそうで手をつけていないけど、船室にあるものは残らずかっ攫っている。
これにはロッくんたち配達部隊以外のみんなで、「探検、探検!」と言って競争して楽しんだ。
そのあと浮けばいい程度に穴を塞いで収納した。
今は流氷を補強して風呂を造ったり、地魔術で竃を造ったりしている。
こういうときのために魔具を買うか造るかしたいなと思う。せっかく最大値の《魔具作製》スキルがあるのだから、便利家電っぽい魔具をたくさん造ろう。
とりあえずコンロと洗濯機が欲しい。
と、洗濯をしながら考えている。
もう一着あるのだから着替えればいいのだが、自他ともに珍しい服だと認識している上に、服を理由に話し掛けようとしていた者が船にも多くいた。
ローワンさんが全てブロックしてくれていたから遠巻きに見られるだけで済んでいたが、風呂もない船内で着替えていたら「何故?」という話題のきっかけができてしまうだろう。
だから緑のままで過ごす必要があるのだ。
幸いなことに服はネーさんの糸でできているから、尋常じゃないほど丈夫で汚れない付与をしている。
気持ち的な問題で洗濯をしているから、洗濯をするのに苦労はなく、数回振ればほとんど乾くから手間いらずである。
仕上げに風魔術を使えば新品同様になった。
反対に体の方は、風呂に入っても潮風のせいで多少べたつくからスッキリしないが、ふうちゃんをモフモフできるようになったから良しとしよう。
「モフモフーーー! 可愛いねーー!」
「お、お風呂……気持ちよかったの!」
「そうでしょ!」
ラビくんが得意げに頷く。狼兄弟も一緒に入ってピカピカのモフモフになっている。
リムくんは増援部隊の相手をしたから、かなり汚れていた。臭いのせいで鼻がきかなくて、かなり苦しんだそうだ。
今はドロンの干し果実を嗅いで、嗅覚復活チェック兼おやつタイムを楽しんでいた。
おやつタイムは警備担当のカーさんと料理担当の俺以外で楽しんでいる。もちろん、ネーさんも一緒にである。
遠慮がちに食べているふうちゃんとは違い、我が家の食いしん坊兄弟は一心不乱に食べていた。
晩ご飯は別腹とのことで、すごく楽しみにしているらしい。
個人的には前世で食べた鯨の刺身が忘れられない。しかしここは異世界で、相手は魔物である。
さすがに生で食べるのは躊躇ってしまう。
次点で竜田揚げかなと思うが、片栗粉がないから唐揚げになるのだろうか。
唐揚げは小麦粉で、竜田揚げは片栗粉と聞いたけど合っているかは不明だ。
まぁ唐揚げが好きな彼らにはちょうどいいだろう。それから、魚が大量にあったから塩竃焼きなんてどうだろうか。
魔物だから普通より大きいけど、貝やエビなどの魔物もあったからセウの実で作ったなんちゃって醤油を使った網焼きとかもいいかな。
うんうん、モフモフに囲まれて美味しいものを食べる。実に幸せだ。
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