おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一

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第二章 一期一会

閑話 老樹からの乙女樹人

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 吾輩の名前はレニー、最近トレントからエントに進化できた特殊個体だ。

 以前はジャイアントプラントだったが、わずか半年でトレントを経てエントへ進化を果たした。
 それも変わった子どもが取引を持ちかけた直後にトレントへと進化したのだ。実際に体験した吾輩も異常なことだと理解している。

 子どもの側にいる話す兎も相当驚いていた。

 吾輩は元々森の奥地にいたのだが、おかしな気配を纏う精霊が眷属を連れて行こうとしたときに戦い、吾輩は敗れてしまったのだ。
 そのせいで領域がなくなり、回復ができず老樹となってしまった。

 たまたま逃げた場所が中層にある洞窟で、そこは龍脈の関係で魔物が多く出現しており、老樹になった吾輩でも生きながらえるくらいには魔力を吸収できた。

 ちまちまと死んだ魔物の魔力を横取りしては吸収する日々を送っていた吾輩は、何故こんな情けなく惨めな思いをしてまで生きねばならんのかと考えていた。

 もういいのではないか?
 弱肉強食の世界で吾輩は負けたのだ。
 力がなかった吾輩が敗者で賊軍なのだ。

 惨めな思いをするくらいなら、思い切って輪廻の輪に加わろうではないか。
 来世は強い種族になれるだろうか?
 できれば強い種族がいいな。
 
 心は決まったというのに、何故かモヤモヤが晴れない。
 そんな中、洞窟に一人の子どもが訪れた。それも一人だけで。

 人間の大人を囮に使ったと思えば、凄まじい威力の魔術で魔物を一掃してしまった。
 それからも時折尋常でない魔力量を放出したり、洞窟の周囲に巨大な堀を造ったりと、見た目と年齢が違うタイプの人間かと何度も思ったくらいだ。

 だが一番驚いたのは、【武帝獣】が洞窟の前に寝ていたことだ。

 『吾輩たちがいる魔境の真のヌシは誰だ?』という質問を主だったヌシにしたとしよう。
 自惚れて自分を客観視できていない阿呆を除けば、全員が【武帝獣】と言うだろう。高位精霊がいるのを知っていたとしてもだ。

 当然だが、吾輩も【武帝獣】だと答える。

 全盛期以上の力を持っていたとしても、恐ろしくて道を開けて頭を垂れてしまう存在なのだ。老樹である状態の吾輩など、ゴブリンと同様に扱われても仕方がない。

 それなのに、例の子どもは怖がることもせず親しそうに接しているではないか。
 頭がおかしいのか? それとも普通の熊だと思ってるのか?

 人間の子どもが来るまで毎日のように考えていた来世のことが、この頃には気にならなくなっていた。
 それよりも人間の子どもへの興味が尽きなくなっていたのだ。

 時折独り言を言っている可哀想な子どもという印象だったが、ある時を境に印象が変わった。

「イビルプラントさん、取引しませんか?」

 突然話し掛けられて驚いた。

 驚いた拍子に攻撃してしまったが、避けてくれたようで安心した。

 ――何故、安心した? 

 弱肉強食の世界だ。攻撃を喰らって負けた方が悪い。なのに、吾輩は何故子どもの心配をした? ……分からない。

「今は周囲にイビルプラントがいないけど、近々来るかもしれないでしょ? 力をつけておけばいいし、俺たちは永住するつもりはないから、いなくなったあと領域の主になれるから悪くないと思うけど?」

 子どもは言葉を続ける。

「俺が欲しいのは、大量の魔力水を吸収してくれる魔物と木材をくれる魔物。水は多かったらスライムにあげてもいいし貯水池を造ってもいいけど、木材は伐採しなきゃいけないんだよね。広くなったら人間が来そうで嫌でしょ?」

 敗者の吾輩に対等に接している。

「もし取引に応じてくれるなら地面を一度叩いて。無理なら二度。その場合は他の魔物に話を持っていくからさ」

 あのような魔術が使えるなら、無理矢理力で従わせれば早いだろうに……。

「引き受けてくれるなら特濃魔力水を定期的に提供してもいいと思ってる」

 魔力水など大して珍しくもないが、吾輩と対等に取引をしようという心意気が気に入った。

 ――ピシッ!

 子どもが言ったとおりの返事をすると、子どもはすごく喜んだ。吾輩も何故か嬉しくなった。

「ありがとう。これからよろしく!」

「ボオォォォォーー!」

 誤魔化すように返事をした後、何故か話せる兎が子どもに間違いを教えていた。
 吾輩は兎に感謝したが、一番嬉しかったのは『アーク』という名前を教えてもらったことだ。

「アーク……あの木の魔物はイビルプラントじゃないよ?」

「……え?」

「脅威度五のジャイアントプラントだよ」

 脅威度というものは分からないが、吾輩のことを知ってくれて嬉しい。もっと知って欲しいと思うようになった。

 話せない吾輩がアークと話すには兎に通訳を頼むか、吾輩自身が存在進化するしかない。
 兎は食っちゃ寝してばかりで話すタイミングがほとんどない上、たまに動けば変わった狼に乗って移動しているだけ。

 ……あの狼の非常食ではないよな?

 個人的には話せない狼よりも、話せる兎の方が長生きして欲しい。

「これが約束の魔力水だけど、今日のは特別だからね。取引成功の御祝いに持ってきたんだ。枝か根を突き刺して吸っ――」

 兎を心配していたら、アークが魔力水を持って現れた。
 一目で分かるほど特別な魔力水に興奮した。

 吾輩のために作ってくれたのだ。
 子どもにしてすでに女の扱いを身につけているとは……。将来が怖いな。

 嬉しさのあまり、年甲斐もなくがっついてしまった。でも仕方がないのだ。
 女は特別という言葉に弱い生き物だからな。
 吾輩も女扱いしてくれるアークには感謝だ。

 この直後、吾輩はトレントに進化できた。
 転生しなくても強い種族になれたのだ。
 吾輩の望みを叶えてくれただけでなく、女として扱ってくれ、さらに生きる希望まで与えてくれたアークに感謝した。

 もっと一緒にいたい。
 吾輩のことを知ってもらいたい。
 アークと話したい。

 兎を介してではなく、自分の言葉で話したいと思った。魔物である自分が人間と話したいということはおかしいと思うが、不思議とモヤモヤが晴れていたのだ。

 この気持ちが何なのかは分からないが、話せるようになったら分かるようになるかもしれない。
 そのために魔力を吸収し続けようと心に決めた。

 後日、兎が三体の魔物を連れて来た。

 兎は誤解と言っているが、間違いなく確信犯だ。三体の引っ越しには協力するのに、吾輩には協力してくれないのは何故なのだろうか?

『トレントさんは、ぼくのことを兎って呼ぶからだよ! 聞こえてるんだからね!』

 という念話がアークとの交渉中に届いた。
 つまり、兎ではないということか。

『ぼくは狼なの! 非常食ではない!』

『すまぬ! 改めよう! だから協力して欲しい!』

『……まぁいいでしょう! 何をすればいいの?』

『ありがとう! 名前をつけてもらってくれ! そしてタイミングがいいときに念話してくれれば、吾輩が返事をする。それで従魔契約を結べるのだろ?』

『……何で知ってるの?』

『奥地に棲んでいたときにイタズラ好きの狐がやっていた。ゴブリンに化けて困っている人間をからかっていたな』

『……不憫』

『もちろん、他の三体のついででいい!』

『任せて! その代わりラビくんって呼んでね!』

『約束だ!』

 よしっ! 大きな一歩だ!

 それにしても狼だったとは……。兄弟なのかな? 見た目はあまり似てないが、行動は双子並みに似ているな。

 姿は見えないが、タマさんという者が交渉に参加したことで流れが変わり引っ越しが決定した。
 深夜、ラビくんが連れて来た三体が新参ということであいさつに来てくれ、アークに対して思っていることを交わし合った。

 吾輩同様、よく分からない気持ちが湧いていて、もれなく命を助けてもらったことがきっかけだったという。
 ラビくんが「よかったら一緒においでよ!」と、念話で声をかけてくれたそうだ。

 三体にとっては天使であり、兄のようでもある存在らしい。
 今なら分かる気がする。
 体は小さいが頼もしくて、きっと約束を果たしてくれるという確信があるからだ。

 そして確信通りラビくんはラビくんは約束を果たしてくれ、吾輩は『レニー』の名前をもらい従魔になった。

 エントになった上に名前までも。

 半年前は生きることに絶望していたのに、今では次の日が楽しみで仕方がない。

 だけど、一つだけ後悔していることがある。

 エントになったときに男の体になった恥ずかしさを隠すため、アークやラビくんのことを『殿』と呼んでしまい、戻すタイミングが分からなくなってしまった。

 体も女っぽくないし、言葉遣いも堅苦しい。

 他のみんなが人化できるまでに直せるといいな。ついでに胸も大きくなっていて欲しいと心の底から望む。

 我が守護天使ラビ様! 
 どうか願いを聞き届けてくださいませ!

 現在吾輩たちの間で流行っている願掛け方法だが、一向に効果が現れない。

 それでも願うしかないのだ。

 この『好き』という気持ちがアークに届くように。吾輩を見てくれる武器を一つでも多く身につけるために。


 ===================


 今回はレニーの視点で書きました。
 これからも少しずつ、他の従魔の視点でも書けたらいいなと思っています。

 今章はこれで終わりです。

 次章開始は、最速で明日。
 遅くても明後日には更新予定です。

 明日は激変したステータスの詳細などを載せる予定です。

 引き続きお読みいただければ幸いです。

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