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第二章 一期一会

第八十二話 始末からの恋愛成就

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 町から南西に進むと伯爵村があるのだが、町から西に進んだところにエルフ村がある。
 まずはそこに向かい、選民思想エルフを拉致する。説得という行為は時間の無駄だと、エルフ娘たちから学んだからだ。

 心をへし折るという甘いものではなく、砕かなければ選民思想エルフの考えは変えられない。

 帰宅後は隷属魔術大会が待っているから、説得という無駄を省く必要がある。悪く思わないでくれ!

「ねぇ、ラビくん!」

「何かな?」

「親分に教わった《具現化》の第一段階を使えば、一気に制圧できるんじゃないかな?」

「うーん、お子さんがいたら全滅しちゃうね! 無差別テロだよ?」

「……やめておきます」

「それがいいと思う!」

 大人しく順番に馬車に乗せて行こうと思ったが、やっぱり選民思想エルフは手強かった。
 精霊が非協力的と分かると、四方八方から矢を放ってきたのだ。連結馬車にしていたおかげで馬を守りやすくはあったが、少々面倒に感じ始めた俺は、魔力の偽装を解いて《威圧》を発動する。

 お馬さんに向かないように気をつけ放ったおかげで、お馬さんは軽傷で済んだ。
 エルフは木から落ちて怪我をした者もいたが、すぐに回復魔術を使用して治したから問題ない。タマさんの農奴を勝手に減らしてしまうと、あの鬼畜天使がまた無茶を言いかねない。

 建物はツリーハウスだったり、木の下にあったり、バリエーションに富んでいた。イムと手分けして収納し、無事洞窟に帰還を果たす。

 ◇

 洞窟に戻ってすぐにやったことは、専用の檻へのエルフの収監だ。攻撃してきたから《威圧》した旨を伝え、抵抗しないように説得する指示を出す。

 次に回収してきた商館や倉庫を、管理者館と関連倉庫用に改修する。
 迷宮は、住居を通らずに南西から入れるように側溝の上に橋を架けたから、その近くに迷宮攻略および採掘管理館と武器倉庫設置する。

 迷宮攻略および採掘担当奴隷と、警備担当奴隷は分ける予定だ。前者は作業終了後に、武器倉庫に道具を返却する必要がある。後者は常時携帯可能だが、三交代制の上に奴隷同士の喧嘩に使用した場合の罰則は重い。

 そもそも実力者であり、人格者でなければ警備担当にはなれないけど。

 二つの担当で一番の違いは、個室か大部屋かである。一応、イビキがうるさいヤツは防音完備の大部屋に一箇所にまとめる予定だが、基本的に作業担当奴隷は同性しかいない空間の大部屋だ。

 もちろん、出世制度があるからずっとではない。

 ちなみに、迷宮内でドロップしたものや採掘したものは従来通り、洞窟に設置されている倉庫に収納する。代わりに、毎朝堀に入っているだろう魔物は解体所を使ってもらい、追加で設置する専用の倉庫に入れてもらう。

 こちらは日常の食事や生産活動で使ってもらおうと思っているからだ。
 確率は低いけど迷宮内で採れる食料も新設倉庫に入れるように指示しておく。

 大量にもらってきた娼館は簡単に改修して、生産職奴隷が使う施設兼住居にして、迷宮管理館の南側に長屋のように並べて設置した。
 倉庫からも近く、居住区が東側にあるから利便性が高い位置だと思う。

 北側に設置した二階建て住宅を南側と男村に移設し、北側はエルフ専用区画にした。
 ただし、家族以外は男女を別にすることは他と変わらない。ここでエルフ以外からズルいと声が上がったが、家族でももれなく性行為は禁止しているし、家族との同居を望むなら同じ身分にしてあげるから連れて来ようか? と聞けば文句はなくなった。

 エルフは基本的に鬼畜天使の農奴としての役割と、精霊を使った索敵が主な仕事だ。武器を携帯した警備担当でないのは、選民思想エルフだからである。
 それに、樹の高位精霊と綿花の高位精霊に弓を引いた精霊共に対する罰でもある。暴れたい盛りで、遊びたい盛りの精霊には索敵だけをやらせるつもりだ。

 拒否するなら休眠させると言い含めてある。

 ラビくんとカーさんの脅しも効いたようで、大人しくなった精霊たちを見たエルフは絶望していた。精霊という心の支えが機能しなくなったことで、エルフが特別である証明が揺らいだからだろう。

 エルフ問題が片付いた後は、エルフ区画の東側の洞窟北東地点に管理館と倉庫を設置する。設置してある檻を撤去して、もらってきた商館や倉庫を跡地に置く。土台と地面を固定して完成だ。

 男村にも管理館や倉庫お設置し、駐車場などの設備を整える。隠れ家や屋敷は、家事奴隷や商業奴隷用の寮にするする予定だ。

 寮も男女別で設置するが、男村には男しかいないから別にする必要はない。家事奴隷も例に漏れず男だけだから、料理も男メシになってしまう。……気が狂いそうだ。

 建物内にある金品や証拠品は回収し、貴金属や現金は村の管理費に使ってもらう。証拠は暴露するために必要だから、木箱に入れてもらっていく。

 洞窟に帰ってきてからも続けられているカーさんのカード処理だが、商業奴隷や護衛担当奴隷は身分証が必要だろうから、組合のカードは中身を抜いて返却する予定だ。
 他はカーさんが処理したものから、金庫型のおもちゃに入れていく。

 貯金箱みたいなもので、鍵付きの小物入れになっているらしい。俺にしか取り出せないし、存在していることは分かるが、どこにあるかまでは辿れなくなるらしい。

 あと、レニーたちの四人のカードにも、それぞれ数百万単位で振り込んである。何でも出発のタイミングをずらすそうだ。

 理由は、鬼畜天使の無茶振りらしい。

 ドロン農園を荒らされることを危惧した鬼畜天使は、彼女たちに部下を配置することを頼んだらしい。

 メルは蛙将軍を洞窟西側に配し、エルフと迷宮作業者の監視を行うそうだ。
 レニーは本村と男村の周囲にイビルプラントを配し、監視および護衛をさせるそうだ。
 イムはチビスライムを迷宮内や各所に配し、ゴミ処理施設にいるリーダー格に情報を集め、情報網の構築をするらしい。

 アイラは俺の蛇嫌いに配慮して配下を置かず、《変身》持ちのスライムを捕獲しに行っている。蛙将軍やイム直属の眷属などに持たせ、保存している死体を吸収させる予定だそうだ。

 まぁ警告するときに、「ゲコ!」と言っても伝わらないもんな。

 さらに、親分やオークちゃんからも俺と連絡を取れる部下を配置して欲しいと頼まれ、イム直属の眷属を創るらしい。

 とある理由から鬼畜天使も大いに喜んだ。

 それは物のやり取りが可能になるということだ。分かるだろうか? 何故、鬼畜天使が喜んでいるのかを。

 そう。収穫したドロンがスライム経由で送れるのだ。ドロン酒製造の問題の一つである材料の確保が少しだけ片づくことに喜んだのである。

 魔境でしかドロンは育てられないからね。

 彼女たちは悲しそうにしていたが、目的地は知っているから急いで追いつくと言っていた。

 その後はカーさんのカード作業を横目に見ながら、俺も地獄の隷属魔術大会を行った。触媒は俺の血である。
 一滴で十分らしく、心臓の上に血で魔術陣が描かれれば首輪も不要だし、俺以上の魔力を持っている者にしか上書きや解除ができないらしい。

 エルフ娘たち――アイビーとローズの二人を一番最初に行い、続けて蛙ジャーキーで餌付けされた十五人に魔術をかけていく。

「闇よ、我が血を触媒に、主従の契約を交わさん《鎖縛契約》」

 たっぷりと魔力を込めた魔術を、途中途中にドロンの半生干し果実を食べながら魔術をかけ続けた。あまりにも食べすぎたものだから、ラビくんが半生じゃない干し果実を持ってきて交換していた。

 交換した半生干し果実は、狼兄弟の腹の中に吸収されていたが。

 魔術をかけつつ《鑑定》をし、部署と住居を指示し。性行為禁止などの規則を伝えていく。男村への移送はすでに打ち合わせ済みのジャーキー衆にやらせ、アイビーとローズはレニーを通訳にタマさんと何やら話していた。

 他の従魔たちは、奴隷予備軍を檻から連れて来る役である。アイラのみ、カーさんの監督も兼任している。

 明日は親分たちを招待して、最後の食事会をする予定である。そのときに次の日旅立つことを伝えるのと、創った装備を渡そうと思う。

 そしてこの日も気絶して就寝した。……のだが、夜中に目が覚めてしまった。

 ふと、丸いお腹がない代わりにレニーの顔があることに気づく。

「レニー……?」

「ア、アーク殿……!」

「……何してるの? ……みんなも」

「こ、これは……」

 よく見ると俺もみんなも裸だ。

 まだ夢の中ではないかと思うほど男にとっては嬉しい状況だが、俺が置かれている状況がよく分からない。
 ゆえに、喜びよりも混乱が上回っているせいで素直に喜べていない。

 そんな俺を見かねたのか、覚悟を決めた表情でレニーが話し掛けてきた。

「すまぬ! 吾輩たちは……アーク殿が好きなのだ! それでどうしても我慢できなくて……。でも……気持ちを伝えて、気持ち悪いと言われたくなかった……」

「主様……ごめんなさい……」

「主……すまん……」

「アーク、ごめん……」

「「ご主人様、すみません……」」

 全裸で土下座している姿を見て、何故か罪悪感が湧いてくる。
 それに加えて、いろいろな疑問も湧いてくる。いつからとか、ラビくんはどこに行ったのかとか……。

 思考の渦に連れて行ったのがレニーなら、現実に引き戻したのもレニーだった。

「どうか……どうか、捨てないでくれ……」

 レニーは、いつもの凛とした姿からは想像できないほど不安げで、懇願するように縋りついている。

 いろいろな疑問が湧き、いろいろと言いたいことがあるが、一先ず言わなければいけないことを言おう。

「捨てないよ! 気持ちは嬉しいし、逆に気づいてあげられなくてごめんね。気絶訓練に必死になりすぎたせいで、今の今まで気づくことができなった。迫られて答えを出すなんて卑怯だけど、これからもずっと一緒にいて欲しいな」

「――アーク殿ッ! もちろんだ……。ずっと一緒にいるぞ……。うぅぅ……」

「主様!」「主!」「アーク!」

「「ご主人様!」」

「俺もみんなのことが大好きだよ」

 その後、レニーたちが泣き止むのを待ってから、お互いの気持ちを確かめるように唇と体を重ねていく。

「ほらね」

 レニーと抱き合っているとき、どこかから謎の言葉が聞こえる。

 きっとモフモフの天使が祝福してくれたのだろうと思うのだった。

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