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第二章 一期一会
第七十八話 裏技からの事情聴取
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「奴隷! 奴隷! ……奴隷! 奴隷!」
基本的に奴隷にするが、俺が持っていないスキル所持者は奴隷にしないように、タマさんに指示されている。
タマさんにしては珍しいと思ったのだが、自分の仕事を楽にするためらしい。
なんでもノーマルスキルなら、レベル八以上で統合させることができる。統合した後は、統合スキルのレベルが基準になるから、最大値に上げる必要はないらしい。
でも切り取ったばかりのスキルは、レベル一である。どう頑張っても時間が足りない。
そこでタマさんは根回しを重ね、一つの方法を調べてきた。ノーマルスキルに限り、連続して同じスキルを吸収した場合はレベル八までなら上げられる。ただし、痛みが倍倍で増えていくことと、その後の習熟速度は通常の三倍かかるということがデメリットだ。
つまりは同じスキルを八人用意して、連続でスキルを吸収しろと言われたのだ。
「習熟速度は加護があるから、あまりデメリットに感じないし、ドMのあんたなら痛みなんかへっちゃらよ!」
と、軽い感じで言われた。
習熟速度は統合してしまえば関係ないからいいとして、痛いのはイヤだと言ったが、鬼畜は聞く耳を持ってくれなかった。
むしろ断りにくい説得をされた。
「【霊王】を助ける存在になるんでしょ!? 【霊王】はもっと辛い目にあって痛い思いをしたはずよ! こんな痛みも乗り越えられないようでは、【霊王】を助けるなんて夢のまた夢よ! ラビくんもそう思うでしょ!?」
「そ、そうかな……」
「思うでしょ!?」
「……はい」
と言われ、開戦直前に急遽神器用の檻を拡張した。そして拡張して良かったと思っている。
意外にも多く、内心では憂鬱になっている。
痛みで快感を得るタイプではないから本当はイヤなんだけど、まだ見ぬ【霊王】様のためと言われたら断れるはずもない。
まぁ従魔たちも欲しい人材を確保している。どうやって《鑑定》しているかは謎であるが。
「奴隷! 奴隷! 奴隷! ……奴隷!」
反撃されることなく仕分けできているのは、暗い森の小道から明るい洞窟前に出てきた瞬間に、死角からピンポイントで《威圧》を放っているから。
弱く放ってコントロールを学びつつ、足止めをしていくという一石二鳥の訓練法である。
足を止めた兵士をレニーさんがツタで捕縛して、武器を取り上げた後、それぞれの檻に放り込むという流れだ。
少し面倒だったのはエルフだ。
さすがに戦士階級を全て投入してきただけあって、散り散りではなくまとまってきた。
傷つけないと約束した手前攻撃するのも躊躇われ、エルフ娘たちを囮にしてまとめて拘束したあと檻へぶち込んだ。
彼らは精霊が言うことを聞かない事実が受け入れられず、現在は放心状態らしい。精霊には精霊の事情があるのだ。三度目はないよっていう圧力が、多方向から加わっているらしいからね。
そんなこんなで、パニックに陥った有象無象の討伐は無事に終了した。
ちょっと疲れたから、みんなでお昼ご飯を食べて休息を取る。エルフ娘たちはエルフの戦士が気になるようだが、まだ武装解除をしてないから油断は禁物だ。
何故なら、選民思想を持ったエルフは裏切り者も敵という扱いだからだ。彼らの定義では、奴隷になった者も裏切り者に含まれる。
「まずはエルフの武装解除からやるか」
「「はい!」」
面倒だっただから、魔力の偽装を解除した。精霊も静かになるし、魔力に溺れてくれるから楽なのだ。
「あ、あの……!」
「あっ! ごめんね。そっちに向かないようにするから」
魔力をエルフ専用の檻にだけ向かうように制御し、余計な被害を出さないようにする。魔力が集中するせいで苦しく感じるかもしれないが、早く終わると思って我慢してくれ。
「もういいかな。レニーさんたちも手伝ってー」
「任せよ」
「イムもーー!」
「我は武器を箱詰めするぞ!」
「私は一応護衛してますね」
それぞれが考えて行動してくれる優秀な従魔のおかげで、仕事がとても楽である。それと狼兄弟は落とし穴のところに偵察に行っており、こちらに来ずに救助活動をしている者を伸して回っているらしい。
偵察から戻らないラビくんを心配してたら、タマさんが教えてくれた。
「じゃあエルフの説得よろしくーー!」
「「はい!」」
全滅さけたいエルフ娘たちは、やる気を漲らせていた。思わず拳を握り締めるほどに。
俺たちはラビくんたちの方に向かう。残った残党の捕縛と、指揮者クラスの捕縛が目的だ。そのあともやることは山ほどある。
なんてったって、立つ鳥跡を濁さずだからね。
◇
「はっはーー! いっけーー!」
「ガウーー!」
「おい! あの兎、しゃべったぞ! 救助は後回しだ! 珍獣を捕獲しろ!」
「兎じゃない!」
「そっち行ったぞ!」
「ふぇ? リムくん、そっちじゃない!」
「おせぇぇーーー! とっ――ブフッ!」
「うちの子に触らないでもらえます?」
「アーク! 怖かったよぉぉぉーー!」
「ガウゥゥーー!」
森の小道を抜けたら、目の前には包囲されているモフモフたちが……。珍しく我を忘れ、気づいたときには顔面に拳をめり込ませていた。
「主様、三分経ってしまいますよ。他は私たちがやっておきますので、どうぞラビくんたちと一緒に生存確認に向かわれては?」
「メルさん、ありがとう。みんなもよろしくね!」
「うむ!」
「任せてーー!」
「我に任せよ!」
丸くなって震えているラビくんを抱っこしながら、ぶっ飛ばした男に近づきナイフを刺す。まだ吸収はしない。
それよりもクソババアたちを捜し出して、捕縛しなければならないからだ。面倒だが、元凶の放置はありえない。
「馬車は徴収するから、あとで移動しよう。できれば村にあるものも全てもらいたいから、運搬用に使おうかな。それで、檻を小道側の両脇に造ったら、一人ずつ掘り起こしてさっきと同じ作業をしようか。VIP用の檻も造るから、指揮官クラスはそこによろしく!」
「はーい!」
「分かったぞ!」
「了解だ」
「任せてください」
本当に良い子たちである。確実に俺より年上だけどね。
侵略兵の半数以上を落とし穴に落としたから、捕縛にかなりの時間がかかりそうである。そこでゴーレムさんを出して、運ばせることにした。
檻と落とし穴を行ったり来たりしなくて済み、効率的に捕縛が進んでいく。
ラビくんは元気を取り戻し、レニーさんたちの近くで指示を出していた。ラビくんアイなるもので鑑定しているそうだ。
だから、レニーさんたちも欲しい人材を確保できていたんだなと納得する。しかも捕縛時に、それぞれの髪色と同じ花を森魔術で咲かせ、誰が誰のものかの目印をつけていた。無印は全て俺のものというわけだ。
「おや? やっと見つけた! お久しぶりです! 神子様は元気でしょうか?」
「やっぱり生きてたのね……! 私のところに来れば不自由させなかったのに……!」
「奴隷生活なんかイヤですよ。俺には使命があるんですから。それに森に行くように言ったのは伯爵閣下です。その場にいなかった方には関係がないと思いますが?」
「よく言うわ! いつものように交渉すれば、私の元に来れたはずよ!」
「イヤですよ。行きたくなかったから、話の分かる伯爵閣下には感謝です。しかし、あんたが全てをぶち壊した。盟約違反を三度も行い、俺の平穏な生活を脅かした。今回の関係者にはもれなく罰を下そうと思っています」
「傲慢なガキに育ったものね! 親がいないから、誰も教えてくれなかったのね? 目上の者を敬う常識をっ!」
「いやだな。尊敬できる相手なら、種族や年齢関係なく敬いますよ。でもあなたは無理ですよ? 泥団子を魔核と偽って売却しようとしたんですから」
「――あれはっ! あんたの仕業だったのね! よくも……殺してやる!」
「埋まった状況で、何ができるというのです?」
確か、森に追放された日に追撃に来た兵士も、埋まっている状況で「殺す」って吠えてたな。懐かしい。
「いろいろよ!」
「光魔術ですか?」
「な――何で!?」
「悪魔みたいなことをしているくせに、光魔術を使うとか……神子そっくりですね。あなたも両手を広げて祈るのですか?」
「一緒にするなぁぁぁーー!」
「あれ? そこまで反応するってことは……神子の毒牙に……?」
俺を見る目がヤバいから、きっと地雷を踏んじゃったんだろうな。だが、やめない。
「だから神子被害者の会を創ったのですね?」
「そんなものは創ってないわ!」
「あぁ……、自然にできちゃったパターンですか。まぁ彼女たちと商会員に、あなたの奴隷たちは俺が有効利用させていただきます。あなたはそれを見ることなく輪廻の輪に加わるのです。転生後にまた会いましょう!」
「貴族殺しは大罪よ!」
「盟約破りも大罪ですよ? 俺は侵略者を撃退しているだけだから、死にたくないなら最初から侵略して来なければいいでしょ? 利益は欲しいがリスクは負わないって……商人ですらないですよ?」
「国に追われるわよ!?」
「大丈夫です。辺境伯家はもう終わりです。領兵の三分の二を消滅させ、力を大きく落とすことになった。そこにいる阿呆代官は知らないみたいだけど、戦時以外で大規模な兵を動かすには陛下の許可が必要です」
猜疑心が強いと言われている陛下が、国一番の戦士と言われている辺境伯の部下を動かす許可を出すはずがない。
「仮に演習を理由に動員したとしても、伯爵や辺境伯に内密にしている時点で、あなた方がやっていることは謀反と解釈されると思いますよ。そして陛下は辺境伯領を取り上げ、魔境から撤退すると思います。自分では管理したくないけど、貴族に持たせて力をつけさせたくはないでしょうしね。よって、追われる立場になるのはあなた方だ」
「死んでいく私たちがいなければ、あんたに責任を取らせようとするでしょ!?」
「それですが、俺ってまだ生きていることになってるんですか? 予想では死産になってるはずですよ? 五歳の儀式でステータスを見たら、姓が表示されていませんでしたから。死んでいる者にどうやって責任を取らせるのですか?」
「……それなら私だって同じじゃない!」
「あなた方は輪廻に加わりますが、組合のカードは処分しませんので逃亡したと思われるはず。そして俺の両親は奴隷と、頭がお花畑の育児放棄ババアですが、あなたには息子がいますよね? 王都に」
「ま……まさか……」
「あなたが雲隠れしたら、毒杯を頂くのは息子でしょうよ。禍根を断つためにね。そして予備は誰かな? 降爵され、法衣貴族になった場合の当主は誰になるかな?」
「そんな! あの子は関係ないわ!」
「貴族でその理屈は通らないでしょうよ。辺境伯家の罪を一身に背負い、母の元に帰っていくのです! 感動ですね!」
会ったこともない兄よ。さよならグッバイ!
「そんな……そんな! なんとかしなさいよ!」
「何で俺が? 二度も出した警告を無視したのは誰かな? 自業自得じゃないかな? 伯爵はこうなると分かってたから盟約守っていたし、俺に対して必要以上の関心を向けなかったんじゃないかな?」
「あんたを奴隷にする依頼が他国の公爵家から来たのよ!? 他国の王族の依頼よ?! 断れるわけないじゃない!」
「……いくらもらいました? 内政干渉になるからと突っぱねればいいのでは? 五大国の辺境伯家ですよ? 連合王国の公爵家とさほど変わらないでしょ」
「あんた……知ってたの?」
「俺を知っている公爵家は、連合王国のオラージュ公爵家しかありませんからね。……じゃあ、あの従者かな? 悔しそうな顔をしてたし……」
「そこまで分かっているなら、私のせいじゃないことも分かったでしょ!?」
「今回はね。でも、前回と前々回はあなただから解放できません。では他の人に絶望を与えないといけないので、これで失礼します。またお会いしましょう」
「待ちなさい! 待てって言ってるでしょぉぉぉーー!」
クソババアは白虎ちゃんや熊姫様を傷つけた。最初から死刑以外の選択肢はない。まぁ光魔術を持ってたことだけは感謝する。
ラビくんは絶対に攻撃したくないと、逃亡してしまったから属性攻撃を受ける訓練で光属性はできなかったからだ。
タマさんに聞いた限りでは、神子に光属性が与えられたらしい。あの阿呆は俺を魔王だと思ってるから、いつか襲われてもいいように耐性訓練をしたいと思っている。
そこに光属性が来てくれたのだ。もらうしかない。捕縛後、勝手に死なないように猿轡をかませて檻にぶち込んどいた。
「さて、次は誰かな?」
基本的に奴隷にするが、俺が持っていないスキル所持者は奴隷にしないように、タマさんに指示されている。
タマさんにしては珍しいと思ったのだが、自分の仕事を楽にするためらしい。
なんでもノーマルスキルなら、レベル八以上で統合させることができる。統合した後は、統合スキルのレベルが基準になるから、最大値に上げる必要はないらしい。
でも切り取ったばかりのスキルは、レベル一である。どう頑張っても時間が足りない。
そこでタマさんは根回しを重ね、一つの方法を調べてきた。ノーマルスキルに限り、連続して同じスキルを吸収した場合はレベル八までなら上げられる。ただし、痛みが倍倍で増えていくことと、その後の習熟速度は通常の三倍かかるということがデメリットだ。
つまりは同じスキルを八人用意して、連続でスキルを吸収しろと言われたのだ。
「習熟速度は加護があるから、あまりデメリットに感じないし、ドMのあんたなら痛みなんかへっちゃらよ!」
と、軽い感じで言われた。
習熟速度は統合してしまえば関係ないからいいとして、痛いのはイヤだと言ったが、鬼畜は聞く耳を持ってくれなかった。
むしろ断りにくい説得をされた。
「【霊王】を助ける存在になるんでしょ!? 【霊王】はもっと辛い目にあって痛い思いをしたはずよ! こんな痛みも乗り越えられないようでは、【霊王】を助けるなんて夢のまた夢よ! ラビくんもそう思うでしょ!?」
「そ、そうかな……」
「思うでしょ!?」
「……はい」
と言われ、開戦直前に急遽神器用の檻を拡張した。そして拡張して良かったと思っている。
意外にも多く、内心では憂鬱になっている。
痛みで快感を得るタイプではないから本当はイヤなんだけど、まだ見ぬ【霊王】様のためと言われたら断れるはずもない。
まぁ従魔たちも欲しい人材を確保している。どうやって《鑑定》しているかは謎であるが。
「奴隷! 奴隷! 奴隷! ……奴隷!」
反撃されることなく仕分けできているのは、暗い森の小道から明るい洞窟前に出てきた瞬間に、死角からピンポイントで《威圧》を放っているから。
弱く放ってコントロールを学びつつ、足止めをしていくという一石二鳥の訓練法である。
足を止めた兵士をレニーさんがツタで捕縛して、武器を取り上げた後、それぞれの檻に放り込むという流れだ。
少し面倒だったのはエルフだ。
さすがに戦士階級を全て投入してきただけあって、散り散りではなくまとまってきた。
傷つけないと約束した手前攻撃するのも躊躇われ、エルフ娘たちを囮にしてまとめて拘束したあと檻へぶち込んだ。
彼らは精霊が言うことを聞かない事実が受け入れられず、現在は放心状態らしい。精霊には精霊の事情があるのだ。三度目はないよっていう圧力が、多方向から加わっているらしいからね。
そんなこんなで、パニックに陥った有象無象の討伐は無事に終了した。
ちょっと疲れたから、みんなでお昼ご飯を食べて休息を取る。エルフ娘たちはエルフの戦士が気になるようだが、まだ武装解除をしてないから油断は禁物だ。
何故なら、選民思想を持ったエルフは裏切り者も敵という扱いだからだ。彼らの定義では、奴隷になった者も裏切り者に含まれる。
「まずはエルフの武装解除からやるか」
「「はい!」」
面倒だっただから、魔力の偽装を解除した。精霊も静かになるし、魔力に溺れてくれるから楽なのだ。
「あ、あの……!」
「あっ! ごめんね。そっちに向かないようにするから」
魔力をエルフ専用の檻にだけ向かうように制御し、余計な被害を出さないようにする。魔力が集中するせいで苦しく感じるかもしれないが、早く終わると思って我慢してくれ。
「もういいかな。レニーさんたちも手伝ってー」
「任せよ」
「イムもーー!」
「我は武器を箱詰めするぞ!」
「私は一応護衛してますね」
それぞれが考えて行動してくれる優秀な従魔のおかげで、仕事がとても楽である。それと狼兄弟は落とし穴のところに偵察に行っており、こちらに来ずに救助活動をしている者を伸して回っているらしい。
偵察から戻らないラビくんを心配してたら、タマさんが教えてくれた。
「じゃあエルフの説得よろしくーー!」
「「はい!」」
全滅さけたいエルフ娘たちは、やる気を漲らせていた。思わず拳を握り締めるほどに。
俺たちはラビくんたちの方に向かう。残った残党の捕縛と、指揮者クラスの捕縛が目的だ。そのあともやることは山ほどある。
なんてったって、立つ鳥跡を濁さずだからね。
◇
「はっはーー! いっけーー!」
「ガウーー!」
「おい! あの兎、しゃべったぞ! 救助は後回しだ! 珍獣を捕獲しろ!」
「兎じゃない!」
「そっち行ったぞ!」
「ふぇ? リムくん、そっちじゃない!」
「おせぇぇーーー! とっ――ブフッ!」
「うちの子に触らないでもらえます?」
「アーク! 怖かったよぉぉぉーー!」
「ガウゥゥーー!」
森の小道を抜けたら、目の前には包囲されているモフモフたちが……。珍しく我を忘れ、気づいたときには顔面に拳をめり込ませていた。
「主様、三分経ってしまいますよ。他は私たちがやっておきますので、どうぞラビくんたちと一緒に生存確認に向かわれては?」
「メルさん、ありがとう。みんなもよろしくね!」
「うむ!」
「任せてーー!」
「我に任せよ!」
丸くなって震えているラビくんを抱っこしながら、ぶっ飛ばした男に近づきナイフを刺す。まだ吸収はしない。
それよりもクソババアたちを捜し出して、捕縛しなければならないからだ。面倒だが、元凶の放置はありえない。
「馬車は徴収するから、あとで移動しよう。できれば村にあるものも全てもらいたいから、運搬用に使おうかな。それで、檻を小道側の両脇に造ったら、一人ずつ掘り起こしてさっきと同じ作業をしようか。VIP用の檻も造るから、指揮官クラスはそこによろしく!」
「はーい!」
「分かったぞ!」
「了解だ」
「任せてください」
本当に良い子たちである。確実に俺より年上だけどね。
侵略兵の半数以上を落とし穴に落としたから、捕縛にかなりの時間がかかりそうである。そこでゴーレムさんを出して、運ばせることにした。
檻と落とし穴を行ったり来たりしなくて済み、効率的に捕縛が進んでいく。
ラビくんは元気を取り戻し、レニーさんたちの近くで指示を出していた。ラビくんアイなるもので鑑定しているそうだ。
だから、レニーさんたちも欲しい人材を確保できていたんだなと納得する。しかも捕縛時に、それぞれの髪色と同じ花を森魔術で咲かせ、誰が誰のものかの目印をつけていた。無印は全て俺のものというわけだ。
「おや? やっと見つけた! お久しぶりです! 神子様は元気でしょうか?」
「やっぱり生きてたのね……! 私のところに来れば不自由させなかったのに……!」
「奴隷生活なんかイヤですよ。俺には使命があるんですから。それに森に行くように言ったのは伯爵閣下です。その場にいなかった方には関係がないと思いますが?」
「よく言うわ! いつものように交渉すれば、私の元に来れたはずよ!」
「イヤですよ。行きたくなかったから、話の分かる伯爵閣下には感謝です。しかし、あんたが全てをぶち壊した。盟約違反を三度も行い、俺の平穏な生活を脅かした。今回の関係者にはもれなく罰を下そうと思っています」
「傲慢なガキに育ったものね! 親がいないから、誰も教えてくれなかったのね? 目上の者を敬う常識をっ!」
「いやだな。尊敬できる相手なら、種族や年齢関係なく敬いますよ。でもあなたは無理ですよ? 泥団子を魔核と偽って売却しようとしたんですから」
「――あれはっ! あんたの仕業だったのね! よくも……殺してやる!」
「埋まった状況で、何ができるというのです?」
確か、森に追放された日に追撃に来た兵士も、埋まっている状況で「殺す」って吠えてたな。懐かしい。
「いろいろよ!」
「光魔術ですか?」
「な――何で!?」
「悪魔みたいなことをしているくせに、光魔術を使うとか……神子そっくりですね。あなたも両手を広げて祈るのですか?」
「一緒にするなぁぁぁーー!」
「あれ? そこまで反応するってことは……神子の毒牙に……?」
俺を見る目がヤバいから、きっと地雷を踏んじゃったんだろうな。だが、やめない。
「だから神子被害者の会を創ったのですね?」
「そんなものは創ってないわ!」
「あぁ……、自然にできちゃったパターンですか。まぁ彼女たちと商会員に、あなたの奴隷たちは俺が有効利用させていただきます。あなたはそれを見ることなく輪廻の輪に加わるのです。転生後にまた会いましょう!」
「貴族殺しは大罪よ!」
「盟約破りも大罪ですよ? 俺は侵略者を撃退しているだけだから、死にたくないなら最初から侵略して来なければいいでしょ? 利益は欲しいがリスクは負わないって……商人ですらないですよ?」
「国に追われるわよ!?」
「大丈夫です。辺境伯家はもう終わりです。領兵の三分の二を消滅させ、力を大きく落とすことになった。そこにいる阿呆代官は知らないみたいだけど、戦時以外で大規模な兵を動かすには陛下の許可が必要です」
猜疑心が強いと言われている陛下が、国一番の戦士と言われている辺境伯の部下を動かす許可を出すはずがない。
「仮に演習を理由に動員したとしても、伯爵や辺境伯に内密にしている時点で、あなた方がやっていることは謀反と解釈されると思いますよ。そして陛下は辺境伯領を取り上げ、魔境から撤退すると思います。自分では管理したくないけど、貴族に持たせて力をつけさせたくはないでしょうしね。よって、追われる立場になるのはあなた方だ」
「死んでいく私たちがいなければ、あんたに責任を取らせようとするでしょ!?」
「それですが、俺ってまだ生きていることになってるんですか? 予想では死産になってるはずですよ? 五歳の儀式でステータスを見たら、姓が表示されていませんでしたから。死んでいる者にどうやって責任を取らせるのですか?」
「……それなら私だって同じじゃない!」
「あなた方は輪廻に加わりますが、組合のカードは処分しませんので逃亡したと思われるはず。そして俺の両親は奴隷と、頭がお花畑の育児放棄ババアですが、あなたには息子がいますよね? 王都に」
「ま……まさか……」
「あなたが雲隠れしたら、毒杯を頂くのは息子でしょうよ。禍根を断つためにね。そして予備は誰かな? 降爵され、法衣貴族になった場合の当主は誰になるかな?」
「そんな! あの子は関係ないわ!」
「貴族でその理屈は通らないでしょうよ。辺境伯家の罪を一身に背負い、母の元に帰っていくのです! 感動ですね!」
会ったこともない兄よ。さよならグッバイ!
「そんな……そんな! なんとかしなさいよ!」
「何で俺が? 二度も出した警告を無視したのは誰かな? 自業自得じゃないかな? 伯爵はこうなると分かってたから盟約守っていたし、俺に対して必要以上の関心を向けなかったんじゃないかな?」
「あんたを奴隷にする依頼が他国の公爵家から来たのよ!? 他国の王族の依頼よ?! 断れるわけないじゃない!」
「……いくらもらいました? 内政干渉になるからと突っぱねればいいのでは? 五大国の辺境伯家ですよ? 連合王国の公爵家とさほど変わらないでしょ」
「あんた……知ってたの?」
「俺を知っている公爵家は、連合王国のオラージュ公爵家しかありませんからね。……じゃあ、あの従者かな? 悔しそうな顔をしてたし……」
「そこまで分かっているなら、私のせいじゃないことも分かったでしょ!?」
「今回はね。でも、前回と前々回はあなただから解放できません。では他の人に絶望を与えないといけないので、これで失礼します。またお会いしましょう」
「待ちなさい! 待てって言ってるでしょぉぉぉーー!」
クソババアは白虎ちゃんや熊姫様を傷つけた。最初から死刑以外の選択肢はない。まぁ光魔術を持ってたことだけは感謝する。
ラビくんは絶対に攻撃したくないと、逃亡してしまったから属性攻撃を受ける訓練で光属性はできなかったからだ。
タマさんに聞いた限りでは、神子に光属性が与えられたらしい。あの阿呆は俺を魔王だと思ってるから、いつか襲われてもいいように耐性訓練をしたいと思っている。
そこに光属性が来てくれたのだ。もらうしかない。捕縛後、勝手に死なないように猿轡をかませて檻にぶち込んどいた。
「さて、次は誰かな?」
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