おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一

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第二章 一期一会

第七十話 憂鬱からの絶望宣告

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 アークたちが遠足に出発した頃、天界では久しぶりの大イベントを今か今かと待ち望む者で溢れていた。

 そのイベントの責任者である筆頭守護天使イリアスは、まるで悟りでも開いたかのような澄ました表情で打ち合わせに臨んでいた。

 実際のところ、表情が抜け落ちて能面のようになっているだけだが。
 しかも瞳から光りが消えたこともあって、余計に作り物にしか見えなかったと、後日同僚に告げられることになる。

「イリアス、準備はできていますか? このあと、奥の間で託宣してもらいます。アークくんの方のサポートもしてもらいたいので、一部操作ができるようにしました。それと、無茶振りにはカンペを出して指示するので、確認を忘れずにすること!」

 奥の間とは、いつも呼び出されて説教を喰らう部屋のことだ。

「まぁ頑張れ。サクサクッと終わらせてしまえばいいんだからさ」

「そうじゃぞ。職業はコレ! あとは連絡事項を告げて、時間切れでーすって言っておけばいいんじゃ!」

「……何故いるのです?」

「いや……モフ丸に会いに来たら、たまたま儀式をするって言うから、応援してあげようと思ったんじゃ」

「そうだぞ。それに、アークの製作物の特許について相談したいと言ってたじゃないか」

「……別に今日でなくても」

「何じゃ? 特許については儂も興味があるぞ? 儂の管轄だった場合は、儂が保護してやらねばなるまい!」

「【大老】はズルいだろ。何だよ、商業関係って! 創ったものを売らないわけないだろ!」

「ふっふっふっ! 賢いのじゃよ! 学習して売買して生活をする。どれも儂の管轄じゃな!」

「ドロン酒は私の管轄よ」

 二人が是非とも確保したかった特許が、アルテア様にすでに抑えられていた。
 特許を管理下に置いても何かを得るわけではないが、関連商品を特許申請するときに一括管理する者がほとんどだから、新商品がすぐに分かるという利点がある。

 親密になればお供えしてくれるかもという気持ちもあるが、新しいものというのは神様の心をもワクワクさせるのだ。

 正直なところ、彼らも神子の儀式など、どうでもよかった。
 ただ、この日この時間に来れば、アークのサポートをしているイリアスに確実に会え、特許の話ができると思ったから来ただけである。

 神子の儀式に応援など不要だし、職業と勇者召喚の話を一方的話して、さようならって言えばいいのだ。

「……仕方ないですね。ドロン酒の功績もありますし、あの神子では一生話が終わりそうにないので、今王都から来ている大司教も一緒に話を聞いてもらいましょう!」

「――ありがとうございます!」

 イリアスは、正しく神の言葉にジャンピング土下座を決めた。でも二柱の大精霊からは、恨みがましい視線を送られていた。

 絶対に勝てないアルテア様に、ドロン酒の管轄を渡した張本人だからだ。

「さて、時間です! アークくんから、スモークチーズなるおつまみをもらいました。大人しくしているのなら、分けてあげます。二人とも、どうしますか?」

「いただきます!」

「いただくのじゃ!」

 今度はイリアスが恨みがましい視線を二柱の大精霊に向け、託宣用の神器の前に立つ。
 豪華な枠がついた姿見みたいなものだ。できれば簡易版の座れる方がよかったが、一応罰を兼ねているので叶うはずもない。

 姿見型神器の横に、水瓶のような神器が置かれている。これで下界の様子を見ることができるのだが、チラッと見ただけで項垂れるほどの何かを見てしまったようだ。

「終わったらドロン酒で浄化するのよ……。頑張れ、あたし! 負けるな、あたし! いざ、出陣!」

 気合を入れた後、神器を起動する。

 直後、姿見が光り輝き、姿見には神子と大司教の二人だけが映っていた。
 大司教はすぐさま跪くも、神子は気づかずに特殊な祈り方を続けている。神子は相変わらず両手を広げてアゴを上げる祈り方をするため、正面が見えていないのだ。

「プッ! 何じゃ……アレは……。こ、殺す気か?」

「クッ! アレを真正面で見るのか? 何という恐ろしい罰だ……」

「こらっ! 静かにする約束でしょ?」

「神器に触れている者の声しか聞こえないから大丈夫ですよ。……イリアスが何も言わなければ」

「もうっ! それにしても、相変わらずすごい威力の攻撃ね。腹筋を破壊し尽くす攻撃としては、間違いなく勇者級よ!」

「「プッ! ……クククッ! 苦しい……」」

 イリアスは腹を抱える創造神と二柱の大精霊を横目に睨み、唯一大人しくしているモフ丸で心を洗い、表情を鬼から天使に戻す。

「……創造神アルテアより、神子の職業を与える任を負いましたので、早速説明させていただきます」

「おぉ! ついに我が願いを聞き届けてくださったか! 苦節十一年……とても長い時間でしたが、努力を怠った日は一日たりともないと断言できます! さぁ、ここまでの試練を与えたのです! 素晴らしい職業を授けるためだったのでしょ?」

「違――「えぇ! 分かってます! タダで素晴らしい職業を与えられないということですね!」」

「こ、これ! まだ天使様の託宣の最中であろうがっ! 静かに待っておれ!」

「はぁ……。やれやれ! 私は神子ですよ? 下々の民とは位が違うのですよ。あなたに許されなくとも、私には許されるのですよ! それに何故、あなたがここにいるのですか? 私の職業授与の儀式で、神子に託宣を下す場に一般人が入るでない! 出て行け! それに何故女神様ではなく、ペチャパイ天使なのだ!? 私の好みを分かっておられない! 女神よ、息子が来ましたよ! 子どもの顔を見に来て下さい!」

「――や、やめんかっ! 親は誰だ!? 何故ゆえ、このような無礼なことを許していた!? 信じられん!」

「はぁぁぁ……。ですから、母親は女神アルテア様です。父親が誰かと言えば、私を見れば分かるでしょう?」

「……分からないから聞いている」

「はぁぁぁぁぁぁぁーー! 火の大精霊様しかいないでしょう!? この赤い髪を見て分かりませんかね!?」

「分かるかぁぁぁぁぁ! それに貴殿は、獣人族ではないか! 寝言は寝て言え!」

 イリアスは死んだ魚の目で、アルテアと火の大精霊を見ていた。二人は、イリアスの言いたいことが手に取るように分かったことだろう。

 実際に森の大精霊に言われている最中なのだから。

「知らなかったのじゃ。二人の間に子どもがいたなんてな。祝儀は如何ほど? 会いに行かんでよいのか?」

 などなど……。ここぞとばかりの集中砲火である。

「イリアス、巻きなさい!」

 このままではダメだと判断したアルテアが、イリアスに指示を出す。イリアスは死んだ表情のままコクリと頷き、神子を諫めるために動く。

「次、ペチャパイ天使と言ったら殺す」

「「……」」

 たっぷりと殺気を込めて放たれた言葉で、二人の言い合いによる喧騒から一転、儀式の場に相応しい静寂に変わる。

「大司教を呼んだのは重要な報告があるからです。神子一人で理解できれば呼んでいないです。世界の人間に関わることです。ミスは許されないということを肝に銘じなさい」

「……御言葉ですが、私を馬鹿と仰るのですか?」

「違うというのなら、【魔王】とは何か答えなさい」

「神子に害をなす存在を【魔王】と称するのです! 私のすぐ近くにいました! 討伐していれば、今頃私は神になれたことでしょう!」

「違いますね。大司教、あなたを呼んだ理由が分かりましたね。職業の授与以外は、全てあなたに対する託宣だと思って聞きなさい」

「はっ! 光栄の極みです!」

「よろしい!」

 天界の観客の心は今一つになった。「やっと先に進んだ……」と。

「神子の職業は超級職である【守護騎士】です。現在、一日たりとも努力を欠かしたことがない神子のスキルは、種族特性の《棒術》と《体術》がそれぞれ四、ユニークスキルの《性技》が三の他に、基礎系のノーマルスキルが少々と言ったところでしょうか」

「――え? はっ? 成人ですよね? 一日も努力を欠かさなかった割りには少なくありませんか?」

「《言語》や《算術》は年相応の五はありますから御安心を」

「い……いや、そうではなく……」

「……分かるでしょう? ユニークスキルの《性技》は種族特性ではなく派生スキルなので、何を努力してきたのかということを。神々は常に見ていることを忘れないようになさい。恥ずかしげもなく、努力をしていると言う者ほど信用できません。本当に努力をしている人は、毎日とことん努力しても満足していません」

 スキルの内容が暴露されて、努力の内容が薄っぺらいと言われたのに不自然なほど静かな神子。イリアスと大司教が訝しげな視線を神子に向けた直後、神子が暴れ始めたのだ。

「――はっ? ……私が……この神子である私が……たかが騎士……? 騎士など、どこにでもいるではないか! 私は神子だ! 神子なのだ! 騎士で終わる器ではない! そもそも最低でも勇者だろうがっ! そ……それが……それがぁー、何故騎士なのだ! おかしい! おかしい! おかしいだろうよぉぉぉ!」

「……大司教、話を進めます」

「え? は、はい……」

「来年の新年祭の三日目に、異世界から勇者が召喚されます。勇者たちは男が二人と女が一人の三人で、全員が十六歳です。職業は三人とも超級職になります。【勇者】【賢者】【聖女】です。……何故あなたを呼んで、来年のことを話したか分かったようですね?」

「【聖女】のことですね?」

「そうです。本来神子が【勇者】をして、教会が選抜した神官を数人の【聖女】に育て上げ、その中の一人を勇者に同行させます。しかし、今回は不要になりました。本来は公募や冒険者に依頼を出して同行してもらう、【賢者】【騎士】【盗賊】の三人のうち、【賢者】以外の二人をこの世界の者で構成して、【魔王】を討伐または封印してもらいます」

「つまり、神官から【盗賊】を選出して欲しいということですか?」

「違います。もう選出しています。総本山がある【光輝神国ヘリオス】にいる『マリア・フォン・クリュプトン』という、今年成人を迎えた女性神官が選出者です。何故か・・・彼女だけが一般職だったので、盗賊系の超級職【怪盗】に変更できました。あと一年しかありませんが、二人は光輝神国ヘリオスで習熟してもらい、異世界人たちを導く存在になってもらいましょう」

「あ……あの……超級職なのは分かりましたが……スキルは……?」

 基本的に職業の階級と、固有スキルの階級は同じである。

 アークを例にしてみると、上級職である【トイストア】とユニークスキル《カタログ》や《セクション》の関係だ。

 自分の職業と同じ階級が一番習熟しやすいが、超級職はもれなく達人級である者の高みである。一般職の者が達人級のスキルを習得習熟が難しいように、超級職の者が駆け出しのスキルを習得習熟することは難しい。

 何故なら、その道の達人が新たに習うことは、全く別分野であることだけだからだ。つまり、職業による補正が全くない。そして十歳までの黄金期を過ぎている。

 だからアルテアは、アークの職業を上級職に留め、別分野の職業を習得できることにリソースの多くを割いた。

 アルテアの計算では十歳までの黄金期にある程度の実力をつけさせて、モフモフと楽しく旅でもしてもらえればいいと思い、将来的に生産職にも就けるように職業を創ったのだ。

 しかし、計算外のことが起こった。

 【霊王】が早々に加護をつけたことと、アークが生産職寄りのスキルを大量に習得し始めことだ。そして何故か守護天使や精霊に、魔獣たちを巻き込んだことで知らないうちに化け物級になってしまった。

 このようなことになった一助は、黄金期に早期から訓練を始めたことが関係している。アークは異常だが、世界の化け物と呼ばれている実力者の多くは一般職から始めるも、黄金期の訓練を真面目に行った者たちである。

 これを知っている大司教は、全員が成人を超えた年齢で大丈夫か? と聞いている。しかも、聞いたかぎりノーマルスキルのみ。不安しかない。

「突然の変更で迷惑をかけてしまうので、本来勇者だけの聖武具を五人分用意させます。【長剣】【長杖】【棍棒】【大盾】【短剣】です。勇者や守護騎士が盾や槍など他の武器を欲しがるなら、自分たちで用意してください」

「えっと……【大盾】? この体で?」

「おまけで、各個人にノーマルの職業スキルを贈ります。さらに授与が遅れたお詫びとして、適性属性が無属性しかない守護騎士に光属性をあげます。結界くらいは覚えてください。以上です」

「ノーマルの職業スキルですか……。騎獣を希望された場合は……?」

「自前でお願いします。――あぁ、あと『神の意志だ!』という、意味不明なことを口走って冒険者や商人など、民を蔑ろにする行為をしないように。先ほども言いましたが、見てますよ? 【魔王】に殺されるのと、【神】に殺されるのは同じですよ。両方とも同じ死ですからね。周知徹底をお願いします。その異常者の対処のついででもいいので。では、さらば!」

「そ、そんなぁぁーー!」

 大司教の叫び声を聞き、少しだけ罪悪感を抱くも、ストレスが限界に達したイリアスは接続を強制的に切った。

「御両親方、託宣を無事に終えました!」

 敬礼をし、任務完了を報告したイリアスだったが、余計な一言を言ったがために追加の説教をもらうことになるのだった。

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