おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一

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第二章 一期一会

第五十四話 聴取からの神子被害

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 鏡餅は保留になったから、箱馬車の奥の方に裸で転がしておき、伯爵家の女兵士を箱馬車に運び入れた。

「まずは猿獣人から全裸にしていきましょう。タマさんが残していった資料によると、無属性で《棒術》スキルを持っているそうです」

「うん? では、アーク殿と同じスキルを持っている女ということか……。それなら吾輩がもらい受けたい」

「え? スライムさんと話し合わなくていいんですか?」

「……言わねば分かるまい」

「ダメですよ。喧嘩になると思っただけでも胃が痛くなります……。災害級魔獣の喧嘩とか……考えたくもない」

「イム殿に甘くないか?」

「そんなことありませんよ。平等に接しています。それに俺にはスライムさんを説得する案がありますので、コイツが欲しいなら手に入りますよ。実行犯としてモフモフに手を出した以上、奴隷などという甘い裁きを与えるつもりはありませんから」

「ふむ。それなら良いか……。お願いしよう」

「分かりました。とりあえず、聞きたいことがありますので起こしましょう」

 全裸にした後、再び縛り直して転がして置いた女兵士を文字通り叩き起こす。

「おい、起きろ!」

「――んっ! 狼っ! 狼よ! こ……殺さ……れる!」

「狼はいませんよ」

「え? 助かったの?」

「いいえ。助かりません」

「あ! あんた……! 生きてたの……!?」

 幽霊を見るような顔で見ることないじゃないか。失礼だぞ?

「おかげさまで楽しく暮らしていますよ」

「……心配してたのよ。さぁ一緒に帰りましょう!」

「それでクソババアの奴隷にすると。あの家で俺を心配していた人なんていませんよ。それよりも何故、伯爵閣下が禁止している幻獣狩りなんかしたんですか? 伯爵家に仕えているだから禁止事項くらい知っているでしょ? それとも神子みたいに頭にウジが湧いているんですか?」

「――神子と一緒にするなぁぁぁぁ!!!」

 チョロい。

 クソババアは神子が心底嫌いなんだけど、部下も同様に嫌っている。理由は踏み絵みたいなことをやっていることと、神子の被害にあった者を子飼いにしているからだ。

 つまり、神子による被害者の会である。

 そんな被害者に神子と同じと言えば、どうなるかなんて考えるまでもないだろう。
 警戒しているときに情報を得るのは難しいが、興奮しているときに漏らしてしまう失言から予想はできる。まだ六人もいるしね。

「私はあのクズとは違う! 崇高な使命を持って……お姉様のために作戦を実行しているに過ぎない!」

「いえ、あなたは神子と同じだ」

「まだ言うかぁっ!」

「えぇ。獣人が信仰している霊獣様の眷属である白虎の子どもを捕らえ、危害を加えた。神霊教で言えば大精霊様と同列である眷属様をだ。神を敬わない行動は、おかしな祈り方をする神子と同じだ! 恥を知れ!」

「所詮獣でしょう! お姉様は人間が潤うようにと、伯爵でも恐れることをやってのける偉大な方だ。それに神が何をしてくれたというのよ! あんなクソガキを用意して……悪意を振りまくだけじゃない」

「はい? あんな無職のスケルトン一人にも勝てないほど貧弱なのですか? よっわっ!」

「はぁ!? 負けるわけないでしょ!?」

「ではボコボコにすればよかったでしょ? 事件のもみ消しは偉大なお姉様にやってもらえればいいでしょ? 狂言盗賊みたいに」

 さすがに驚いているようだ。狂言盗賊は伯爵家の機密だもんな。

「まぁ聞きたいことは聞けました。つまりはクソババアの独断専行というわけか。それで、それができるってことは伯爵は王都へ行ったわけか。アリバイ工作のためにクソババアもいないなら、鏡餅の処理は今しかない」

「はぁ? 鏡餅って何よ?」

「未練なく逝ってもらいたいから教えてあげましょう。後ろにいる方が鏡餅ですよ」

「後ろ? ――キャァアァァーー!!!」

 まぁ暗がりからムッチリしたおじさんが現れたら、叫び声くらいはあげるか。

 というか、兵士のくせに今まで気づかなかったんかい。本当にスケルトン時々リッチに勝てたのかな?

「あぁ、そうそう。俺を追撃してきた諜報部の方々がどうやって死んだか気になりませんか?」

「別に」

「サワジリか!」

「はぁ!?」

「別に」

「何なのよ!?」

 そこは「サワジリか!」だろうが!

「まぁいいか。エントさん、ツタで足を縛って木から吊り下げられます?」

「造作もない」

 この間のエルフはゴーレムによる擬似ハングドマンだったけど、今回は本物のハングドマンの刑である。

「ちょっと変則的ですけど、スライムの節約になりますからね」

「ちょっ……ちょっと! 何をするつもりよ!」

「白虎ちゃんも同じ事を思ったでしょうね。その白虎ちゃんに何をしましたか? 俺は生憎とモフモフをいじめる奴隷はいりませんので」

 バケツにスライムを三体入れ、吊された女兵士の頭の下に置いてセット完了。

「追撃の兵士はこの逆バージョンで亡くなった後、俺の肉壁になりました。最後まで役に立とうとする姿勢をあなたも見習うべきだ。さよならです!」

「やめ……やめてよ……。もう……もうしないから……」

「白虎ちゃんもやめてって言わなかったか? それに、お姉様がやれって言ったら、どうせまたやるだろ? 俺のことを報告されても困るしね」

 少しずつ下げられ、バケツに頭が近づいていく。体を振って必死に避けているが、バケツは固定されているわけではないから動かせるのだ。

 ちょっと無粋かなと思ったが、できれば薬草の採取もしたいから、さっさと終わらせよう。

 バケツを持ち上げ、女兵士の頭をバケツの中に入れた。入れる直前に「ズルい!」と聞こえたが、ゲームをしているわけではないから何とも思わない。

 ただ、ラビくんたちも「ズルした!」と言っていて、それが少しだけ悲しかった。

 さすがにここまで騒いで、時間もかけたせいで他の全員が目を覚ましてしまった。目を覚ましてすぐは、何があったか思い出せないようだったけど、目の前に逆さ吊りにされた全裸の女性がいれば、事態が少しは把握できるだろう。

 必然的に攻撃態勢に入ることになるわけだ。

 ただし、攻撃できればだけど。現状、攻撃できそうなのは精霊と契約しているエルフだけだが、果たしてどうなるだろうか?

「精霊の諸君! 攻撃してきたら次は確実に消滅させるからね!?」

 とりあえず、先制パンチだ。

 精霊を消滅させられる保証はないけど、魔力の塊という認識であれば、頑張れば何とかできる気がする。

「何を言うかと思えば……。ハーフエルフごときが精霊を消滅させるだと!? 思い上がるな!」

「ふむ。エルフの男か……。イム殿の土産にするか」

「いらないものをスライムさんに押しつけるのはダメだと思いますよ。それに資料によると、女性だそうです」

「な……なんだと……! 馬車で横になってる男以下だぞ!? 髪も短いし!」

「どこを見て判断している!? この【闇堕ち】がぁ!」

「……とりあえずエントさん、鏡餅を見てください。股間部分にブツがついているでしょ? あれが男です。吊された方にはないでしょ? あれが女です。基本ですから覚えておいてください」

「ふむ。なるほど。だが、服の上からは分からん。脱がしてもいいのか?」

「了承がなければダメです」

「え? では、先ほどのアーク殿は……?」

「緊急事態ならいいんです。これから勉強していきましょうね!」

 危ねぇ……。墓穴掘った……。

「ふむ。今度町に行ったときに勉強しよう」

 町行くの? 人間として? 大丈夫か? まぁいいか……。タマさんたちに任せよう。

「ところで【闇堕ち】ってなんです?」

「吸収した知識によると、ダークエルフとかいう種族のことらしい」

「へぇー。どうせ見た目が違うとかいう下らない理由でしょ? 見た目が違うだけで差別してたら、この世界から生物はいなくなるだろうよ。完全に見た目が同じ生物なんかいないんだからさ。阿呆らしい。しかもエントさん、ダークエルフじゃないし」

「そういえば、そろそろ名前で呼んで欲しいのだが?」

「何故それを……?」

「名前をつけてくれたときに聞こえてきたぞ?」

 ……これは……まさか……。モフモフ型刑務官に一杯食わされた……?

「名前については帰ってから話し合いましょう! とりあえず女兵士の猫獣人はスライムさん用なので、先ほどと同じ処理を!」

 問題の棚上げからの現実逃避作戦だ。……ラビくん、後で覚えてろよぉぉぉーー!

「帰ったら呼んでくれると。では早く終わらせなければな」

 そんなこと言ってないよ!?

「やめろ! 何をする! ……にゃ」

「神子の教えが体に染みついているんですね。同じく神子の被害者ですが、モフモフをいじめたことを許すことはできません。大人しく可愛いスライムさんの糧になってください!」

「やっぱりイム殿だけ……」

「違いますよ。平等に接していますよ」

「やめろぉぉぉぉーー!」

 今回はエントさんが急いでたこともあって、体を振る間も与えない速度でバケツに到達した。むしろ、バケツに向かって飛び込んだと言ってもいい。

 それも頭から。達者でな。あとでもっと大きなスライムに包まれることになるけど、今は小さいので我慢して欲しい。

 輪廻の輪に加わるのを待つ間、一人目を収納しようと思って一つ重大なことを思い出した。
 確実にスキルを切り取れるのは三分以内で、スライムの吸収は、同じスキルを持つものを複数体吸収しなければスキルや能力は取得できなかったはず。

 すぐに神器を取り出して切り取り、エントさんに報告する。

「ふむ。では、時間停止の《ストアハウス》に関係なく三分なのだな? それで、ナイフに入っている能力を移して固定しなければ新しく切り取れないと……。緊急事態だ。吾輩に移すといい!」

「……いえ。刑の執行を停止して、馬車に入れて運びましょう。スライムさんのいるところで答えを出しましょう!」

「…………仕方ない」

 猫獣人の兵士が窒息する前にツタを引いて刑を中止する。その後、他の者も手早く武装解除と金品の回収を兼ねた全裸の刑に処し、馬車に積み込んでいく。武装などは、俺が加工したわけではないから《ストアハウス》にしまえない。だから、馬車の上に固定して持ち帰ることにした。

「ラビくーん! 帰るよーー!」

「今行くーー!」

「ナァーーウ!」

「ん? 抱っこさせてくれるの?」

「ナァーーウ!」

「可愛い! モフモフだぁーー!」

 モフモフスリスリと白虎ちゃんを堪能していると、頭の奥がヒリつくような悪寒がし、体が警鐘を鳴らし始めた。この場に立っていてはいけないと。

「――くそっ!」

 本能に従い、棒立ち状態から後方に跳んだ。それも現状出せる精一杯の力で。

 直後、目の前を鋭い爪が過ぎ去っていった。

「グルルルァァァァァーーー!!!」

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