おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一

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第二章 一期一会

第五十三話 馬鹿からの口座問題

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「ラビくん、少しいいかしら?」

「どうしたの? タマさん。あっ! ここに天使さんがいるから心配しなくていいんだよ!」

 ふぅ……。危うくぼくが変な目で見られるところだったよ。今なら分かる。アークもあのヤバいやつを見る視線に堪えてたんだね。本当にごめんね。

「先ほどのドロン農園計画のことを覚えていますか?」

「うん。いい考えだと思うけど……奴隷を使うのはなぁ……」

「甘い! ドロンの果実のように甘い! いいですか!? 奴隷制度は【法神】も許可している制度なんです! 制度悪いのではなく、制度を悪用する者が悪いのです!」

「わ、分かってるよ!」

「いいえ! 分かっていません! 人間を殺しても魂格は上がりません! それだけならまだしも、魂が穢れたせいで輪廻の輪から外れることもあるのです! あの子にそんな十字架を負えと!?」

「どうしたの!? あの子なんて言わないじゃん! もしかして……また何かを計画してるの!? 懲りないね……」

「そんな! 人聞きが悪い! わたしはサポート天使です。あの子を常にサポートするために存在するのです」

 嘘くさぁ……。リムくんきっと同じこと思ってるよ。顔が死んでるもん。

「まぁ確かに、ドロン農園ためだけの奴隷ではないでしょう。でもそれは、あの子なりにエルフを殺し続けないようにと考えたことなのです。応援できずとも邪魔はしないであげましょう!」

「何でエルフと戦い続けることが前提なの?」

「お馬鹿さんですか?」

「ば、バカ……?」

「ガウ! ガフゥゥーー!」

 ふんぬっ! 後で覚えてろよぉぉぉーー!

「鬼族というのはステータス上に表示されているのみで、実際はハーフエルフの認識なんですよ? 古い考えに固執した血統主義のエルフが放置しておくと思いますか? 実際に、あそこで泡を噴いている者たちも血統主義のエルフたちですよ。この森の中で襲われていないのは、単にエルフの実力では洞窟まで辿り着けないからです。水場に行けたのは、ワニを刺激しないように魔物が大人しくしていたからですね」

 そうか……。ぼくを狙いに来た連中の中にも、ダークエルフを認めないとか言って協力していたエルフたちがいたっけ。アレと同じなのか……。

 うん。認めよう。ぼくがバカだった。

 対処法があるなら殺すよりはいいことだと思う。人材確保だと思えば気にならないしね。それがたとえ農奴用の人材だとしても……。

「分かった。エルフを始めとする敵対者の対応はアークに一任しよう!」

「御理解いただき誠にありがとうございます! では続きまして、ラビくんへのお願いがあります!」

「えっ? 奴隷の話じゃなかったの?」

「それは前提の話ですね」

「……口調は戻さないの?」

「一応交渉ごとなので」

 ……その割にはバカって言ってたじゃん。

「続けますね。お願いしたいことは【千里眼】を使って鑑定をして欲しいのです。彼も《鑑定》を持っていますが、まだ警戒心が高い者や精霊と契約して守護を得ている者のスキルや属性を見ることはできません。欲しいスキルがあれば、敵対者なので輪廻の輪に加わってもらって構わないのですが、重複スキルやリムくんにも不要な場合は労働力にしたいのです」

 エ、エグい……。天使の言うことではない。

「闇属性持ってなかったら奴隷にできないから、結局は輪廻の輪に加わることになるんじゃないかな?」

「お馬鹿さんですか?」

「ガフゥゥーー……ガフフフ……!」

 このぉぉぉーー!

「あのデブたちは狩りに来てるんですよ? 『隷属の首輪』を持ってきてるに決まってるじゃないですか。それも幻獣用の強力なやつ。うちの魔童は簡単に引きちぎってましたけど、普通はそんなことできないくらい強力な魔具ですよ。製造者の顔を見てみたいですね! きっと悪魔みたいな顔をしているでしょう!」

 悪魔なら目の前にいるよ……。

「……何か?」

「何も! それで鑑定のことなんだけど、毎回やるの? 今はいいけどバレそうなんだけど……。グラスのときはホントに震えたよ……。バレたかと思った」

「……バレてない方が不思議ですけどね。まぁあの子には《鑑定》の習熟を優先させますから。それに最悪の場合は首輪の破損を覚悟して、奴隷にした後にスキルを言わせればいいですしね。ただ、今回はお願いしたいのです。農作業好きなエルフがいますからね!」

「……エルフの全てが農作業が好きなわけではないよ。狩りが好きなエルフもいるしね。じゃあ白虎ちゃんのこともあるから早めに終わらせようか! 《千里眼シリウス・アイ》発動!」

 キョロキョロ! キョロキョロ!

「ふむ。闇属性はない! 属性はアークが持っているやつだけだね。スキルは有用なものが結構あるけど、リムくんが使えそうなものはないからアークと相談して。メモしておいたから、タマさんが調べたって言ってね!」

「ありがとうございます! それでは御前失礼します!」

「やめろぉぉぉーー!」

 たまに霊王いじりしてくるんだよな。あの時代の頃からの知り合いだからってさ。ホントにもぉーー!

 そうだ! 事故が起こらないように白虎ちゃんにも口止めしておかないと!

「白虎ちゃん、お待たせーー!」

「ナァーーウ!」


 ◇◇◇


 エントさんと一緒に鏡餅を地面から掘り起こして箱馬車に運ぶ。

「コイツ……クソ重い……」

「これは女か?」

「……男ですよ」

 女になりたいからって、コイツを吸収するのはどうかと思うぞ?

「ふむ。しかし胸があるぞ。この前吸収したエルフよりも」

「そ、それは……コイツがデブだからですよ。胸だけで男女を判断するのはオススメしません。不幸が舞い降ります」

「ふむ。肝に銘じよう」

「では、まずは裸にしましょう。武装解除と逃げられないようにするためです」

「人間は裸だと行動が鈍るということだな。理にかなっている」

 意外にいい生地を使っているから丁寧に脱がしていき、町に行ったときに売る予定だ。鏡餅が来ていたものを着ることは遠慮したいから売るしかない。

 装備はなし。短剣すら持ってない。お金は十万ほど持っているけど、商人にしては少ないと思う。ということは、財布に入っているカードの中に入っているということだ。

 このカードは身分証明書の機能もあるが、【総合職業組合】の登録証である。当然、口座にお金を預けておく商人がほとんどで、死亡後は凍結されて遺族しか取り出せない。

 階級は『C級』と表示されている。どれくらいの規模か不明だが、数千万は持っているだろう。

 何故かって?

 エントさんが連れてきた実行犯が知り合いだったからだ。正確に言うなら、ピュールロンヒ伯爵の第一夫人子飼いの女兵士たちである。

 つまり、鏡餅はクソババアの部下ってことだ。金を持ってないはずがないのだ。

 クソババアの関係者なら、エルフが一緒にいるのも分かる。エルフたちは俺の実父の手がかり求めて村に行き、クソババアと取引でもしたのだろう。さらに言えば、奴隷狩りからエルフを守るためでもあるのだろう。

 それにしても、五年経ったのに今頃捜し始めるとか……遅くないか? それともワニさんのところに来たエルフも関係しているのか?

 まぁいいか。農奴が手に入ったと思おう。

 あのドロン酒中毒天使が奴隷計画を聞いた今、ドロン農園計画はもはや止めることはできまい。個人的にはリンゴに似たカリスの実でもお酒を造ってみたいけど、天使がそれを許してくれない。未知の果物であるドロンよりも、リンゴ風のカリスの方が応用がきくと思うんだけどな。

 前世にもリンゴから造ったお酒や加工食品がたくさんあったからね。せっかく《製菓》スキルがあるんだから、カリスパイとか作って食べたいのに……。

 現実逃避を横に置き、話を戻すとしよう。

「タマさーん! どこにいますーー?」

「ここに!」

「ビックリした!」

 すぐ後ろにいたのは驚いた。元々【トイストア】に付随したスキルで自分の体の一部だからか、たとえ光る板だとしても気配が感じられず、どこにいるか全く分からないのだ。

「それで何の用?」

「あぁ……。不動産などは諦めがつきますが、このカードの中に入っているお金ってなんとかなりませんかね?」

「現状ではなんともならないわね」

「マジか……」

「何か問題があるー?」

「はい。この鏡餅は伯爵家の第一夫人の部下なんですが、おそらくクソババアの下請けで親戚関係なんですよ。口座が凍結した場合は、クソババアに軍資金を手渡してしまうことになるんですよ。クソババアがまともな仕事をしてくれていれば良かったんですけど、あくどい商売しかしない上、諦めが非常に悪い」

「つまりまた来るということ?」

「えぇ。しかも追加の軍資金があるので、今回よりも規模が大きいでしょう。農奴がたくさん手に入るといっても、準備をしていない現状では後手に回ってしまいます。最悪……殲滅を選択せざるを得ないかと……」

 個人的にはそれでいいんだけどね。ドロン農園のための農奴よりも、モフモフの平穏の方が重要である。……俺にとってはだけど。

「殲滅……。そんな……もったいない……」

 とても天使とは思えない邪悪な言葉が聞こえてきた……。予想はしていたけど、タマさんはすでに襲撃者が農奴に見えているようだ。

 お金が欲しいのは何も軍資金譲渡を阻止するだけではない。《カタログ》のレベルが上がり購入できるものが増えたのだが、意外にも高価なものが多いのだ。

 しかも今回購入できるものが『創作玩具』というものだったことから、次回は電化製品であることが予想できる。電化製品だった場合、お金はあればあるだけいい。

「うーん……。あんたが十歳だったら、登録させて口座に移せばいいんだけど……」

「いや、そんなの一発でバレるよ! 俺の生存がバレてもダメのよ。今バレると町にも行けないし、追っ手が毎日来ることになるから、ドロンどころじゃなくなりますよ?」

「え? あんたのことを殺したいのは母親でしょ?」

「そうですよ。クソババアは俺を奴隷にしたいんですよ。薬製造機兼ドロン酒製造機に!」

「……何でドロン酒のことが分かるのよ?」

「奴隷の俺に『あんたが作れる薬を全て作りなさい』って言えばいいだけです。ドロン酒は回復薬なのでね」

「さ、させなぁぁぁい! あたしのドロン酒よ!」

「タマさんのじゃねぇーー!」

 そもそも親分やオークちゃんに、日頃の感謝を伝えるために造り始めたドロン酒なんだけどな。

「いい? アルテア様が管理してくれてるのよ? そのアルテア様の部下筆頭である、このあたしにも感謝を示すべきよ!」

「感謝してますよ」

 どうでもいいけど、本当に部下筆頭なのか?

「よろしい! このデブのカードについて調べてくるから、保留にして別の侵入者の対処をしなさい」

「ありがとうございまーす!」

 じゃあ伯爵家の兵士からにしようかな。俺の顔を見てどういう反応するか楽しみだ。

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