49 / 116
第一章 隠遁生活
第四十七話 真正からの能力吸収
しおりを挟む
「ふーん。なるほどね。このエントは新種だから、エントと言い切る自信はないわ。本来のエントはもっと植物に近い姿をしているからね」
「たとえば?」
「髪の毛が葉っぱとか、体は節くれ立っていて幹や枝を思わせるのよ。彼はどう見ても混血のダークエルフに見えるわね」
「角が生えてますよ?」
「先祖返りの下位互換に上位血統というものがあるんだけど、エルフやダークエルフの上位血統の証明が角の有無なのよ。最大で三本の角が生えて、多いほど血が濃く力を強く受け継いでいると言われているの。だから、角くらいまでならエルフを吸収した影響だと予想できるのよ。過去にもトレントが人間を吸収した例はあったし。まぁエルダートレントだけだったけど」
「そうだよね! ぼくもエントになれるのはエルダートレントだけだと思ってたよ。魔力量の関係や魂の格の問題で!」
また新種を生んじゃったみたいだな。でも、今回はスライムさんとトレントさんのお願いを聞いただけだから、俺は何もしていないはず。
「今はエルフを見た後だからエルフに寄っているだけで、能力を使うときはエントっぽくなるかもしれないわね。トレントとエントの変化も自由だし、今まで通り接していれば問題ないんじゃない。ただ、瞳の色とトレントの状態からエントになったのはあんたのせいよ」
「な、なんで!?」
「毎日毎日、特濃魔力水を上げてたら魔力量が増えるでしょう。魔力許容量が限界を迎えると、魔物は生存本能で勝手に格を上げるようになっているのよ。今は体が追いついていないから、エルダートレントになっていないだけ。竜種に例えるなら【真竜】ってところかしらね。本当の意味での災害級よ」
竜種の真竜って確か全盛期を意味して、老竜の一つ手前だったはず。ということは、このまま成長したら遠くない未来に、エルダートレントのエントという化け物になるわけだ。
しかもエントとしての経験値は通常のエントよりも高いから、強力な化け物になる可能性大である。
うん、気にしない方がいい。ここを離れて領域を譲ったら無関係になるのだから。
「トレントさん、おめでとうございます! これからもよろしくお願いしますね!」
「うむ。こちらこそ頼む。ただたまにでいいからドロン酒なるものを飲ませて欲しい」
「まぁ少しだけならいいですよ。ドロンの果実があまり多くないので」
許可を出した瞬間、ラビくんたち呑兵衛三人組の視線が俺を射貫く。グサグサと責められているような視線に堪えながら、エントさんと良好な関係を築くよう会話を続ける。
動ける災害級の相手は御免被るのだ。酒だけで回避できるなら惜しくなどない。
「ふむ……。ドロンの果実か……」
「他にも薬草が必要なんですよ。だから他のお酒も考えているんですが、最近忙しくて時間がなかったのですよ」
「なるほど。ところで、何故そのような話し方をしている?」
「年上ですし、格上の方が相手ですからね」
「ん? それはおかしいぞ。それならそこの狼殿も――「ぼくたちはまだ子どもなんだよ! ね! リムくん!」」
「……ガウ!」
あれ? 二人に対して言ったのか? 指を差されていたのはラビくんだったような……? まぁいいか。
「アーク! 対等な取引をした相手なんだから、言葉遣いは気にしなくていいと思うよ! ね!」
「う、うむ」
「そういうことなら……」
ラビくんの圧力がすごい。迫力はないけど、顔を近づけて訴える姿が有無を言わさないだけの圧があった。可愛いという圧が。
ちなみに、スライムさんは死体の量が足りなかったのか、人の姿になることはなかった。でも死体は綺麗に片づいたから良しとしよう。
「そういえばエルフはあまり強くない個体だったけど、魔力もスキルも切り取れたのは何でですか?」
「あの三つの条件を満たしていたからよ。『解体』と言えばバラバラだけど、必要部分だけ抜き出すよう念じれば必ず切り取れるわよ。ただし、あんたも不満を感じたかもしれないけど、切り取ったものの山分けはできないから不便ではあるわ」
「じゃあバラバラの方がいいのか?」
「時と場合によるでしょ。今回は竜の素材を含む全てを手に入れたかったし、毒の除去もしたかったからバラバラが向いていたの。血液もスライム状で分けられているだろうから、あとで容器に移すだけで一滴残さず入手できるのよ? じゃあ素材に価値がない人間は?」
「……見たくない……。想像するのも嫌……」
「でしょ? その場合は必要なものだけ入手すればいいのよ。しかも、複数をイメージして切り取ることができるんだから。生存中は魔力か能力かだけで、人間の能力などに対しては干渉不可能な上に殺傷能力なし。三つの条件を満たしていない場合の死後は、死体の鮮度と個体の強さによって、確率や入手個数が変化するって思っておけばいいらしいわ」
あれ? 能力は生存中しか切り取れないのでは? と今更疑問に思い、確認してみることに。
「あぁ……あれ。製作者曰く、あれは誤情報らしいわ。ドM勇者は脳筋傾向が強いナイフ使いだったんだけど、素材をちまちま切り刻むのよ。武器の性質上仕方がないんだけど、神器をずっと使っていたせいで死ぬまで戦闘スタイルに変化がなかったわ。まぁ魔力や魔眼などを優先して取っていたから、魔術を使うようにはなっていたけどね。それに解体はお付きの人の仕事だったから、解体に神器は使われなかったのよねー」
「つまり条件を満たすことができなかったばかりか、死体からも能力を得たことがないから、生存中しか切り取れないと記録に残されたということですか?」
「大正解ーー! まぁ記録係はあたしじゃないから、予想でしかないけどねー! あとバラバラにして宝珠のようにした能力の保管期間も丸一日だから、早く吸収するなりした方がいいわよ。宝珠になっているものだけで、素材は気にしなくて大丈夫だから。血液の移し替えと毒の処理だけをやってしまいなさい。そのあとにあたしから話があるから!」
話か……。気になる。
まぁその前にやることをやってしまおう。
まずは毒や汚物に関しては、万能薬を入れたバケツに移してそのままゴミ処理施設に投棄。
血液や眼球などの生もの系の素材は、ここ最近量産を続けている魔水晶製の大きい保存容器に詰めていく。血液はそのままで、眼球などは特濃魔力水で満たしてから。
魔水晶を硝子の代わりに使用している理由は、透明であることはもちろん、地魔術で形を変えられるからだ。魔力訓練にもなるから一石二鳥である。
ただ、今回のワニは大きさもさることながら素材の量も多く、追加で容器を作るはめになったのは言うまでもない。女王ワニの存在はまさに青天の霹靂だったのだ。
「ガウー、ガウガウーー!」
「ふむふむ! なるほど!」
「どうしたの?」
詰め替え作業中にモフモフコンビが会議を重ねており、ようやく能力を食べてもらおうとしたのだが、まだ会議が続けられていた。
「リムくんは言っています! ワニの量が多いから、きっと能力は重複するでしょう! それなら、みんなで分け合おうと言っています!」
「……本当に?」
「なぁ! 疑ってるの!?」
「いや……流暢な話し方だなって……」
「会議の内容をまとめて、ぼくが代弁しているだけです! ね!」
「ガウ!」
コクリと力強く頷き、リムくんはラビくんの意見を肯定していた。
それを見たラビくんは、「ほらぁ」とドヤ顔を浮かべている。
「でも副作用がないのはリムくんだけで、他の子たちは痛いんだよ? やるかな?」
「力が欲しいもの、この指とまれ!」
本来の大きさに戻ったリムくんの背中の上で短い手を上げ、遊びに誘うかのような呼びかけをした。指が小さすぎて、指というよりも手を上げているようにしか見えないところが可愛い。
直後、スライムさんが掲げられたラビくんの手にちょこんと触れる。他のペットやエントさんはスライムさんの体に触れることで、代わりとしているようだ。
果たして、全員参加型の能力獲得イベントが開催されることになった。
「ほらね! 世界五大魔境の魔物たちが多少の痛みなんか気にするはずないよ!」
「世界五大魔境……。知識として知ってはいたけど、まさか自分が住んでいる場所がそうだったとは……」
「まぁここはややこしい事情があるから、そんなに気にしなくてもいいと思うよ。それよりもみんなで分け合おうじゃないか! ぼくはいらないからね! 痛いのは嫌!」
「じゃあ魔力は全部リムくんでいい人!」
全員が様々な方法で賛成を示したため、リムくんの口に二十一個の宝珠を放り込んでいく。
「なんか……狼に丸薬飲ませてる気分……」
「ガウゥゥゥーーー!」
竜種の魔力を取り込んだことで、リムくんは爆発的な急成長を遂げていた。
まずは発する魔力の量と密度が激変し、別の生物と言われた方が納得できる。リムくんは暇な時間を見つけてはラビくんに魔力操作を習っていたから、魔力圧縮をしていても発する魔力量が桁違いである。
通常は魔力圧縮した分だけ魔力量が減ったように感じるのだが、リムくんの場合は焼け石に水状態だ。
「見た目も子狼の丸っこい可愛さが減って、精悍でたくましくなったね」
「ちょっと大きくなったしね! カッコいいよ!」
「ガウゥゥゥ~~~~!」
両前足で顔を隠して照れを隠しているようだ。こういうところはまだ幼く見え、とても可愛いと思う。
「次は脅威度五のワイバーンとランスバイパーを片付けようか」
「それに脅威度六の子どもワニを追加して、それぞれ丸々一体ずつをスライムさんにあげたらどうかな? 変身できるんじゃないかな?」
「一体ずつでいいの? エルフは二人でも変身しなかったけど?」
「それは相性と格の違いのせいだから、今回は大丈夫だと思うよ。スライムさんたちは脅威度五だから、同格以上なら確実に吸収できるよ。エントさんとエルフは属性が近いから、格に差があっても不完全ながら人化できたんだよ」
「じゃあ一体ずつ出すから吸収していって!」
巨体を持つ三種類の魔物の素材を丁寧に一体分ずつ並べ、保存容器に入れていたものも蓋を開けて提供した。
個人的に大蛇が一体片づいたのはかなり嬉しかったけど、スライムさんに変身されたらどうしようという不安も同時に抱いている。
「変身しなくていいけど、できる気配ある? 足りなかったら追加で提供するよ?」
「デキル」
「しゃ、しゃべった!」
「エルフの死体も無駄ではなかったね! 片言だけど、話せるようになってよかったね!」
「ウン」
「か……可愛い」
幼そうな声で返事やポヨーンと頷く姿が、とてつもなく可愛いのだ。巨体を持っているのに、小動物の愛くるしい動きがギャップを生み出し、可愛さを倍増させている。
「ゲコ……」「シュルルルゥゥ……」
「アーク! 二人が悲しんでるよ! 家族内で格差をつけるのは、典型的な虐待行為なんだよ! 特別扱いはダメだと思うよ!」
好みの問題があると思うんだ……。
「ご、ごめんね……? 二人とはまだそんなに絡んでないだけだからね?! それからラビくん。特別扱いがダメなら、ドロン製品も平等に分配するからね!」
「そんなぁぁぁぁぁーーー!!!」
洞窟周辺にラビくんの絶望の雄叫びが響くのだった。
「たとえば?」
「髪の毛が葉っぱとか、体は節くれ立っていて幹や枝を思わせるのよ。彼はどう見ても混血のダークエルフに見えるわね」
「角が生えてますよ?」
「先祖返りの下位互換に上位血統というものがあるんだけど、エルフやダークエルフの上位血統の証明が角の有無なのよ。最大で三本の角が生えて、多いほど血が濃く力を強く受け継いでいると言われているの。だから、角くらいまでならエルフを吸収した影響だと予想できるのよ。過去にもトレントが人間を吸収した例はあったし。まぁエルダートレントだけだったけど」
「そうだよね! ぼくもエントになれるのはエルダートレントだけだと思ってたよ。魔力量の関係や魂の格の問題で!」
また新種を生んじゃったみたいだな。でも、今回はスライムさんとトレントさんのお願いを聞いただけだから、俺は何もしていないはず。
「今はエルフを見た後だからエルフに寄っているだけで、能力を使うときはエントっぽくなるかもしれないわね。トレントとエントの変化も自由だし、今まで通り接していれば問題ないんじゃない。ただ、瞳の色とトレントの状態からエントになったのはあんたのせいよ」
「な、なんで!?」
「毎日毎日、特濃魔力水を上げてたら魔力量が増えるでしょう。魔力許容量が限界を迎えると、魔物は生存本能で勝手に格を上げるようになっているのよ。今は体が追いついていないから、エルダートレントになっていないだけ。竜種に例えるなら【真竜】ってところかしらね。本当の意味での災害級よ」
竜種の真竜って確か全盛期を意味して、老竜の一つ手前だったはず。ということは、このまま成長したら遠くない未来に、エルダートレントのエントという化け物になるわけだ。
しかもエントとしての経験値は通常のエントよりも高いから、強力な化け物になる可能性大である。
うん、気にしない方がいい。ここを離れて領域を譲ったら無関係になるのだから。
「トレントさん、おめでとうございます! これからもよろしくお願いしますね!」
「うむ。こちらこそ頼む。ただたまにでいいからドロン酒なるものを飲ませて欲しい」
「まぁ少しだけならいいですよ。ドロンの果実があまり多くないので」
許可を出した瞬間、ラビくんたち呑兵衛三人組の視線が俺を射貫く。グサグサと責められているような視線に堪えながら、エントさんと良好な関係を築くよう会話を続ける。
動ける災害級の相手は御免被るのだ。酒だけで回避できるなら惜しくなどない。
「ふむ……。ドロンの果実か……」
「他にも薬草が必要なんですよ。だから他のお酒も考えているんですが、最近忙しくて時間がなかったのですよ」
「なるほど。ところで、何故そのような話し方をしている?」
「年上ですし、格上の方が相手ですからね」
「ん? それはおかしいぞ。それならそこの狼殿も――「ぼくたちはまだ子どもなんだよ! ね! リムくん!」」
「……ガウ!」
あれ? 二人に対して言ったのか? 指を差されていたのはラビくんだったような……? まぁいいか。
「アーク! 対等な取引をした相手なんだから、言葉遣いは気にしなくていいと思うよ! ね!」
「う、うむ」
「そういうことなら……」
ラビくんの圧力がすごい。迫力はないけど、顔を近づけて訴える姿が有無を言わさないだけの圧があった。可愛いという圧が。
ちなみに、スライムさんは死体の量が足りなかったのか、人の姿になることはなかった。でも死体は綺麗に片づいたから良しとしよう。
「そういえばエルフはあまり強くない個体だったけど、魔力もスキルも切り取れたのは何でですか?」
「あの三つの条件を満たしていたからよ。『解体』と言えばバラバラだけど、必要部分だけ抜き出すよう念じれば必ず切り取れるわよ。ただし、あんたも不満を感じたかもしれないけど、切り取ったものの山分けはできないから不便ではあるわ」
「じゃあバラバラの方がいいのか?」
「時と場合によるでしょ。今回は竜の素材を含む全てを手に入れたかったし、毒の除去もしたかったからバラバラが向いていたの。血液もスライム状で分けられているだろうから、あとで容器に移すだけで一滴残さず入手できるのよ? じゃあ素材に価値がない人間は?」
「……見たくない……。想像するのも嫌……」
「でしょ? その場合は必要なものだけ入手すればいいのよ。しかも、複数をイメージして切り取ることができるんだから。生存中は魔力か能力かだけで、人間の能力などに対しては干渉不可能な上に殺傷能力なし。三つの条件を満たしていない場合の死後は、死体の鮮度と個体の強さによって、確率や入手個数が変化するって思っておけばいいらしいわ」
あれ? 能力は生存中しか切り取れないのでは? と今更疑問に思い、確認してみることに。
「あぁ……あれ。製作者曰く、あれは誤情報らしいわ。ドM勇者は脳筋傾向が強いナイフ使いだったんだけど、素材をちまちま切り刻むのよ。武器の性質上仕方がないんだけど、神器をずっと使っていたせいで死ぬまで戦闘スタイルに変化がなかったわ。まぁ魔力や魔眼などを優先して取っていたから、魔術を使うようにはなっていたけどね。それに解体はお付きの人の仕事だったから、解体に神器は使われなかったのよねー」
「つまり条件を満たすことができなかったばかりか、死体からも能力を得たことがないから、生存中しか切り取れないと記録に残されたということですか?」
「大正解ーー! まぁ記録係はあたしじゃないから、予想でしかないけどねー! あとバラバラにして宝珠のようにした能力の保管期間も丸一日だから、早く吸収するなりした方がいいわよ。宝珠になっているものだけで、素材は気にしなくて大丈夫だから。血液の移し替えと毒の処理だけをやってしまいなさい。そのあとにあたしから話があるから!」
話か……。気になる。
まぁその前にやることをやってしまおう。
まずは毒や汚物に関しては、万能薬を入れたバケツに移してそのままゴミ処理施設に投棄。
血液や眼球などの生もの系の素材は、ここ最近量産を続けている魔水晶製の大きい保存容器に詰めていく。血液はそのままで、眼球などは特濃魔力水で満たしてから。
魔水晶を硝子の代わりに使用している理由は、透明であることはもちろん、地魔術で形を変えられるからだ。魔力訓練にもなるから一石二鳥である。
ただ、今回のワニは大きさもさることながら素材の量も多く、追加で容器を作るはめになったのは言うまでもない。女王ワニの存在はまさに青天の霹靂だったのだ。
「ガウー、ガウガウーー!」
「ふむふむ! なるほど!」
「どうしたの?」
詰め替え作業中にモフモフコンビが会議を重ねており、ようやく能力を食べてもらおうとしたのだが、まだ会議が続けられていた。
「リムくんは言っています! ワニの量が多いから、きっと能力は重複するでしょう! それなら、みんなで分け合おうと言っています!」
「……本当に?」
「なぁ! 疑ってるの!?」
「いや……流暢な話し方だなって……」
「会議の内容をまとめて、ぼくが代弁しているだけです! ね!」
「ガウ!」
コクリと力強く頷き、リムくんはラビくんの意見を肯定していた。
それを見たラビくんは、「ほらぁ」とドヤ顔を浮かべている。
「でも副作用がないのはリムくんだけで、他の子たちは痛いんだよ? やるかな?」
「力が欲しいもの、この指とまれ!」
本来の大きさに戻ったリムくんの背中の上で短い手を上げ、遊びに誘うかのような呼びかけをした。指が小さすぎて、指というよりも手を上げているようにしか見えないところが可愛い。
直後、スライムさんが掲げられたラビくんの手にちょこんと触れる。他のペットやエントさんはスライムさんの体に触れることで、代わりとしているようだ。
果たして、全員参加型の能力獲得イベントが開催されることになった。
「ほらね! 世界五大魔境の魔物たちが多少の痛みなんか気にするはずないよ!」
「世界五大魔境……。知識として知ってはいたけど、まさか自分が住んでいる場所がそうだったとは……」
「まぁここはややこしい事情があるから、そんなに気にしなくてもいいと思うよ。それよりもみんなで分け合おうじゃないか! ぼくはいらないからね! 痛いのは嫌!」
「じゃあ魔力は全部リムくんでいい人!」
全員が様々な方法で賛成を示したため、リムくんの口に二十一個の宝珠を放り込んでいく。
「なんか……狼に丸薬飲ませてる気分……」
「ガウゥゥゥーーー!」
竜種の魔力を取り込んだことで、リムくんは爆発的な急成長を遂げていた。
まずは発する魔力の量と密度が激変し、別の生物と言われた方が納得できる。リムくんは暇な時間を見つけてはラビくんに魔力操作を習っていたから、魔力圧縮をしていても発する魔力量が桁違いである。
通常は魔力圧縮した分だけ魔力量が減ったように感じるのだが、リムくんの場合は焼け石に水状態だ。
「見た目も子狼の丸っこい可愛さが減って、精悍でたくましくなったね」
「ちょっと大きくなったしね! カッコいいよ!」
「ガウゥゥゥ~~~~!」
両前足で顔を隠して照れを隠しているようだ。こういうところはまだ幼く見え、とても可愛いと思う。
「次は脅威度五のワイバーンとランスバイパーを片付けようか」
「それに脅威度六の子どもワニを追加して、それぞれ丸々一体ずつをスライムさんにあげたらどうかな? 変身できるんじゃないかな?」
「一体ずつでいいの? エルフは二人でも変身しなかったけど?」
「それは相性と格の違いのせいだから、今回は大丈夫だと思うよ。スライムさんたちは脅威度五だから、同格以上なら確実に吸収できるよ。エントさんとエルフは属性が近いから、格に差があっても不完全ながら人化できたんだよ」
「じゃあ一体ずつ出すから吸収していって!」
巨体を持つ三種類の魔物の素材を丁寧に一体分ずつ並べ、保存容器に入れていたものも蓋を開けて提供した。
個人的に大蛇が一体片づいたのはかなり嬉しかったけど、スライムさんに変身されたらどうしようという不安も同時に抱いている。
「変身しなくていいけど、できる気配ある? 足りなかったら追加で提供するよ?」
「デキル」
「しゃ、しゃべった!」
「エルフの死体も無駄ではなかったね! 片言だけど、話せるようになってよかったね!」
「ウン」
「か……可愛い」
幼そうな声で返事やポヨーンと頷く姿が、とてつもなく可愛いのだ。巨体を持っているのに、小動物の愛くるしい動きがギャップを生み出し、可愛さを倍増させている。
「ゲコ……」「シュルルルゥゥ……」
「アーク! 二人が悲しんでるよ! 家族内で格差をつけるのは、典型的な虐待行為なんだよ! 特別扱いはダメだと思うよ!」
好みの問題があると思うんだ……。
「ご、ごめんね……? 二人とはまだそんなに絡んでないだけだからね?! それからラビくん。特別扱いがダメなら、ドロン製品も平等に分配するからね!」
「そんなぁぁぁぁぁーーー!!!」
洞窟周辺にラビくんの絶望の雄叫びが響くのだった。
0
お気に入りに追加
234
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1001部隊 ~幻の最強部隊、異世界にて~
鮪鱚鰈
ファンタジー
昭和22年 ロサンゼルス沖合
戦艦大和の艦上にて日本とアメリカの講和がなる
事実上勝利した日本はハワイ自治権・グアム・ミッドウエー統治権・ラバウル直轄権利を得て事実上太平洋の覇者となる
その戦争を日本の勝利に導いた男と男が率いる小隊は1001部隊
中国戦線で無類の活躍を見せ、1001小隊の参戦が噂されるだけで敵が逃げ出すほどであった。
終戦時1001小隊に参加して最後まで生き残った兵は11人
小隊長である男『瀬能勝則』含めると12人の男達である
劣戦の戦場でその男達が現れると瞬く間に戦局が逆転し気が付けば日本軍が勝っていた。
しかし日本陸軍上層部はその男達を快くは思っていなかった。
上官の命令には従わず自由気ままに戦場を行き来する男達。
ゆえに彼らは最前線に配備された
しかし、彼等は死なず、最前線においても無類の戦火を上げていった。
しかし、彼らがもたらした日本の勝利は彼らが望んだ日本を作り上げたわけではなかった。
瀬能が死を迎えるとき
とある世界の神が彼と彼の部下を新天地へと導くのであった
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~
ma-no
ファンタジー
神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。
その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。
世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。
そして何故かハンターになって、王様に即位!?
この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。
注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。
R指定は念の為です。
登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。
「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。
一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。
推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる
ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。
彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。
だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。
結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。
そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた!
主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。
ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。
転生はデフォです。
でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。
リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。
しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。
この話は第一部ということでそこまでは完結しています。
第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。
そして…
リウ君のかっこいい活躍を見てください。
何でも切れる勇者の剣を引き抜いたら右手から離れなくなりました(しかも逆手)
こへへい
ファンタジー
体の弱い母のため、食べれば元気になると言われているイノシンキノコを採取するためにチョイタカ山にやってきたトウマ。
そこでトウマは、地面に突き刺さった大きな剣と、重い半ばで倒れ、その剣を摘まんで死んだと思われる人間の骸骨を発見する。その骸骨とは、その昔死んだ勇者の遺体だという。本人の幽霊がそう言っていた。
その勇者の幽霊にそそのかされて剣を引き抜くと、なんとその剣が右手から離れなくなってしまったのだった。しかも逆手。普通に構えられない。不便極まりなかった。
こうしてトウマはその勇者の幽霊と共に、勇者の剣の呪いを解くための冒険に出るのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる