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第一章 隠遁生活
第四十五話 熊様からの森の裏話
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更新が遅くなってすみません。
ストックが尽きました。
なんとか今日中に更新できてよかったです。
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小僧の魔力が森の中層から大量に放出されたから気になって行ってみれば、引っ越しとは思わなかったな。何で危険な無法地帯に引っ越すんだ? 謎だ。前からおかしいとは思っていたが、今回が一番の謎だ。
「王よ、どちらへ?」
「散歩だ」
口煩いやつが来た……。せっかく気分が良かったのに。懐かしい旧友にも会えたしな。まさか兎に間違われているとは……。笑える。
「……またあの人間の小僧のところですか?」
「文句でもあるのか?」
「はい。領域のことを放置してまで会いに行く価値はないかと」
面と向かって文句があると言える度胸は認めるが、俺はスローライフを楽しんでいるだけだ。何でもするから保護して欲しいと言っておきながら、俺がいなければ何もできないとは片腹痛いわ。
「お前たちに付き合って王様ごっこをするよりは価値がある。何でもするから保護して欲しいんじゃなかったか? 前払いで助けたぞ? 俺はのんびりするために他の雑務は任せると言った。お前らは納得した。人間の王様ごっこみたいなことはやめろ」
面倒だったから威圧して黙らせることにしたが、これはたまにやると最高の結果をもたらすから便利だ。ただ、加減を間違えると周囲のヌシから苦情が来るのが面倒だと常々思う。
「も……申し訳……ありま……せん……」
「分かればいいんだ。まぁ俺もしばらくはドロンの収穫があるから縄張りから出る予定はない」
そういえばドロンで酒を造ると言っていたな。無理だろうけどな。うちの料理長も無理だったんだからな。これで小僧ができたら、料理長には拳骨をプレゼントしてくれる。
「――ん? また魔力が……。またなんかしたのか!? 一辺にやってくれれば確認が楽なのに……。うーん。ドロンの収穫があるから、見に行くのはまた今度にするか!」
まずはドロンの出来を見に行かねばな。
「おじいちゃま! おかえりー!」
「ん? 姫じゃないか! どうした?」
ポテポテと走って来るのは、俺の可愛い孫娘だ。可愛くて仕方がない、我が天使だ。
滅多に家から出してもらえないと嘆いていたから、気づくのに時間がかかってしまったのは仕方がないだろう。
「おじいちゃまに会いに来たの!」
「本当か! 嬉しいぞー! それにしてもよく許してもらえたな」
婿が俺の縄張りを狙っているらしく、さっきの口煩いやつを抱き込んで姫を旗頭に据えようとしているらしい。人間みたいなことを持ち込む婿は、人間に飼い慣らされた熊だ。従魔だったが、契約主を亡くして行き場がなかったところを娘が救ってやったらしい。
面と向かって立ち向かう勇気もない弱者のくせに、コソコソと根回しばかりして男らしくない。くだらないことに娘や孫を巻き込まないでもらいたいものだ。
「虎のおじちゃんが来て、ドロンの収穫を手伝って欲しいってお父様を説得してくれたの!」
ほぉ……やるではないか。
虎のおじちゃんとは俺の弟子兼子分一号だ。婿が味方にしたい者第一位の者だから、すんなり許可を出したのだろう。
「おじいちゃまはお出かけしたって聞いたけど、どこに行ってたの?」
「新しい子分の様子を見に行っていた」
「今度は狼さんかな?」
「今度は人間だ。狼もいたが……子分ではない」
姫は俺の答えが心底不思議だったのだろう。口と目を大きく開いて驚いていた。
「人間は……初めてだよね?」
「うむ。だが、アレは普通の人間ではないからな。おかしい部類に入るだろうな」
「あたしも会いたい!」
「ダ、ダメだーー! アイツはちょっと変わってるから会わせられないんだ!」
モフモフとか言いながら俺に触れようとしているからな。あのモフモフが毛皮のことを指しているのなら、我が愛しの孫娘はアイツに撫で繰り回されてしまう。
せっかく目をかけているのに殺してしまうかもしれない。ならば、会わせないという選択肢しかないのだ。すまんな。友達を作ってやれぬ爺ちゃんで……。
「おじいちゃまが子分に認めた人間なんて見たことないもん! 気になるよーー!」
「……虎のおじちゃんに頼まれたのか?」
「……え?」
俺の孫娘は嘘をつくのが下手らしい。それは良いことだと思う。思うが……さっきの罪悪感を返して欲しい。
「……そうか。拳骨だな」
「な、な……なんで? た、頼まれてないよ?」
「分かってる! ほら、ドロンの果実を採りに行こう! な!」
「おじいちゃま! 誤解は良くないと思うよ……?」
「誤解じゃないぞ。虎のおじちゃんがこっちを見ているからな!」
「――えっ!?」
相当焦っていたのだろう。遠くの方で採取の準備を終えて待っている状態の虎を確認し、騙されたことに気づきガックリしている。
こちらに体を向けているから完全な嘘ではないが、鎌をかけられたことはすぐに分かったはずだ。
「おじいちゃまの意地悪っ!」
ポカポカッと小さな手でお腹を殴る姫が可愛くて仕方がない。その後、拗ねた姫を背中に乗せてドロン果実園に向かった。
もちろん、拳骨は忘れていない。
◇
結局、ドロンの収穫は長引き、姫の機嫌もなかなかよくならなかったから小僧の所に行かず、多くの時間を姫と過ごした。
そのかいあって、ようやくご機嫌が戻ったのも束の間、今度は森に異変が生じ始めた。
婿を始めとする多くの者たちが、小僧が住み始めたからだと騒ぎ立て、さらに周囲のヌシたちも巻き込んでの大騒動になった。
だが、予想外の軍団が進軍してきたせいで、婿たちの革命もどきが終了することに。
軍団の首領はメスのオークで、見事な統率力で婿たちについた魔物や魔獣を殲滅し、領土をぶんどって領域を拡大した。
前から準備していたかのような鮮やかな手際に、賛辞を送りたいほどである。しかも半分ほどの領土を俺にくれ、残った領土を他の同盟者に分け与える度量もある。
理由を聞くと、俺の領域と地続きになりたかったらしい。
確かに以前から、有名なメスのオークの存在は耳に入っていた。しかし互いの領域の間には巨大な泉がある爬虫類の領域があって、そちら側には興味を持っていなかったのだ。
爬虫類が浸かった水など飲みたくなかったから、別の水場を使用しているというのもある。
メスのオークも同じだと言っていたが、どうやら小僧の消息を聞きたくて俺に会いたかったけど、何度も婿と爬虫類に邪魔されてキレたんだとか。
どうせなら水場も奪って地続きにすればいいと思って準備していたところ、革命もどきの原因となった森の異変が発生したと。
そしてそれに乗じて一気に進軍したということだった。
ちなみに、森の異変は革命もどきのおかげで理由が判明した。というよりも、婿たちは知っていて扇動していたらしい。
元々は水場のヌシである女王ワニが、調子に乗って領域拡大のためにハイドラの住処を襲撃。
女王ワニの住処である泉から流れ出た水によってできた河のおかげで行きは楽だったらしいが、思わぬ反撃を受けてハイドラに手傷を負わせただけで撤退。
女王ワニも怪我はないが消耗が激しく、中層に近い場所の水場で力を蓄えることにしたらしい。
ここまでが異変の元なのだが、このあとに起こった出来事がさらなる混乱を招き、革命もどきに巻き込まれる原因になったらしい。
それは、ヌシの簒奪だ。
女王ワニがいないのなら、自分たちが代わりにヌシになろうという野心溢れる阿呆共が名乗りを上げたのだ。しかも頼った先が婿たちや周囲で燻っている小物たちときた。
雑魚が雑魚に協力を求めて手を組んでも、結局は雑魚の集まりでしかなく、烏合の衆にできることなどたかが知れている。
つまりは爬虫類の領域で内戦が起こっているのに、協力を求めたせいで俺の領域での革命にも手を貸さなければならず、足元がおぼつかない状態だったわけだ。
フラフラの満身創痍の所に、オーク軍によるトドメの一撃をもらって爬虫類の領域は消滅。重傷を負ったハイドラの領域も風前の灯火だという。
「んーー、どうしたものか……」
元々は女王ワニと阿呆共のせいだが、こうも領域が空白になると周囲が荒れる。面倒が増えてのんびりできなくなる。
「親分!」
「……親分って言うな……」
小僧が俺のことを親分と呼んでいると聞いた虎が、響きが良いと気に入り、わざわざ親分呼びをするようになった。困ったものだ。
「新入りも呼んでいるでしょう!?」
「……アイツは勝手に呼んでいるだけだ! 許可はしていない!」
「じゃあ俺も――痛いっ! 殴るなんて酷い!」
「それで何しに来たんだ?」
「無視ですか!?」
「もう一発いくか?」
「いえ! 姫様について報告しに来ました!」
姫のことだと……? 何かあったのか? 阿呆に巻き込まれないように子分を手配したはずだが?
「空に逃がしたはずだが?」
「それですが、女王ワニを見に行くと言って出掛けて行き、先ほど戻ってきました!」
「――はぁぁぁぁ!? 何をしているんじゃアイツ!?」
当たり前だが、子分に向けた文句だ。あらかじめ無茶を言うだろうから、決して言うことを聞くなと言っておいたはず。何がどうして女王ワニを見に行くことになるんだ!?
「どこにいる!?」
「外の広場に!」
「行くぞ!」
俺は駆けた! 我が孫娘の無事を祈って!
「ひぃぃぃめぇぇぇーーー!」
「おじいちゃま!」
「だ、大丈夫なのか!? ワニはワニでも、アイツは竜種になるのだぞ!? 危ないんだぞ!? 毒もあるから調子にのっちゃったんだぞ!?」
「うん! 大丈夫だよ! ワニさんバラバラになってたもん!」
「――――はっ? なんて?」
俺の子分で毒も喰らわずにバラバラにできるやつはいなくもないが、全員に革命もどきを鎮圧するよう指示を出していたはずだぞ? 他のヌシが討伐したのか? 考えられなくもないが、わざわざ中層に行ってまで討伐するか?
「人間の男の子がバラバラのワニさんの周りを走り回っていたの! そしたらね、ワニさんが全部消えちゃったの! そのあと小さい兎さんみたいな子に手を振られたから、ビックリして帰って来ちゃった!」
……アイツか……。そういえば中層といえばアイツの洞窟があったな。それにしても手負いとはいえ、どうやってあの巨大なワニを倒したんだ?
「……誰か詳細を知る者はいないか?」
「僕の子分が一部始終見てました!」
姫を連れて行った俺のアッシーくんは、拳骨回避用に手札を用意していたらしい。まぁ今回は許してやろう。
「言ってみろ!」
討伐理由から討伐後についてまでの報告を聞き、少しだけ頭が痛くなった。触りたくないからとか貴重だからという理由で、魔術だけで倒したというではないか。無茶をするやつだ……。
それに浄化や治療に、ハイドラたちをペット扱いにする行動。しかも話を聞く限り、ラビくんと呼ばれる兎の願いという。シリウスのやつは何をしているんだ?
「それにしてもドロンの酒が完成しているのか……。気になるな……。オークの女王も一緒に連れて行ってやるか!」
「おじいちゃま! 楽しみだね!」
「ん? 姫はお留守番だぞ?」
「えぇぇぇぇーーー!?」
このあともめにもめたのは言うまでもない。
ストックが尽きました。
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小僧の魔力が森の中層から大量に放出されたから気になって行ってみれば、引っ越しとは思わなかったな。何で危険な無法地帯に引っ越すんだ? 謎だ。前からおかしいとは思っていたが、今回が一番の謎だ。
「王よ、どちらへ?」
「散歩だ」
口煩いやつが来た……。せっかく気分が良かったのに。懐かしい旧友にも会えたしな。まさか兎に間違われているとは……。笑える。
「……またあの人間の小僧のところですか?」
「文句でもあるのか?」
「はい。領域のことを放置してまで会いに行く価値はないかと」
面と向かって文句があると言える度胸は認めるが、俺はスローライフを楽しんでいるだけだ。何でもするから保護して欲しいと言っておきながら、俺がいなければ何もできないとは片腹痛いわ。
「お前たちに付き合って王様ごっこをするよりは価値がある。何でもするから保護して欲しいんじゃなかったか? 前払いで助けたぞ? 俺はのんびりするために他の雑務は任せると言った。お前らは納得した。人間の王様ごっこみたいなことはやめろ」
面倒だったから威圧して黙らせることにしたが、これはたまにやると最高の結果をもたらすから便利だ。ただ、加減を間違えると周囲のヌシから苦情が来るのが面倒だと常々思う。
「も……申し訳……ありま……せん……」
「分かればいいんだ。まぁ俺もしばらくはドロンの収穫があるから縄張りから出る予定はない」
そういえばドロンで酒を造ると言っていたな。無理だろうけどな。うちの料理長も無理だったんだからな。これで小僧ができたら、料理長には拳骨をプレゼントしてくれる。
「――ん? また魔力が……。またなんかしたのか!? 一辺にやってくれれば確認が楽なのに……。うーん。ドロンの収穫があるから、見に行くのはまた今度にするか!」
まずはドロンの出来を見に行かねばな。
「おじいちゃま! おかえりー!」
「ん? 姫じゃないか! どうした?」
ポテポテと走って来るのは、俺の可愛い孫娘だ。可愛くて仕方がない、我が天使だ。
滅多に家から出してもらえないと嘆いていたから、気づくのに時間がかかってしまったのは仕方がないだろう。
「おじいちゃまに会いに来たの!」
「本当か! 嬉しいぞー! それにしてもよく許してもらえたな」
婿が俺の縄張りを狙っているらしく、さっきの口煩いやつを抱き込んで姫を旗頭に据えようとしているらしい。人間みたいなことを持ち込む婿は、人間に飼い慣らされた熊だ。従魔だったが、契約主を亡くして行き場がなかったところを娘が救ってやったらしい。
面と向かって立ち向かう勇気もない弱者のくせに、コソコソと根回しばかりして男らしくない。くだらないことに娘や孫を巻き込まないでもらいたいものだ。
「虎のおじちゃんが来て、ドロンの収穫を手伝って欲しいってお父様を説得してくれたの!」
ほぉ……やるではないか。
虎のおじちゃんとは俺の弟子兼子分一号だ。婿が味方にしたい者第一位の者だから、すんなり許可を出したのだろう。
「おじいちゃまはお出かけしたって聞いたけど、どこに行ってたの?」
「新しい子分の様子を見に行っていた」
「今度は狼さんかな?」
「今度は人間だ。狼もいたが……子分ではない」
姫は俺の答えが心底不思議だったのだろう。口と目を大きく開いて驚いていた。
「人間は……初めてだよね?」
「うむ。だが、アレは普通の人間ではないからな。おかしい部類に入るだろうな」
「あたしも会いたい!」
「ダ、ダメだーー! アイツはちょっと変わってるから会わせられないんだ!」
モフモフとか言いながら俺に触れようとしているからな。あのモフモフが毛皮のことを指しているのなら、我が愛しの孫娘はアイツに撫で繰り回されてしまう。
せっかく目をかけているのに殺してしまうかもしれない。ならば、会わせないという選択肢しかないのだ。すまんな。友達を作ってやれぬ爺ちゃんで……。
「おじいちゃまが子分に認めた人間なんて見たことないもん! 気になるよーー!」
「……虎のおじちゃんに頼まれたのか?」
「……え?」
俺の孫娘は嘘をつくのが下手らしい。それは良いことだと思う。思うが……さっきの罪悪感を返して欲しい。
「……そうか。拳骨だな」
「な、な……なんで? た、頼まれてないよ?」
「分かってる! ほら、ドロンの果実を採りに行こう! な!」
「おじいちゃま! 誤解は良くないと思うよ……?」
「誤解じゃないぞ。虎のおじちゃんがこっちを見ているからな!」
「――えっ!?」
相当焦っていたのだろう。遠くの方で採取の準備を終えて待っている状態の虎を確認し、騙されたことに気づきガックリしている。
こちらに体を向けているから完全な嘘ではないが、鎌をかけられたことはすぐに分かったはずだ。
「おじいちゃまの意地悪っ!」
ポカポカッと小さな手でお腹を殴る姫が可愛くて仕方がない。その後、拗ねた姫を背中に乗せてドロン果実園に向かった。
もちろん、拳骨は忘れていない。
◇
結局、ドロンの収穫は長引き、姫の機嫌もなかなかよくならなかったから小僧の所に行かず、多くの時間を姫と過ごした。
そのかいあって、ようやくご機嫌が戻ったのも束の間、今度は森に異変が生じ始めた。
婿を始めとする多くの者たちが、小僧が住み始めたからだと騒ぎ立て、さらに周囲のヌシたちも巻き込んでの大騒動になった。
だが、予想外の軍団が進軍してきたせいで、婿たちの革命もどきが終了することに。
軍団の首領はメスのオークで、見事な統率力で婿たちについた魔物や魔獣を殲滅し、領土をぶんどって領域を拡大した。
前から準備していたかのような鮮やかな手際に、賛辞を送りたいほどである。しかも半分ほどの領土を俺にくれ、残った領土を他の同盟者に分け与える度量もある。
理由を聞くと、俺の領域と地続きになりたかったらしい。
確かに以前から、有名なメスのオークの存在は耳に入っていた。しかし互いの領域の間には巨大な泉がある爬虫類の領域があって、そちら側には興味を持っていなかったのだ。
爬虫類が浸かった水など飲みたくなかったから、別の水場を使用しているというのもある。
メスのオークも同じだと言っていたが、どうやら小僧の消息を聞きたくて俺に会いたかったけど、何度も婿と爬虫類に邪魔されてキレたんだとか。
どうせなら水場も奪って地続きにすればいいと思って準備していたところ、革命もどきの原因となった森の異変が発生したと。
そしてそれに乗じて一気に進軍したということだった。
ちなみに、森の異変は革命もどきのおかげで理由が判明した。というよりも、婿たちは知っていて扇動していたらしい。
元々は水場のヌシである女王ワニが、調子に乗って領域拡大のためにハイドラの住処を襲撃。
女王ワニの住処である泉から流れ出た水によってできた河のおかげで行きは楽だったらしいが、思わぬ反撃を受けてハイドラに手傷を負わせただけで撤退。
女王ワニも怪我はないが消耗が激しく、中層に近い場所の水場で力を蓄えることにしたらしい。
ここまでが異変の元なのだが、このあとに起こった出来事がさらなる混乱を招き、革命もどきに巻き込まれる原因になったらしい。
それは、ヌシの簒奪だ。
女王ワニがいないのなら、自分たちが代わりにヌシになろうという野心溢れる阿呆共が名乗りを上げたのだ。しかも頼った先が婿たちや周囲で燻っている小物たちときた。
雑魚が雑魚に協力を求めて手を組んでも、結局は雑魚の集まりでしかなく、烏合の衆にできることなどたかが知れている。
つまりは爬虫類の領域で内戦が起こっているのに、協力を求めたせいで俺の領域での革命にも手を貸さなければならず、足元がおぼつかない状態だったわけだ。
フラフラの満身創痍の所に、オーク軍によるトドメの一撃をもらって爬虫類の領域は消滅。重傷を負ったハイドラの領域も風前の灯火だという。
「んーー、どうしたものか……」
元々は女王ワニと阿呆共のせいだが、こうも領域が空白になると周囲が荒れる。面倒が増えてのんびりできなくなる。
「親分!」
「……親分って言うな……」
小僧が俺のことを親分と呼んでいると聞いた虎が、響きが良いと気に入り、わざわざ親分呼びをするようになった。困ったものだ。
「新入りも呼んでいるでしょう!?」
「……アイツは勝手に呼んでいるだけだ! 許可はしていない!」
「じゃあ俺も――痛いっ! 殴るなんて酷い!」
「それで何しに来たんだ?」
「無視ですか!?」
「もう一発いくか?」
「いえ! 姫様について報告しに来ました!」
姫のことだと……? 何かあったのか? 阿呆に巻き込まれないように子分を手配したはずだが?
「空に逃がしたはずだが?」
「それですが、女王ワニを見に行くと言って出掛けて行き、先ほど戻ってきました!」
「――はぁぁぁぁ!? 何をしているんじゃアイツ!?」
当たり前だが、子分に向けた文句だ。あらかじめ無茶を言うだろうから、決して言うことを聞くなと言っておいたはず。何がどうして女王ワニを見に行くことになるんだ!?
「どこにいる!?」
「外の広場に!」
「行くぞ!」
俺は駆けた! 我が孫娘の無事を祈って!
「ひぃぃぃめぇぇぇーーー!」
「おじいちゃま!」
「だ、大丈夫なのか!? ワニはワニでも、アイツは竜種になるのだぞ!? 危ないんだぞ!? 毒もあるから調子にのっちゃったんだぞ!?」
「うん! 大丈夫だよ! ワニさんバラバラになってたもん!」
「――――はっ? なんて?」
俺の子分で毒も喰らわずにバラバラにできるやつはいなくもないが、全員に革命もどきを鎮圧するよう指示を出していたはずだぞ? 他のヌシが討伐したのか? 考えられなくもないが、わざわざ中層に行ってまで討伐するか?
「人間の男の子がバラバラのワニさんの周りを走り回っていたの! そしたらね、ワニさんが全部消えちゃったの! そのあと小さい兎さんみたいな子に手を振られたから、ビックリして帰って来ちゃった!」
……アイツか……。そういえば中層といえばアイツの洞窟があったな。それにしても手負いとはいえ、どうやってあの巨大なワニを倒したんだ?
「……誰か詳細を知る者はいないか?」
「僕の子分が一部始終見てました!」
姫を連れて行った俺のアッシーくんは、拳骨回避用に手札を用意していたらしい。まぁ今回は許してやろう。
「言ってみろ!」
討伐理由から討伐後についてまでの報告を聞き、少しだけ頭が痛くなった。触りたくないからとか貴重だからという理由で、魔術だけで倒したというではないか。無茶をするやつだ……。
それに浄化や治療に、ハイドラたちをペット扱いにする行動。しかも話を聞く限り、ラビくんと呼ばれる兎の願いという。シリウスのやつは何をしているんだ?
「それにしてもドロンの酒が完成しているのか……。気になるな……。オークの女王も一緒に連れて行ってやるか!」
「おじいちゃま! 楽しみだね!」
「ん? 姫はお留守番だぞ?」
「えぇぇぇぇーーー!?」
このあともめにもめたのは言うまでもない。
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