おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一

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第一章 隠遁生活

第三十八話 異常からのオニバス

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 強敵が多い洞窟の西側にはあまり来たくはなかったが、俺が行ける範囲内で最高のドロンの果実が採れる場所は、親分が教えてくれた巨木の周辺だけだ。

「なんか雰囲気も前に来たよりもピリピリするな……」

「南側の方から変な臭いがするし、魔物が移動してる気がするね」

 ラビくんも森の異常を感じ取っているようだ。もちろんラビくんを乗せているリムくんも。ちなみにリムくんは戦闘力を優先し、本来の大きさになっている。

「南ってことは魔物関連か……。しかも深層の。親分に言われたのは西側だけだし、地獄の使者とか番人相手に子どもができることはないだろう」

「でもでも、言われずに問題を解決すれば褒められるかもよ?」

「怒られるかもしれないだろ? 親分は子どもに優しいところもあるんだからさ」

「でも気にならない? 魔物は洞窟の南西から来てるけど、本当は南からだったわけでしょ? この問題が片付かないから親分が来てくれないのかもよ?」

 確かに親分にドロン酒を飲ませたい。連絡を取れるか分からないオークちゃんにも。
 今発生している問題のせいで来れないのなら、問題を解決する理由にもなる。危険もあるけど、様子を見に行くだけでもしてみよう。

「ドロンの果実を採取したら様子を見に行こう」

「うん!」「ガウ!」

「それじゃあ今日は神器使ってサクサク進みなさい。ドロンの果実はあんたしか採取できないんだからさ」

「……はい」

 そうなのだ。俺が加工したものしか《ストアハウス》に収納できないため、ドロンの果実や薬草などの採取物は俺がやるしかない。その代わりに周囲の警戒は呑兵衛たちに任せている。

「アーク! ドロンの果実って挿し木で増えるんだよ! この際、せっかくだからもらっていこうよ! 試してみて無理なら諦めて、種からの育成か植え替えをすればいいと思うんだ! あの希少な薬草も植えてみようよ!」

 ラビくんが珍しく興奮しながらプレゼンしているけど、他二人も賛同していることから、前々から準備していたことがうかがえる。

 まさか……あのミニトマトって……。

「栽培か……。農業は難しいし時間もないしなぁ」

「大々的にやるわけじゃないから大丈夫だよ! ドロン酒関連の素材が安定的に入手できればいいんだからさ!」

「……でもなぁ……」

「アーク……お願い」

 ラビくんがリムくんの背中から降りて足にしがみつく。さらに俺の名前を呼びながら上目遣いでのお願い。可愛すぎて悶絶死しそう。

 足に当たるモフモフモチモチのお腹が俺の理性を破壊し、トドメの一撃が上目遣い。なすすべなく陥落して許可を出してしまった。

「……いいよ」

「ありがとう!」「ガウーー!」

 リムくんのスリスリも加わり至福の時を味わったあと、採取を再開して栽培用の素材も入手する。

「じゃあ南に行ってみようか」

「はーい!」「ガウー!」

 素材採取を終えて、いよいよ森の異常を確認するために南の深層エリアに向かう。慎重に少しずつ進み、いざというときにすぐに逃げられるようにしておく。

 少しずつ近づくだけでも気づけるほどの異常。

 まずは臭い。腐ったような臭いが充満しており、獣人の血を引いている俺や幻獣であるラビくんたちは、地獄の苦しみを味わうことになった。

「オォォウェェェ~~! 吐きそう!」

「は、鼻が曲がるぅぅぅーー!」

「クゥゥーーン……」

 タマさんは無反応だけど、画面越しだからきっと大丈夫だろう。羨ましい。

 次に色だ。毒々しい色がところどころに飛び散っていて、血も同時にまき散らされている。毒々しい色の道のようなものがあり、辿っていくとどうやら深層近くの魔物が集まる水場があるようだ。

 確か近くにある丘から水場周辺を一望できたはず。そこから水場の様子を見てみよう。

「……あれか……。地獄の釜じゃん」

「コポコポいってる……」

 さすがに普段から飲んでいいような水の色ではない状態の水場があり、その水が魔女の鍋で作られているような料理や地獄の釜の中のような、コポコポという音をたてている状態になっている。

 水場の周辺一帯が墓場のような静寂に包まれているため、水場から距離がある丘の上まで音とが届いていた。

「毒持ち生物のせいだったわけか」

「毒を撒いている生物はどこにいるの?」

「あの水場の中じゃないかな」

「……じゃああの水場を綺麗にすればいいのかな?」

「……えっ? 様子見るだけじゃなかったっけ?」

 様子を見て異常を確認したら帰るって言ってなかったっけ? あそこに行くのは嫌だよ? いくら状態異常無効スキルを持っていても、毒関係なく脅威度が高い魔物がいる場所に行きたくないよ。

「いつもお世話になっている森でしょ!?」

「ここには来ないもん!」

「森の一部にお世話になっているなら、森の全てにお世話になっているのと同じだよ。そ、それに……ここで見て見ぬ振りしたら霊王に嫌われるよ!」

「……言わなきゃ……いいじゃん……」

「ぼくが言うもん!」

 ラビくんは腰に手を当て胸を張り、チクることを堂々と言い放つ。

「霊王様に嫌われるのは嫌だな……。巨大なモフモフをモフモフできないなんて……。考えるだけでもゾッとする」

「でしょ! じゃあ森と水場を綺麗にするということでいいかな!?」

「うーーん……いいでしょう!」

「早速行く?」

「行かないよ! まずは薬草採取かな」

「なんでーー!?」

「解毒薬じゃ森の汚染を浄化できないだろうから、万能薬を作ろうかなって思ってるんだ。あらゆる状態異常を回復する万能薬なら、ラビくんの言う綺麗にするっていうことができるでしょう」

 ラビくんは「ふむふむ」と頷きながら話を聞いていて、森と水場を綺麗にするということを優先することに納得してくれたようだった。

「毒の生物を放置したら被害が拡大しそうだよ?」

「もちろん考えてあるよ」

「何するの?」

「あの池? に蓋をする」

「……え? 泉でしょ? 結構大きいよ?」

 未だに池と泉の違いがよく分からないけど、そこそこ大きい泉に蓋をして毒の生物が出てこれないようにする計画だ。
 毒を好んで飲む魔物には申し訳ないが、横穴でもない限り完全に封鎖させてもらう。

「まずは異世界版オニバスを用意します」

「何それ?」

「簡単に言うと、人間が乗れるほどの巨大な植物。『エクセリク』版のオニバスは水生魔物の家にもなっているらしい」

「どうやって泉まで運ぶの?」

「水場に生えているんだけど、水に触れるまで巨大な球体になっているらしい。そのあと樹木から果実が落ちるようにボトリと落下して、水場まで転がるか運ばれるかして移動するらしいよ」

「じゃあ転がすんだね!」

「基本的にはね。体力がある内は投げようと思ってるけど」

 異世界版オニバスの球体状態は、バランスボールくらいの大きさだから投げようと思えば投げれなくもない。
 それに最近遊んだおもちゃのおかげで、《投擲》スキルを習得できたから習熟にもなる。

 ちなみに《投擲》スキルは、ハンドボールセットで習得できず、リムくんと遊んだフライングディスクで習得した。
 ラビくんもやりたがったが、走るのが遅くてリムくんに全敗していた。そのときのラビくんの悔しそうな顔も可愛かったと記憶している。

「転がるために高さが必要だから、丘の上に生えていると思うんだけどな。――あっ! あったあった!」

 水場の様子を見ていた場所から少し南に行ったところに、ぶどうのように大量に異世界版オニバスがなっていた。

 伯爵から支給された普通のナイフで採取していくと、次々と泉の奥の方を目掛けて投げていく。

 ドパッと音を鳴らした直後、中から何かが生まれてくるのでは? と思えるような勢いでオニバスが開いていく。それも連続で。

「ラビくんたちは手前に落水するように転がしていって」

「了解ーーー!」「ガウーーー!」

 オニバスが泉に浮かぶにはまだ時期が早いかもしれないけど、多少の浄水効果もある異世界版オニバスを隙間なく放り込むことに成功する。

「それで次は?」

「毎日採れる魔物の魔核と、迷宮で採れた地属性の魔石を満遍なく放り込んでいく。もちろんオニバスの上にも一個ずつね。謎の生物に気づかれる前にやってしまわねば!」

「ん?」

 ラビくんの疑問に構う時間はないため、《ストアハウス》に入れている素材を《投擲》スキルで満遍なく放り込んでいく。

 全ての魔核と魔石には俺の魔力を少しずつ込めてあり、魔術の触媒として使用可能な状態だ。

「森よ、荊の網となって、行く手を阻め《花籠》」

 オニバスが点になり、荊が線となって泉全体に広がっていく。荊の端は籠の蓋のように泉の端まで行ったあと、水の中に根を下ろすように突き刺さる。

 難しく不慣れな森魔術だけでは不安だから、泉の外周に魔核と魔石を撃ち込んでいき城壁のような巨大な壁も造ることにした。

「地よ、《岩壁》」

 厚さ五メートル高さ十メートルくらいの巨大な壁で泉を囲い、隙間なく造ることで地中から出ない限りは脱出できないはずだ。

「花籠って……。あんな花籠はいらない……」

「オニバスの花を入れた籠をイメージしたんだ。じゃあ採取して帰ろうか」

「う――あっ! なんかいる!」

 ん? 何かってなんだ?

「うーーん……、ワニ……? 大きさがおかしい気がするけど……」

「んー、脅威度六のデスヴェノムクロコダイルだね。本来は脅威度五の亜竜なんだけど、厄介な毒持ちの上に巨大化しちゃったから上位種になったみたい。一応下位竜相当ってことで【死毒竜】なんて呼ばれてるよ」

「……はい? 竜なの? ワニじゃなくて?」

「ワニの全てが竜じゃないけど、アレは竜だよ」

「グッ……グウゥグォオオーーー!」

 めっちゃ怒ってる……。

 竜の皮を持っていれば痛くないって。だから怒らないで。そして気づかないで。

「そうそう。一応竜だから魔力感知能力は高いよ。つまり……バレてる!」

 サムズアップするラビくんにちょっとだけイラッとするも、やってしまった以上は仕方がない。放置という選択肢も存在するならそちらを選択したい。

「……放置を希望する……!」

「チッチッチッ! アイツは執念深くて有名です。どこまで行っても捜し出して報復をすることでしょう!」

 短い指を左右に振って俺の希望をぶった切るラビくんを見て、ふと疑問が湧いた。

「ラビくんはアイツのせいだって知ってたんじゃ……」

「そんな! 知るはずないでしょ!? ぼくは蛇だと思ってたよ! しかも、もうちょっと弱いヤツ」

「……そっちが良かった……。でも……蛇は好きじゃないからなぁ……」

「じゃあ結果オーライだね! だって下位竜でも一応竜だよ! 竜の素材が手に入るんだよ!」

「……それは勝利を前提にした場合でしょ? 勝てなかったら俺がアイツの食卓に載るんだよ……。嫌すぎる……」

 どうしても悲観的になってしまう俺を見たラビくんが、ポンッと手を打って満面の笑みを浮かべていた。

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