おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一

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第一章 隠遁生活

第二十七話 防衛からの酒造取引

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 まずはアルファベットの『P』に見える洞窟の周囲を、約二メートルくらいの間隔をあけて柵を設置していこう。全体的な形は長方形で、一部大きなスペースができるが考えていることに使う予定だ。

 早速魔術を使おうとすると、タマさんからお声がかかる。

「魔術を使うつもりなら、その生き物はテントで寝かせてあげた方がいいですよ。あなたの魔力にあてられてビックリしてしまいますからね」

「そ、そんな……。やっとこの手に戻ってきたのに……。すぐに終わらせるからね! 待ってて!」

 モフモフを毛布にくるんで寝かすと、木の棒で大まかな設置場所を決めていく。
 だいたい一メートル間隔で大きめの石柱でも立てて強度の補強でもしよう。

 石柱の場所を丸印をつけて見える位置に立つ。

「地よ、《石柱》」

 武骨な円柱を複数同時に設置し、見える位置に行ってはまた設置するの繰り返しで洞窟を一周する。
 次は高さ三メートルくらいの柵を石柱と石柱の間に張り巡らせていく。これも洞窟を一周して設置していく。

 続いて空堀作りである。

 洞窟の北側はあまり森と離れていないし、東側は訓練場にする予定だ。南側はゴミ処理施設や生活排水の浄化槽にしようと思っている。残った西側はあまり森に近づけないようにしようと思っているため、よくよく考えてみると堀の幅はあまり取れない。

 あったとしても五メートルくらいだろう。だから深さを五メートルにして、柵と合わせれば八メートルになるだろう。

「地よ、《掘削》」

「……生活魔術の領分を越えてますね……」

「でも広範囲魔術だと消費魔力が多く発動も遅いですし。何よりも魔力量には自信がありますから生活魔術にたくさん魔力を注いだとしても、広範囲魔術よりも比較にならないくらい少なく済みますから」

「それはそうですが……これは生活魔術と言えるのかしら……?」

 タマさんの呟きを華麗にスルーしていき、東西南北全てに空堀を作っていく。東側は洞窟の入口だから、森の小道と洞窟の入口を真っ直ぐに繋ぐ直線上は空堀を作らず二つに分けている。

「地よ、数多の刃を持って、敵を切り裂け《地刃霊園》」

 今度は面倒だから空堀内の剣山は一気に広範囲魔術を使用し、一気に作ってしまった。元々は地面から剣や槍などの刃が突き出す《地刃》という魔術だが、今回はイメージと魔力量で新たに作ったのだ。

 昨日の《地槍剣舞》と同様に魂に刻まれたような感覚を得ることができ、オリジナルかどうかは分からないけど新魔術を習得したということだ。

 剣山は南側の空堀には設置せず、周辺に拒馬槍のように剣山を設置した。
 空堀に落ちた魔物は食料になるものもあり、ゴミ処理施設に落ちた魔物は食べたくないからだ。

 あと東側の空堀周辺と洞窟入口周辺にも柵を設置して落下防止対策をしたあと、仕上げで《硬化》の魔術を使用して強度を上げた。

 次は洞窟内をリフォームしようと思ったのだが、モフモフが気になり様子を見に行くことにする。

「起きたかなー?」

「起きたと思いますよ。あれだけ魔術を使いましたからね」

「あのモフモフは兎さんだから餌だと思われずに済みそう」

「……まぁそうですね。全ての魔物が人間を食べるわけではないんですけどね」

 あれ? そうだっけ?

「魔物って何を食べるんですか?」

「基本的に魔力を吸収できれば、あとは趣味嗜好で変わります。魔素を魔力に変換して吸収できる個体もいますよ。ただそういったことができなかったり、理性や知性がない魔物が人間を襲うのです」

 なるほど。じゃあ魔王に理性と知性を持たせれば魔王軍も消滅するんじゃないか? まぁ俺には関係ないからどうでもいいけど。

「あっ! 起きたみたいだね! おはようー!」

「……」

 兎さんは熊親分みたく熊さん座りをして辺りをキョロキョロと見回していた。

 可愛い。

 第一印象が重要である。逃げられることなく従魔になってもらえるようにアピールせねば。

「俺の名前は『アクナイト』。お腹空いてない? 何か食べる? 干し肉とドロンの干し果実があるよ?」

「……それしかないんですか?」

「昨日ここに来たばかりですしね」

「素材ならさっきたくさんもらっていましたよね?」

「正確には料理ができないんです。俺の料理はまだ美味しくないんです」

 そう、まだなのだ。これから伸びていく予定である。モフモフテイマーモノでの定番と言えば、美味しいものを食べさせて餌付けすることだろう。

 次いでモフモフマッサージとかじゃないかな。俺には幼児のような可愛らしさはないから、守ってあげたいとは思われないはずだ。それに逆に俺がモフモフを守ってあげたい。

「では、ドロンの果実のお酒造りは不可能では?」

「あぁ! それならもう希望の材料が揃えば今すぐにでも造れますよ?」

「はっ? あの酒好きのドワーフも諦めたドロンの果実のお酒ですよ? 完成しても香りが飛んでしまって何を飲んでいるのか分からない完成度で、世界的に見ても未だ完全なドロン酒なるものは存在していません! そんな幻の果実酒が造れるとあなたは言うのですか!?」

 興奮しすぎだろ……。しかも詳しすぎる。タマさんもお酒好きなのかな? 天使なのに?

「だから熊親分は『はいはい』みたいな態度で本気にしてなかったのか。これは完成したらハグしてもらえるかも……。ヤバい。やる気が止まらない!」

「聞いてる!? できるの!? できないの!?」

 ん? 口調が変わった……? もしかしてこっちが素ではないか?

「できます」

「よし! うっうん! わたしが協力してあげます。もちろん味見の協力もしますよ」

「え? 初めては熊親分がいいかなって……」

「未完成の物を恩熊にご馳走すると言うことは毒味させることと同義です! 完成品をご馳走することに意味があるのですよ! 熊親分を驚かせるのならば、味見は絶対に不可欠ですよ!」

 確かに一理ある。ただ……。

「天使様に味見させることの方が不敬では? それにスキルなのにどうやって味見するんですか? ということで自分で味見します」

「不敬ではありません! 味見させないことの方が不敬です! それに情報のやり取りをするために画面の下に窓口があります。そこに入れていただければわたしの元に届くようになっていますよ。あと、お子様がお酒を飲むことは禁止されていますよ。お酒は大人になってからにしましょう!」

「前世を含めれば成人していますよ?」

「身体年齢のことを言っています。五歳でしょ?」

 どうしても味見に参加したいようだ。タマさんが割り込んだからモフモフを放置している状況なんだが、タマさんの声は俺にしか聞こえていないから、俺がブツブツと独り言を言うヤバいやつに見えてしまっていることだろう。

 第一印象……死んだ。

「と……とりあえず味見のことはあとで話しましょう。まずはモフモフくんのことに集中させてください」

「……分かりました。あとでじっくり話し合いましょう!」

 なんとか落ち着かせることができ、意識をモフモフに集中させる。

 ふと合う視線。

 視線に含まれる感情はおそらく「お前は大丈夫なのか?」とか「そこに何かいるのか?」と言ったものだろう。わずかに怯えて見えるような気がする。

「……何かいるの?」

「――しゃべった……!」

 モフモフくんは話せる兎さんだったのだ。奇跡、俺の前に奇跡が舞い降りたのだ。

「誰と話してたの?」

「天使さんと話していたんだ」

「……変な子じゃないよね?」

 かなりオブラートに包んだ言い方をしてくれたようだ。モフモフに気を遣われるなんて……。感動だ。

「違うよ。俺の職業のおかげで天使様と話せるようになったんだ」

「どの天使?」

「どの? 天使の種類は分からないな。真名も教えてはダメって言われたし。でもアルテア様の直属の部下って聞いたんだけど、何か分かるかな?」

「……ううん。分からない」

 そうだよな。いくら話せるほど賢いモフモフでも天使の種類は分からないだろうな。
 モフモフくんは天使と話しているということを証明させるために、天使のことを聞いたんだろうし。

「じゃあ何でここにいるの?」

「俺はこの近くの貴族の子どもだったんだけど、いろいろあって追い出されちゃったんだけど、本当はモフモフの王様を捜すためにモフモフの領域に来たんだよね。ついでに訓練もできるしね」

「モフモフの王様って何?」

「【霊王】様っていう神獣様だよ」

 また聞くのを忘れたんだよな。どんな巨大なモフモフなのかを。

「れ、霊王を捜して……ど、どうするの?」

「アルテア様に頼まれたんだよ。助けてあげてって。正確に言うと、見つけて完全復活させて欲しいって言ってたんだけどね。でもアルテア様に聞いた話では人間にいじめられたみたいだから、絶対傷ついていると思うから癒す手伝いをしたいんだよ。そのために俺の職業が活躍すると思うんだよね!」

「た、助ける……? 霊王は最強なんだよ? その霊王が負けたんだよ? 君は世界最強にでもなるの?」

「うん。モフモフを守ることができるなら、何をしてでも最強を目指すよ。それが使命でもあるし、転生してでもやりたかったことだからね」

 【霊王】を頂点としたモフモフパラダイスを作り上げ、スローライフもいいなと妄想すること五年。この五年間で、実行するにはどんな理不尽にも対抗できる力が必要であると確信する。

 だからこそ魔の森でレベルを上げつつ、新魔術の開発や武術の習熟に精を出すことに決めたのだ。

「では、わたしも協力することにしましょう。わたしはこれでも前世は魔術が得意な【天使族】という神族で、武術も魔術以上に得意なんですよ。ですから、アルテア様の守護天使の任を負い転生を果たすことになったのです」

「え? そうだったのですか? だからお酒に詳しかったんですね?」

「えぇ。お礼をしたいというのなら、ドロン酒でいいんですよ?」

 それが本命だろ……。

 だが、アルテア様に実力を認められて天使に転生を果たした人物に師事できるのは望外の喜びだ。たかが酒くらいで強くなれる可能性があるのなら、ほとんどタダみたいなもんだろ。

「それではお願いします!」

「えぇ。任せてください」

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