おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一

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序章 貴族転生

第五話 誕生からの育児放棄

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 水の中をもがくような感覚を覚えながら意識が醒めていく。周囲の音がさらに覚醒を促す。そして思い出す。ここは異世界だと。そして俺は鬼の住処に転生したのだと。

 ここはもう敵地なのだ。しかし生まれた直後ということもあり、さすがに目が開かない。でも耳がある。獣人族は身体強化能力を取ったのだから五感も優れているはずである。
 そう。周囲が見えないのなら耳を澄ませて音から情報を得るべきなのだ。幸いにも先ほどから怒鳴っている者がいて助かっている。

「だ……旦那様……。御子がお生まれに……なりました……。あなた様の……御子ですよ……」

「――ッ! ど、どこを見て俺の子だと!? 馬鹿にしているのか!? あぁっ!? 緋猿族の特徴が一つもない。せめて尻尾があればまだ言い訳が立ったであろう! しかしコイツにはない!」

「しかし……産婆さんが取り上げてくださったのです。私たちの御子なのです」

「そうか……。そこまでしてでも俺の子とするか……。では鑑定の宝玉を持って来させよう。いいな!?」

「それは……」

「何か困ることでもあるのか? 貴族の子は全員受けているのだぞ?」

「な、何もありません……」

「では良いな?」

「……はい」

 修羅場だ……。分かってはいたことだが、当事者としては笑えない。前世に浮気されたことがあるせいで母親が悪にしか見えない。
 俺のときは恋人同士だったから違法ではないけど、夫婦の場合では慰謝料取れるくらいには悪いことだったし。この世界はさらに厳しいと思うな。

 だって神様が身近な世界で神前婚をするんでしょ? 天罰を下されても文句は言えないよね。

「お持ちしました」

「ご苦労。貸してくれ」

「どうぞ。それでは失礼いたします」

「うむ」

 おっとー。俺がまだ見ぬ母をディスっている間に例の鑑定道具が来たようだ。

「あぎゃあ!」

 俺の鳴き声です。

 暫定的な父が仰向けに寝た俺の腹に珠を押しつけたのだ。優しさの欠片もないな。子どもに罪はないのよ。そこを分かってないから浮気されたんじゃないかな。

「職業は……なし。属性は……無水地。スキルは…………木工! 調合!」

「…………」

 はい。終わったー。暫定父から養父にジョブチェンジ成功。養父よ、おめでとうございます!

「あぎゃあ!」

 またもや俺の鳴き声です。

 俺の心の声が聞こえたからかどうかは不明だが、珠をグリグリと俺の腹に押しつけている養父。すでに虐待の幕が開けたようだ。

「……やったな? やってくれたな……!」

 違うよ、養父。そこはヤッたな? が正解だよ。なんとなく変わる印象は大切だよ。

「ウッグゥー!」

 はい、三度目の鳴き声です。

 これが威圧というものなのか……。息が苦しい……。
 あっ! 珠のせいだった。
 力を入れたせいでさらに苦しくなったのか。

「ち、違うのです!」

「違うわけなかろうが! それに先ほどエルフを捕らえた。大方生まれた息子を見に来たのだろう。いっそのことヤツに働いてもらって養育費を稼いでもらおうじゃないか」

 おっ! それは名案! 俺も賛成だわ!

 無責任に子どもをつくって養育費は出さないとかクソ過ぎると、常々思っていたからな。快楽を追求して欲求を満たすだけなら対策をしろと言いたい。自分は大丈夫と信じていたところをアルテア様にズキュンとされたわけだし。

 ちなみにどこで働くのだろうか。木工と調合を持っているのなら、それ関係の場所かな? 俺に教えてくれないだろうか。親の義務として。

「そ、それは大丈夫なのですか?」

「ん? 心配か?」

 不安なのか声が震える母に対して、嬉しそうな声色の養父。ざまぁできそうでワクワクしてるのかな? 分かるぞ、その気持ち。

「そ、そうではないのです。ただ近くのエルフの部族が襲撃を企てるのではと思いまして……」

「ふんっ! この島は我らが緋猿族の領地だ! 開拓後に許可なく勝手に居着いたくせに、我が物顔で魔の森を独占しおって!」

「その通りでございます。ですが、精霊魔術や属性魔術を使用するエルフは脅威です!」

「その場合はお前を差し出せば良かろう」

「なっ! なぜです!?」

 母よ、必死だな。前世の母はとても良い母だったが、今世の母は悪い母でダメな人オーラがハンパないな。

「他種族と混血になったエルフを捜し出して殺すことを至上としている者たちが襲撃に来るのだ。混血になった原因と結果を引き渡せば良いだけではないか。それでも引き下がらなければ戦えばいいし、他国の領内での騒動として外交経由で抗議すれば良いからだ」

「しかし! エルフを捕らえ、奴隷のように強制的に働かせたというのは外聞が悪いのでは!?」

「強制的に? 違うな。息子のために進んでお金を稼ぐのだろう。それともエルフは子育てをしない種族なのか? 全てのエルフは子作りという行為が好きな色欲種族なのか? 違うのならば我々に落ち度はないな」

「それは……」

「それにな、あのエルフが大好きな仕事に就かせてやるんだ。感謝して欲しいくらいだぞ! ん?」

 気になる気になる! 今までは意外にまともなことを言う養父に驚いていたけど、実父の就職先は驚きから立ち直るほどに気になる案件だ。

「どちらの部署ですか?」

「部署? 余所者に領内の行政を任せるわけなかろう! アイツは犯罪者なのだぞ!? 犯罪者にはそれ相応の労働環境を与えるのが常識だろうがっ!」

「犯罪者……ですか」

 母よ……。頭は大丈夫ですか? 息子は心配です。

 もしかして、たかが浮気だろ? とか考えているのなら、その考えをすぐに捨てて焼却処分しろ。伯爵家の次期当主の嫁を寝取ったんだぞ? 俺含めた一族郎党皆殺しされてもおかしくないぞ。完全な背信行為だからな。
 貴族のいない場所で生活してきた俺でも分かるのに、この世界出身の母が分からないとは大丈夫なのかと心配になる。

 それを一家の大黒柱であるパパエルフが全部背負ってくれるのだ。感謝しかないだろう。

「そうだ。それともお前が責を負うか? 就職先は娼館なのだが?」

「――娼館……ですか?」

「あぁ。ピッタリだろ? 元気が有り余っていて人様の妻に手を出す輩にはな。エルフだから見た目もいいし子どももできづらく、長寿で長持ちするだろう。さらに獣人と比べて華奢だから、一部の者から要望が出ている女役が出来る男としても活躍するはずだ。アイツならすぐにでもナンバーワン間違いなしだ!」

「そんなことすればエルフたちはますます奴隷のようだと喚きますわ!」

「はぁ……わかっとらんな。犯罪奴隷ならいいのだろ? ここは聖獣王国が緋猿族に統治を委ねた島で、聖獣王国の国法に従う義務がある。嫌なら出て行けばいいのだ。本当ならお前も、お前の一族やエルフの一族全員に責を負わせるところを穏便に済ませようとしているのだぞ? それもお前が言うところの外聞が悪いからだ。エルフが奴隷を扱っていないと思っているのか? 獣人の奴隷も扱っているぞ?」

 母よ、余計なことを言うのはやめてくれ。

 俺はモフモフの王様を助けて、少しだけモフモフさせてもらうという大切な使命を持っているのだ。こんなところで不貞の巻き込まれ事故で死にたくない。

「で、では……名前だけでもつけてくれませんか?」

「部族らしい名前はつけんが……『アクナイト』だ。それでいいだろ?」

「……ありがとうございます」

「ではゆっくりと休め」

「はい」

 養父は簡単に名付けると、俺から珠を取り上げ部屋を出て行った。

「お前なんか産まなきゃよかった……」

 ほえ?

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