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第2章 モフモフ天国
第32話 狂人ロールプレイ
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魔法鞄の更新をするために、まずは小さな圧縮玉を作っていく。
細かい魔力回路に必要以上の魔力を流せば、更新する前に高い確率で暴発してしまうだろう。それを防ぐためにも少量の魔力で圧縮玉を作り、【魔力操作】で糸状に変化させて魔力回路に流し込んでいく。
魔力回路に魔力を流す際は、同時に回路内に残っているつるりんの魔力も消去する予定だ。そうすることで誤作動を防ぎ、残留魔力を消去するために必要な魔力量や威力を測る。
「……意外と簡単だ」
そしてついに魔力登録をしている魔石に圧縮魔力が到達し、魔石内の残留魔力を消去した。
「えっと、蓋の留め具に魔力を注ぐんだっけ」
ポーチの留め具には魔力回路の入口が刻み込まれており、そこに魔力を流して再登録をするらしい。
「できたかな?」
試しに留め具を外して、鞄の中に手を入れてみた。
すると、頭の中に入っているものが思い浮かぶではないか。
「成功だ……」
やったーーっ!
荷物が減るぅーー!
さっそくモフ菓子ポーチの隣に取りつけた。
続いて、つるりんの持ち物で不要なものを幌馬車の中にぶちまけていく。
代わりに食料などの物資や金銭などはもらっていき、貴族家とつるりん一家に対する牽制になりそうな証拠も回収した。
あとは護衛達の金銭や投擲武器になりそうなものはもれなく回収し、残すは騎士の所持品だけ。
そこで俺は彼らに慈悲を与えることを思いつく。
というのも、騎士団長の装備だけ異常に良く、彼の物だけもらって他は遺族に返却することを思いついたのだ。
騎士団長は魔鉄という鋼鉄よりも丈夫な鎧を身につけ、いくつかのスクロールと、オシャレな腕輪をつけていた。それも前腕全てを覆うほどの腕輪だ。
武器は全員共通で魔鉄製だったから、死んだ五人分の剣を回収する。
あとで【筆】に食べさせれば、戦力向上になるだろう。
問題は腕輪だ。
「これは何ですか?」
「…………おそらく魔法発動体です」
――家宝の、だろ?
彼らは伯爵家の騎士団なのだが、たかが伯爵家の騎士団長が『遺物級』の魔導具を所持しているのは不自然だ。
本来なら国宝として扱われてもおかしくない品なのに、奪われる可能性がある遠征で身につけていくか?
こういってはなんだが、お嬢様の命より価値があると思うぞ?
「これがあるのにビビっていたのか? ……いや、奪われる可能性を考えてビビっていたのか……?」
「…………」
独り言を装って鎌をかけてみるも、表情がわずかに動いただけで全員から無視された。
問いかけているわけではないから仕方がないのかもしれないが、リアクションはコミュニケーションでとても大事な要素だと思うんだ。
「まぁ賊の手に渡らなかったなら良かったのか」
という独り言を呟きながら、再びメイドさん達の様子を伺ってみる。
すると、今回は期待に満ちた表情を浮かべて返事をしようとしていた。
だがしかし――。
「代わりに恩人の腕にはまるんだから、彼も本望でしょう」
と、もらっていく宣言をして装着する。
直後、期待に満ちた表情が絶望の色に染まった。
さらに追い打ちをかけるように、両腕に装着された艶消し燻し銀の腕輪を見せびらかす。
狼の彫刻が施された一対の魔法発動体は、腕輪自体が魔力を放っているかのような存在感があり、国宝と呼ぶに相応しい気品もあった。
きっと騎士団長も自慢したかったんだろう。
だから、奪われる危険もある遠征に持ってきてしまったんだと思う。
「俺は満足です。死体を穴に入れて処分した後、こちらの魔法契約書に全員分のサインを記入してください」
「――魔法契約書……ですか……?」
メイドさんを始め、生き残りの騎士達まで驚愕の表情で俺を見ている。
当然、俺も同じ表情で彼らを見ていた。
「……まさか、口約束で済まされると思ってました? たった一つの契約を理解するのに、五人の命が必要だったのに? 俺からしたら賊の共犯者なのに?」
「「「「…………」」」」
「まぁサインしたくないなら構いませんよ」
魔法契約書の話を出せば拒否感を示すことは分かりきっていた。
だから、当然罠も考えてある。
「え? ホントに?」
フィッシュっ。
生き残り騎士の一人が、罠に引っかかる。
「「「――え?」」」
同僚達も驚く馬鹿さだ。
「えぇ。ぶっちゃけ、あなた方を生かしている理由は奴隷仲間のためです。彼らも一緒に下山させて、一緒に自由になる仕事があるからです」
「……知り合いでも?」
罠に引っかかった騎士が、「チャンス到来」とでも言いたげな様子で俺の顔色を窺う。
「いませんよ。でもここにいたら邪魔でしょう? 再度魔獣に襲われたら、宣告なしに報復しますからね?」
「「「「…………」」」」
獣人達がした擦り付け行為は、どこの国でも重罪として扱われている。
審議官の前で「擦り付けされました」と証言して、真偽判定で真実だと証明されれば、たとえ貴族でも罪からは逃れられない。
「それで、あなた方がサインを拒否するなら、この魔法契約書は奴隷達に使います。報酬や契約内容は同じですが、彼らはあなた方の下山を手伝わないというところは違いますね」
「え? そうなのですか?」
「「「「…………」」」」
この騎士……察しが悪すぎだろ。
お馬鹿騎士を除く全員が、驚愕の表情を浮かべて彼を見る。
当の本人は、視線の意味が分からず挙動不審な様子で同僚に問いかけたりしていた。
「……奴隷達は、奴隷解放を報酬に、彼ら以外の死体を処理するだけです。分かりましたか?」
ゆっくりと理解できるように説明してあげても、お馬鹿騎士には理解できなかったようだ。
「じゃあ、仕事変わってもらえるってことですね!」
「「「「…………」」」」
なんなん? コイツ。という視線を、俺はお馬鹿騎士の同僚達に向ける。
「お、おい。仕事を変わるんじゃない。俺たち全員が死ぬんだ」
お馬鹿騎士の同僚も、状況の把握ができていない人物を交えた状態で会話を続けたくなかったようで、小声で端的に状況を告げる。
「――え? 契約は守るのに?」
だから、口約束じゃあ意味ないって言ってるだろ?
「……今すぐ理解するか、死後の世界でゆっくり考えるか選べ」
こっちは時間がないんだ。
お馬鹿に時間を使うほど無駄なことはない。
それに、彼の馬鹿さ加減に狼さんもイラつき始めている。
今まで寝そべっていたのに、既に起き上がって臨戦態勢の構えだ。
「えっと――」
俺の二択にお馬鹿騎士が答えようとした瞬間、先ほど小声で説明してあげていた同僚が、お馬鹿騎士のアゴを殴り飛ばした。
自分が味方に殴られるとは微塵も思っていなかったからか、お手本のような右ストレートが綺麗に決まった。
「――失礼いたしました。ようやく先に進めますね」
「……そうですね」
メイドさんと残りの騎士がお馬鹿騎士の排除を誉め称え、狼さんも決断の早さを褒めるようにうなっていた。
「もちろん、私たちはサインをします。驚いたのは、お嬢様にも魔法契約を施されているのでは? と思ったからです」
上手い言い訳を考えたものだ。
所有権が俺に移った時点で、魔法契約書の効果はほぼ無意味。
俺が解放すると言えば済む話だ。
それに……。
「お嬢様については心配無用でしょう。これはお嬢様のために用意された魔法契約書だと思われますし、何より俺が首輪の鍵を持っていますから」
契約書と一緒に鍵も魔法鞄に入っていた。
この二つが揃えば、一つの答えに行き着くはず。
それは、「サインをしなきゃ解放しないぞ?」と。
「「「…………」」」
「未だ寝ていますが、お嬢様は三つの道が用意されています。一つ目は奴隷からの解放。二つ目は寝たまま死ぬ。三つ目は奴隷のまま。さて、どれがいいですか? 可及的速やかに答えを出してもらっていいですか?」
「サインをして奴隷達の下山を手伝うので、お嬢様の首輪を外してください」
交渉担当のメイドさんが即答し、他二人の騎士も同意するように頭を下げた。
「わかりました。それでは先に死体の処理をお願いします」
「「「はい」」」
彼らが死体を処理している間に、契約書に『奴隷達を解放し、自由を奪わない』という文言を付け足す。
お馬鹿騎士という不安要素があるせいで、細かいところまで書いておかないと反故にされそうだと思ったからだ。
それに、この場で解放していく以上、奴隷達の不安を取り除いておかなければ別の問題が発生するかもしれない。
本来なら、下山後に解放した方が問題がないのだろう。
しかし、その場合は獣人たちに奴隷の所有権を譲渡しなければいけない。そして所有権さえあれば、契約の穴をつくこともできるだろう。
他にも下山した直後にギルドから横槍が入ったり、つるりんの親族を名乗る者が現れたりと、奴隷を連れているという理由によって問題が起こるかもしれない。
ゆえに、奴隷はこの場所で解放していき、みんなで協力して下山をしてもらう。
ちなみに俺の高慢な態度だが、当然目的があってキャラを作っている。
一番の目的は、話が通じない人物が自分の生殺与奪権を持っているという恐怖を与え、後始末を含む取引で有利な立場に立つためだ。
二番目は、変装前後の印象に差をつけるためである。
ご主人様から変装をするようにアドバイスをされているが、人間で【無詠唱】をする者は少なく、スキルから関連付けられる可能性もあるかもしれない。
それを防ぐために、黒髪黒目の狂人を装っているし、【筆】を封印して短剣を使用している。
さらにいえば、奴隷解放も伯爵家に対する防衛網として使うためだ。もっと明確に言うなら、デコイおよび肉盾である。
奴隷達もお嬢様の事情を知っているのは明白であり、契約で自由を奪うことを禁じた。
つまり、彼らの自由を奪わず口を塞がなければいけないという難しい状況を作ったことで、変装して姿をくらます俺に意識を向けさせないようにしたのだ。
まぁあわよくば、黒髪黒目の人物に嫌悪感を持ったりしてくれれば、勇者たちが越境してくることを防げるかな? という思惑もあったり。
だから、今回は怒りのままに行動してみた。
結果は、概ね満足いく成果を得られたと思う。
これ以上は、凡才である俺には考えつかない。何より、俺の目的地は大公国だ。色々面倒くさそうな王国は早く通り抜けるに限る。
細かい魔力回路に必要以上の魔力を流せば、更新する前に高い確率で暴発してしまうだろう。それを防ぐためにも少量の魔力で圧縮玉を作り、【魔力操作】で糸状に変化させて魔力回路に流し込んでいく。
魔力回路に魔力を流す際は、同時に回路内に残っているつるりんの魔力も消去する予定だ。そうすることで誤作動を防ぎ、残留魔力を消去するために必要な魔力量や威力を測る。
「……意外と簡単だ」
そしてついに魔力登録をしている魔石に圧縮魔力が到達し、魔石内の残留魔力を消去した。
「えっと、蓋の留め具に魔力を注ぐんだっけ」
ポーチの留め具には魔力回路の入口が刻み込まれており、そこに魔力を流して再登録をするらしい。
「できたかな?」
試しに留め具を外して、鞄の中に手を入れてみた。
すると、頭の中に入っているものが思い浮かぶではないか。
「成功だ……」
やったーーっ!
荷物が減るぅーー!
さっそくモフ菓子ポーチの隣に取りつけた。
続いて、つるりんの持ち物で不要なものを幌馬車の中にぶちまけていく。
代わりに食料などの物資や金銭などはもらっていき、貴族家とつるりん一家に対する牽制になりそうな証拠も回収した。
あとは護衛達の金銭や投擲武器になりそうなものはもれなく回収し、残すは騎士の所持品だけ。
そこで俺は彼らに慈悲を与えることを思いつく。
というのも、騎士団長の装備だけ異常に良く、彼の物だけもらって他は遺族に返却することを思いついたのだ。
騎士団長は魔鉄という鋼鉄よりも丈夫な鎧を身につけ、いくつかのスクロールと、オシャレな腕輪をつけていた。それも前腕全てを覆うほどの腕輪だ。
武器は全員共通で魔鉄製だったから、死んだ五人分の剣を回収する。
あとで【筆】に食べさせれば、戦力向上になるだろう。
問題は腕輪だ。
「これは何ですか?」
「…………おそらく魔法発動体です」
――家宝の、だろ?
彼らは伯爵家の騎士団なのだが、たかが伯爵家の騎士団長が『遺物級』の魔導具を所持しているのは不自然だ。
本来なら国宝として扱われてもおかしくない品なのに、奪われる可能性がある遠征で身につけていくか?
こういってはなんだが、お嬢様の命より価値があると思うぞ?
「これがあるのにビビっていたのか? ……いや、奪われる可能性を考えてビビっていたのか……?」
「…………」
独り言を装って鎌をかけてみるも、表情がわずかに動いただけで全員から無視された。
問いかけているわけではないから仕方がないのかもしれないが、リアクションはコミュニケーションでとても大事な要素だと思うんだ。
「まぁ賊の手に渡らなかったなら良かったのか」
という独り言を呟きながら、再びメイドさん達の様子を伺ってみる。
すると、今回は期待に満ちた表情を浮かべて返事をしようとしていた。
だがしかし――。
「代わりに恩人の腕にはまるんだから、彼も本望でしょう」
と、もらっていく宣言をして装着する。
直後、期待に満ちた表情が絶望の色に染まった。
さらに追い打ちをかけるように、両腕に装着された艶消し燻し銀の腕輪を見せびらかす。
狼の彫刻が施された一対の魔法発動体は、腕輪自体が魔力を放っているかのような存在感があり、国宝と呼ぶに相応しい気品もあった。
きっと騎士団長も自慢したかったんだろう。
だから、奪われる危険もある遠征に持ってきてしまったんだと思う。
「俺は満足です。死体を穴に入れて処分した後、こちらの魔法契約書に全員分のサインを記入してください」
「――魔法契約書……ですか……?」
メイドさんを始め、生き残りの騎士達まで驚愕の表情で俺を見ている。
当然、俺も同じ表情で彼らを見ていた。
「……まさか、口約束で済まされると思ってました? たった一つの契約を理解するのに、五人の命が必要だったのに? 俺からしたら賊の共犯者なのに?」
「「「「…………」」」」
「まぁサインしたくないなら構いませんよ」
魔法契約書の話を出せば拒否感を示すことは分かりきっていた。
だから、当然罠も考えてある。
「え? ホントに?」
フィッシュっ。
生き残り騎士の一人が、罠に引っかかる。
「「「――え?」」」
同僚達も驚く馬鹿さだ。
「えぇ。ぶっちゃけ、あなた方を生かしている理由は奴隷仲間のためです。彼らも一緒に下山させて、一緒に自由になる仕事があるからです」
「……知り合いでも?」
罠に引っかかった騎士が、「チャンス到来」とでも言いたげな様子で俺の顔色を窺う。
「いませんよ。でもここにいたら邪魔でしょう? 再度魔獣に襲われたら、宣告なしに報復しますからね?」
「「「「…………」」」」
獣人達がした擦り付け行為は、どこの国でも重罪として扱われている。
審議官の前で「擦り付けされました」と証言して、真偽判定で真実だと証明されれば、たとえ貴族でも罪からは逃れられない。
「それで、あなた方がサインを拒否するなら、この魔法契約書は奴隷達に使います。報酬や契約内容は同じですが、彼らはあなた方の下山を手伝わないというところは違いますね」
「え? そうなのですか?」
「「「「…………」」」」
この騎士……察しが悪すぎだろ。
お馬鹿騎士を除く全員が、驚愕の表情を浮かべて彼を見る。
当の本人は、視線の意味が分からず挙動不審な様子で同僚に問いかけたりしていた。
「……奴隷達は、奴隷解放を報酬に、彼ら以外の死体を処理するだけです。分かりましたか?」
ゆっくりと理解できるように説明してあげても、お馬鹿騎士には理解できなかったようだ。
「じゃあ、仕事変わってもらえるってことですね!」
「「「「…………」」」」
なんなん? コイツ。という視線を、俺はお馬鹿騎士の同僚達に向ける。
「お、おい。仕事を変わるんじゃない。俺たち全員が死ぬんだ」
お馬鹿騎士の同僚も、状況の把握ができていない人物を交えた状態で会話を続けたくなかったようで、小声で端的に状況を告げる。
「――え? 契約は守るのに?」
だから、口約束じゃあ意味ないって言ってるだろ?
「……今すぐ理解するか、死後の世界でゆっくり考えるか選べ」
こっちは時間がないんだ。
お馬鹿に時間を使うほど無駄なことはない。
それに、彼の馬鹿さ加減に狼さんもイラつき始めている。
今まで寝そべっていたのに、既に起き上がって臨戦態勢の構えだ。
「えっと――」
俺の二択にお馬鹿騎士が答えようとした瞬間、先ほど小声で説明してあげていた同僚が、お馬鹿騎士のアゴを殴り飛ばした。
自分が味方に殴られるとは微塵も思っていなかったからか、お手本のような右ストレートが綺麗に決まった。
「――失礼いたしました。ようやく先に進めますね」
「……そうですね」
メイドさんと残りの騎士がお馬鹿騎士の排除を誉め称え、狼さんも決断の早さを褒めるようにうなっていた。
「もちろん、私たちはサインをします。驚いたのは、お嬢様にも魔法契約を施されているのでは? と思ったからです」
上手い言い訳を考えたものだ。
所有権が俺に移った時点で、魔法契約書の効果はほぼ無意味。
俺が解放すると言えば済む話だ。
それに……。
「お嬢様については心配無用でしょう。これはお嬢様のために用意された魔法契約書だと思われますし、何より俺が首輪の鍵を持っていますから」
契約書と一緒に鍵も魔法鞄に入っていた。
この二つが揃えば、一つの答えに行き着くはず。
それは、「サインをしなきゃ解放しないぞ?」と。
「「「…………」」」
「未だ寝ていますが、お嬢様は三つの道が用意されています。一つ目は奴隷からの解放。二つ目は寝たまま死ぬ。三つ目は奴隷のまま。さて、どれがいいですか? 可及的速やかに答えを出してもらっていいですか?」
「サインをして奴隷達の下山を手伝うので、お嬢様の首輪を外してください」
交渉担当のメイドさんが即答し、他二人の騎士も同意するように頭を下げた。
「わかりました。それでは先に死体の処理をお願いします」
「「「はい」」」
彼らが死体を処理している間に、契約書に『奴隷達を解放し、自由を奪わない』という文言を付け足す。
お馬鹿騎士という不安要素があるせいで、細かいところまで書いておかないと反故にされそうだと思ったからだ。
それに、この場で解放していく以上、奴隷達の不安を取り除いておかなければ別の問題が発生するかもしれない。
本来なら、下山後に解放した方が問題がないのだろう。
しかし、その場合は獣人たちに奴隷の所有権を譲渡しなければいけない。そして所有権さえあれば、契約の穴をつくこともできるだろう。
他にも下山した直後にギルドから横槍が入ったり、つるりんの親族を名乗る者が現れたりと、奴隷を連れているという理由によって問題が起こるかもしれない。
ゆえに、奴隷はこの場所で解放していき、みんなで協力して下山をしてもらう。
ちなみに俺の高慢な態度だが、当然目的があってキャラを作っている。
一番の目的は、話が通じない人物が自分の生殺与奪権を持っているという恐怖を与え、後始末を含む取引で有利な立場に立つためだ。
二番目は、変装前後の印象に差をつけるためである。
ご主人様から変装をするようにアドバイスをされているが、人間で【無詠唱】をする者は少なく、スキルから関連付けられる可能性もあるかもしれない。
それを防ぐために、黒髪黒目の狂人を装っているし、【筆】を封印して短剣を使用している。
さらにいえば、奴隷解放も伯爵家に対する防衛網として使うためだ。もっと明確に言うなら、デコイおよび肉盾である。
奴隷達もお嬢様の事情を知っているのは明白であり、契約で自由を奪うことを禁じた。
つまり、彼らの自由を奪わず口を塞がなければいけないという難しい状況を作ったことで、変装して姿をくらます俺に意識を向けさせないようにしたのだ。
まぁあわよくば、黒髪黒目の人物に嫌悪感を持ったりしてくれれば、勇者たちが越境してくることを防げるかな? という思惑もあったり。
だから、今回は怒りのままに行動してみた。
結果は、概ね満足いく成果を得られたと思う。
これ以上は、凡才である俺には考えつかない。何より、俺の目的地は大公国だ。色々面倒くさそうな王国は早く通り抜けるに限る。
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