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第2章 モフモフ天国
第31話 つるりんの遺産
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王国に入国した後に問題なく過ごせるように、『命大事に』をコンセプトにした契約を結ばせてもらう。
意味合いは違うが、三つの契約全てが身の安全を守る内容になっている……はず。
「それでですね、一つ目は不干渉を貫いてもらいたいのです。あなた方の家門が、俺に対して何もしないというね」
「……家門が、ですか?」
家門というのは、分家も含んだ親族や家臣のことを言う。
では、寄親やプロに頼んでもいいのか? という疑問が生まれるだろう。
当然それに対する答えは用意してある。
「えぇ。十分ではないですか? 他に頼む手もなくはないですが、先ほど学習しませんでしたか? 自分のせいで他人が死ぬと」
「……」
「それに殲滅戦を見ていましたでしょう? それなら、俺が【鑑定】持ちだと知っているはずです。――さて、俺を襲撃して死ぬのは誰だと思います? 後悔してもらいたいので、報復の対象に本人は狙いませんよ?」
「…………」
「ふむ……、騎士殿は魔法学園に行く予定でもあるのですか?」
「――っ」
「ほぅほぅ。親族が魔法学園に通うのですね? 魔法の事故で死なないといいですね?」
偉そうに言っているが、これは完全にはったりだ。
ただ、騎士以上の貴族はどこぞの魔法学園に通うことが、王国では慣習になっている。知識様からの情報を受け、【鑑定】した風を装ってあげれば身に覚えがある者が勝手に反応してくれるはず。
そして、予想が当たったというわけだ。
「理解してくれましたか? 家門が大人しくていれば、誰も不幸にならずに済むのです。さらにいえば、お嬢様が奴隷になったなどという噂も流れずに済むのです」
「……理解しました」
「さすがです」
干渉してきたら家門の恥をバラすぞ?
お嬢様の人生が詰むぞ?
という脅しを理解してくれたようだ。
世の中の貴族令嬢は攫われただけでも修道院行きになることもあるのに、奴隷になったことがあると知られれば、さらなる不幸が待っていることだろう。
「続いて二つ目です。俺のことや、ここで見たことの全てを外部に漏らすことを禁じます」
「――それは……」
「無理ですか? 主犯の御者が言っていたように、あなた方の口から俺のことが漏れたせいで、ギルドから報復されたら面倒でしょ?」
「ですが……報告が……」
「んー……元から誰もいなければ報告の必要もないかと思うのですが、いかがですか?」
つまり、「死ぬか?」と聞いている。
「……約束します」
「賢明な判断ですね。交渉役に選んで良かったです」
「……ありがとうございます」
メイドさんは全員が助かるために最善の方法を取っているのだが、気に入らない人が何人かいるようだ。
彼女が後に責められないように手を貸してあげよう。
「おや? 気に入らない人が何人かいるみたいですね? 交渉内容が不服な人は挙手をお願いします」
残った騎士六人の内、三人が手を挙げた。
きっと魔力量が少ないから、今なら勝てると思っているのだろう。
確かに心許ない。が、やりようはある。
――《魔力撃》
目標、顔面。
圧縮《魔力撃》三連発。
「がぁっ」
「ぶげっ」
「ぷぎゅぅっ」
魔力消費量一〇の低威力魔法だが、圧縮玉を使って溜め撃ちしてあげれば、鈍器で顔面を殴打された以上の威力は出せる。
そしてトドメに、【転歩】からの急所突きだ。
「ふぅー、彼らは命がいらなかったらしいですよ。俺も目撃者が減って良かったです。これぞまさしく、win-winの関係ですね?」
「…………」
「なかなか学んでくれませんね。契約の報酬について話しているんですよ? そちらに拒否権はありません。拒否するなら殲滅するという契約だったことを忘れないでもらいたいですね」
メイドさんは真っ青になって失神寸前だ。
ようやく本気度が伝わったらしい。
ちなみに、お嬢様はすでに失神している。
本当に役立たずなお嬢様だ。
交渉できないなら、せめて起きていろよ。
「まだ不服だと申し立てたい者はいますか?」
「…………」
「いないようですね。では、最後です。俺が討伐したものを好きに持っていくので、残ったものの処分をお願いします」
「討伐したものの所有権は討伐者にありますから、こちらは問題ありません」
「本当ですか? そこの騎士も含まれますよ?」
「――えっ……」
「当然でしょう? まぁ死体はいらないので、死体はお返ししますけどね」
「えっと……」
「不服な人は挙手をお願いします」
「…………かしこまりました」
「よかったです」
メイドさんの許可に対し、残った三人の騎士が咎めるような視線を向ける。
「おーい、文句があるなら俺に言ってもらえます? もう言葉を発して良いから、好きに抗議してみてください。言いたいことがあるのでしょう?」
「えっと……」
一人の騎士が口籠もりながら言葉を口にしようとした。
「でもぉ-、俺が契約した相手はお嬢様だけだからぁー、騎士達は元からおまけだという自覚を持ってから抗議して下さいねぇー? あなた方は本来賊と同じ立場で、俺の気分だけで生き延びているんですよ? ハエみたいにうるさくしていたら、どうなるか分かりますよね?」
「「「…………」」」
「あれ? そこの人、何か言いかけていませんでしたか? 良いんですよ? 話してくれて」
「……何か手伝うことはございますでしょうか?」
「あっ、手伝ってくれようとしたんですね。なるほど。俺が早とちりしたみたいですね」
「……何でもやります」
「では、脇に穴を掘ってもらっていいですか?」
「はい」
「ありがとうございます」
死体廃棄用の穴を騎士達三人に開けさせている間に、俺はつるりんの所持品を漁る。
つるりんのような違法奴隷を扱う商人は、自分が危険な立場に陥らないために策をいくつか用意している。
そのうちの一つが、魔法契約だ。
条件さえ守っていれば普通の契約書と同じだけど、契約に違反すると記述されている罰が発動する魔導具の一つである。
奴隷が拘束されている檻馬車を【鑑定】してみたところ、彼らは全員もれなく魔法契約で奴隷にさせられていた。
しかし、お嬢様はまだである。
ということは、その分の契約書がどこかにあるはずで、今回の新契約を結ぶ上で役に立つだろうと思いついたのだ。
「――おぉ! つるりん、ナイスっ!」
つるりんはなんと『魔法鞄』を持っていた。
呼び方は色々あるらしいが、彼のものはポーチ状のもので、【鑑定】によれば性能としては最低のものらしい。
それでも、百万エルモ(=円)以上する高級品らしい。
時間停止などの特殊能力はなく、畳み一畳ほどの直方体を形成しており、そこに入る分だけ収納することができるらしい。
「あ、あの……」
俺が魔法鞄を見つけて喜んでいると、突然メイドさんに声をかけられた。
「……何でしょう?」
はしゃぎすぎたか……。恥ずかしい。
「お、おそらく……魔力登録をされているので、他の人が使うには専門店で使用者の更新をしてもらう必要がありますよ? それに、拾得物だと証明に時間がかかりますから……」
「マジか……。ということは、専門店の店員は全員空間魔法が使えるということですか?」
王国の国力ヤバすぎだろと感心していたのだが……。
「いえ、さすがに空間魔法を使えないと思います。王国でも分かっているだけで二人しかいませんから」
「え? じゃあ魔法とは関係ないってことですか?」
「はい」
これは……ワンチャンある?
何かしらのスキルか道具で魔力を消したり、上書きするってことでしょ?
魔力量の残量が不安だけど、圧縮玉を使えば周囲の魔素で補完できる。
どうせ使えないなら、【鑑定】と【解析】で調べつつ、カンスト【魔力操作】でこじ開けてみようじゃないか。
「お嬢様方の馬車が壊れていますが、つるりんの馬車を使うのはどうですか? 嫌なら補修部品だけでも使ってください」
「いいんですか?」
「最初からそのつもりでしたので」
騎士が邪魔しなかったらな。
いつまでも霊峰にいられて、また俺に化け物級魔獣が来ても迷惑なだけだからね。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
メイドさんはお辞儀をして騎士の元に行き、三人の内一人を連れて馬車の修理を始めた。
彼女たちはつるりんの馬車が嫌という以外にも、貴族家の馬車を持ち帰るという仕事もあるのだろう。
壊れているんだから放棄すればいいのに。
「グルッ」
「もう少しお待ちいただきたい。――というか、犯人を討伐したので疑いは晴れたのでは?」
遠回しに「自由だろ?」と主張してみた。
せっかくここまで来たのに、また来た道を戻ると思うと、少しだけ憂鬱になるのだ。
そのまま先に進んではダメだろうか。
「グルルッ」
首を横に振り、拒否を示す狼さん。
時折空を見上げているから、何か指示を受けているのだろう。
「もしかして……女王様がお呼びですか?」
「グルッ」
どうやら正解らしい。
戻るのかぁ……。
帰りは狼さんの背中に乗せてくれないだろうか。
ぶっちゃけ、戦闘よりも移動の方が疲れるんだよなぁ。
「じゃあ、少しだけ待っていてもらえませんか? すぐに終わらせるので」
「……グルッ」
「ありがとうございます」
この世界のモフモフは暴君しかいないのか?
癒されるようなモフモフは何処に?
「グルッ?」
「いえ、何も」
さすが狼。勘が鋭い。
「グルルッ」
「はい、直ちに」
狼さんが伏せたのを確認して、誰も乗っていない幌馬車に腰を下ろす。
「ふぅ……」
まずは【鑑定】と【解析】を行い、魔力回路を確認する。
魔法鞄の機能に干渉せず、それでいて使用者登録に関係する箇所を探す。見つけたら、どうやって更新するのかを【解析】していく。
「……なるほど。魔力で消した後に再登録するのか」
黄色いボディでお馴染みの高圧洗浄機のように、消去用魔導具で魔力を放出して元の魔力を無理矢理剥がす。
その後、新しい使用者の更新するようだ。
魔力を登録する際は少量の魔力を使用するため、消去時に元の使用者よりも魔力量が多くないと無理というようなことにはならないらしい。
だが、無理矢理剥がしているから、徐々に再更新の成功率が下がっていくという欠陥もある。
さらに迷宮産のものは更新不可能で、生前譲渡の機能を使うしかないらしいと、知識様が仰っていた。
「つるりんのものが新品であることを祈る」
成功の確率に影響するため、是が非でも新品が良い。でも、知っているのは今は亡きつるりんだけ。
ゆえに、祈らずにはいられなかった。
「よし。頑張れ、俺」
意味合いは違うが、三つの契約全てが身の安全を守る内容になっている……はず。
「それでですね、一つ目は不干渉を貫いてもらいたいのです。あなた方の家門が、俺に対して何もしないというね」
「……家門が、ですか?」
家門というのは、分家も含んだ親族や家臣のことを言う。
では、寄親やプロに頼んでもいいのか? という疑問が生まれるだろう。
当然それに対する答えは用意してある。
「えぇ。十分ではないですか? 他に頼む手もなくはないですが、先ほど学習しませんでしたか? 自分のせいで他人が死ぬと」
「……」
「それに殲滅戦を見ていましたでしょう? それなら、俺が【鑑定】持ちだと知っているはずです。――さて、俺を襲撃して死ぬのは誰だと思います? 後悔してもらいたいので、報復の対象に本人は狙いませんよ?」
「…………」
「ふむ……、騎士殿は魔法学園に行く予定でもあるのですか?」
「――っ」
「ほぅほぅ。親族が魔法学園に通うのですね? 魔法の事故で死なないといいですね?」
偉そうに言っているが、これは完全にはったりだ。
ただ、騎士以上の貴族はどこぞの魔法学園に通うことが、王国では慣習になっている。知識様からの情報を受け、【鑑定】した風を装ってあげれば身に覚えがある者が勝手に反応してくれるはず。
そして、予想が当たったというわけだ。
「理解してくれましたか? 家門が大人しくていれば、誰も不幸にならずに済むのです。さらにいえば、お嬢様が奴隷になったなどという噂も流れずに済むのです」
「……理解しました」
「さすがです」
干渉してきたら家門の恥をバラすぞ?
お嬢様の人生が詰むぞ?
という脅しを理解してくれたようだ。
世の中の貴族令嬢は攫われただけでも修道院行きになることもあるのに、奴隷になったことがあると知られれば、さらなる不幸が待っていることだろう。
「続いて二つ目です。俺のことや、ここで見たことの全てを外部に漏らすことを禁じます」
「――それは……」
「無理ですか? 主犯の御者が言っていたように、あなた方の口から俺のことが漏れたせいで、ギルドから報復されたら面倒でしょ?」
「ですが……報告が……」
「んー……元から誰もいなければ報告の必要もないかと思うのですが、いかがですか?」
つまり、「死ぬか?」と聞いている。
「……約束します」
「賢明な判断ですね。交渉役に選んで良かったです」
「……ありがとうございます」
メイドさんは全員が助かるために最善の方法を取っているのだが、気に入らない人が何人かいるようだ。
彼女が後に責められないように手を貸してあげよう。
「おや? 気に入らない人が何人かいるみたいですね? 交渉内容が不服な人は挙手をお願いします」
残った騎士六人の内、三人が手を挙げた。
きっと魔力量が少ないから、今なら勝てると思っているのだろう。
確かに心許ない。が、やりようはある。
――《魔力撃》
目標、顔面。
圧縮《魔力撃》三連発。
「がぁっ」
「ぶげっ」
「ぷぎゅぅっ」
魔力消費量一〇の低威力魔法だが、圧縮玉を使って溜め撃ちしてあげれば、鈍器で顔面を殴打された以上の威力は出せる。
そしてトドメに、【転歩】からの急所突きだ。
「ふぅー、彼らは命がいらなかったらしいですよ。俺も目撃者が減って良かったです。これぞまさしく、win-winの関係ですね?」
「…………」
「なかなか学んでくれませんね。契約の報酬について話しているんですよ? そちらに拒否権はありません。拒否するなら殲滅するという契約だったことを忘れないでもらいたいですね」
メイドさんは真っ青になって失神寸前だ。
ようやく本気度が伝わったらしい。
ちなみに、お嬢様はすでに失神している。
本当に役立たずなお嬢様だ。
交渉できないなら、せめて起きていろよ。
「まだ不服だと申し立てたい者はいますか?」
「…………」
「いないようですね。では、最後です。俺が討伐したものを好きに持っていくので、残ったものの処分をお願いします」
「討伐したものの所有権は討伐者にありますから、こちらは問題ありません」
「本当ですか? そこの騎士も含まれますよ?」
「――えっ……」
「当然でしょう? まぁ死体はいらないので、死体はお返ししますけどね」
「えっと……」
「不服な人は挙手をお願いします」
「…………かしこまりました」
「よかったです」
メイドさんの許可に対し、残った三人の騎士が咎めるような視線を向ける。
「おーい、文句があるなら俺に言ってもらえます? もう言葉を発して良いから、好きに抗議してみてください。言いたいことがあるのでしょう?」
「えっと……」
一人の騎士が口籠もりながら言葉を口にしようとした。
「でもぉ-、俺が契約した相手はお嬢様だけだからぁー、騎士達は元からおまけだという自覚を持ってから抗議して下さいねぇー? あなた方は本来賊と同じ立場で、俺の気分だけで生き延びているんですよ? ハエみたいにうるさくしていたら、どうなるか分かりますよね?」
「「「…………」」」
「あれ? そこの人、何か言いかけていませんでしたか? 良いんですよ? 話してくれて」
「……何か手伝うことはございますでしょうか?」
「あっ、手伝ってくれようとしたんですね。なるほど。俺が早とちりしたみたいですね」
「……何でもやります」
「では、脇に穴を掘ってもらっていいですか?」
「はい」
「ありがとうございます」
死体廃棄用の穴を騎士達三人に開けさせている間に、俺はつるりんの所持品を漁る。
つるりんのような違法奴隷を扱う商人は、自分が危険な立場に陥らないために策をいくつか用意している。
そのうちの一つが、魔法契約だ。
条件さえ守っていれば普通の契約書と同じだけど、契約に違反すると記述されている罰が発動する魔導具の一つである。
奴隷が拘束されている檻馬車を【鑑定】してみたところ、彼らは全員もれなく魔法契約で奴隷にさせられていた。
しかし、お嬢様はまだである。
ということは、その分の契約書がどこかにあるはずで、今回の新契約を結ぶ上で役に立つだろうと思いついたのだ。
「――おぉ! つるりん、ナイスっ!」
つるりんはなんと『魔法鞄』を持っていた。
呼び方は色々あるらしいが、彼のものはポーチ状のもので、【鑑定】によれば性能としては最低のものらしい。
それでも、百万エルモ(=円)以上する高級品らしい。
時間停止などの特殊能力はなく、畳み一畳ほどの直方体を形成しており、そこに入る分だけ収納することができるらしい。
「あ、あの……」
俺が魔法鞄を見つけて喜んでいると、突然メイドさんに声をかけられた。
「……何でしょう?」
はしゃぎすぎたか……。恥ずかしい。
「お、おそらく……魔力登録をされているので、他の人が使うには専門店で使用者の更新をしてもらう必要がありますよ? それに、拾得物だと証明に時間がかかりますから……」
「マジか……。ということは、専門店の店員は全員空間魔法が使えるということですか?」
王国の国力ヤバすぎだろと感心していたのだが……。
「いえ、さすがに空間魔法を使えないと思います。王国でも分かっているだけで二人しかいませんから」
「え? じゃあ魔法とは関係ないってことですか?」
「はい」
これは……ワンチャンある?
何かしらのスキルか道具で魔力を消したり、上書きするってことでしょ?
魔力量の残量が不安だけど、圧縮玉を使えば周囲の魔素で補完できる。
どうせ使えないなら、【鑑定】と【解析】で調べつつ、カンスト【魔力操作】でこじ開けてみようじゃないか。
「お嬢様方の馬車が壊れていますが、つるりんの馬車を使うのはどうですか? 嫌なら補修部品だけでも使ってください」
「いいんですか?」
「最初からそのつもりでしたので」
騎士が邪魔しなかったらな。
いつまでも霊峰にいられて、また俺に化け物級魔獣が来ても迷惑なだけだからね。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
メイドさんはお辞儀をして騎士の元に行き、三人の内一人を連れて馬車の修理を始めた。
彼女たちはつるりんの馬車が嫌という以外にも、貴族家の馬車を持ち帰るという仕事もあるのだろう。
壊れているんだから放棄すればいいのに。
「グルッ」
「もう少しお待ちいただきたい。――というか、犯人を討伐したので疑いは晴れたのでは?」
遠回しに「自由だろ?」と主張してみた。
せっかくここまで来たのに、また来た道を戻ると思うと、少しだけ憂鬱になるのだ。
そのまま先に進んではダメだろうか。
「グルルッ」
首を横に振り、拒否を示す狼さん。
時折空を見上げているから、何か指示を受けているのだろう。
「もしかして……女王様がお呼びですか?」
「グルッ」
どうやら正解らしい。
戻るのかぁ……。
帰りは狼さんの背中に乗せてくれないだろうか。
ぶっちゃけ、戦闘よりも移動の方が疲れるんだよなぁ。
「じゃあ、少しだけ待っていてもらえませんか? すぐに終わらせるので」
「……グルッ」
「ありがとうございます」
この世界のモフモフは暴君しかいないのか?
癒されるようなモフモフは何処に?
「グルッ?」
「いえ、何も」
さすが狼。勘が鋭い。
「グルルッ」
「はい、直ちに」
狼さんが伏せたのを確認して、誰も乗っていない幌馬車に腰を下ろす。
「ふぅ……」
まずは【鑑定】と【解析】を行い、魔力回路を確認する。
魔法鞄の機能に干渉せず、それでいて使用者登録に関係する箇所を探す。見つけたら、どうやって更新するのかを【解析】していく。
「……なるほど。魔力で消した後に再登録するのか」
黄色いボディでお馴染みの高圧洗浄機のように、消去用魔導具で魔力を放出して元の魔力を無理矢理剥がす。
その後、新しい使用者の更新するようだ。
魔力を登録する際は少量の魔力を使用するため、消去時に元の使用者よりも魔力量が多くないと無理というようなことにはならないらしい。
だが、無理矢理剥がしているから、徐々に再更新の成功率が下がっていくという欠陥もある。
さらに迷宮産のものは更新不可能で、生前譲渡の機能を使うしかないらしいと、知識様が仰っていた。
「つるりんのものが新品であることを祈る」
成功の確率に影響するため、是が非でも新品が良い。でも、知っているのは今は亡きつるりんだけ。
ゆえに、祈らずにはいられなかった。
「よし。頑張れ、俺」
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