めざせ魔獣博士!!~筆は剣より強し~

暇人太一

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第2章 モフモフ天国

第29話 報復学者の実験

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 少し暴力的で痛々しい描写があります。
 苦手な方は一番下まで跳んでいただければ、次の話への繋がりは分かると思います。


 ================


 熊天使を泣かせる原因を作った犯人である奴隷商人たちへの報復を開始するに当たって、俺は同時に検証実験を行うことにした。
 それは、圧縮玉を使わなかった場合に発動できる魔法の最大数の確認だ。

 圧縮玉は集中力を使うから、現状では同時に三つまでしか作れない。さらに他の魔法を使うことも無理だ。
 だが、一般的に魔力操作のレベルが高いほど、同時に発動できる魔法の数が増えるという。
 ならば、カンストしている俺はどうだろう?
 圧縮玉を使わなければ、かなりの数を同時に発動できるのでは?

 まぁ圧縮玉を使用しない時点で威力はかなり落ちるが、この際威力は度外視でいく。

 ――《閃光弾フラッシュ

 ――《石礫弾ストーンショット

 ――《魔力弾マナショット

 短剣を抜いて接近戦を臭わせた裏で、無詠唱の魔法を発動する。
 まずは、目潰し専用魔法を三連射。
 ストーカー撃退時では、敵が単体であることと居場所発覚を防ぐために使用を控えていたが、複数を相手取るときに最大限の効果をもたらす魔法だ。

「ぐあぁぁぁっ」

「目がっ」

 続けて、先端を尖らせた《石礫弾》を五発発射。
 圧縮玉を使用していないレベル二の魔法で威力を求めるなら、火属性か土属性の二択になるが、木々に囲まれた場所であることを考慮すれば、必然的に土属性しかない。
 そして、《魔力弾》もほぼ同時に五発発射する。いつも通り不可視性を利用した保険だ。
 運良く避けられても、少し遅れて発射された《魔力弾》によって多少のダメージを負わせる算段である。
 魔力量の関係で同時に使用できたのは一〇発だったが、構築から発射まで問題なく制御できた。

 今回の検証実験は満足いく結果を得られたが、同時に魔力量に対する不安が湧いた。
 まぁ今はいいか。
 現状で最大の課題は、御者に報復することだからね。

「がっは……」

「いでぇぇぇ」

「助けてくれぇぇぇーーー!」

 体のどこかしらに攻撃がヒットし、多少でも動きを止めてしまえば、【転歩】で近づいて確殺するだけ。
 真犯人の御者以外を順に始末していき、徐々に人がいなくなっていく恐怖を御者に味わってもらう。

「こんにちは」

「――あ……ぁ……。何で……何で……」

 御者台に隠してあった短剣を握っているが、恐怖で体が思い通りに動かせないようだ。
 声も震えていて、よく聞き取れない。

「何故あなただけ残したか、ですか?」

 だから、代わりに質問を口にしてあげた。
 俺は慈悲深いからね。

「そ……そう……だ……」

「あなたが木に傷をつけなければ、俺がここに来ることはなかった。今頃、当初の目的通り獣人たちを捕まえることができたでしょう」

「――ぐぅっ」

 足元に転がって死んだふりをしていたつるりんの頭を踏みつけ、さらなる恐怖を煽る。

「つるりんもまだ生きていたかっただろう。でも、あなたの不用意な行動によって、ここで一生を終えることになるでしょう」

「め……めい……れい……。殺せ……」

 つるりんは四肢欠損になって漸く危機を覚り、商品である奴隷に命令を下した。
 だが、一手遅い。
 すでに魔法を構築済みだ。

 ――《念板ボード

 圧縮玉で強度を高めた《念板》で後部扉を塞ぎ、戦闘奴隷が降りられないようにした。

「なぁ。つるりんが死んだら、奴隷への命令はどうなるのかな?」

「――っ!」

 ――《念動ハンド

「懺悔の時間だ。自分の命が消える瞬間まで反省するといい」

 つるりんの首に《念動》を固定し、ゆっくり締めながら体を持ち上げる。
 本当は首を折ろうかと思ったけど、御者に見せつけるために締める方を選んだ。

「――ぐぅ……。後悔……する……っ」

 あらゆる液体をぶちまけながら遺言を告げても、格好はつかないと思うんよ。
 俺なら効果範囲の狭い《念動》を使ってくれてありがとうと思って、圧縮玉魔法をぶち込むかな。
 そもそもご主人様の教えでもあるしね。

「だ……旦那……」

 おっと。御者が勘違いしてそうだ。

「あぁ。あなたにはこんなことをしませんよ」

 御者は緊張が解けたのか、思わず「ほぅ」と息を漏らしていた。
 が、緊張を解いてもらっては困る。

「安心しているところ申し訳ないですが、あなたはこんなに楽に死なせないって意味ですよ?」

「――何で……」

「は? あなたが原因で、主犯なんですよ? 一番罪が重いに決まってるだろ?」

「そんなっ! 道に迷わないように傷をつけただけなのにっ!」

「あんな一本道で道に迷うなら、最初から御者なんかするなっ!」

 こんな馬鹿のせいで死ぬところだったと思うと、腸が煮えくりかえるなんて表現じゃ足りないほどの怒りが湧いてくる。

「コイツはどうします? 連行しますか?」

 狼さんに確認を取ると、御者だけじゃなく空気扱いだった獣人たちも周囲を見回していた。

「グルルッ」

「――なぁっ」

 獣人騎士たちが狼さんにビビり、全員もれなく尻餅をついた。
 ……コイツら貧弱すぎだろ。
 それとも俺がおかしいのか?
 違うと思うけどな。

「始末でいいってことですか?」

「グルッ」

 なるほど。熊天使に凄惨な場面を見せたくないし、汚い人間の匂いをつけて嫌われたくないと。
 勘だけど、多分そう言っていると思う。

「喜べ。あなたの処刑が決まった」

「いや……いやだ……。喜ぶなんて……そんな……そんな……」

 いや、嬉しいだろ。
 巨大熊天使に会って甚振られたいのか?
 それならまだ処刑の方がマシだと思うけど?

「ほら、こっち来い」

 ――《念動》

「いやだっ! いやだあっ!」

 そう言われても、手心を加えたら俺が死ぬんよ?
 命をかけてまで助けてやる義理はねぇ。

「まずは、一本道にもかかわらず間違えるという節穴だらけの目はいらんな」

 ――《加熱ヒート

 前世で『暴○特急』という映画で見た拷問を、異世界で実際にやってみることに。
 対人戦というレベル変動が起こらない無駄な時間を過ごさなければいけないなら、せめてスキルレベルを上げておきたい。
 ここまで不快なことをして我慢していれば、最低でも【精神耐性】が上がると思われる。

「ぐあぁぁぁぁっ」

「うるさいな。魔獣が来るかもしれないだろ?」

 狼さんたちがいるから多分襲われることはないだろうけど、リスクは極力減らしておきたい。

「仲間がやられているのにやり返して来ないなら、剣を持てなくなっても困らないよな?」

 俺が何をするか分かったらしく、両手を固く握りしめている。

「面倒くさいことするな-」

 刃を当てる場所を指から手首に変更した。

「――っ」

 本当に痛いときは声を出す余裕すらない。
 経験済みだから、彼の気持ちはよく分かる。

「あれ? おかしいなぁ」

 さすが俺。
 武術スキルを持ってないから、普通の攻撃が拷問になっているらしい。

「二本目、行くよー」

 今度は腕をグルグル回して抵抗し始めた。

「おいー、面倒なことはやめてよー」

 つるりんの体を放棄して、御者の体を抑えるために《念動》を操作する。
 万力で挟んでいるようにイメージして両腕を固定し、もう片方の手首に剣を振り下ろした。
 まぁどんなに頑張っても腱を切るのが精一杯だから、代わりにギコギコと前後に動かすことにする。

「うわぁぁぁぁっ! もういやだぁぁぁ!」

「俺も魔獣に襲われたとき、あなたと全く同じ事を思ったよ? 俺はあなたのせいだけど、あなたは自業自得だろ? 頑張って耐えろよ」

「――殺せっ! 殺してくれぇぇぇーーー!」

「嫌でぷぅーー」

 奴隷商人の護衛が鉤爪のような武器を持っていたため、それを熊の爪に見立てて、御者が幹にしたことを再現する。

「いいものみーつけた」

「なんだ……なにするんだ……」

 今度はヒントを言ってないから、何をするか分かるまい。

「エンジェル・クロー」

 顔面の表面を爪で撫でるように擦らせる。
 本当は距離感が分からなかっただけだけど。

「ぐあっ」

「からのぉー……エンジェル・シャッター」

 顔面にボーダー柄を作ってあげ、続けてストライプ柄を作る。
 すると――。
 
「いでぇぇぇぇよぉぉぉ」

「クロス柄の完成」

「――狂ってる……」

 空気は言葉を発するなよ。

「次に口を開いたら、言葉を発した者の隣の者を殺す」

「――何だとっ!」

 ――《石礫弾ストーンショット

 騎士団長と呼ばれていた者の横にいた男の顔面に、圧縮魔法弾を発射する。
 先ほど奴隷商人の護衛達に使った魔法よりも速く、そして威力もある《石礫弾》を喰らい頭部を吹き飛ばされた男は、鈍い音を立てながらそのまま後に倒れた。

「――きゃあぁぁぁっ」

「学習しないのか?」

 ――《石礫弾》

 ――《魔力弾マナショット

 お嬢様の横にいた騎士団長の顔面にも、同様に圧縮魔法弾を放つ。今回は保険付きで。

「――――っ!」

「やっと学習したみたいだな。静かにしててくれよ? 危険地帯で戦闘員の注意を逸らしたら、危険に晒した相手に攻撃されても仕方ないんだからさ。騎士なら分かるよな? 契約は殲滅対象に入れるかどうかという内容だったはず。お嬢様一人でも残っていれば殲滅にならないだろ? 頭を使え」

 一番うるさかった騎士団長を始末できたのは僥倖だった。
 お嬢様には首輪がついたままだというのに、まだ自分たちが置かれている立場が分からないらしい。

 元々は違法奴隷だったかもしれないが、霊峰では真偽を確かめることはできない。
 であれば、お嬢様の所有権はつるりんにあり、つるりんが死亡した場合は討伐した俺にあるというわけだ。
 お嬢様の生殺与奪権を俺が握っているのに、自分たちの方が偉いという自信はどこから来るのだろうか。謎だ。

「お待たせしたね。ちょっと頭のおかしい人たちの相手をしていたからさ。もちろん、あなたのことを忘れたわけじゃないから安心して」

「俺にこんなことしていいと思っているのかっ!?」

 ん? どこぞの貴族だったのか?
 それとも、苦し紛れのはったりか?
 少し気になるから聞いてみようじゃないか。



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