めざせ魔獣博士!!~筆は剣より強し~

暇人太一

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第2章 モフモフ天国

第28話 霊峰警察捜査網

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 熊天使の縄張りに侵入し、縄張りの木を傷つけた愚か者たちを捜索するために出発したのだが、熊天使親子はついてくる気がないようだ。

 これはワンチャンあるのでは?

 と、思ったときもありました。
 【気配察知】が反応するまでは。

「増えてる……」

 俺への監視が増えていた。
 数は多くないのだが、どうやっても振り切れそうにない。
 まずは空からの監視。
 多分昨日もいたのだろうが、昨日はそこまで気を配る余裕はなかったから見逃していたのだろう。……不覚。
 次に前後左右を高速で移動する魔獣。
 おそらく狼系の魔獣だと思われるが、意識を向けるだけで威嚇されるという理不尽な扱いを受けているから、正確な判別はできない。
 最後に、確認のために【索敵】を含めた察知系スキルをフル稼働させて漸く見つけることができた隠密系魔獣だ。
 狼系の魔獣の裏に隠れて動いているせいで、姿形を把握することすらできていない。

「熊天使たちは偉大な存在なんだなぁ……」

 ご主人様、他に道はなかったのでしょうか?
 過酷です。過酷すぎます……。

「グルッ」

「あっはい」

 まさかの催促。
 まだ早朝で時間はあると思うんだけどな。

「グルル?」

「……何でもありませんよ?」

「グルッ」

 何だろう。昨日の恐怖体験のおかげかな?
 なんとなくだけど、狼さんが何を言いたいのか分かる気がする。
 もしかして、従魔にできたりして?

「グルルルッ」

 うん。無理そう。

「……もう、そろそろみたいです。ここからは慎重に行きましょう」

「グル?」

 理由が気になるのかな?

「事情を知る必要があるからです」

「グルルッ」

 いや。そちらは事情なんか関係ないかもしれないけど、俺は身の潔白を証明しないといけないんだよ?
 殺す前に無関係ということを証明してもらわないと、俺の処刑はなくならないだろ。

 まぁ魔獣に理屈を説いても意味などあるまい。

「グルルッ!」

「はい、すみません」

 以心伝心なのかな?
 それはもう従魔ってことでは?

「できるだけ苦しめてやろうと思ってるんですよ。姫君を泣かせた愚か者ですよ? きっちり落とし前をつけるべきではないでしょうか?」

「……グルッ」

 リーダー格らしい巨大な狼が姿を現して、嘘を見抜こうと視線を向けてきた。
 ここが勝負所だろう。
 絶対に目を逸らしてはいけない。
 いくら怖くても先輩には劣る。
 頑張れ、俺。

「グルルッ」

「ありがとうございますっ」

 どうやら好きにやっていいようだ。
 狼さんに御礼を告げて、巻き込んだ愚か者達に対する報復作戦を練るための情報収集を開始した。


 ◆


「はぁ……はぁ……。お嬢様っ、絶対に馬車からお出にならないで下さいっ!」

「し、しかしっ! 皆が……」

「我々は、お嬢様を必ず御守りしますっ! ですから、何があっても馬車を降りないでいただきたいっ!」

「――わかりました……。騎士団長、ご武運を」

「はっ!」

 二種類あった足跡の内、片方は獣人の騎士が守る馬車だった。
 会話は【観見の魔眼】で唇を読みながら、【身体強化】で聴力向上を図って盗み聞きしている。

 獣人一行の馬車は故障でもしたのか立ち往生しており、周囲を守る騎士が決死の覚悟を決めているようだった。
 彼らは馬車に乗っているお嬢様を何かから守ろうとしているのだが、強大な魔獣が棲息している霊峰にいる以上、どこか今更な気がしてならない。

「……敵は魔獣じゃないのかな?」

 なお、俺は彼らの敵を知らない。
 馬車の後を追跡しても、追いつくのに時間がかかる上に先に捕捉されてしまう。
 ゆえに、森の中を突っ切って先回りしてきたのだ。
 そしてその判断が功を奏し、先行していたであろう馬車に追いつくことができた。代わりに、もう一方の馬車については未確認のままだである。

 ちなみに、先行していると判断できる材料は、獣人一行の馬車の前に車輪の跡はなく、獣人一行の馬車を追う人間の気配が感知できたからだ。
 それでも少しだけ、人型魔獣ではないかと思わなくもない。

 だって、獣人の騎士が決死の覚悟を決めるほどの敵だよ? 身体能力が高い獣人が、貧弱な普人族を怖がるなんておかしいだろ?
 東側から来ているならほとんどの確率で普人族のはずだし、たとえ他の種族がいたとしても少しビビりすぎな気がする。

「グルッ」

「やっぱり人間ですか?」

「グルッ」

 狼さんのお墨付きをもらったのはいいのだが、問題はどちらが真犯人かということだ。

「来たぞっ! 気を引き締めろっ!」

「「「はっ!」」」

 後続の馬車が到着したおかげで、少し状況が読めてきた。
 後続の馬車は三台で、それぞれ違った特徴を持っている馬車だ。
 一つ目は普通の箱馬車。華美な装飾は控えてはいるが、立ち往生していた馬車と同じくらいの価値があるらしい。
 二つ目は少し大きめの幌馬車である。この馬車に兵力や物資を載せていたらしく、到着と同時に兵士が降りて来た。
 そして三つ目。三台目は鉄格子のはまった檻のような馬車だ。
 さすがに檻のような馬車に、獣人まで揃えば何が起きているか分かる。

 おそらく、彼らは普人族の奴隷商と逃亡奴隷の関係だろう。
 推測の確証を得るために一応【鑑定】もしているから、ほぼ間違いもないはず。

「やっと追いついたぜ。まさか馬車が壊れてくれるとはな」

「神々は我々の味方ということでしょうね」

「旦那の言うとおりでさぁ」

 デブい商人が箱馬車から降りてきて、神が味方していると宣う。
 まだ成人したばかりだというのに、チビデブハゲというトリプル役満を決めている。コイツほど神々に嫌われている者はいないのでは?
 ある意味すごい。

 しかも、賛同者は山越えしている俺よりも汚らしいおっさんたちばかりだ。
 口を開いたら「ニチャッ」って音がしそうで、あまりお近づきになりたくない集団である。

「さて、どちらが犯人かな」

 心証では後続馬車だ。
 あとは物証を見つけるだけだが、少し時間がかかりそうだから時間を稼ごうと思う。

「少し行ってきます。待機でお願いします」

「……グルゥ」

 渋々ながらも承諾を得たため、彼らの争いに参戦しよう。

「ふざけるなっ! 違法奴隷は禁止されている行為だっ!」

「それは人間に対してでしょう? 実際、あなた方貴族も魔獣の密猟を黙認しているではないですか?」

「――我々は魔獣ではないっ」

「人でもないでしょう? 私の体はそこまで毛深くありませんもの」

「我々は人だっ」

「おやおや、毛の問題はお答えいただけないのですかな?」

 それは俺が答えてあげよう。

「いや。毛がないのはあんただけだろ? 希少種の体で比べられてもなぁ」

「――何ですって!?」

「誰だぁ?」

「どこから来やがったっ!?」

 チャンス到来。
 臨戦態勢を取った今が、【魔力探知】をする絶好の機会だ。
 戦闘員の臨戦態勢は基本的に【身体強化】の発動であるため、少し魔力が漏れる。さらに、魔力に対する知覚が一瞬鈍る。
 つまり、魔力を広げて捜索してもバレにくいということだ。

 結果、犯人は幌馬車の御者だった。

 何故傷をつけたかは不明だが、犯人を確保してしまえば理由などどうでもいい。

「いやぁ、つるりん一行が森の木を傷つけたせいで、周囲の魔獣が俺を襲ったんよ。どう落とし前をつけてやろうかと探していたんだけど……やっと見つけた」

「――さて、私どもがやったという証拠でもございます?」

「もちろん、あるに決まってるだろ? というか、賠償の機会を与えてやっていることに気づかないとか……毛がなくて脳細胞死んだか?」

「毛は関係ないっ」

「山の上は寒いだろ? 毛が寒さを和らげてくれると思うのだが、あんたは防御できているのか?」

「下民とは違って装備にお金をかけていますからねっ!」

「でも、装備も護衛も三流以下だろ? 本当に身を守れんのか?」

「――何だと? 誰が三流だ?」

 つるりんが黙ったと思ったら、今度はニチャ男かよ。面倒くさいな。

「あんたら以外にいるか? まぁそっちの獣人もそうだけど」

「あぁ? 獣人と同じだと!?」

「だって、どこから来たか聞いたじゃん。あんたらが来る前から、ずっと隠れていたんだよ。自分で待ち伏せ場所に現れて、俺が現れるまで気づかないとか……護衛の意味ある?」

「はったりだっ!」

「はぁ……。会話の内容でも言えばいいか? まぁこれから死ぬヤツに理解してもらう必要もないか」

「死ぬのはテメェだっ」

「まぁまぁ待ちねぇ。そんなに死に急ぎなさんな」

「はっ! 屁理屈を言って命乞いでもするつもりかっ!?」

「馬鹿は置いといて、最後の確認です。賠償はしないということでいいですか? それと獣人の方々、俺を雇わないなら殲滅対象に入れますからね。すぐに答えをくれますか?」

「――何だとっ!? 我々が何をしたっ!?」

「森の木を傷つけた間接的要因でしょ? コイツらを霊峰に連れて来たのは誰だ? あんたらだろうが? それともあんたらに魔獣をけしかけようか? 俺と同じことを体験できるけど?」

 神獣のごとき可愛い熊天使を泣かせただけでもムカつくのに、濡れ衣を着せられて化け物級魔獣と地獄の鬼ごっこをさせられたことは一生忘れない。
 お嬢様なんだから、大人しくトンネルでも通れっての。

「そんなのは屁理屈だっ!」

「それが答えでいいんだな? お嬢様は売り払うぞ? 賠償をもらうために」

「――貴様ァァァ!」

「私が雇いますっ」

「お嬢様っ!」

「その言葉、忘れんなよ?」

「もちろんです」

 正直獣人がどうなろうと、はっきり言ってどうでもいい。
 ただ、称号に人殺しがつくのが怖いだけ。
 この状況でもつくかどうかは不明だが、獣人に雇われた後に商人を害しても罰称号はつかないのだ。
 用件が済んだ後に攻撃してくれば正当防衛が適応されるから、俺には一切の損がない。

「じゃあつるりん、お別れだ。先に獣人たちと契約してしまったから、賠償は死体から剥いでいくことにするよ」

「――殺せぇぇぇぇーーー!」

「「「おぉぉぉぉぉーーー!!!」」」

 つるりんの号令に反応した護衛が喊声を上げる。
 そして、それが開戦の合図になるのだった。
 

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