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第2章 モフモフ天国
第27話 ふれあい体験
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前話を一部修正しました。
話の流れには変化がありません。
引き続きお読みいただければ幸いです。
================
化け物級の熊さんによる処刑を回避するために身の潔白を証明することになったのだが、そもそも何故泣いていたのかすら不明のままだ。
本人というか、本熊に直接聞いていいのか迷う。
「あの~……その子に聞きたいことが……」
「何だ?」
「何故泣いていたのでしょう?」
「ふむ。あの木を見れば分かる」
ほんとかよ。
俺は樹木学者じゃないんだけどな。
「では、失礼して……」
熊天使が観察していた木を見ても、爪痕がある以外特に問題がないように思える。
この爪痕から分かることは、縄張りを示しているということだけ。
……分からないってもいいのか?
多分言ってはダメだ。
空気を読まない発言をしたら最後、処刑を再開されてしまうかもしれない。
だから、俺は空気を読む。
「あぁ……なるほど……」
「簡単だろ?」
「えぇ」
全く分からん。
口を滑らせてくれることを期待したけど無理だった。
こうなったら【解析】様に頼るしかない。
「ふむふむ」
「グオ?」
「娘がな、本当に分かっているのかと聞いているが?」
せっかちだな……。
慣れないことだから少し時間がかかるんだよ。
「……爪痕から拙さがうかがえます。つまり、この爪痕は初めてつけたのではないでしょうか? 今日は縄張りの巡回の日で、確認したところ異常があったというところでしょうか?」
移動の疲れで眠ってしまったところを俺が見つけて、ここまで巻き込まれることになったんだろうな。
時間が戻せるなら戻して、さっさと逃げろと過去の自分に言ってやりたいわ。
「ほう。そのとおりだ。姉の真似をしたくて頑張ったのに、人間ごときが汚したのだ。許せるものではないだろう?」
「仰るとおりでございます」
犯人は俺じゃないからね。
全肯定しても全く問題ない。
「ほう。自信があるのだな」
「もちろんでございます」
人間だと確定させてくれたのは助かった。
これで他の魔獣だとしたら、討伐どころか証言させることもできずに詰んでいただろう。
「それではさっそく探させていただきます」
「ふむ、何か思い当たる節でも?」
もしかして「お前の仲間なのか?」って言っているのか?
そうじゃないよ。
すぐ側に化け物級の魔獣がいるという安全が担保されている状況だからとれる、最善の手段を使うだけ。
「ないので、少し無茶をしてみようかと。少々不快に感じるかもしれませんが、少しだけお付き合いいただけると嬉しいです」
「まぁ……やってみよ」
「ありがとうございます」
頭を下げて感謝を示す。
礼儀を持って接していれば、少しは生存率が上がるかもしれないからだ。
「では失礼して」
生活魔法の《念動》のように、体の一部に魔力をくっつけたまま魔力を放出する。
本当なら自分を中心に回転させることが一番効率的なのだろうが、犯人が人間なら大体の方角に絞れるため円状にする必要はない。
――【魔力探知】。
いくつか絞り込んでいた登山ルートに、魔力の残滓が残っていないかなぞっていく。
少しでも気になる残滓が残っていれば、【解析】を使用して犯人の足跡を辿った。
「どうやら犯人は西に向かって馬車で移動しているようです。足跡は二種類あり、どちらが犯人かはまだ不明です」
「ほう。早いではないか」
「グオ?」
お姉様はまだ疑っているようだ。
だが、熊天使は落ち着いてきたのか、すでに泣き止んで俺の観察に集中している。
「しかしそろそろ暗くなってきますが、どうしましょうか?」
「ふむ。続けてもいいが……まぁ続きは明日で良かろう」
「感謝いたします」
帰るのかな?
帰ってくれるんだよね?
「今日はここで休むとしよう」
ですよね……。
監視は必要だもんね。
問題が解決するまでは高負荷のストレスにさらされることになることが確定し、内心ため息を吐いたとき――。
「グマァァ!」
突然熊天使が襲いかかって来た。
え? 何で?
――【幽歩】。
「――グマ?」
当然避ける。
だが、避けたことは悟らせない。
「な、何か不満でもございましたでしょうか!?」
ため息がバレたのか?
それにしても過激すぎる罰では?
「いや。遊んで欲しかっただけみたいだ」
いやいやいや。死んじゃうよ?
モフモフしてそうだけど、成体の熊の突進は死亡案件だよ?
「グマッ」
再びの攻勢。しかし今度も避ける。
「グマッ! グマッ!」
でもそれが楽しかったのか、激しさを増す熊天使の突進。
スライムの体当たりより確実に命を削る威力を持つだけに、俺は死ぬ気で避け続けた。
「グマグマグマッ!」
満足したのか突進はなくなった。が、次は甘噛みがしたいらしい。
両前足を俺の両肩に置き、頭を囓ろうとしてくる熊天使。
やめなさい。死んでしまうよ? 俺が。
「アグアグ……。――グマ?」
「ふむ。やはり大丈夫そうだな。お主、本当に人間か?」
微妙にショック……。
どこからどう見ても人間でしょ。
駄犬を自称していても、体は人間ですよ?
「人間ですよ」
「娘に噛みつかれて平気な人間は初めて見た」
平気じゃないと分かっていたなら止めてよ。
「平気ではないですよ? 内心慌てています」
「妾が言っているのは、肉体的な損傷がないという意味だ」
なおさら止めろよ。
「アグアグ……。グマグマ」
「あのー、この子はクマって鳴くんですね」
「小さい頃はどの子も同じだ。まだ生まれて半年も経っていないからな」
「え?」
成体の大きさなんだけど……。
「元々大きい状態で生まれるからな。そんなに大きさは変わっていないぞ」
「そうなんですね」
それで、いつになったら放してくれるのだろうか。
今はバックハグされた状態で抱えられているから、先ほどよりは良い扱いになったと思うけど、気が抜けない状態だということに変わりはない。
ただでさえ、気が抜けない危険領域だというのに。
「グマグマッ!」
「よかったな。今日は抱いて寝るそうだ」
マジか……。
潰されないよね?
大丈夫だよね?
お姉様、反対してくれてもいいんだよ?
「ではそろそろご飯を食べさせてもらいますね」
「うむ」
許可ももらったことだし、今日も今日とてスライムを食べよう。
もちろん、塩味スライムだ。
「……面白いものを食べてるな」
「お試しになりますか?」
「気持ちだけもらっておく」
匂いも無臭だし、美味しそうに見えなかったのかも。
まぁ実際、美味しくないからな。
でも、最近は口直しがあるんだよね。
モフ菓子ポーチからトリルの実のドライフルーツを取りだして、疲労回復を兼ねて口に入れる。
「グマ?」
塩味スライムを食べているときは大人しかった熊天使が、突然鳴きながら俺の手元を覗き込んできた。
まるで「それ何?」と言っているかのようだ。
「これ? これは果物で作ったお菓子だよ」
あっ。敬語を忘れてしまった。
可愛いさにつられて気が緩むとは。気を引き締めねば。
「グマァァーー……」
口を開けて「あーん」を待っている熊天使。
しかし、食べさせていいか悩む。
「……どうぞ」
口の端の近づけて食べさせてあげると、モグモグと咀嚼して飲み込んだ。
そして再びの「あーん」である。
「グオッ」
「グマァーー……」
お姉様に止められたのだろうが、変わらず催促をする熊天使。
「どれ、妾も一口もらおうか」
「喜んで」
と言いつつ、内心では食べすぎないでくれと思っている。
山越えの癒しアイテムがなくなると考えただけで、半分以上残っている山越えが憂鬱になったほどだ。
「ふむ……トリルの実か。美味いな」
「……グオ」
巨大熊天使が安全認定を下した直後、お姉様もドライフルーツをもらいに来た。
警戒心が強いのは必要な能力なのだろうが、疑われている身としては少し傷つく。
「はい、どうぞ」
俺の手から食べるのは嫌だろうと思い、大きな葉っぱを水で洗ってお皿代わりにした。
親子で仲良く食べることもできるしね。
「グマァーー」
作戦は功を奏し、俺は熊天使から解放された。
その隙に木の上に寝床を作り、息を殺すようにして眠りに就いた。
「グマァ……グマァ……」
――はずだった。
「な、何故……?」
耳元で聞こえる寝息で目を覚ましたときに見た景色が寝る前と違い、何があったのかと戸惑う。が、モフモフの体が目に入った瞬間、全てを悟った。
すぐ動けるように体の固定をしなかったことが裏目に出たのか、地面に降ろされて一緒に眠ることになったらしい。
しかも寝ている場所が、巨大熊天使のお腹の上である。
俺の両側を熊天使姉妹が挟み、想像していたよりも優しく熊天使に抱きかかえられていた。
……緊張して寝れない。
モフモフに包まれて眠れることは大変素晴らしいことなのだが、まるで剣山の上で寝ているかのような気分でもある。
とにかく粗相をしないように腐心した。
そこに疲労やストレスが加わったのか、【即死耐性】をぶち抜いた気絶が俺を襲う。
おかげで、ようやく就寝することができるのだった。
◆
「グマァッ」
翌朝、熊天使が動いた気配を察して飛び起きた。
何故なら、まだ就寝中の魔力装甲の熟練度が低く、お転婆な熊天使の攻撃に耐えられそうにないからだ。
「グマァッ!」
何を要求しているのかさっぱり分からないが、放してくれそうにないことは分かる。
いっそ撫でてしまおうかと思うも、お姉様の視線に気付いて思いとどまった。
まだダメだ……。
モフモフするには時期尚早である。
「さ、さぁてと。ご飯を食べたら捜索に行かないと」
遠回しに放してくれと、巨大熊天使に伝えてみる。
起きているか不明なため、独り言を装って主張するしかない。
「うむ……『グォ』」
「グゥ……グマァ……」
巨大熊天使が放すように言ってくれたようで解放はされたのだが、熊天使は今にも泣き出しそうなほどしょんぼりしている。
俺が巨大熊天使のお腹の上から下りたところを見送ったあと、お姉様の元に向かい抱きついていた。
抱きつかれたお姉様は可愛い妹を慰めつつ、同時に俺を睨みつける。
……怖い。そして、理不尽。
この場合の最善手は逃げるに限る。
「で、では、行って参ります」
「うむ」
お姉様の視線から逃げるようにして、犯人捕縛の捜索を開始した。
全ては身の潔白を証明して生き延びるために、さらに言えば俺を巻き込んだ落とし前をつけさせるために。
話の流れには変化がありません。
引き続きお読みいただければ幸いです。
================
化け物級の熊さんによる処刑を回避するために身の潔白を証明することになったのだが、そもそも何故泣いていたのかすら不明のままだ。
本人というか、本熊に直接聞いていいのか迷う。
「あの~……その子に聞きたいことが……」
「何だ?」
「何故泣いていたのでしょう?」
「ふむ。あの木を見れば分かる」
ほんとかよ。
俺は樹木学者じゃないんだけどな。
「では、失礼して……」
熊天使が観察していた木を見ても、爪痕がある以外特に問題がないように思える。
この爪痕から分かることは、縄張りを示しているということだけ。
……分からないってもいいのか?
多分言ってはダメだ。
空気を読まない発言をしたら最後、処刑を再開されてしまうかもしれない。
だから、俺は空気を読む。
「あぁ……なるほど……」
「簡単だろ?」
「えぇ」
全く分からん。
口を滑らせてくれることを期待したけど無理だった。
こうなったら【解析】様に頼るしかない。
「ふむふむ」
「グオ?」
「娘がな、本当に分かっているのかと聞いているが?」
せっかちだな……。
慣れないことだから少し時間がかかるんだよ。
「……爪痕から拙さがうかがえます。つまり、この爪痕は初めてつけたのではないでしょうか? 今日は縄張りの巡回の日で、確認したところ異常があったというところでしょうか?」
移動の疲れで眠ってしまったところを俺が見つけて、ここまで巻き込まれることになったんだろうな。
時間が戻せるなら戻して、さっさと逃げろと過去の自分に言ってやりたいわ。
「ほう。そのとおりだ。姉の真似をしたくて頑張ったのに、人間ごときが汚したのだ。許せるものではないだろう?」
「仰るとおりでございます」
犯人は俺じゃないからね。
全肯定しても全く問題ない。
「ほう。自信があるのだな」
「もちろんでございます」
人間だと確定させてくれたのは助かった。
これで他の魔獣だとしたら、討伐どころか証言させることもできずに詰んでいただろう。
「それではさっそく探させていただきます」
「ふむ、何か思い当たる節でも?」
もしかして「お前の仲間なのか?」って言っているのか?
そうじゃないよ。
すぐ側に化け物級の魔獣がいるという安全が担保されている状況だからとれる、最善の手段を使うだけ。
「ないので、少し無茶をしてみようかと。少々不快に感じるかもしれませんが、少しだけお付き合いいただけると嬉しいです」
「まぁ……やってみよ」
「ありがとうございます」
頭を下げて感謝を示す。
礼儀を持って接していれば、少しは生存率が上がるかもしれないからだ。
「では失礼して」
生活魔法の《念動》のように、体の一部に魔力をくっつけたまま魔力を放出する。
本当なら自分を中心に回転させることが一番効率的なのだろうが、犯人が人間なら大体の方角に絞れるため円状にする必要はない。
――【魔力探知】。
いくつか絞り込んでいた登山ルートに、魔力の残滓が残っていないかなぞっていく。
少しでも気になる残滓が残っていれば、【解析】を使用して犯人の足跡を辿った。
「どうやら犯人は西に向かって馬車で移動しているようです。足跡は二種類あり、どちらが犯人かはまだ不明です」
「ほう。早いではないか」
「グオ?」
お姉様はまだ疑っているようだ。
だが、熊天使は落ち着いてきたのか、すでに泣き止んで俺の観察に集中している。
「しかしそろそろ暗くなってきますが、どうしましょうか?」
「ふむ。続けてもいいが……まぁ続きは明日で良かろう」
「感謝いたします」
帰るのかな?
帰ってくれるんだよね?
「今日はここで休むとしよう」
ですよね……。
監視は必要だもんね。
問題が解決するまでは高負荷のストレスにさらされることになることが確定し、内心ため息を吐いたとき――。
「グマァァ!」
突然熊天使が襲いかかって来た。
え? 何で?
――【幽歩】。
「――グマ?」
当然避ける。
だが、避けたことは悟らせない。
「な、何か不満でもございましたでしょうか!?」
ため息がバレたのか?
それにしても過激すぎる罰では?
「いや。遊んで欲しかっただけみたいだ」
いやいやいや。死んじゃうよ?
モフモフしてそうだけど、成体の熊の突進は死亡案件だよ?
「グマッ」
再びの攻勢。しかし今度も避ける。
「グマッ! グマッ!」
でもそれが楽しかったのか、激しさを増す熊天使の突進。
スライムの体当たりより確実に命を削る威力を持つだけに、俺は死ぬ気で避け続けた。
「グマグマグマッ!」
満足したのか突進はなくなった。が、次は甘噛みがしたいらしい。
両前足を俺の両肩に置き、頭を囓ろうとしてくる熊天使。
やめなさい。死んでしまうよ? 俺が。
「アグアグ……。――グマ?」
「ふむ。やはり大丈夫そうだな。お主、本当に人間か?」
微妙にショック……。
どこからどう見ても人間でしょ。
駄犬を自称していても、体は人間ですよ?
「人間ですよ」
「娘に噛みつかれて平気な人間は初めて見た」
平気じゃないと分かっていたなら止めてよ。
「平気ではないですよ? 内心慌てています」
「妾が言っているのは、肉体的な損傷がないという意味だ」
なおさら止めろよ。
「アグアグ……。グマグマ」
「あのー、この子はクマって鳴くんですね」
「小さい頃はどの子も同じだ。まだ生まれて半年も経っていないからな」
「え?」
成体の大きさなんだけど……。
「元々大きい状態で生まれるからな。そんなに大きさは変わっていないぞ」
「そうなんですね」
それで、いつになったら放してくれるのだろうか。
今はバックハグされた状態で抱えられているから、先ほどよりは良い扱いになったと思うけど、気が抜けない状態だということに変わりはない。
ただでさえ、気が抜けない危険領域だというのに。
「グマグマッ!」
「よかったな。今日は抱いて寝るそうだ」
マジか……。
潰されないよね?
大丈夫だよね?
お姉様、反対してくれてもいいんだよ?
「ではそろそろご飯を食べさせてもらいますね」
「うむ」
許可ももらったことだし、今日も今日とてスライムを食べよう。
もちろん、塩味スライムだ。
「……面白いものを食べてるな」
「お試しになりますか?」
「気持ちだけもらっておく」
匂いも無臭だし、美味しそうに見えなかったのかも。
まぁ実際、美味しくないからな。
でも、最近は口直しがあるんだよね。
モフ菓子ポーチからトリルの実のドライフルーツを取りだして、疲労回復を兼ねて口に入れる。
「グマ?」
塩味スライムを食べているときは大人しかった熊天使が、突然鳴きながら俺の手元を覗き込んできた。
まるで「それ何?」と言っているかのようだ。
「これ? これは果物で作ったお菓子だよ」
あっ。敬語を忘れてしまった。
可愛いさにつられて気が緩むとは。気を引き締めねば。
「グマァァーー……」
口を開けて「あーん」を待っている熊天使。
しかし、食べさせていいか悩む。
「……どうぞ」
口の端の近づけて食べさせてあげると、モグモグと咀嚼して飲み込んだ。
そして再びの「あーん」である。
「グオッ」
「グマァーー……」
お姉様に止められたのだろうが、変わらず催促をする熊天使。
「どれ、妾も一口もらおうか」
「喜んで」
と言いつつ、内心では食べすぎないでくれと思っている。
山越えの癒しアイテムがなくなると考えただけで、半分以上残っている山越えが憂鬱になったほどだ。
「ふむ……トリルの実か。美味いな」
「……グオ」
巨大熊天使が安全認定を下した直後、お姉様もドライフルーツをもらいに来た。
警戒心が強いのは必要な能力なのだろうが、疑われている身としては少し傷つく。
「はい、どうぞ」
俺の手から食べるのは嫌だろうと思い、大きな葉っぱを水で洗ってお皿代わりにした。
親子で仲良く食べることもできるしね。
「グマァーー」
作戦は功を奏し、俺は熊天使から解放された。
その隙に木の上に寝床を作り、息を殺すようにして眠りに就いた。
「グマァ……グマァ……」
――はずだった。
「な、何故……?」
耳元で聞こえる寝息で目を覚ましたときに見た景色が寝る前と違い、何があったのかと戸惑う。が、モフモフの体が目に入った瞬間、全てを悟った。
すぐ動けるように体の固定をしなかったことが裏目に出たのか、地面に降ろされて一緒に眠ることになったらしい。
しかも寝ている場所が、巨大熊天使のお腹の上である。
俺の両側を熊天使姉妹が挟み、想像していたよりも優しく熊天使に抱きかかえられていた。
……緊張して寝れない。
モフモフに包まれて眠れることは大変素晴らしいことなのだが、まるで剣山の上で寝ているかのような気分でもある。
とにかく粗相をしないように腐心した。
そこに疲労やストレスが加わったのか、【即死耐性】をぶち抜いた気絶が俺を襲う。
おかげで、ようやく就寝することができるのだった。
◆
「グマァッ」
翌朝、熊天使が動いた気配を察して飛び起きた。
何故なら、まだ就寝中の魔力装甲の熟練度が低く、お転婆な熊天使の攻撃に耐えられそうにないからだ。
「グマァッ!」
何を要求しているのかさっぱり分からないが、放してくれそうにないことは分かる。
いっそ撫でてしまおうかと思うも、お姉様の視線に気付いて思いとどまった。
まだダメだ……。
モフモフするには時期尚早である。
「さ、さぁてと。ご飯を食べたら捜索に行かないと」
遠回しに放してくれと、巨大熊天使に伝えてみる。
起きているか不明なため、独り言を装って主張するしかない。
「うむ……『グォ』」
「グゥ……グマァ……」
巨大熊天使が放すように言ってくれたようで解放はされたのだが、熊天使は今にも泣き出しそうなほどしょんぼりしている。
俺が巨大熊天使のお腹の上から下りたところを見送ったあと、お姉様の元に向かい抱きついていた。
抱きつかれたお姉様は可愛い妹を慰めつつ、同時に俺を睨みつける。
……怖い。そして、理不尽。
この場合の最善手は逃げるに限る。
「で、では、行って参ります」
「うむ」
お姉様の視線から逃げるようにして、犯人捕縛の捜索を開始した。
全ては身の潔白を証明して生き延びるために、さらに言えば俺を巻き込んだ落とし前をつけさせるために。
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