めざせ魔獣博士!!~筆は剣より強し~

暇人太一

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第1章 転生からの逃亡

第23話 友達紹介

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 森に身を隠し、自分の状態を整理する。
 同時に知覚系スキルの全てを使い、自分と周囲の変化を見逃さないよう、常に状況の変化を把握しておく。
 一度目の油断はお馬さんの死亡を招き、二度目の油断は魔力吸収による欠乏を招いた。
 三度目の油断は絶対に阻止せねば。

 それにしても、魔力を吸収する道具があればわざわざ戦う必要はなかったはずだ。
 それなのに奇襲を仕掛けて来たり、戦技や魔法を使用して決着を急いだりと、クソメイドの方が追い詰められているように感じた。

 もしかして……長時間使えないのか?
 それとも敵味方を選択できず、さらに自分の魔力量に自信がないとか?
 はたまた両方か?

 森の中に入った後確認してみたところ、魔力量の減少は止まった。
 であれば、吸収範囲はそこまで広くない。
 もしくは、クソメイドが装備しているか。

「属性弾が一発分か……」

 残り魔力量は五〇。
 無属性魔法を使用すれば、もう少し使用可能回数が増えるだろう。
 しかし、腐っても王女の助手。
 魔法防御力の高い装備を身につけていたせいで、俺の魔法レベルでは最低でも属性弾が数発は必要だ。
 または急所狙いの物理攻撃か。

 馬車の残骸を見て魔法防御を重視した可能性もあるかもなぁ……。

「一か八か蒐集賞与に賭けてみるか」

 ずっと放置していた賞与から状況を打開する物が手に入ればいいなと、淡い期待が湧いてくる。
 あまり時間をかけてしまうと、ワンコたちと遊んでいるおばさんたちが追いついてしまうだろう。
 それだけは絶対に阻止したい。

「頼む……」

 切望。ただただ切望。

 さっそく【魔獣図鑑】を開いて、初回使用賞与のお知らせを開く。
 お知らせは手紙形式で、受信箱になっている図鑑の最後のページに表示されている。未開封の手紙に触れるだけで、手紙の中身が飛び出してくるという仕様だ。当然俺にしか見えない。

「……ガチャか。運次第じゃん」

 とりあえず、図鑑初使用記念の一〇連ガチャが一回、一種類目の登録記念の一〇連ガチャが一回。それから五種類登録ごとに毎回一回のガチャが引けるらしい。
 試しにその一回を使ってみよう。

「五種類登録賞与の手紙を開封っと」

 …………郵便屋さん?

『配達に来たぞ。図鑑を出せ』

 突如目の前に現れるガチムチ巨体で二足歩行の山羊さん。
 郵便配達員のような衣装を身に纏っているけど、はっきり言って全く似合っていない。むしろ違和感しかない。

『おい。早くしろ』

「すみません」

『裏表紙の裏を出せ』

「はい」

 そこにガチャを置いてくれるのか?

『しっかり持ってろ』

「はい」

 スキルのくせに怖い。
 毎回コイツなの?
 もっと可愛い子に運んできてもらいたいんだけど。

 山羊さんへの不満を考えていたことが伝わったのかは不明だが、山羊さんが何故か右腕を振りかぶった。
 そしてそのまま裏表紙の裏に向けて腕を振り下ろす。

「うおっ」

 とてつもない衝撃を受け、図鑑を取り落としてしまった。

 え? 何すんの?

『配達完了のサインを押した。賞与は手紙の受信箱に入っている。じゃあ、帰るぞ』

 …………え? ガチャは?
 俺の運とか関係ある?
 確かに、運がどうとかは俺が勝手に言ってたことだけど、普通は本人が回すんじゃないの?
 それとも、配達者のところで運が関係するとでも言うのか?

「まぁいいか」

 今回獲得した賞与が使える物であればいいんだ。頼むぞ。

 【初級魔力回復薬】
  分類:薬品
  品質:最高品質
  詳細:魔力を二〇〇回復する
     中級魔力回復薬に匹敵する
     普通品質の二倍の回復量
     持続的に魔力を回復する
     一五分ごとに一〇回復する
     効果は二時間

「おぉ。当たりだ」

 一応【解析】しておこう。
 自分でも作れるかもしれないからね。

「【解析】」

 このスキルは少し扱いが難しく、【鑑定】とセットで使うようにしているのだが、【鑑定】と違ってレベルが上がりにくい。
 【鑑定】概要や表面的な情報を開示してくれるのだが、【解析】深層までの詳細情報を開示してくれるスキルだ。
 二つセットで使うことが一番良い使い方なのだが、【解析】は自分の知識量が物を言う。
 つまり、知らないことは空白として表示されるわけだ。

「知識様の知識だけで分かりますように……」

 【初級魔力回復薬】
  分類:薬品
  品質:最高品質
  詳細:魔力を二〇〇回復する
     中級魔力回復薬に匹敵する
     普通品質の二倍の回復量
     持続的に魔力を回復する
     一五分ごとに一〇回復する
     効果は二時間
  材料:水+パテベ草+マナテル草
     7:1:2

「よかった。俺でも作れる。山登りの最中に挑戦してみようかな」

 さっそく回復薬を飲む。
 味は少し苦いけど、えぐみなどはなく飲みやすかった。
 飲み終わったら瓶も消え、ゴミの処分に悩まなくていいというところも嬉しい。

 よし。やっと攻勢に出られるぞ。
 魔力の節約で隠れた後は【隠形】も消していたけど、少し余裕ができたから再び発動してもいいかもしれない。

 だけど、まずは……。

「――死ねっ」

 ――《暗転弾ブラインド

「目っ! 目がぁぁぁっ!」

 まさか、無能くんがすぐ近くまで来ていたとは。
 いったいどうやって来たんだ?
 麻痺毒を塗られた矢を喰らったはずだけど。

「クソっ! どこだっ! 卑怯だぞっ!」

 奇襲を仕掛けてきたヤツが何を言っているのだろうか。
 無能はどこまで行っても自分の都合で物を考えるらしい。付き合ってあげる時間もないし、魔法の効果切れも迫っているし、さっさとお別れをしよう。

「お疲れ様でした」

「正々堂々戦えっ」

 残った腕をブンブン回して暴れているせいで近づけないが、魔力がもったいないから魔法も使いたくない。
 そこで一つ思い出した。

「あっ。筆があった」

 すぐにギフトの【筆】を召喚して槍モードにする。
 そして、散々練習した『一撃必殺魔核突き』を、無能くんの首目掛けて繰り出した。ついでに穂先を回して傷を抉る。

「ゴッ……」

「安らかに眠れ」

 槍が抜けなくなる前に抜き取り、密かに練習していた仕草をする。

「斬り捨て御免」

 くぅぅぅーー! 決まったっ!

 武術の才能がないって言われてたから、無駄になったかもしれないと思っていた練習が日の目を見れた。
 感無量です。

「君にはまだ二つ仕事をしてもらうからね」

 まずは死体漁り。
 さすが落武者。装備がボロい。
 お金もそんなに持ってないし。
 使えねぇ。

「ほら、こっち来い」

 王国兵の装備を剥ぎ取り、草や泥を付けていく。
 さらに、水筒の中身を捨てて、無能くん本人の血液を水筒に満たす。

 クソメイドは俺が渡河したいことを知っているためか、森の中まで追ってこず、川沿いを巡回していた。
 であれば、決戦の場はやっぱり川だろう。

 ――《念板ボード

 圧縮玉で強度を上げた《念板》に死体を載せて運ぶ。
 この魔法はレベル二の無属性の生活魔法で、基本的に五〇センチ四方の板を魔力で作って、自由に浮かせたり動かしたりできる魔法だ。
 ただ、動かせる範囲は自分の位置から半径二メートル以内で、速度や自由度は【魔力操作】のレベルによる。
 魔力消費量は三〇と、攻撃魔法と同じという生活魔法にしては珍しくコストが高い。

 だが、これでクソメイドを討つ小道具が揃った。

「ふぅ……行くぞっ」

 ――《念板ボード

 圧縮玉を二つ作って、どちらも《念板》に変える。
 短剣は鞘に戻して腰に差し、【筆】も送還済みだ。代わりに、手には血液が詰まった革製の水筒を持っている。
 空の《念板》を二つ先行させ、死体が載った《念板》は少し起こして移動させる。もしかしたら生きて見えるかもしれないが、彼の主な役目は盾だ。

 そう、俺は渡河するつもりである。

 当初の予定通り、追っ手の相手は山の魔獣にしてもらう。
 あの師匠がかなり強いと言うほどの魔獣達だ。きっと討ち滅ぼしてくれるだろう。

 まぁ俺諸共滅ぼされそうだから、できる限りここで食い止めたい。

「――待ちなさいっ」

「嫌です」

 先行させていた《念板》を水飛沫を立てないようにゆっくり川の中に沈ませ、肉壁役の無能くんを背後の配置して駆ける。

「《小火弾》っ!」

 おぉ。意外にも魔法の才能があったのか?
 普人族なのに火属性を持っているし、【短縮詠唱】のスキルまで持ってる。
 暗殺者系の職業だと思っていたんだけどなぁ。

 でも、想定内だ。
 というか、攻撃してもらわないと作戦が進まない。

「グアッ」

 と、無能くんが言っている気がするから、俺が代わりに言ってみた。
 同時に《念板》ごと無能くんを転ばせ、手に持った血液袋を川にぶちまける。

「盾はなくなりましたよっ!」

「渡りきればいいだけです」

 俺と無能くんは《念板》に乗っている。
 だから無能くんも川底に沈んでいないのだが、クソメイドは俺たちが《念板》に乗っていることを知らない。
 さらに、渡河を目前にしている俺を捕まえることに必死で、周りへの注意が散漫になっている。

「――キャッ」

 結果、クソメイドはそこそこ深い川に落ちた。

「意外に可愛い声で驚くのですね」

「このクソガキがぁっ」

「おっと。のんびり喋っていていいんですか?」

 無能くんが乗っていた《念板》を消し、不要になった無能くんの死体を放棄。
 同時に圧縮玉不要の生活魔法を発動する。

 ――《念動ハンド

 魔力を用いた第三の手みたいに、簡単な作業をさせることができる生活魔法だ。
 これでクソメイドが岸に上がることを阻止し、俺が移動するのに合わせて川の中央に連れて行く。

 ただでさえ革鎧付きの着衣泳をしなければいけないところに、外的要因による遊泳妨害だ。
 俺が当人だったら、妨害している相手を百回殺しても足りないだろう。

「放せっ! ぐがっ! はな……せぇぇぇ!」

「嫌でぷーー」

 霊峰側の岸へ【転歩】で跳べるギリギリの範囲まで移動したところで、俺が待ち望んでいたものがやっと来た。

「そろそろお別れの時間です。こんな辺鄙なところまで追いかけて来てくれたことに対する感謝を、僕なりの方法で表したいと思います」

「ふざけ……ふざけ……るな……」

 絶賛立ち泳ぎ中のクソメイドは、水を飲みながらも一生懸命反抗している。
 予想外のことでパニックに陥って、魔法もまともに使えなくなってしまったようだ。
 これこそご主人様が仰っていた事態だろう。
 同じことが起こったとき動けた者のみ生き残れるということを、彼女は身を削ってまで教えようとしてくれているのだ。
 なんて健気なんだろうか。
 君のことは忘れないよ。

「冥福を祈ってますよ」

 ――【転歩】。

「ま、待て……。――な、なんだっ! これ……は……」

鮮血鰐ブラッディクロコダイルですよー。寂しくないように友達を呼んでおきましたからねーー!」

「やめ……助け……て……。王……じょ……さ……ま……」

「ふぅ……。ストーカー撃退完了」

 さてと、山に行きますか。



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